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69話 過保護? —花音Side※

 

 もうすぐ試験。

 なので今日は皆で勉強中。円城さんも今日は部屋に来てくれている。


 葉月がつまらなそうに一花ちゃんの頭に顔を置いているのを、舞が見かねるように口を開いた。


「葉月っち。葉月っちも勉強したら?」

「そうだよ、葉月。皆で一緒にやろ?」

「葉月がやるはずありませんわ。諦めた方がいいですわよ、皆さん」


 円城さんが諦めている。そういえば葉月が勉強しているところ、見たことないなぁ。GW後の試験も最下位だったし。


 暇そうにしている葉月が円城さんの存在にツッコんでいた。舞が誘ったらしいよ。ああ、お菓子が目的だったんだね。ちゃんと、みんな分あるからね。一花ちゃんは頭の上の葉月を鬱陶しそうにしていた。


「葉月、お前な。いい加減頭をどけろ」

「いっちゃん、暇なんだよ~」

「最低限範囲だけでも頭に入れろ。鉛筆コロコロして、この前みたいに最下位取るんじゃない」

「やだ~」


 勉強、本当嫌いなんだね。……でも進級出来るよね? そこだけが心配かな。円城さんは肩を竦めて葉月のことは無視している。慣れているみたい。


「皆さん、葉月のことは放っておくのが一番ですわ。付き合ってる時間が勿体ないので」


 ハッキリ言うんだなぁ。まぁ、一花ちゃんも葉月には言いたいこと言っているしね。円城さんもそうみたい。この3人、仲が本当はとてもいいよね。


 あ、葉月が一花ちゃんから離れてゴロゴロし始めちゃった。ずっと周りの床をゴロゴロしているのを見かねた一花ちゃんが踏みつけた。……本当、遠慮しないんだよなぁ。


「ええい! 本当に鬱陶しい!」

「だって~……」

「……お前……かなりキてるな……」


 何の話だろう? キてるって?

 その他にも2人は2人にしか分からない会話をした。


 これ……いつものだ。

 こうやってたまに2人にしか分からない話をするから。

 そういう話をしているのを見ると、少し寂しくも感じる。


 でもやっぱり入り込めないんだよなぁ、と考えていたら、葉月が「出掛けていい?」と一花ちゃんに聞いていた。


「コーヒー飲んでくるだけ。それならいい、いっちゃん?」

「…………危険すぎる。だめだ」


 一花ちゃんの返答で、葉月がむーって頬を膨らませている。出掛けるのにも一花ちゃんに許可取るんだよね。そこもまた不思議。


「いいじゃありませんの、一花」


 円城さんが口を開いた。一花ちゃんが少し気まずそうに円城さんを見ている。


「そこでゴロゴロされても邪魔なだけですわ。それだったら、どっか行ってもらった方がわたくしたちも集中出来るんじゃありませんの?」

「いや……だが……」

「そうだよ、一花。いんじゃない? 葉月っちも気分転換したいんでしょ?」

「………………」


 考え込んでしまった。けど、葉月から足をどけないんだな、とそこに視線がいってしまう。


「…………だったら、あたしも一緒に行こう」


 い、一緒って判断になるんだ。少しびっくりしちゃった。あ、舞が呆れてる感じになってる。


「さすがに過保護すぎない、一花?」


 ……ごめん、一花ちゃん。私も少し、そう思っちゃった。


「大丈夫だよ、いっちゃん。いっちゃんは皆と勉強してて?」

「………………仕方ない……ちょっと待ってろ」


 観念したかのように、一花ちゃんが何故か携帯を取り出してドアの向こうに消えてしまう。そんな一花ちゃんを見て、困ったように笑っている葉月がそこにいた。


 こういう時、2人の間に入れないなと感じてしまうんだよね。2人は仲良しだし、子供の時からの付き合いだから仕方ないんだけど、やっぱり少し寂しいかな。前よりは仲良くなれたって思ってるからかな。


 一花ちゃんはすぐ戻ってきて、何故か葉月が出掛けることを許可していた。


 一気に気分が良くなったのか、鼻歌交じりで着替えて出掛けていった葉月。そんな葉月の後ろ姿を見て、一花ちゃんがハアと溜め息をついてから、さっき座っていた場所に座り直していた。ジッと携帯を見てたけど、もう心配なのかな?


「あのさ一花。心配しすぎだって」

「そうですわよ。どうせ、のほほんと帰ってきますわよ」

「……それに越したことはないが」


 厳しい表情でジッと携帯電話を見続けている。いつ連絡来てもいいようにしているみたい。そんな一花ちゃんの携帯を、バッと舞が取ってしまった。


「何をする、舞。返せ」

「そんなジッと見てたら、一花が勉強できないでしょ」

「大丈夫だ、心配いらない」

「そんな怖い顔で言われても説得力ないからね!」


 携帯を手に取った腕を、これでもかと上にあげている舞。一花ちゃん、ますます険しい顔になっていくんだけど。


「……返せ。二度は言わん」

「じゃあ、ちょっとは葉月っちを解放してあげなよ」

「解放、だと?」

「そうだよ。さすがに目に余るよ、一花の葉月っちの過保護」


 ま、まあ、少し心配性なところはあるよね。常に一緒にいるし。葉月もなんだかんだ一花ちゃんの許可取ってるしね。……悪戯する時は勝手にやっているし、積極的に一花ちゃんから逃げてるけども。


 舞の言葉を聞いて、一花ちゃんの険しい表情が緩んで、でも辛そうな表情になってしまった。


「……仕方ないから、これでいいんだよ」

「何がさ? いくら幼馴染でも、なんで出掛けるのに一花の許可が必要なの?」

「……それも仕方ないことだ。あいつもそれは納得している。だから、早くそれ返せ」


 仕方ないという一花ちゃんが辛そう。

 ……確かに葉月はそれを納得しているんだと思う。


 だって、問いかけはいつも葉月の方。葉月が自分から一花ちゃんに許可を取っている。


 そういう2人を見ると、ちゃんとお互いを想ってるって思うんだよ。


「舞、一花ちゃんにそれ返して?」

「えーでもさ、花音」

「いいから返してあげよう?」


 確かに過保護かもしれない。

 だけど、一花ちゃんが葉月を大切にしているのは事実だよ。いつも葉月を見ているもの。心配しているのが分かるもの。そんな一花ちゃんを蔑ろにできないよ。舞もそうでしょ?


 苦笑して舞を見上げると、口を噤んでしばらく考え込んでしまった。だけど、渋々といった感じで一花ちゃんにその携帯を渡していた舞。


「悪いな……」


 そう一花ちゃんが呟いたあとに携帯電話が鳴って、すぐ一花ちゃんがその電話に出ていて、そのまま、またドアの向こうに消えていく。葉月かな? ってちょっと思っちゃったよ。


 少し面白くなさそうに、舞は乱暴に座り直していた。

 円城さんが肩を竦めて、そんな舞を見つめていた。


「仕方ありませんわよ、舞」

「レイラ、何がさ?」

「一花がああなのは昔からですわ」

「昔から?」

「……昔から、一花は1人で背負いすぎなんですのよ」


 円城さんのその言葉がすごく寂しそうだったよ。

 背負いすぎ……それは葉月のことなんだろうか? 「まあ、わたくしが言えることではありませんけどね」と困ったように笑っている。


「……よく分かんないけどさ」


 不機嫌そうに舞が口を尖らせている。


「それだったら、ちゃんと話してくれればいいじゃん。力になれるかもしれないじゃん」


 ……そうだね、舞。舞は友達思いだもんね。

 ふふって笑って、舞の近くにいって頭を撫でてあげた。


「いつか、一花ちゃんだって話してくれるよ」

「花音は寂しくないわけ?」

「う~ん。寂しくないわけじゃないけど……でも――」

「でも?」

「今の一花ちゃんと葉月のことは知れるから」


 今の葉月を全て知っているわけじゃないから。


 それにね、

 私は昔より今のことを大事にしたいなって、

 そう思うことにしたんだよ。


 舞は納得したのかは分からないけど、渋々といった感じでペンを動かし始めた。仕方ないな。今日の夕飯は舞の好きなコロッケでも揚げようか。それで少しでも機嫌が直ればいいな。あと葉月にもリクエスト聞いておこう。


 夕飯のメニューを考えていたら、一花ちゃんもすぐ戻ってきて、さっきより幾分か安心したような感じになっていた。その顔は大丈夫だったみたいだね。葉月が何かをしないか、本当に心配してたんだ。


 思わずそんな一花ちゃんに微笑ましくなって笑みが零れたけど、一花ちゃんは不思議そうな顔をしていたよ。


 少し皆で勉強したあと、読書する為に自分の部屋に戻っていっちゃったけどね。葉月、連絡こないな、気づいてないのかな?


 返信がきたのは、大分時間が経ってからだった。



 葉月がこの時、何に巻き込まれていたのか、全く気づきもしなかった。



 夕飯のために舞が一花ちゃんを呼びにいって、葉月もちょうど帰ってきた。


 いつもの笑顔で「ただいま」と言ってくれる。


 その笑顔に単純に安心していた。



 一花ちゃんが悔しそうにしていたのにも気づかずに、

 

 夕飯、みんな喜んでくれるかなって思ってた。




 葉月の服に血の跡があることに、




 私は全然気づけなかった。



お読み下さり、ありがとうございます。

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