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80話 ルームメイトの実家 —花音Side※

次話の葉月Sideと重なりますが、先にこちらを投稿します。

 


 思わずゴクリと唾を飲み込んでしまう。

 目の前には、どこかの王宮かというような豪華な屋敷があるから。


「すっごい豪邸……こんなとこ、この国にあったんだね」


 その屋敷の前で、舞が言った一言に激しく肯定したい。

 入口に車から降りて、並び立つ私と舞はその大きな屋敷に圧倒されてしまった。


 これが、葉月の実家。

 お金持ちとは言ってたけど、これほどなの?


 その当人はさっき車の中で起きて、嫌そうに見ているけど。レイラちゃんは小さい声で「変わっていませんわね」と懐かしんでいる感じ。一花ちゃんに至っては、もはや慣れている感じだし。


 扉が開いて、現れたのはメイドさんたち。ズラッと並んで声を揃えて、葉月たちに声を掛けていた。はっきり言って圧倒されちゃった。葉月がお嬢様って言われているのも新鮮だったけど、迫力が凄すぎる。隣にいた葉月の腕に思わず掴まっちゃったけど、葉月、本当にお嬢様だったんだね。


 メイドさんたちの1人が一歩前に出てきて、葉月に挨拶をしていた。でも嫌そう。「帰ろうかな」っていう葉月の言葉を如月さんが窘めている。そのメイドさんは一花ちゃんとレイラちゃんにも挨拶している。一花ちゃんも親しそうに返していた。


 あ、今度は私と舞に目が合っちゃった。葉月が軽くルームメイトだって紹介してくれたけど……あの、報告書って? だけど、そのメイドさんは無表情に私と舞を交互に見てくる。


「……花音様はどちらでしょうか?」

「え? は、はい。私です」

「葉月お嬢様が大変お世話になっております」

「こ、こちらこそお世話になってます」

「そちらが舞様でしょうか?」

「え? う、うん。じゃない。はい、そうです」

「一花お嬢様が大変お世話になっております」

「こ……こちらこそ……」


 とても律儀に挨拶されてしまった。しかも一花ちゃんもお世話になっているって、一花ちゃんは東雲家の娘だよね? なんで? と思っていたら、一花ちゃんの子供の頃のお世話をしたことがあるらしい。


 なるほど、娘みたいって思うのも分かる気がする。赤ちゃんの頃をお世話していると、そう思うんだよね。私も礼音のこと弟って感じしないから。


 舞が子供の頃の一花ちゃんのエピソードを聞いて噴き出していたら、本人に足を踏まれていた。それは、一花ちゃんに踏まれても仕方ないかな。


「では、皆様。ご案内します」


 そのメイドさんはそんな一花ちゃんを怒りとかはせず、クルリと背中を向けていた。如月さんは驚いているようだったけど。


「あら、花音さんたちも?」

「葉月お嬢様と一花お嬢様のルームメイトに、一度会ってみたいと仰ってましたので」


 え、私たちに? それに、誰がだろう? この話の流れだと、葉月の家族の方なのかな?


「……メイド長、私1人でいいんだけど」

「ご案内します。皆様こちらへどうぞ」


 葉月の抗議も華麗にスルーして、そのメイドさんは先導し始めちゃった。メイド長さんなんだ、この人。確かに、とても貫禄がある。


 渋々といった感じの葉月は、行きたくなさそうにその人の後ろを歩き始めた。私と舞は思わず屋敷の中をキョロキョロしながらついていっちゃったけど。


「学園より広いんじゃない?」

「そうかもね……」


 舞、本当そう思う。それに、壁に掛けられている絵画も綺麗だし、ところどころに置いてある壷とか花瓶とかものすごく高そう。前にテレビでどこかの国の宮殿みたいなのの特集やってたことあったけど、そんな感じ。こんなところで、葉月は暮らしていたんだ。


 その屋敷の様子に圧倒されながら、そのメイド長さんがある部屋の前で止まって、扉をノックしていた。中から男性らしき声が返ってくる。この声の人が、葉月の家族? もしかして、お父さんとか?


 メイド長さんが扉を開けて、如月さんを先頭にどんどん中に入り込んでいく。


 そこにいたのは初老の男性。でも断然若く見える。

 持っていた本を机に置いて、私たちを穏やかな優しい表情で見ていた。この人が、葉月の?


「おかえり。葉月」

「……ただいま、おじいちゃん」


 一拍置いて返事をした葉月。

 いや、それより……お、おじいちゃん!? わ、若い! おじいちゃんという言葉が似合わないくらいに、若い!


 でも葉月は、どこか緊張しているような感じだった。そんな葉月とは逆に、嬉しそうにその男性は目を細めている。

 あ、その表情。葉月に似ている。美味しいものを食べた時の葉月とそっくり。


 そっか。

 この人が、葉月のおじい様なんだ。


 葉月に似ていたからか、どこか安心感を覚えてホッとしてしまう。メイド長さんがお茶を淹れてくるとお辞儀して部屋を出て行ってしまってから、その人は周りにいる私たちを見て、また嬉しそうに微笑んでいた。「皆座りなさい」と声を掛けてくれたんだけど、


「…………会ったよ……もう帰る」


 葉月がそれを遮ってしまった。

 葉月、そこまで嫌なの? とても優しそうな人に見えるけど。「葉月。座りなさい」と如月さんが窘めているけど、葉月の様子は変わらない。


「叔母さん。約束は会うだけだよ?」

「葉月! いい加減にしなさい!」


 いきなりの如月さんの大きな声に反射的に体がビクッとなってしまった。あの、葉月? 帰るのはまだ早いんじゃ……? と少し思ってしまったけど、葉月の気持ちは変わらないみたい。


「おじいちゃん……もう、いいでしょ?」

「随分とご機嫌斜めだ。沙羅、無理やり連れてきたのかい?」

「……ごめんなさい、お父様」

「……そうか」


 その人は困ったように笑って、葉月と目線を合わせるように少し屈んでいた。


「葉月、周りのお嬢さんたちもいる。そういう態度はやめなさい?」

「…………帰っていい?」

「葉月!」

「沙羅、やめなさい」

「っ……」


 帰りたそうにしている葉月。どうしてって思ってしまう。とても優しそうなのに。

 ――そういえば前に会長が言っていたかも。葉月が一方的に毛嫌いしているって。


 一向に態度も姿勢も変える気がない様子の葉月に痺れを切らしたのか、一花ちゃんが間に入っていた。無理やり、窓際にあるソファに座らされて、また不機嫌そうにしている。


「悪かったね。君たちもよかったら座ってくれ」


 おじい様がそう仰ってくれて、私と舞とレイラちゃんも席につく。一花ちゃんから離れないようにって葉月に言われていたから、彼女の隣に腰掛けた。葉月は1人用のソファに面倒臭そうに座っていたけど。


 全員ソファに座ったところで、おじい様が葉月に声を掛けている。嬉しいのかな、葉月に会えて。確か3年、会ってないって如月さんが寮で言ってたよね。だけど、葉月の返事は素っ気ない。見ていて少しハラハラしちゃうよ。


 そんな葉月に苦笑して、今度は一花ちゃんとレイラちゃんに声を掛けていた。そっか、レイラちゃんは久しぶりだって言ってたもんね。そして、何故か嬉しそう。……ちょっと分かる。優しい感じだけど、このおじい様、少し迫力があるというか、何というか。


「それで、君たちは一花ちゃんと葉月のルームメイトかな?」

「あ、は、はい……桜沢花音です」

「神楽坂舞、です……」


 舞も緊張しているみたい。私もだけど。思わず返事が詰まってしまった。けど、そんな私の失態も見逃して、穏やかに微笑んでくれる。


「一花ちゃんからはよく話に出てきてたんだ。会えて嬉しいよ。多分……葉月からは私のことは聞いてないんじゃないかな?」


 そう、何も聞いていないんです。

 だから素直にコクンと頷くと、困ったように笑っている。


「そうか……ああ、そんな緊張しなくていい。楽にしてくれ。じゃあ、ちゃんと自己紹介しないとね」


 ずっと、葉月には聞かないできた。けど、こんな屋敷に住んでいるなんてきっとすごい人なんだろうな。


 居住まいを正して、おじい様はピンと背中を立てて私と舞に向き直ってくれる。

 一体、この人は何も――



「私は鴻城(こうじょう)源一郎(げんいちろう)。葉月の祖父で、そうだな――今はただお金を持ってるだけの人間だ」



 今……なんて?

 鴻城(こうじょう)

 耳を疑ってしまった。つい、ポカンと少し口を開けてしまう。


「あ……あの……鴻城って……」

「ああ、君のお父さんとも知り合いだよ。今度お父さんによろしく言っておいてくれ」

「……は、はい! 伝えます! もちろん! はい!」

「ああ、舞さん。そんな固くならないでくれ。今はもう全てから手を引いて隠居してる身なんだ」

「は、はい!」


 舞まで声が上擦っている。当たり前かも。私も開いた口が塞がらない。


 鴻城家は名家中の名家。


 誰もが知っているかもしれない。私だって知っている。



 鴻城は歴史の教科書でも出てきているんだから。



 世界でもいくつもの企業を成功させているし、歴代には総理大臣も何人か輩出している家。有名なのは50年前の総理大臣に就いていた鴻城(げん)。戦後まもなくついた総理大臣で、いくつもの政策で、瞬く間にこの国の基盤を立て直したと言われている。


 そんな人が葉月の家族?

 そんな名家が葉月の実家? その鴻城の家系に連なるもの?


 舞が慌てるの、分かるよ……葉月、そんな凄いとこのお嬢様だったの? 


 しかも源一郎って、これまた凄い人じゃない。政界ではなく、経済界で有名な人。この人の起こした会社で、どれだけこの国の負債が減ったと思っているの。引退をされた時に、その会社たちを全部知っている部下の人たちに任せたと、トップニュースで流されるくらい凄い人。


 もう、脳が事実に追いつかないよ。そんな人が葉月のおじい様なんて。

 舞、慌てるのすっごい分かるよ。


「舞、落ち着け」

「いや、いやいやいや! だって一花!」

「落ち着け、今はただの人間だ」

「今はって!?」

「前は――怪物? 化け物? かもしれなかったが、今は人間だ、多分」

「一花!? なんてこと言ってるの!?」

「ははは。一花ちゃんにそう言われると照れるな」

「いや、褒めてない……」

「……今、葉月っちとの血のつながりを感じた」


 一花ちゃんの容赦ない言いざまにも反応出来ないけど、確かに一花ちゃんへの返し方が葉月との血の繋がりを感じてしまった。



 葉月が鴻城家の人だったなんて、想像もしていなかったから。



 葉月のルームメイトが私で本当に良かったのかなと、不安に思ってしまった。


お読み下さり、ありがとうございます。

あと、すいません。

鴻城家の設定ですが、作者、というか私、深く考えないで作りました。とにかく、まあ、すっごい家という認識でいてくれたらなと思います。あくまでも、葉月たちの世界では、ということなので、あまり深く......深くツッコまないでいただけたら嬉しい限りです。そうしてくれると救われます...はい...ツッコまないでスルーしてください!お願いします!

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