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65話 事故? —花音Side※

 


「マイクの予備ですか?」

「少し調子悪いみたいなのよ、これ」


 放送部の先輩が1つのマイクを出してきた。


 体育祭当日。月見里(やまなし)先輩の言う通り快晴になって、驚いた。本当に晴れるんだなぁ。


 お昼も食べ終わって午後の競技も始まった頃、生徒会で救護テントの所で作業をしていた時だった。放送部も各競技のアナウンスの為に隣のテントにいる時に、そう声を掛けられたのだ。


「おかしいですね……さっきまで普通に使えてたのに」

「ええ、だから大丈夫だと思ってたんだけどね。一応予備持ってきてもらえると助かるかな。使えなくなると困るし」

「他のマイク――は実況に使ってますもんね」


 チラッとそのテントを見てみると、もう1つのマイクは放送部の男子が実況で使っている。意外と盛り上がっているから、使うのやめてくださいなんて言えなかった。


「東海林先輩、備品室に取りに行ってきますね」

「ええ、お願い」


 進行のために放送部に付きっきりの東海林先輩に声を掛けて、備品室に向かった。


 校舎に向かう途中、さっきのお昼ご飯の時のことを思い出す。葉月たちと食べたんだけど、良かった、円城さんの分も一応用意しておいて。


 寮で食べて以来、円城さんがたまに部屋に来るようになったから、念のためにって作ってきたんだよね。それにしても、どうして葉月のを取るのかな? 彼女的には庶民から貰うなんてって言ってるけど、結局庶民が作った料理なんだけどな。


 さっきのお弁当もそうだけど、寮でも葉月のおかずを取っちゃうんだよね。それで葉月がむーって頬を膨らませて、私が葉月にあげて治まるという繰り返しが続いている。


 そして意外と円城さんと葉月は仲良し。なんだかんだ仲良さそうに葉月は円城さんにちょっかい出しているし、一花ちゃんなんかもっと意外、円城さんにちょっかい出している葉月は止めようとしないんだもの。円城さんは最後には泣いちゃうんだけどね。それを私と舞が慰めている構図になりつつある。


 円城さん、「庶民なんて」ってバカにする感じはするんだけど、どこか憎めないんだよね。舞ともそう話しているし。舞曰く、円城さんは葉月と一花ちゃんにいじられる子供時代を過ごしたんじゃないかって、それを聞いてなんとなく想像出来てしまった。


「かの~ん」


 校舎に入ろうとしたら、その円城さんをからかう葉月の声が聞こえた。振り返るとこっちに走ってくる。


「あれ、葉月? どうしたの?」

「花音は何してるの~?」

「私は備品取りにきただけ。ちょっとマイクの調子が悪くて。一応昨日チェックしたんだけどね」

「じゃあ、一緒行く」

「一花ちゃんとこ、いなくていいの?」

「暇なんだもん。いっちゃんにも言ってきたよ~」


 ああ、そういえば葉月は午後の競技は出ないって言ってたもんね。クラス全員、果ては担任の先生からもストップかかったとか。中等部での体育祭でも何かやらかしたらしい。


 まあ、備品室で何かするってことはないからいいか。一花ちゃんの許可をもらってくるところが可愛らしいとも思うけど。


 備品室に一緒に行くことにして、クラスの子たちの話で盛り上がったな。それにクラスの話をすると、葉月は嬉しそうにするしね。


 葉月はなんだか私の保護者みたい。自分の子がクラスで上手くいってて良かった、みたいな暖かい表情になる。お母さんを思い出すんだけども。



 備品室に着いて、中を開けて目を丸くした。あれ、こんなに昨日荷物置いてなかったと思うんだけど。所狭しと荷物が積み上がっていた。


「すごいね~。こんな積みあがってて大丈夫なの~?」

「うーん。昨日はここまでじゃなかったと思うんだけど……誰かが置いたのかな?」

「雪崩がおきるね~」

「うん、気を付けないとね」


 本当、気を付けないと全部落ちてきそう。さて、どこに予備のマイクあるかな。確か昨日、一応チェックした時は奥の方にあったと思うんだけど。見渡しながら進んでいった。


「花音~どんなの~?」

「んー、小さい段ボールに入ってたと思うんだけど……」


 そう、確か小さめの段ボールに入っていたと思うんだけど。


 葉月もガサゴソと探してくれている。私も次から次へとめぼしい段ボールを開けたり閉じたり。奥にあった段ボールの上にあった箱を違う場所に置いて、その中身を開けてみる。


「あ、これ!」


 これだ! うん、昨日見たのがこれ。早く見つかって良かった。手に取って、そのマイクを見てみる。


「ああ、やっぱりこれだ。葉月あっ――えっ!?」


 葉月に伝えようとして、いきなり腕を引っ張られた。そして視界が変わって体が何かに包まれる。葉月が何故か私を腕の中に隠すように覆い被さってきた。


 訳が分からず、一瞬の内に背中から地面に落ちて、でも視界は葉月に隠されて暗かった。その後すぐに、物が落ちてくる音が聞こえて、反射的に目を瞑ってしまう。その音が収まるまで、葉月はそこをどかなかった。



 音が止んで、「んっ」っと思わず声をあげる。目を恐る恐る開けると、葉月もまた顔を上げて、自分の腕の中にいる私を見てきた。


「は……づき……?」

「花音、平気?」


 そう私に声を掛けながら、体を押し上げている。ガラガラ……と荷物が落ちる音が聞こえてくる。

 自分の体を起こして周りを見ている葉月を見て、私は目を大きく見開いた。


「葉月っ!? それ!!」


 きょとんとした顔で見下ろしてくる。でも私は血の気が引いていったのがわかった。だって――だって!


「こめかみっ――ち、血が出てるよ! 大丈夫っ!?」


 葉月のこめかみから血がダラッと流れている。身体を起こして、思わず葉月のジャージを掴んだ。でも本人はケロッとして、自分でソッとそのこめかみ付近を触っている。その手を見て「おお」と声をあげていた。いや、「おお」じゃなくてね!?


「と、とりあえず保健室行こう!? いや、救急車?!」

「落ち着いて、花音。大丈夫だから、ね?」

「何言ってるの?!」

「痛くないから大丈夫~」

「痛くないってっ……」


 そんなに血が出ているのに、なんでそんな冷静なの!? いつもみたいにニコニコ笑って、片手でその傷を押さえていた。こっちはどうしようって思いでいっぱいなのに!


「それより花音は~? 怪我ない?」

「わ、私なんかより葉月の方が……」

「怪我ない~?」

「へ、平気……葉月が庇ってくれたから……」


 怪我は何一つない。それより自分の心配をして? 葉月がそのせいで怪我するなんて……思わず震えがくる。あ、し、止血……止血しなきゃ……は、ハンカチ……。


 葉月の血で動揺して手が震える。なんとかポケットからハンカチを取り出して、葉月の手をどかして抑え込む。そのハンカチが血で染みこんでいくのが、さらにどうしようって思ってしまった。


「大丈夫だよ~花音~」


 ニコニコしている葉月は、やっぱり冷静にそのハンカチを私から取り上げて、自分で押さえている。震える私をもう片方の手で撫でてきた。そんな、私に気を遣っている場合じゃないのに。


「いっちゃんに電話しよ~。花音、携帯持ってる~?」

「え!? う、うん……」


 え、ここで一花ちゃん!? という思いもあったけど、とりあえず備品室から何とか出て、一花ちゃんに連絡してみる。


 すぐ来てくれて、何故か心配するんじゃなくて呆れて葉月を見ていた。あの、2人とも? なんでそんな冷静なの? でも一花ちゃんが「大丈夫だ」と言ってくれた時に何故か安心できた。この頼れる感じ、本当すごい。


 保健室に着いた時には、葉月の血は止まっていた。良かった。一応全身を見てもらってた。私を庇って落ちてくる荷物を葉月は受け止めていたから。でも何で先生、一花ちゃんに従っているんだろう? 頼りになるのは分かるんだけどね。


 そして私も無理やり見られた。葉月がいきなり服脱がそうとしてきて、一花ちゃんに止められてたけど、私は葉月に庇ってもらったから全然平気だよ? 大丈夫だよ? それより自分の心配しようね。


「葉月……本当に大丈夫……?」

「平気だよ~。ね~いっちゃん?」

「はぁ……とりあえずはな。だけど明日、一応病院に連れてくからな」

「え、やだ~」

「だめだ。これは強制だ」


 そうだよ。あの荷物の中には重いモノもあったはずだもの。ちゃんと診てもらった方がいいよ。


ギュッと嫌そうな葉月の腕を掴むと、何故か観念したように呻いてる。


「一花ちゃん、私も付き添っていいかな……?」

「大丈夫だ、花音。心配するな。明日は体育祭の片付けもあって、生徒会は忙しいだろ? あたしが責任もって連れてくから」


 確かにそうだけど……でもこれは葉月が私を庇ってくれたせいだし、ちゃんと自分で付き添いたいって思いがある。


 でも、と言ったら、一花ちゃんは肩を竦めていた。


「心配ならそうだな……明日はこいつの好きなオムライスでも作ってやれ。それでこいつは元気だ」


 え、そんなこと? あ、葉月が途端に目を輝かせて見てきた。


「花音~明日はオムライスがいい~」

「じゃあ病院行くな?」

「むー仕方ない。いっちゃん、それで手を打とう」

「だそうだ、花音。だから心配するな」


 そう言われたら「うん……」としか言えなかった。ポンポンと頭に包帯巻いている葉月が、私の頭を撫でてくる。


「花音~、ホントに大丈夫だからさ~。もう戻って大丈夫だよ~。備品室のこと寮長に報告するんでしょ~?」

「……でも」

「いっちゃんもいるから大丈夫だよ~。ね~いっちゃん?」

「はぁ……大丈夫だ。花音は生徒会で忙しいんだから、こいつのことは任せろ」

「…………わかった」


 確かに東海林先輩に報告しなきゃいけないし、一花ちゃんに任せれば大丈夫だっていうのも分かる。



 それに――一緒にいても葉月にしてあげられることもない。



 そんな自分に無力感を感じて、2人に見送られてテントに戻った。


お読み下さり、ありがとうございます。

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