64話 体育祭
体育祭編です。
少し流血シーンありますので、苦手な方はご遠慮ください。
「ねえ、何でレイラまでいるの~?」
「あたしに聞くな」
「ふん、感謝しなさい、葉月。その庶民の弁当わたくしが食べてさしあげますわ」
「あの……円城さん、こっちにもあるからね」
「花音、この卵焼きうっま! どういう味付けしてんの!?」
天気は快晴。今日はいっちゃんも待ち望んだ体育祭だ。なんてったってイベントがあるからね。でもそのイベントは体育祭の終わり際にあるらしい。
今はお昼休み。花音が早起きして皆分のお弁当を作ってくれた。なのに、何故かレイラがここにいる。ホント、なんで?
「レイラ~、これは私の~。だからあげない」
「なっ!? 葉月……このわたくしが、わたくしが食べてあげると言っていますのよ!?」
「だから~?」
「か……代わりにこのプレミアムチョコアイスの券を差し上げましょう! これで文句はありませんよね?」
「いらな~い。自分で買えるも~ん」
「あの円城さん? だから、こっちにもあるからね?」
「ふん! わたくしが庶民の手から弁当を手渡されるのを、良しとするとお思いですの!? 結構ですわ!」
「葉月の弁当も花音が作ったモノなんだがな」
「それとこれとは話が別ですわ、一花。直接受け取らなければいいんですのよ!」
「意味がわからないルールを押し付けるな!」
「とにかく! 葉月! それをこちらに渡しなさい!」
「や~だ~」
あれ以来、すっかり花音のご飯に夢中になってしまったようだ。分かるけどね。でもこれは私のです~。あげません~。
「はぁ……葉月? そのお弁当、円城さんに渡してあげて?」
「花音まで何言ってるの~? やだ~。レイラはそこら辺の草でも食べてればいいんだよ~」
「ひっ!?」
「昔にお前が食べさせたことを、本人思い出して顔青褪めさせてるぞ?」
「葉月っち、そんなことしてたんだ……」
あれはね~、野菜苦手だったレイラに食べさせてあげただけだよ? それ以来食べれるようになったんだからいいじゃん。
「わ、分かりましたわ……仕方ありません……このピクちゃんの限定消しゴムを差し上げましょう! それならいいのでしょう!?」
だから、何でそれで交換できると思ってるの? というかピクちゃんって何? 初めて聞いたんだけど?
「いらない」
「なっ!? そ、そんな……これは千人に1人しか手に入らないファンクラブ限定商品なのに......」
レイラがガクッと項垂れた。
そんなファンクラブが存在してたことも今初めて知ったんですけど? レイラ、その会員なの? 舞がすっごい哀れな目で見てるよ、気づいて? 花音は珍しく疲れた顔をしているけど。
「はぁ……仕方ないなぁ……」
「花音が落ち込むことないんじゃないのか?」
「でも一花ちゃん、このままだと円城さん、ご飯食べないんじゃない? それだとお昼なしで午後の競技やらなきゃいけなくなるから……仕方ないから奥の手使うよ」
ん、花音? 奥の手って? ねえ……なんでそんな怖い笑顔してるの?
「葉月? 今夜のサラダに玉ねぎ入れないで作ってあげるから、そのお弁当、円城さんに渡してね?」
――卑怯! それ卑怯!! 渡さなかったら入れるって言ってる!! 最近は全然入れてなかったくせに!! レイラ~!!
「葉月?」
ぐ、んぐぅ……やだ……このお弁当……私の……。
「最近は食べてないから、玉ねぎ2個分にしようかな?」
すぐ、レイラに渡した。そんなに食べるの無理。レイラがポカンとしてる。食べなよ! 食べればいいさ!
「よく出来ました。はい、こっちを葉月が食べれば問題ないよね?」
そう言って新しい弁当を渡してくる花音。頭をいい子いい子と撫でてくる。
「相変わらず見事だな。花音は」
「しかも最近は作らないで、いざって時に切り札で出してる。花音のテクがあがってるね、一花」
そこ! 何を解説実況してるのさ!? いいもんね! こっちのお弁当食べるもんね!
「むーっとしないで、葉月。中身は一緒だからね」
あ、そうなの? なんだ、おかずが違うのかと思った。じゃあ、いいや。いっただっきま~す!
んー、やっぱりおいしい! 花音のご飯は最高です! 今日の卵焼きうま~!
「ねえ、一花。あたし思ったんだけどさ……」
「なんだ?」
「葉月っちって単純だよね。あの顔分かりやすすぎ」
「今更か?」
何言ってるの、舞? 単純ですけど、何か? むっ、ちょっとレイラ。何そんなニマニマしながら食べてるのさ。気持ち悪いよ。
さてさて腹ごしらえも済んだところで、午後の競技が始まった。といっても私は参加しないんだけどね。100m走ぐらいなんだよ、参加するのは。
何故かって? クラスメイトと教師、いっちゃんから禁止されました。玉とか器具とかに細工して、何かしらやらかしそうだからだって。中等部の時に全部やったから余計禁止されました。午前中に100m走は終わったから、私暇なんです。
「いっちゃ~ん」
「何だ?」
「つまんな~い」
「そりゃ良かった」
「むー、つまんないよー」
「お前がつまらないということはだな、あたしらが平和の証だ」
「平和なんてまやかしなんだよ、いっちゃん」
「その危険な発想はやめろ?」
「というわけで、ちょっと行ってくるね?」
「行かせると思うのか、この馬鹿野郎が!?」
いっちゃんにロープでグルグル巻きにされました。むー、ホントにつまらないよー。頬を膨らませていると「きゃあ!」と黄色い声が上がった。あ、会長だ。
「これ何の種目、いっちゃん?」
「玉入れだな。会長がこの競技に出るとは意外だな」
見ると会長がきれいなフォームで玉を入れていた。そのたびに黄色い声があがっている。
いや、バスケとかなら分かるけどさ。なんでそんなシュート入れるフォームなの? しかもちゃんとジャンプもしてるし。でも玉入れだよ? 何か絵的に合ってないよ? どこがかっこいいのかさっぱり分かりません。
つまんないなー、何かないかなーって思って辺りを見渡してみると、花音の姿が見えた。あれ? 校舎に用事? 何かあったっけ? 確かさっき花音に聞いたら、午後はアナウンスするテントにいるっていう話だったんだけど。でも、いいや。暇だから花音にちょっかいかけにいこ~。
いっちゃんに言って、ロープを外してもらう。花音のところに行ってくるって言ったら、すぐ外してくれた。ちょろい。「迷惑掛けるなよ」って言われたけど。
自由になったから、急いで花音を追いかけた。ちょうど、校舎に入るとこだった。
「かの~ん」
「あれ、葉月? どうしたの?」
「花音は何してるの~?」
「私は備品取りにきただけ。ちょっと機材の調子悪くて。一応昨日チェックしたんだけどね」
「じゃあ、一緒行く」
「? 一花ちゃんとこ、いなくていいの?」
「暇なんだもん。いっちゃんにも言ってきたよ~?」
クスクスと笑って「じゃあ、一緒に行こっか」と花音が言ってくれた。
「何の備品?」
「予備のマイクを取りに行くの。備品室にあるはずだから」
「ふ~ん」
花音と話しながら、備品室に向かう。花音はこの後、リレーにも出るって言ってた。クラスの子とも上手くいってるって前に舞が言ってたな。
そういえば、お昼に花音たちを迎えに行ったらめちゃくちゃクラスの人に睨まれた。私は恨まれてるって言ってたもんな~。でも花音のご飯は私の特権なんですよ! 残念でしたね!
備品室に着いて、部屋の中を見てみる。すっごい荷物の量なんだけど。所狭しと荷物が積み上がっていた。
「すごいね~。こんな積みあがってて大丈夫なの~?」
「うーん。昨日はここまでじゃなかったと思うんだけど……誰かが置いたのかな?」
「雪崩がおきるね~」
「うん、気を付けないとね」
花音が奥の方に進んで、荷物を見渡していた。
「花音~どんなの~?」
「んー、小さい段ボールに入ってたと思うんだけど……」
まず、手前にある段ボールを開けて中を確認していく。ん~、マイクでしょ? 無いな~。これは違うし、ダンベルも違うし。あれ? 何でダンベルがここにあるの? ま、いっか。
「あ、これ!」
おっ? 見つかった?
花音の方を振り返る。
そして目を見開いた。
「ああ、やっぱりこれだ。葉月あっ――えっ!?」
グイっと無理やり花音の腕を引っ張って、花音をグルッと半回転させる。
(間に合わない!?)
花音を腕に閉じ込めて覆い被さった直後に、積み上がっていた荷物が私と花音に襲い掛かってきた。
荷物が落ちる音が止まる。
落ち着いた?
「んっ……」
花音の声が腕の中で聞こえた。目をソッと開けると花音がいる。無事みたい。良かった。
「は……づき……?」
「花音、平気?」
背中にあった荷物をグイっとどかすと、ガラガラって音をしながら崩れていった。
まったく誰だよ~、こんな無茶な置き方したのは~。周りの荷物を見てみると、部屋の中が地震の直後みたいに散乱していた。
「葉月っ!? それ!!」
ん? どしたの?
花音が私を見上げて、血の気が引いたみたいに、顔を青褪めさせていた。
「こめかみ……ち……血が出てるよ! 大丈夫っ!?」
はて? 自分でこめかみ辺りをまず手で触ってみる。あっホントだ。何かで切ったのかな?
ふと自分たちがいる所の横に、小さい段ボールからカッターナイフが出てるのが見えた。あれが落ちてきたときに切った? でもどうして、ナイフの部分が出た状態で?
「と、とりあえず保健室行こう!? いや、救急車?!」
花音がプチパニック状態ですね。
「落ち着いて、花音。大丈夫だから、ね?」
「何言ってるの?!」
「痛くないから大丈夫~」
「痛くないって……」
とりあえず、片手で多分切っている場所を押さえてみる。
「それより花音は~? 怪我ない?」
「わ、私なんかより葉月の方が……」
「怪我ない~?」
「……平気……葉月が庇ってくれたから……」
それなら良かった。さて、いっちゃんに怒られるかな~。そんな深く切ってる感じはしないから、ホントにかすった程度だろうと予想する。
花音が私を見て微かに震えているから、大丈夫って言って頭を撫でてニコッとしてあげた。備品室からとりあえず出て、いっちゃんに連絡してきてもらった。めちゃくちゃ呆れた顔をされた。
保健室に連れていかれて、包帯巻かれてから保健医に病院行くかって言われたけど断固拒否しました。だって、いっちゃんの病院に行ったら、お姉ちゃんに捕まっちゃうもんね、いっちゃんが。
傷はやっぱりちょっと切っただけだって。血も止まってたしね。一応全身見てもらったけど、大丈夫そうだってことになった。花音の事も見てもらったけど大丈夫だって。庇って良かった。
「葉月……本当に大丈夫?」
「平気だよ~。ね~いっちゃん?」
「はぁ、とりあえずはな。だけど明日、一応病院に連れてくからな」
「え、やだ~」
「だめだ。これは強制だ」
え~結局、お姉ちゃんに捕まっちゃうじゃん! いやだ! いっちゃんの可愛がりタイムは長いんだよ! それに私がいっちゃんを独占してるから、絶対にネチネチ文句言ってくるもん!
花音が不安そうな顔で腕を掴んできた。花音~……その顔はやめて~。
「一花ちゃん、私も付き添っていいかな……?」
「大丈夫だ、花音。心配するな。明日は体育祭の片付けもあって、生徒会は忙しいだろ? あたしが責任もって連れてくから」
「でも……」
「心配ならそうだな……明日はこいつの好きなオムライスでも作ってやれ。それでこいつは元気だ」
確かに! 最初に作ってもらってから大好物になりました!
「花音~明日はオムライスがいい~」
「じゃあ病院行くな?」
「むー仕方ない。いっちゃんそれで手を打とう」
「だそうだ、花音。だから心配するな」
「……うん」
かなり不服そう。でもホントに大丈夫なんだよ~。
「花音~、ホントに大丈夫だからさ~。もう戻って大丈夫だよ~。備品室のこと寮長に報告するんでしょ~?」
「でも……」
「いっちゃんもいるから大丈夫だよ~。ね~いっちゃん?」
「はぁ、大丈夫だ。花音は生徒会で忙しいんだから、こいつのことは任せろ」
「…………わかった」
そう言って、不本意ながらテントに戻っていった。
でもホント一緒についていって良かった。庇わなきゃ花音が怪我してたもんね。そしたらまたイベントどころじゃなかったよ~。
は~やれやれ。ゲームと現実じゃやっぱり違うんじゃない、いっちゃん? あれ、いっちゃん? どうしたの、そんな難しい顔して?
「いっちゃん?」
「ん? ああ、いや……何でもない……まさかな……」
いっちゃんが難しい顔をやめて、電話し始めた。お姉ちゃんに連絡取って、明日の予約を取ってくれてる。あ~明日行かなきゃなのか。めんど~。
ん? 視線?
バッと後ろを振り返ってみる。だけどそこには誰もいない。気のせいかな? と思って、私は電話しているいっちゃんの背中についていった。
「ホント……邪魔……」
お読み下さり、ありがとうございます。