56話 悪役令嬢?
円城レイラ
この星ノ天学園の学園長の1人娘だ。
高慢で高飛車――とはいかないけどね。まぁプライドが高い。頭脳もそこそこ。容姿もそこそこ。縦ロールの髪が特徴的だ。花音みたいな外部組を見下したりしていて、評判もいまいちの女の子だ。私ほどじゃないけど。周りにいる子たちはレイラの取り巻きかな? そっちはあまり私には記憶がないけど、レイラの同類だろう。
いや~でもまさかレイラが犯人だったとはね。どうりで声に聞き覚えがあると思ったよ。
彼女とはもう随分前から疎遠になっている。初等部の前半まではいっちゃんとレイラと私で、3人でつるんでたんだけどね~。レイラが私に愛想尽かして離れてしまったんだよ~。それに関しては仕方がない。
花音が意味分からなそうに首を傾げて、レイラたちを見ていた。対するレイラはイライラしているような表情だ。
「あの、何か……?」
「……何か? 何かですって? こんな手紙を寄越していて、よくもまぁそんな事言えますわね?」
「はい?」
「覚えがないとは言わせませんわよ?」
レイラが手紙を花音に突きつける。花音が困惑した表情でそれを受け取っていた。そんな様子を見ていたら、舞に袖を引っ張られた。
「ちょっと、葉月っち? めちゃくちゃ怒ってんじゃん。何書いたの?」
え? 普通の事だけど。
花音がそれを見て、レイラに「読み上げてみなさいな」と言われている。
「えっと……? 『あなたたちっておバカなんだね~? こんなことしても意味ないんだけど~。そんなにコソコソしたいんだね~。コソ泥だね~? 泥だらけだね~。あ~だから泥をつけてくれたんだね~。もう面倒臭いから直接来ればいいのに~。そうすればあなたたちの大好きな泥を返してあげるよ~。直接会ってあげるから明日ここに来てね~』…………って……何これ?」
内容が聞こえた舞に耳を引っ張られて、いっちゃんに足を踏まれた。
「葉月っち……何、あの内容……」
「お前のバカさ加減が分かる内容だが……花音のイメージ壊れるだろうが」
そんな凝った内容を私が考えられるとでも2人は思ってたのかな? 無理です。
いっちゃんがハァと溜め息をついてレイラを見た。
「それにしてもレイラが悪役令嬢Aだとはな……」
「は? 一花?」
「いっちゃん、何それ? あーもしかしてイベント?」
「ああ、花音をいじめる令嬢AからEだ」
「2人とも何の話……? そういえば前にもイベントがどうとか話していたような……」
「舞、気にするな。これはつまらない話だ」
いっちゃんは肩を竦めて視線を外していた。ホントにつまらなそう。
「よく分からないけど……まっいっか、一花がそう言うなら」
舞ってすごいのかもしれない。こんな訳分からない話を「ま、いっか」で片付けられてしまった。普通、もうちょっと食いつくんじゃないの? ま、いっか。
「それより、ちょっと気になってるんだけどさ……あの奥にいる子なんだけど……」
舞が何か話そうとした時に、レイラが「お分かりになりまして?」と口を開いた。
「あなたが心底私たちをバカにしている内容ですわね」
「えっと……すいませんが、これを書いたのは私じゃありませんので」
手紙をレイラに返そうとした花音の手がパシッと弾かれた。パチパチと目を瞬かせて、手と手紙を交互に見ている。レイラが縦ロールをブンっと後ろに手で払った。あの縦ロールにカレンダー刺してみたいんだよね。入るかな?
「この際ですから、ハッキリ言わせていただきますわ、桜沢花音」
「はぁ……」
「あなた、ちょっと調子に乗りすぎですわね」
「えーと……?」
「そもそも、あなたのような貧乏人が通う学園じゃありませんのよ、ここは」
「レイラ様の言う通りですわ」
「あまつさえ、生徒会にまで押しかけるなんて、どういうつもりかしら」
「翼様たちの迷惑を考えたらどう?」
「あなたには泥がお似合いなのよ。身の程を弁えて、お家にお帰りなさいな」
う~ん……絵に描いたようなご令嬢たちだ。レイラを筆頭に花音に馬鹿みたいなことを口走っている。
いやいや、お金持ちのお嬢様にいるんだけどね、こういうタイプは。差別っていうのか、自分たちは上流階級で庶民は従えよみたいな考え方。まるでファンタジーに出てくる貴族と平民の図。前世でそういう本読んだことあるよ。
でもね~……この国は身分制度じゃないんだからね。ちょっと生まれてくる国を間違えちゃったんじゃないかな?
「ね~いっちゃん? 助けに行っていい?」
「ん? 別にいいぞ。まぁ助けなくても、そろそろ会長たちが来るとは思うけどな」
「見たいの?」
「はっきり言ってどうでもいいな、今回に限っては」
ピシャッと遮断するいっちゃん。そんなに興味ないんだね、このイベント。何がそんなに気に入らなかったんだろ。
でもいっちゃんの許可が出たので、とりあえず行こっかな。
今だギャアギャア言ってる人達の方に向けて、とりあえずレイラに声を掛けよう。久しぶりだな~、レイラと話すの。
「レ~イ~ラ~?」
私が声を掛けると、レイラが体を大きくビクッと跳ねさせた。
ありゃ~。やっぱりまだ怖いよね~? ギギギっと音が鳴りそうな感じで首を動かしてるよ。花音も声に気づいてこっちに視線を向けた。
「葉月? 一花ちゃんに舞まで一緒?」
「ごめんごめん、花音。遅くなっちゃって」
「舞がここで待ってろって言ったのに……どこいってたの? 何で葉月たちまで一緒に……」
「あ~花音? すまないとは思ってる。けどまあ許してやってくれ。舞も悪気はなくてだな」
「どういうこと、一花ちゃん?」
花音が困惑しきった顔で私たちを見ていた。うん、そだね。訳分かんないよね。でも花音、さっきこの人たちに言われてること全く気にしてないね。そっちの方がびっくりだよ。
さてと、とレイラたちに向き合うとレイラを筆頭に皆が怯んでいた。いや……明らかにレイラだけ以上に怯えてるね。歯を食い縛って、私を睨んでいる。でも震えが止まらないみたい。
「レイラ~?」
「…………お久しぶりですわね、葉月」
「そだね~。何年ぶりかな~? こうやってまともに話すのは~?」
「……さぁ、覚えていませんわ」
「そだね~。私も覚えてないや~」
「…………」
まるで震えに耐えるように、レイラが胸元で右手で左手をギュウっと握っている。まだ、あの時の事覚えてるっぽいね。でもさ~。今回の花音へのいじめは駄目だよ~?
グルっとレイラの取り巻きたちを見渡すと、その子たちもビクッてなってた。
「それで~ 皆で花音に何をしてたの~?」
「…………」
「花音のノートやジャージとか泥だらけにしていたのはレイラたち~?」
「…………ええ」
「何でそんなことしたのかな~?」
「何も……間違っていませんわよ……そこの女がこの学園にいること自体おかしいのです」
「なんで~?」
「一般庶民が入るような学園ではありませんから……」
変わらないね~。その考え方。この学園に入るのは選ばれたものだけっていうその選民思想。
ハァといっちゃんの溜め息が後ろから聞こえてきた。
「レイラ、お前まだそんなこと言っていたのか」
「……一花。あなたには言われたくありませんわね。いまだにこのば……葉月と一緒にいるあなたにはね」
今レイラ、バカって言いかけなかった? 気のせい?
「あの……」
躊躇いがちに花音が声を掛けてきた。
「よく分かりませんけど、私が何かしたのなら、謝ります。ただ、何が気に入らないんですか? 先ほど言ってたお金関係のことでしょうか?」
「あ~花音~。ちょっと違うかな~? お金もだけどね~……レイラはここの学園長の娘なんだよ~」
「気にするな花音。レイラはな、只々バカみたいに理想が高すぎるだけなんだ。ありえない幻想に取りつかれてるだけで、まあ、根はいいやつなんだがな」
「そうだね~いっちゃん。悪い子じゃないんだよ」
「そうなんだ、葉月の言う通り悪いやつじゃないんだ。ただ……」
「「残念なだけなんだ(よ~)」」
私といっちゃんが声を揃えて言うと、レイラが顔をさっきの青とは逆に真っ赤にさせてプルプルさせている。
「一花と葉月っちに言われるってどんだけ残念なの……?」
ボソッという舞の声がレイラに届いた瞬間、レイラがキレた。
「あなたたち!! 変わりませんわね! その人を馬鹿にするところ!!」
「え~? 変わらないのはレイラだよね~? まだそんな選民思想みたいなこと言っててさ~」
「あたしもびっくりだぞ。あれから何年経ってると思ってるんだ? 現実見ろ。お前将来この学園継ぐんだろ? そんな考えじゃすぐ潰れるぞ? 今は少子化時代だぞ」
「うるさいですわね!? いいじゃありませんの?! 理想を追いかけて何がいけませんのよ!? この学園にはふさわしい人物が入るべきなんです! 家柄、財力、権力! その全部を持っている者こそ、この学園に在籍する価値があるんですのよ! そういう生徒を立派に育て上げ社会に送り出す! それでこそ星ノ天学園なんです!」
「学園に夢を持ちすぎだよね~」
「そもそもお前、学園長からそういう考え持つなって子供の頃から言われてるだろうが。学園長の考えに反対してどうするんだよ」
「お父様は関係ありませんわ!」
「いや、関係あるからな。それこそ、この学園のトップだっていうのに」
「うるさいですわね、一花!! あなたは昔からそうですわよね!? 私が言う事にネチネチネチネチ小姑みたいに」
「誰が小姑だ!?」
いや~レイラ~。変わらな過ぎてびっくりだよ~。でもいっちゃんの小姑は確かにって思っちゃった。花音と舞もそれにあなたの周りにいる取り巻き達も、びっくりしてポカンとしてるよ? でもレイラの残念なところはこれだけじゃないんだよね。
「ふん! まあ、いいですわ! わたくしはこれからも考えを変えるつもりはありませんの! ふさわしくない人物がいたら、自らの手で追い出してさしあげますわ!」
「え~レイラ~。それは無理だと思うよ~?」
「そうだな。無理をするな。見ていて辛い」
「ふん! あなたたちの言う事なんて聞きませんわ! 学園筆頭の頭のおかしい人とその従者が何を言っても痛くも痒くもありませんもの!」
「誰が従者だ!?」
「でもさ~本当に無理だと思うよ~? だってレイラの追い出すって、教科書に泥をつけるぐらいでしょ~?」
「何を言っていますの、葉月? じゃ……ジャージにもつけたんですのよ!!」
「いや、だからさ~。そんなので誰が学園辞めますっていうのさ~?」
「葉月は頭がおかしいから分からないんですのよ。庶民にはこれが一番効果がありますの! そうでしょう、桜沢花音!? あなた、嫌になったんじゃありませんの!?」
「へ!? いや……あの……」
「ほら、見なさい! もうこれ以上あんなことされたくなければ、この学園を出ていくことね!」
「えっとー……ごめんなさい。洗えば済むので……辞めたいとかは思ってなくて……」
「……はえ?」
本当にレイラはこれが一番効くと思ってやっているのだ。
そもそも制服には泥つけてないんだよね~。多分そこまでしたら、花音が可哀そうだと思ってるんだと思う。制服が一番高いからね~。
レイラって小心者なんだよ~。大きな事は出来ないの。根がいい子だからさ~。やること為すこと、なんというか小っちゃくて。考え方も残念だけど、行動も残念な子なんだよ。ほら、いっちゃんも呆れ返っちゃってるよ~。
「そ、そんな……三日三晩考えたのに……」
え、あれで? というか花音? そんな申し訳なさそうな顔しなくていいよ。
「一花、葉月っち……どうしよう、あたし……何か彼女が可哀そうに思えてきたよ」
「そうだろうな。可哀そうで残念な奴なんだ、レイラは……」
あんなことで三日も考えたの? と言いたげな舞まで、ちょっと泣きそうになってるよ。いや、泣くことじゃないからね?
ふらふらとレイラがショックで膝をついた。
え~? そんなにショックだったの~?
お読み下さり、ありがとうございます。