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52話 眠くてボーっとしてしまって —花音Side※

 


 カチ……カチ……。


 部屋に掛けている時計がもうすぐ0時を指そうとしている。


 ……帰ってこない。

 まだ、あの婚約者さんといるのかな?


 あれから、いつの間にか寮に帰ってきていた。あれ、いつの間に? と我に返った時に、一花ちゃんが何故か心配そうに覗き込んできていた。「大丈夫か?」と言われて、大丈夫と反射的に返したけど。


 3人でご飯を食べて、でも舞は興奮している様子だった。終始、如月さんの話だったから。


 如月系列のお店や企業は数多くあるらしい。会長の鳳凰財閥よりも有名なんだとか。舞とも行っているデパートとかも如月の系列だって教えてくれた時はさすがに驚いた。K・Gグループと聞いて、あれが如月のことだったのかと思ったもの。


 それに如月って名家なんだって。知っている人は知っているし、もちろん政財界の中では有名な人だっていうんだから驚かない方がおかしいよ。


 そんな人が葉月の婚約者……。

 だから身内なんだ。

 お金持ちって、この年齢で婚約者とかいるんだ。


 その葉月はまだ帰ってきていない。一花ちゃんが、今日は遅くなるだろうから先に寝た方がいいと言ってくれたけど。


 どこに行ったかは聞かなかった。婚約者の人が一緒なのだ。聞くのは野暮かなと思ってしまった。


 でももう0時近いのに帰ってこない。携帯にも連絡はないし。


 婚約者さんと一緒だから心配することはないかもしれないけど、でもちゃんと帰ってくるのかな。帰ってこないとか……ないよね? 明日学校あるし。


 ただ、あの時に如月さんは葉月に連れて帰るみたいなことも言っていた。どうしても不安が募ってくる。


 気を紛らわせるために教科書とノートを広げていた。いつもなら寝ている時間だけど、寝付けそうになかったから。


 いつも葉月がいる時間に1人でいるのが、少し心細い。葉月とルームメイトになってからこの部屋に1人でいるのなんて、あのレクリエーションで急遽帰ってきた時以外無かったから。


 帰ってきて……ほしいな。

 あの安心する笑顔を見たいって思う。


 カチャ


 帰ってきた? ドアの方を見ると葉月が、部屋のドアを開けて茫然とこっちを見下ろしていた。


「あ……おかえり、葉月」

「………………」


 返事がない。どうしたんだろう?


 でも、

 帰ってきた。


 姿を見て、ホッと安心している自分がいる。良かった、帰ってきた。でも何でそんな驚いているんだろう?


「どうしたの?」

「いや、まだ起きてたんだ~と思って……」


 そっか、いつもは寝ている時間だったから驚いたんだね。


 時計を見ると0時は過ぎていた。考えていたら、過ぎていたみたい。


 でも葉月が帰ってきたから、安心して眠くなってきた。「今日は何だか目が冴えちゃって」と伝えると、きょとんとしていた。


「花音……待ってた?」


 思わず目を丸くしてしまう。また、気を遣ってくれたのかな。いつも朝早いから、23時に寝るようにしているの知っているもんね。


「違うよ、葉月。本当に目が冴えちゃってただけ。だから眠くなるまで勉強しとこうって思ったの。もう私も寝るよ」

「そう……」

「葉月、お風呂は?」

「あ~、ん~……どうしよっか……」


 いつもより歯切れが悪い。あれ、なんかいつもと違うな。少し顔が青いような気がする。疲れてる?


「疲れてる顔してるね、葉月……」


 体調悪いとかじゃないといいけど。「とりあえず入ってきたら?」と促したら、頭が働いていないのか「そうする」と言ってバスルームに行ってしまった。動きもノロノロとしていて、本当に疲れている感じ。


 あんな疲れている姿は初めてかも。

 いつもニコニコして、元気な姿しか知らなかったから。


 少しでも疲れとれるもの……ああ、お風呂に入るから、水分補給も兼ねてハチミツレモンのジュースがいいかも。葉月、ハチミツ好きだし。


 キッチンに行って、レモンを絞って簡単にジュースを作る。お風呂から上がってきた葉月に渡したら、「ありがとう……」とまたきょとんとしていた。


 ああ、さっきより顔色は良くなったかな。お風呂もいつもより長かったから、ゆっくり浸かってきたのかも。でも、やっぱり疲れている感じする。


 あの婚約者の如月さんと……何かあったとか?


「花音、寝ないの?」

「寝るよ。葉月がそれ飲み終わったらね」


 せめて、それ飲み終わったのを見届けてからと思ってただけで。


 けど、葉月が少し訝しんでいるように見てきた。


「花音? 何かあった?」

「何もないけど?」

「……眠そう。寝ていいんだよ?」


 まあ、確かに少し眠くはなっているけど。


「……大丈夫」

「コップなら自分で洗うよ。大丈夫だよ?」


 本当に大丈夫?


「ねぇ、葉月?」

「ん?」

「本当に大丈夫……?」


 思わず、葉月の疲れている顔にソッと指で触れた。パチパチと目を瞬かせている。


「大丈夫だよ? コップ洗えるよ?」

「そうじゃなくて……こんな疲れてる顔初めて見たなって……」


 見たかった笑顔もないし、頬を膨らませているわけでもない。それに、今まであの人と一緒にいたんでしょう? 結婚をする人と一緒にいたのに、どうして。


「……婚約者と一緒にいたのに、何でこんな疲れてるの?」


 疑問をそのまま口に出してしまったら、目を見開いて固まってしまった。


 一花ちゃんから聞いたんだよ。でも、婚約者といたなら、もっと元気じゃないのかな?


「如月ってすごい大財閥なんだってね。そんな人が葉月の婚約者だなんてびっくりしちゃった……」

「あのね、花音?」

「お金持ちの人たちってすごいんだね……私達みたいな年齢で婚約者とかいるんだぁって思って……」

「違くてね、花音?」

「やっぱり、別世界なんだなって……」


 そう、別世界だって思っちゃって。いきなり葉月が遠くにいるような感じがしてしまって。


 ああ、そうか。

 私、それで少し寂しく思ってるんだ。


 婚約者がいるって聞いて、学園に入ってからずっと身近にいた葉月が、違う世界の人に思えてしまって。


 寂しいと思ったら、どんどん寂しさが湧いてくる。


 目を伏せてしまったら、頬に添えた手をギュッと握られた。え……? 顔を上げたら、葉月はハアと溜め息をついている。


「葉月?」

「あのね、花音、いっちゃんから何聞いたか知らないけど、というか何聞いたの?」

「如月さんが大財閥の息子さんで葉月の婚約者だって?」

「子供の時の話なんだけど、それ」

「でも身内なんでしょ?」

「あ~……うん……身内は身内なんだけどね?」

「婚約者だから身内なんでしょ?」


 え、違うの? 珍しい。呆れたように見てきた。あ、あれ? なんか葉月がいつもと違う……ような?


「……ただの従兄だから」

「……はい?」

「だから……カイお兄ちゃんはただの従兄。あの人、ちゃんと彼女もいるから」


 い、従兄? え、あ、従兄? 身内って、そっち? それに彼女? あれ、じゃあ婚約者じゃないの? なんか混乱してきた。ただ、葉月が明らかに不機嫌そうになっている。


 でもそっか、婚約者じゃないんだ。不機嫌そうな葉月がいたけど、何故かその事実に一気に安心してしまった。


「そ、そうなんだ……え……というか何か……ごめん……勝手に誤解して……」


 謝ったら、ふうと息を吐く葉月がいる。面倒臭そうにしている姿が、いつものニコニコしている葉月とは違って見える。


「あの……葉月?」

「ん?」

「何か……いつもと違くない? 気のせいかな?」


 ぎょっとしたようにまた目を丸くしていた。


 いつもはニコニコとしたり、子供みたいにむーって頬を膨らませたり、からかったりしている姿だから。今は少し不愛想な感じがするけど……不機嫌な時は頬を膨らませるから、こんな感じで機嫌が悪くなるのは初めて。


「気のせいだよ~花音~?」

「そ、そうかな……?」

「そうだよ~?」


 そんな突然ニコーっとされても……でも、確かにこれがいつもの葉月だよね。今さっきのは、気のせい。


 さっきの事実と今の笑顔の葉月を見て、

 ホッとして、一気に眠気も襲ってくる。


 気のせいか……そう、だよね。


「花音~もう寝よ~。私ももう寝るし~」

「そうだね……」

「な~に? それとも一緒に寝る~?」


 ……寝る? ……詩音と礼音とも寝てたように?


「うん? 別に……いいけど……?」

「……はい?」


 笑顔の葉月が固まった気がしたけど、気のせいかな? え……でも寝るんでしょう? まあ、いいよね。葉月、女の子だし……詩音とはしょっちゅう一緒に寝てたしね。


 ……ちょっと眠くて、考えるのも億劫かも。


 どこか慌てる葉月をベッドに連れて、布団を一緒に被った。


 あ……葉月の匂い。

 いい香り。


 詩音にするように手を握ったままだから、温もりも感じてどんどん眠気が襲ってくる。


 そっかぁ……婚約者じゃないのかぁ……。


 さっきの事実がとても安心して、

 そのまま意識が遠くなっていった。

お読み下さり、ありがとうございます。

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