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75話 襲来

 


「や~っと終わったね~」

「ふふ。お疲れ様、舞」

「花音もね、勉強教えてくれて助かったよ!」

「庶民の割にはよくやりましたわ。まさか、あの問題が出るとは思いませんでしたが」

「……ねえレイラ~。なんでいるの~?」



 期末試験が終わって休みの日。試験お疲れ様会と称して、花音がお昼ご飯を皆に振る舞うことになった。え、私? いつも通りですけど? 鉛筆コロコロですけど、何か? というか、なんでちゃっかりレイラがいるのか分からないんですけど?


「ふん、葉月。わたくしは花音に呼ばれたんですのよ。呼ばれたのだから、来ないと礼儀に反するではありませんの」

「じゃま~」

「邪魔っ!? ちょ……さすがに言い過ぎですわよ、葉月? って蹴らないでくださいな!」


 レイラ、私がまだ怖いんじゃないの? 何で普通に来てるのさ。


 ゲシゲシとレイラの背中を蹴っていく。舞と花音がハァと溜め息ついてた。


「葉月、蹴るのは駄目だよ?」

「むー」

「葉月っち、むーっとしない。ほら、止めたげなよ?」

「そうですわよ、葉月! なんであなたは、昔から手と足が出やすいんですのよ!?」

「レイラ、バカ~? 手と足は元々出てるよ~?」

「そういう意味じゃありませんわ!?」


 無視してゲシゲシやってると、さすがに舞に「はいはい、そこまで~」って止められた。だって~。レイラが私のご飯、いつも横取りしてくるんだもん。牽制するよ、そりゃ。むっ、何で花音の後ろに逃げてるのさ。


「もう葉月っち、一花がいないと駄目みたいじゃん」


 そりゃそうだよ。いっちゃんは私のストッパーだもん。でも今いないんだよね。ちょっとお出かけ中。花音が時計を見て唸っている。


「葉月、一花ちゃん何時ぐらいに戻ってくるか聞いてる?」

「ん~? お昼までにはって言ってた~。ね~舞?」

「そう言ってたね。そろそろじゃない?」

「そっか。じゃあ作っておこうかな」


 今日はちらし寿司作ってくれるんだって。楽しみ~。色んな具材、昨日買ってきたもんね~。


 舞も手伝うって言って、レイラはレイラで作り方に興味があるのか「それ、どうやって作りますの?」って花音にしつこく聞いている。「じゃあ、皆で一緒に作ろっか」って花音が言ったので、皆で作ることになったよ。


 けど準備し始めてすぐ、廊下に繋がるドアの向こうから数人の足跡が聞こえてきた。


「――っと――って――れ!」


 ん? いっちゃんの声? 帰ってきたのかな?


 皆も気づいたらしい。きょとんとした顔をドアの方に向けている。


 ガチャッというドアの音と一緒に、いっちゃんが止めるような形で3人ぐらいと一緒に入ってきた。


 お~い……ちょっとちょっと~……? 何でここに来たのかな?


「沙羅さん!! 落ち着いてくれ! 頼むから!」

「一花、あなたこそ落ち着きなさい」


 現れたのは女の人。見た目30代にしか見えない女性。白いスーツを着て、私たちを見回している。女の人の後ろにはお付きの男と女が1人ずつ。


 レイラはこの人が誰なのかに気づいたようだ。舞と花音はポカンとしている。いっちゃんが疲れ切った様子で肩を落としていた。


 いやいやいや、約束が違くないですかね? おっかし~な~。この前カイお兄ちゃんにも言ったはずなんだけどね~。ここには来るなって。でも、そんなこと言ってられないかな――に~げよ!


「捕まえなさい」

「葉月!?」

「葉月っち?!」


 逃げようと思ったら、その動きより早くお付きの人間に両側の腕を捕まえられて膝をつかされた。


 ちぇっ、一歩出遅れちゃった。あ~大丈夫だよ、舞、花音。気にしないで。


「すいません、葉月お嬢様」

「ご容赦を」

「じゃあ、離して~」

「「無理です」」


 お付きの人間が謝ってくる。むー。何さ~、離してよ~。

 はあ、と命令した女の人が息を吐いて、花音と舞に声を掛けた。


「ごめんなさいね、お騒がせして」


 そしてレイラに視線を送る。


「レイラちゃん……お久しぶりね。まさかあなたがいるとは思わなかったけど」

「……ええ……お久しぶりですわね、沙羅おば様」

「一花、どういうことかしら?」

「はあ……そんなの、そこに本人いるんだから聞けばいいんじゃないか? あたしは知らん。花音、舞。騒がせて済まないな」

「一花……この人は?」


 ちょっと舞が怪訝な顔をしているよ。あ~あ、そうだよね~……いきなり来て私を拘束してるもんね~。いっちゃん~でも私も分からないよ~。どゆこと~?


「はぁ……大丈夫だ、2人とも。この人はな、そこのバカの身内だ。前に一回会っただろ? 魁人さんの母親だ」


 そう、この人、私の叔母さんです。

 若く見えるけど40歳超えてるからね。「「えっ?」」って顔してるね、2人とも。私も今日来たことにびっくりなんだけどね。


「沙羅さん、乱暴すぎる。だから、あたしが葉月を引っ張ってくるって言ったじゃないか」

「……そんなことしても、この子はすぐ逃げるからね」

「そうだとしても、だ。2人は知らないんだ。見ろ、混乱してる」

「手段を選んでて失敗するのは目に見えてるもの」


 ハアとまた溜め息をついて、今度は私を見てきた。な~に? こっちが溜め息つきたいんですけど? いい加減離してほしいんですけど?


「……何~?」

「元気そうね、葉月?」

「おかげさまでね~。何の用~?」

「分かっているんじゃなくて?」

「じゃあ、用はないね~。帰って? ここには来るなって、この間お兄ちゃんにも言ったんだけどな~」

「……魁人からも聞いてたけど、相変わらずなのね、あなたは……」


 さすがにイラっときた。

 そうだよ。変わってないの。

 何度も言わせないでくれるかな。


「……帰って?」

「……だめよ。今日こそ一緒に来てもらいます」

「……行かない」

「無理にでも連れて行くわ」


 その言葉で頭がスッと冷えていく。


 あの時約束したでしょ?

 干渉しないと約束させたでしょ?


 私の雰囲気が変わって、いっちゃんが警戒した。私を離さない2人も手の力を強めた。


「…………帰れ」


 抑えが利かなくなった。


 いっちゃんが動いたのと、私が動いたのはほぼ同時。

 叔母さんはまったく微動だにしなかった。


 私を掴んでいた2人の腕を無理やり取って、そのまま投げ飛ばす。


 だけどいっちゃんの方が早かった。ガラ空きになった私の後ろに回って私の頭ごとゴンッ! と地面に叩きつける。

 そのまま背中に馬乗りになって手を離さない。片方の腕は完全に固められていた。

 少し息が切れていた。


「……落ちつけ、葉月」


 ググッと押さえられた腕に力を入れるが動かない。

 私は目だけを叔母さんに向けて、睨みつける。


「葉月……」

「葉月っち……」


 花音と舞の声が聞こえる。


「2人もいる……落ちつけ……」


 いっちゃんの声が聞こえる。


「この前言っただろ……あたしがストッパーだ」


 ……そうだ……いっちゃん……必要……。


「たまには言う事を聞け……」


 スウっと思考が戻ってくる。

 こっちに戻ってくる。

 ちゃんとおかしいことに気が付ける。


「……いっちゃん」

「葉月、何も家に連れ戻されるわけじゃない……ただ、お前に会いたいと言ってるんだ」

「……いやだ」

「あたしも一緒に行く。それだとちゃんとここに帰ってこれる。それでいいんだろ、沙羅さん」


 黙ってた叔母さんがふうと息を吐いて、近寄ってきた。


「……葉月、心配してるだけなのよ。顔を見せるだけでいいから」

「約束が違う……」

「……ええ、そうね。だけど会わなくなって3年よ。1回ぐらい顔を見せてあげて頂戴」

「…………」

「私たちはね……あなたのことが大事なのよ」


 知っている。

 そんなのは知っている。


 だから、会いたくないんだよ……?


 グッと空いている拳を握りしめる。

 叔母さんが頭を撫でてくる。


「葉月。いい子だから、一緒に来なさい」

「葉月、今回だけだ」


 叔母さんといっちゃんが畳みかけてくる。


 チラッと舞たちが視界に入った。視線だけをそっちに向ける。


 舞は分からなそうにしている。


 レイラは辛そうな顔をしている。



 花音は不安そうな顔をしていた。



 そんな顔……してほしくないな……。


 ――今回だけ。


「…………わかった」


 叔母さんといっちゃんが安堵の息をついた。


 仕方ない……今回だけ……もう会わない……。


 いっちゃんが、ゆっくり確かめるように頭から手を離していった。


 体を起こして部屋の中を見ると、テーブルがひっくり返って、上に置いてあったちらし寿司の食材が全部床に散らばっていた。さっき投げ飛ばした1人がテーブルの方に飛ばされたらしい。お付きの人2人が、やれやれと言った感じで服を払っていた。


 あ~あ……やっちゃった……。


「え~と花音さんに舞さん? だったかしら。それとレイラちゃんも。あなたたちも一緒に来なさいな」


 ……は? 何で3人も一緒に? 関係ないんだけど、この3人は?

 めちゃくちゃ困惑してるよ、特に花音と舞は!


「花音たちは関係ないよ」

「こんな散らかした場所に置いていけないでしょ。ちゃんと行ってる間にこっちで片付けさせるわ。大体、あなたが暴れたからでしょうに」


 ポンと私の頭に手を置く叔母さん。何さ~、あなたがいきなり来たからでしょうが~。え~、2人を連れてくの~あそこに~? レイラは知ってるから別にいいんだけどさ~。いっちゃんも何か言ってよ~!


「あー、花音、舞。どうする? 一緒に来るか? 嫌なら、あたしと舞の部屋に行っててくれ。どっちでもいいぞ?」

「――いっちゃん」

「どうせ、遅かれ早かれ知られるんだ。この際だから丁度いいんじゃないか?」


 むー。そうかもしれないけどさ~。


 チラッと2人を見ると、2人が顔を見合わせてから「一緒に行く」って言いだした。なんで~? ここにいればいいのに~。なんかレイラも行くのが当然って顔してるし~。むー。


 花音が近寄ってきて、腕の服を引っ張ってきた。


「葉月……ダメかな?」


 むー……行っても何もないのに……。


「行ってもつまらないと思うけどね~……」

「……葉月が嫌なら行かないよ?」

「……いいよ、別にどっちでも」


 ホッと安心した顔で私を見てくる。



 そんな顔しないでよ……断れないじゃん。


お読み下さり、ありがとうございます。

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