70話 必要な人
「いっちゃ~ん?」
「……」
「ねぇ、まだ怒ってるの~?」
「…………」
「いっちゃんってば~」
「やかましいわ!!」
いっちゃんの拳が飛んできた。理不尽! 無視してたから、声掛けてたのに! いっちゃんの頬とか頭とか、一生懸命つついてたからだとも思うんだけどね。
場所はいつもの中庭。お昼ご飯を食べています。
「お前な、ご飯ぐらいゆっくり食べさせろ……全く……」
「いっちゃんは食べなきゃね。背を伸ばさないとね」
「お前……喧嘩売ってるのか……?」
「そっちの方がいいなら、そうするけど?」
いっちゃんがキッと睨んできた。
「葉月……この際だから教えてやる」
「な~に、いっちゃん?」
「あたしはお前のストッパーだ。わかるな?」
「そだね。いっちゃん以外は無理だと思うよ?」
「だったら、これからはあたしの言う事を聞け」
「無理」
「即答するな!?」
え~いっちゃん、何言ってるの? それじゃ、ストッパーの意味ないじゃん。
でも……。
「……いっちゃんが無理なら別にいいよ?」
「っ!!」
「……別にレイラみたいに離れていいよ?」
「……お前、それは脅しだろ」
フウと息を吐いて、ガックリ肩を落とすいっちゃん。いっちゃんは私のこと大好きだね? 知ってるけど。
「いっちゃん!」
「何だ……?」
「私は、いっちゃん大好きだよ!」
「お前はいきなり何を言い出してるんだ!?」
ギュッといっちゃんに抱きついた。
「離せ! 馬鹿野郎が! は~な~せ~っつってんだろうが!」
バタバタと私の腕の中から逃れようとしてる! でも離さないもんね!
「……いっちゃん」
急にいっちゃんが暴れなくなった。
「いっちゃんだけが止められるよ……ホントだよ?」
「………………」
「ホントだよ……?」
ホントにそうなんだよ、いっちゃん。
昨日だって、いっちゃんがいたら止めてたよ?
「……だったら昨日みたいなマネはやめろ……いいな?」
「………………善処します」
「なら……いい」
ギュッと、いっちゃんにしがみつくように力を込める。
いっちゃんは大事。
最後の最後で止めてくれる大事な存在。
まだ、必要。
私にはまだ必要。
「……いい加減離れろ。暑苦しい」
「やだ……」
「鬱陶しい」
「やだ……」
はぁと大きく溜め息をつかれた。
ごめんね、いっちゃん。
ホントに苦労かけてると思うよ。
でも私は変わらないんだ。
私は頭おかしいから。
「おっふたっりさ~ん! 昼間から熱々だね~!」
バシッと背中を叩かれた。うん、舞の声?
振り向くと舞と花音がいた。花音が苦笑してる。
「ホントに葉月と一花ちゃんは仲良いよね」
「はぁ……違う。そういうんじゃない。おい葉月、もういいだろ。離れろ」
「はーい」
「あっはっは! 邪魔しちゃったかな?」
「だから、そういうんじゃないって言ってるだろ。でも珍しいな、2人が中庭に来るなんて」
「たまにはね! 今日は天気がいいからさ!」
「花音~喉乾いた」
「葉月っちはマイペースすぎるかな!? なんでいきなり来た人に要求してんの!?」
「花音~喉乾いた」
「聞いてない!?」
だって、喉乾いたんだもん。ちょっとシリアスモードに入りすぎちゃった。
クスクス笑いながら「はい、どうぞ」って言ってくれる花音はすごいですね。花音は特製ブレンド茶を水筒で持ってきてるんだよね~。んまし~。
そのまま中庭で4人一緒にご飯食べることになって、それぞれのお弁当を広げる。
「ドラマ~?」
「そうなんだよ、葉月っち。面白いよ?」
「ああ、最近お前が見てるドラマか。恋愛だろ?」
「そうそう。一花はまるっきり興味ないみたいだけどさ、結構見てる人多いんだよ?」
「花音~見る~?」
「私はあんまりドラマとかは見ないかな?」
いつも勉強してるもんね。それか本読んでるか。私は隣でゴロゴロしてる。
「それ楽しいの~、舞?」
「ふっふっ! 葉月っち! あのドラマを見たら、きっと葉月っちも恋愛したくなるよ!」
「舞もしたいの~?」
「したい! せっかくの高校生活だよ!? 恋人がほしいよ!」
「がんば」
「出来ないみたいに聞こえるから応援しないで!?」
恋愛ね~。私には無縁だな~。まぁ、花音は違うだろうけど。乙女ゲームの主人公だからね~。
今のところ、いっちゃんの望んでいた会長ルートっていうのに入ってるみたいだし、この前の体育祭のイベントの後にいっちゃんが言ってたからね。
あの時は確かにお似合いかもって思っちゃったし、花音が幸せならいいんだけどね。
「ネットでも今までのを見れるから、時間あった時にでも見てみなよ! お勧め!」
ふ~ん。舞が面白いっていうドラマね~。
まぁ思い出した時にでも見てみるよ、舞。
お読み下さり、ありがとうございます。