55話 サブイベント
「いやさ、花音には2人に言うなって言われてるんだけどね……何か一花にはバレてるっぽいし、葉月っちは後でバレると何するか分からないからさ」
舞があっさり白状した。次の日に、寮に戻ってからいっちゃんと私に相談してきたのだ。花音? 生徒会の仕事でまだ学校です。
やっぱり、花音はいじめにあっていたらしい。生徒会に入ってから始まったそうだ。え? そんな前から? 全然気が付かなかった。
ただ、ホントに些細な嫌がらせみたいで物を隠されるとか、その程度。しかも隠された物も、意外と無傷な状態ですぐ見つかってたとか。舞もしょうもないと思っていたし、花音も呆れてたらしい。
ただ、レクリエーションが終わった辺りからちょっとグレードが上がったみたいで。
「具体的には何をされてるんだ?」
「教科書汚されてたとか、ジャージ汚されてたとか――それぐらいなんだよね」
しょぼい。いじめのグレードアップがしょぼい。それだけ?
「だから花音も『飽きれば辞めるんじゃないかな』って特に犯人を突き止めたりとかはしないみたいなんだけど。でもさぁ……さすがに最近のやり方見てるとね、あたしもユカリもナツキも放っておけないというか」
「泥だらけじゃね」
「そうなんだよ。あたしらは替えがいくらでもあるけどさ、花音は違うじゃん?」
学園指定の制服やジャージは高いからね~。花音だと何枚も買えたりしないもんね。ん? ユカリとナツキって誰だっけ? ま、いっか。舞が名前出すくらいだから、きっとお友達だろう。
「だからクラスの他の子とも相談してたんだけど、やっぱり犯人自分たちで見つけようかって話にはなってたんだよね」
「その子たちは犯人じゃないのか?」
「まさか! すっかり花音のご飯に餌付けされてるんだよ? ありえない」
花音、私だけじゃなくクラスの子たちも餌付けしてたの? びっくりだよ。
「最初は葉月っちのルームメイトってことで、あたしも含めて遠巻きにされてたけど。今じゃクラスの子のほとんどが花音の一日限定一個のおかず待ちなんだから。ちなみに夏休みまで予約入ってる状態」
どんだけ? え? どんだけなの、それ?
「あ、葉月っちはもうウチのクラスの子たちに恨まれてるから。花音の料理を毎日食べてるから当然だけど。葉月っちへの恐怖より恨みの方が強いから、あんまりウチのクラスに近付かない方がいいよ?」
そんな恨まれ方は、前世も含めて生きてる中で初めてなんだけど? でも花音のご飯は譲れません。
「とにかくウチのクラスの子たちじゃないよ。他のクラスの子たちが犯人なんだよ」
「そ、そうか……」
いっちゃんが引いちゃってるよ。花音の料理スキル恐るべし。
ん~でも、だとしたら誰がっていう話になるよね。ん~? いや~やっぱり気になるな……昨日聞いたあの「ヘコたれない」って言った声が。
「ねえ、いっちゃん」
「ん? 何だ?」
「犯人は昨日ちょうど通り過ぎた子たちだよね~?」
「そうだな。でも一瞬だったし、顔は見てないからな」
「何かね~どっかで聞いた声なんだよね~……どこだっけ?」
「お前もか? いや、あたしもそうなんだよ……どこでだったか……」
「2人とも犯人に心当たりあるってこと?」
「心当たりじゃないんだが――ん? 待てよ?」
「いっちゃん、何か思い出した?」
「あたしと葉月が聞き覚えあるということは――前から知ってる? もしかして内部組か?」
「一花、内部組っていっても結構な人数だよ?」
「そういえば会長や寮長を様付けしてたよね~」
「葉月っち。それは外部組もしてるから当てにならないよ」
3人でう~んと唸るが、全然結論が出なかった。
考えるの面倒になってきた。そりゃそうだよ。私が頭で考えるときは大抵碌でもない事をやろうとする時だからね! もうパス!
「いっちゃん!」
「うおっ! 何だいきなり大きな声で?」
「私はね、いっちゃん。こういうこと考えるより違うこと考えたいんだよ!」
「……つまり?」
「もう考えるのやめよ?」
「ちょっ……葉月っち!? 花音を見捨てるの?!」
花音を見捨てる? そんなバカな。そんなことしたら、花音にご飯を作ってもらえなくなっちゃうもん。
「どうせ考えても分かんないもん」
「葉月っち……あたし……葉月っちがそんな薄情だとは思わなかったよ」
「何言ってるの、舞?」
「あのな、葉月。分からないからこうやって考えてるんだよ。分かるか?」
「だから、考えるのやめて本人に来てもらおうよ?」
「いや、葉月っち? それが分からないからこうして……」
「何言ってるの、舞? 呼び出せば簡単でしょ?」
「「呼び出す??」」
私はハモってる2人を無視して、紙を取り出してペンでカキカキしていく。さて、誰が釣れるのかな~?
□ □ □ □
「ねー葉月っち……本当にこんなことでここに来るのかな?」
「さあ?」
「舞、こいつは考えなしで動いてるんだぞ。考えても無駄だ」
「それもそうか……さすが一花、納得しちゃったよ」
納得するんだね、舞。
場所は校舎裏。そこの一角に今花音が立っている。あれから2日。もし、来るならこの時間に来るはずだ。
私はただお手紙を書いただけだ。移動教室の後に花音のノートやら教科書、ジャージとかが汚されていたっていうから、舞に頼んで移動教室前に花音のノートに手紙を挟んでもらった。
もし読んでいるならここに来るはず。花音の名前で書いたので、舞にここまで連れ出してもらった。本人には何も言ってないので、よく分からない顔であそこにいる。ごめんよ。
「ちなみに葉月。結局、どんな内容を書いたんだ?」
「あたしも見てないな~。葉月っち、どんなの?」
「ん~? 普通だよ~。会いたいから来てくださいって」
「……舞、あたしは今とても不安だ」
「一花がそう言うとあたしも不安になるから、やめて?」
何をそんなに不安になるのかな? おや? 花音の向こう側から誰か来るぞ? あれあれ? あれは。
「……お望みどおり、来てあげましたわ」
花音が近くにきた5人の女子に首を傾げている。そりゃそうだ。花音には何のことだか分からないんだから。
いっちゃんも「あいつだったか」と呟いて、舞は舞で「あの子たちが犯人? っていうか本当に来たよ――あれ?」って驚いていた。
いや、私もびっくりだよ。現れたのは幼等部からこの学園にいる1人。
円城レイラ。
もう何年も前から疎遠になっている、私といっちゃんの幼馴染だ。
お読み下さり、ありがとうございます。




