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84話 え、如月さん? —花音Side

遊園地編です。

 

「遊園地、ですか?」

「ええそうよ。体育祭や一学期のお疲れ様会も兼ねているけど、どうかしら?」


 いつもの生徒会。東海林先輩からそんな提案をされた。月見里(やまなし)先輩はニコニコとしているけど。


「それに桜沢、最近少し元気なかったみたいだからね。どうかなって思ってさ」


 あ、バレてる。さすが観察眼が鋭い、月見里先輩。



 鴻城(こうじょう)のお屋敷から帰ってきて、今では葉月は普通になっている。変わったこともやっているし、いつもニコニコとして元気そう。あの時みたいな冷たい目なんて一切していない。


 そして思い出すのは、私がいきなりハグしてしまったこと。

 葉月、何も言わないんだよね。いやあの、私も思わずしてしまったというか……何であんなことしちゃったんだろうという思いもあるんだけど……でも何とかしたくて思いついたのがハグだなんて、私の発想力が乏しすぎる。


 それで他に何か出来ないか考えていたら、何も思い浮かばず、それで勝手に自己嫌悪に陥ってましたなんて誰にも言えない。でも落ち込んでたのが先輩たちにバレてたなんて。


「まあ、企画したの翼なんだけどね」

「へ?」


 思わず呆けた声が出てしまった。だって会長が? そんなに気にかけてくれてたなんて思ってなかったから。あ、でも気まずそうに目を逸らされた。隣で月見里先輩が苦笑している。東海林先輩に至っては呆れてたけど。


「まあ、行くとしても夏休みよ。桜沢さんだって実家に帰るでしょう?」

「あ、はい」

「私もだから、そうね、8月入ってからでどう? どの道、夏休み明けの文化祭のことについても、色々とやらなきゃいけないことも入ってくるしね」


 まあ、最初に実家に帰って、詩音と礼音の相手もしてあげれば大丈夫かな。それに今年のお盆はお墓参り行けないんだよね。お母さんもお父さんもその時期仕事が忙しいみたいで。だから早めに行くことに決まったから。


 でも遊園地か。それに会長が気を遣ってくれたみたいだから、これは断るのは悪いかな。


「私もそれで大丈夫です。あと、ありがとうございます、会長。気を遣っていただいて」

「……別に気を遣ったわけじゃない。ただ体育祭でもレクリエーションでも今年は大変だったからな。気分転換も全員に必要だろうと思っただけだ」

「鳳凰君、もの凄く面倒くさい男になっているわよ。素直にどういたしまして、でいいじゃないの」

「まあまあ椿。素直じゃないところが、翼のいいところでもあるんだから」


 指摘している東海林先輩がハアと息を吐いていたら、月見里先輩がおかしそうに宥めていた。確かに、会長。面倒臭いです。まあ、不器用な人だから仕方ないのかもね。


 こうして夏休みに生徒会のみんなで遊園地に行くことが決定した。そういえば遊園地なんて久しぶりかもなぁ。


 

 □ □ □ □



「お、かの~ん!」

「あれ、舞? まだ帰ってなかったの?」


 帰り、エントランスホールで靴を履き替えてたら、後ろから舞がやってくる。


「そういう花音こそ早くない? 生徒会、もう終わったの?」

「うん、そう。今日はたまたま、あまりやることがなかったの」


 軽く夏休みに何をやるか話し合っただけで終わっちゃったんだよね。あと合宿かな。会長の別荘で2泊3日、文化祭の詳細な打ち合わせをすることも決まった。詳しい日程はまた後日って話でまとまっちゃった。


「じゃあさ、今から駅前行かない!? 新作のケーキ置いてあるんだって!」

「え、今から?」

「いいじゃん、たまにはさ! 生徒会で花音忙しいから、こういう放課後とか一緒に遊べなかったじゃん!」


 確かに。たまに休日とかユカリちゃんやナツキちゃんと舞と4人で買い物行ったりはしてるけど、放課後はないかも。舞がすっごいキラキラの目で見てくるし、いいかなと思って承諾したら喜んでくれた。


「おいしかったら、一花たちにお土産買っていってあげようよ」

「そうだね。あーでも、葉月に今日ドーナツ食べててって言っちゃったんだよね」

「あっはっは! 葉月っちならケーキ追加でも喜んで食べるって! あんな甘党なんだもん!」


 それは確かにそうなんだけどね。

 舞は鴻城のお屋敷から帰ってきてから葉月を遠慮がちに見てたけど、今ではすっかり普通。葉月が謝ってきたらしい。あんな場面見せてごめんって。「あたしの方がごめんって思ったよ」って恥ずかしそうに舞が言っていた。葉月と舞は2人で騒いでいつも楽しそうだもんね。ギクシャクしないで良かったなって思う。


 舞と2人でどんなケーキがあるのかなって話して、校門を通り過ぎた時だった。

 1台の車が道路に停まっていて、そこから1人の女性が降りてくる。……ん、あれ? あの人?


「え、如月(きさらぎ)さん?」

「この前ぶりね、花音さん、舞さん」


 にっこりと微笑んで、私たちの前に立つ如月さん。相変わらず綺麗な人。本当、20代半ばの息子さんがいるとは思えない。でもどうしてここに? 葉月は寮なんだけど。


「葉月に用事ですか?」

「いいえ?」


 え、いいえ? 舞も面食らっているようでポカンとしているけど、じゃあ如月さん、どうしてここに? クスっと笑って如月さんは私たち2人を見てくる。


「この前、驚かせてしまったでしょう? だから2人にお詫びをしたくてね」


 お詫びって、全然気にしてなかったんだけどな。


「あの、あたしら全然気にしてないから大丈夫ですよ?」

「舞の言うとおりです。私たちの方が我儘言って、付いていってしまった訳ですから」

「……本当、葉月と一花のルームメイトがあなたたちで良かったわ。でもそれじゃあ私の気が済まないから、良かったら乗ってちょうだい?」

「「え?」」


 パチンと指を鳴らす如月さん。すると車から前に寮に来た2人が出てきた。え、え、ええ? あの、なんで車に乗せられようとしているんだろう?! 「いや、あの!?」と舞も慌てふためいているし!!


 あれよあれよと私たち2人、為すすべなく車に乗せられてしまった。後ろの座席に如月さんも乗り込んで、車は動き出す。いやいやいや!! ポカンとしている場合じゃない!!


「あ、あの!!」

「何かしら?」

「お詫びとか本当に大丈夫ですから!」

「あら、気にしないで? 好きなモノなんでも買ってあげるから」


 ふふって悪気の欠片も感じられない! どどどうしよう!! 舞? 何をそんなカチカチと携帯動かしているの!? そんな場合じゃ……って私がオロオロしている間に、舞がその携帯を如月さんに渡していた。


「一花です!!」

「あら、一花? 仕方ないわね」


 その携帯を耳に当てて電話し始める如月さん。さすが! 舞、機転が利く!


「舞、ありがとう」

「こういう時は一花に頼むしかないっしょ!……葉月っちには掛けられないしね」


 確かに……と思ってしまった。険悪な雰囲気になるのは目に見えている。舞と小声で話していると、「すぐ帰すから大丈夫よ」と電話を終えた如月さんが舞に携帯を渡してきた。あ、これあんまり効果なかったかも。


 案の定私たちは高級そうなブティックの前に降ろされた。どどどうしよう。買ってもらう理由もないし、断りたいんだけど、とっても嬉しそうにしている如月さんに断るなんて出来ないし。でもちゃんと言わないと……。


「あ、あの、如月さん? 本当に私も舞もお詫びをしてもらう理由がなくて……」

「そ、そうですよ! 花音の言うとおりで! それにあたしは自分で買えますから!!」


 ずるい、舞! それは私絶対言えないじゃない!! 言ってから「あ……」って気まずそうにこっち見ない! そんな私たちを如月さんはクスクスと笑っているけど、あの本当にですね、気にしなくて大丈夫なんですよ!


「2人とも謙虚なのね~。だから気にすることないって言っているのに」


 気にします!



「あら、沙羅さん?」



 私と舞が何とか断ろうとしているところに、お店の中から誰か出てきて如月さんの名前を呼んでいた。わあ、こっちも綺麗で優しそうな人。舞と一緒にその人を見てしまう。綺麗な服に身を包んで、でもそれがとっても似合っていて、思わず見惚れてしまう。


皐月(さつき)じゃない。来ていたの?」

「ええ、たまにはと思いまして」


 クスクスと笑う姿も上品。如月さんの知り合いの方なのかな? あ、目が合っちゃった。


「この子たちは? 星ノ天(ほしのそら)の制服じゃありませんか」

「葉月と一花のルームメイトの子たちなのよ」

「え……葉月ちゃんと一花ちゃんの?」


 目を丸くして驚いている。あれ、葉月と一花ちゃんのことも知っている人なのかな? 首を思わず傾げてしまったら、それに気づいた如月さんが紹介してくれた。


(かなめ) 皐月(さつき)よ。私の息子、魁人(かいと)の婚約者なの」


 ええ!? あの人の!!? あ……そういえば葉月も前に彼女いるって言ってた。こ、婚約者なんだ。あ、ちゃ、ちゃんと挨拶しなきゃ。


「さ、桜沢花音です」

「神楽坂舞、です」


 2人でお辞儀すると、ふふって笑われてしまった。


「じゃあ、花音ちゃんと舞ちゃんだね。そっか葉月ちゃんと一花ちゃんの……そうだよね。あの子たちももう高等部に上がったのか。ずるいですよ、沙羅さん。教えてくれてもいいじゃないですか」

「別に隠してたわけじゃないわよ。それに魁人から聞いていなかったの?」

「本当は聞きたかったんですけどね。この前会ったって言ってたから。でも……会わせてはくれないんでしょう?」

「そう……ね。少し待ってちょうだい」

「分かってますよ。困らせてごめんなさい」


 葉月の事情を分かっているみたいな言い方。この人も昔の葉月のこと知っているのかな。如月さんも枢さんも少し悲しそうな顔をしているから。


「あ、あの……?」


 ……舞?

 舞がいきなりその2人に問いかけたからびっくりしてしまう。


「枢――さんは葉月っちのこと知っているんですか?」

「あら、皐月でいいわよ。ふふ、そうね。幼い頃だけどね。よく魁人と一花ちゃんと葉月ちゃんで遊んだから。あとたまにレイラちゃんともね。2人はレイラちゃんのこと知っている?」

「あ、はい。レイラちゃんは今でも葉月と仲がいいので」

「ああ、そうなんだ。そっか……仲直り、出来たのかな」


 皐月さんは物憂いな感じで苦笑していたから……きっとレイラちゃんと葉月の間で何があったかも知っているんだろうな。


 でもいきなり、目をパチパチとさせて私たちを見てきた。どうしたんだろう?


「そういえば葉月ちゃんと一花ちゃんのルームメイトの2人が、どうして沙羅さんと一緒に?」

「この前のことは聞いているの?」

「鴻城のおじい様のところに行ったことですか?」

「ええ、その時に少し失礼をしてしまってね。今日は2人にお詫びをしようと思って」

「ああ、なるほど……」


 え、ええ? なるほどなんですか!? どうしてそんな、うんうんと頷いているんでしょうか? それから困ったように笑う皐月さん。


「沙羅さん? 強引に連れてきたんですか?」

「あら、そんなことないわよ?」

「葉月ちゃんたちのルームメイトなんでしょう? 知ったらますます葉月ちゃん怒りそうだけどなぁ」

「そんなの知られなきゃ大丈――」

「ふふ、一花ちゃんが隠し通せればいいんですけどね?」


 如月さんが「う……」と気まずそうに眼を逸らしている。もしかして、助けてくれたのかな? それに一花ちゃんと如月さんはさっき車の中でしっかり電話していたしね。……一花ちゃんなら葉月に隠し通すとは思うけど。


 観念したかのように如月さんはハアと溜め息をついて、腰に手を当てていた。クスクスと笑って、皐月さんは口元を手で隠している。上品、綺麗という言葉が似合う人だなって思ってしまう。


「花音ちゃんに舞ちゃん。沙羅さんが無理に連れてきてごめんなさいね。その車で帰って大丈夫よ」

「え、いや、でも……」

「沙羅さん、問題ありませんよね? お詫びなら別の方法にしましょう?」

「ハア……そうね。皐月の言うとおりね」

「ということだから、この2人をお願いね」

「「かしこまりました」」


 いつのまにか後ろにいたさっき車の運転席と助手席に乗っていた人たちが、深々と皐月さんにお辞儀している。さ、さすが如月さんの婚約者の人。指示の仕方が慣れている。あっというまに私も舞も流されて、車に乗ってしまった。


「沙羅さん、今日は私が買い物付き合いますから。葉月ちゃんに似合う服でも買ってあげましょう?」

「ああ、そうね。そうしましょう」


 車に乗る前の会話がすごいなと思ってしまう。皐月さん、如月さんの扱いが慣れているんだもの。あっさり如月さんは気分良くしてお店に入ってしまったし。


 ヒラヒラと車に乗った私たちに手を振って、皐月さんもお店の中に戻っていった。


「皐月さん、すごいね……」

「葉月っち、愛されてるよね、叔母さんに」


 車の中で舞とそんな会話をしながら、2人でホッと胸を撫で下ろす。良かった。あのまま如月さんに付き合ってたら、とんでもない量の服とか買わされたと思うから。実家に送られたっていう服の数すごかったんだもの。お母さんが丁重にお断りしたって言っていた。気持ちは嬉しいんだけどね。


 葉月には言わないようにしないと。心配かけたくないし。


 後日、私と舞に有名なお菓子が届いた。これがお詫びらしい。皐月さんの手紙も入っていて、これぐらいは許してほしいとのことだった。これぐらいだったら喜んでと思ってしまう。ありがとう、皐月さん。



 ちなみに一花ちゃんにも謝られたけど、一花ちゃんが謝ることでもないからね。だからそんな怖い顔しないでいいよ。皐月さんの話をしたら、少し嬉しそうだったなぁ。葉月に――はしないでおこう。如月さんのこともバレちゃうしね。


お読み下さり、ありがとうございます。

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