67話 不器用な励まし —花音Side※
テントに戻って東海林先輩たちに報告したら、とても心配されてしまった。葉月に庇って貰って怪我はなく、逆に葉月が明日病院に行くことになったと話したら、皆が少し難しい顔になった。
九十九先輩と月見里先輩に付き添ってもらって改めて備品室に行ったら、散々な現場になっていた。荷物が部屋中に散らばっていたんだから、それはそうだろう。2人が唖然となってしまっていたのも分かる。
誰がこんなに荷物を入れたのかが結局分からなかった。舞に連絡して午後の競技は舞に出てもらう事にして、3人でそこの片付けをしていたら、あっという間に体育祭は終わっていた。
「じゃあ、これ運んできますね」
「……ハア、俺も行こう。あとこっちの方は頼む」
体育祭が終わって外の荷物を運ぼうとしたら、何故か会長がついてくることになっちゃった。別に1人でも大丈夫なのにな。
荷物の中にある重い機材だけ会長が取ってくれて、その段ボールは軽くなったけど、でも気分は重かった。
やっぱり葉月の怪我が気になる。
頭は打ってないとはいうけど、こめかみを切ったんだから、絶対頭も打っているはず。
歩いていて、会長は私の歩調に合わせてくれているみたいだった。でも不機嫌そう。
「会長? 別に私1人でも大丈夫なんですけど……」
その機材がこの箱に入っても運べるんだけどって思ってたら、ハアと面倒臭そうにこっちを見てくる。
ええ……そんな面倒そうなら来なくて大丈夫だったのに。
「あのな……そんなしょぼくれた顔してるやつに1人で大丈夫だと言われて、そうですかって返せるわけねえだろ」
その言い方に少しムッとしてしまう。
「しょぼくれてなんか……」
「小鳥遊の奴は大丈夫だったんだろ?」
「それはそうですけど……」
「だったら、そんな顔してるな。お前がそんな顔で帰ってみろ。あのバカが勘違いして、この前みたいに俺たちに何するかわかったもんじゃない」
え、葉月、何かやったの? 勘違い?
「葉月が何かやったんですか?」
「……大量のネズミを送り付けてきやがった」
「……ちゃんと言っておきます」
そういえば、寮に帰った時に何故か寮の建物の入り口で会ったことあったな。きっとあの時だろうな。ネズミさん捕まえて隠しておいたんだと思う。本当、そういうの得意だもんね、葉月は。
「とにかく、備品室の件は事故だ。お前が責任に思う必要はない」
「……はい」
確かに、そうなんだけど。でもやっぱり責任を感じる。
「はぁ……少しでも責任感じるなら、あいつの好きなモノでも作ってやればいいんじゃないか? それであいつは元気になりそうだがな」
会長がそんなこと言うと思わなかった。そして一花ちゃんと同じこと言ってる。なんだかおかしくなって笑ってしまったら、会長が怪訝そうに顔をこっちに向けてきた。
「……何だ?」
「ふふっ……すいません、さっき一花ちゃ――東雲さんにも同じこと言われて……まさか会長にも言われるとは思わなくて」
「……あいつを知ってるやつなら誰でも思いつくことだ」
「そうですね。葉月はそれで喜んでくれるんだろうな」
……うん、そうだね。葉月なら喜ぶ。美味しいオムライス作ってあげよう。卵は甘くしてあげなくちゃ。それがお気に入りだもんね。
「……やっと笑ったな」
「えっ?」
「さっきまではこの世の終わりにみたいな顔をしてたからな」
そ、そんな酷い顔してた? 会長が気を遣うほど!?
申し訳なくて反射的に謝ったら、呆れたように見てくる。
「はぁ……お前が一番扱いに困る……大抵の女は俺が笑えば喜ぶんだがな」
「……それは自意識過剰だと思います」
「事実だ。俺にここまで気を遣わせたんだ、光栄に思え」
だから、どうしてそうなるんだろう。今度はこっちが呆れてしまうんだけど。
「会長って……実はバカですよね」
「東海林以外に俺にここまでハッキリ言う女はお前ぐらいだぞ」
「葉月も言ってると思いますけど?」
「あれは違う。あれこそ救いようのない馬鹿だ」
「伝えておきますね?」
「やめろ」
にっこり笑ったら、会長がものすごく嫌そうな顔をしている。でも、大分気分が楽になりました。
「……会長、ありがとうございます、気を遣ってもらって。おかげでちょっと元気になりました」
「それならいい。そうやって笑ってろ」
「その命令口調、何とかなりませんか?」
「俺はこれで許される」
また、この人は。自分なら許されるってどうして思うんだろう。
でもきっと、この人なりの気遣いがこうなんだろうな。
伝え方が下手だけど。元気付けようとしてくれてるのが分かる。
「……不器用なんですね」
そう思って本音を言ったら、目を丸くして驚いていた。
「第一印象は最悪でしたけど、人に何かを伝えるのが苦手なんですね、会長は」
「……えらく言い切るな? お前に俺のことが分かるのか?」
「不器用だとは思いますよ? 人を慰めるのとか慣れてないんだなって」
「慣れてないんじゃない。合わないだけだ」
「ほら、不器用じゃないですか。素直じゃないところが」
「……」
おかしくなってふふって笑うと、黙り込んでしまった。
素直じゃないし、本当不器用。だけど、ちゃんと人の気持ちが分かる人だったんだ。GWに、偏見で見ていたっていうのに気づけて良かったかもしれない。人を思いやれるんだもの。落ち込んでいる私を励ましてくれている。
「会長って――本当は優しい人だったんですね」
ますます驚いていた。面白くなってくる。
「俺が優しい?」
「ふふっ、不器用に私を慰めてくれてますよ?」
「何だ……? 俺に惚れたのか?」
「ただ褒めただけなのに何でそうなるんですか……」
「やはりお前はよく分からん……何でこう言われて不機嫌になるんだ?」
「不機嫌じゃなくて、呆れてるんですよ?」
本当、その発想になるのは違うと思うんだけどな。会長は分からなそうに肩を竦めている。不器用で仕方ない人だなぁ。
でもその不器用な励まし、ちゃんと伝わりましたよ。
「会長、今度キャロットケーキ作ってきてあげますね。慰めてくれたお礼に」
「お前……楽しんでるだろ、それ」
「そうですね、ちょっと味濃いめで作ってきます」
「やめろ」
嫌そうな顔をする会長がおかしかった。うんっと濃い味で作ってこよう。でも会長? 前はおいしいって言ってくれたじゃないですか。きっと気に入りますよ。
後日、そのキャロットケーキを食べさせたら、会長は案の定美味しかったみたいで目を輝かせていた。
目が合って気まずそうに逸らしていて、それが少し勝った気分になったのは内緒。
葉月は次の日、約束通り一花ちゃんと一緒に病院行って検査を受けてきた。結果は異常なし。本当に良かった。こめかみの傷もすぐ塞がったから良かった。痕も残らないらしいし、綺麗な顔に傷が残らなくて良かったと、そこでまた安心した。
甘々のオムライス作ってあげたら、喜んで食べてたよ。でもしっかり玉ねぎも食べてもらったけどね。
もう会長たちに変なモノ送っちゃだめだよ、葉月。
あと自分の体、もう少し大事にしようね。
お読み下さり、ありがとうございます。




