47話 また見てる —花音Side
「もうすっかりよくなったね」
「本当ですね」
「あったりまえさ! だって、一花のお姉さんが診てくれたんだから!」
怪我が良くなって、すっかり歩けるようになった。ナツキちゃんもユカリちゃんもホッと安心している。でも舞がなんでそんな誇らしげなんだろう?
ただ舞の言った通り、一花ちゃんのお姉さんのくれた湿布は効果絶大だった。次の日には腫れが引いてたんだからすごいと思う。ただ貼っただけなんだけどな。
一花ちゃんが細目に湿布と包帯を交換してくれた。舞にも毎日部屋でご飯作ってもらったりするのを手伝ってもらったりしていて、治るまでの間は皆に迷惑をかけてしまって反省している。
葉月なんか着替えとかも手伝ってくれた。お風呂入ろうとしたら、それも手伝うって言い出したから焦ったけど。足怪我しただけで、そんなことまで手伝ってもらう訳にいかないし、さすがに恥ずかしいから。温泉とかなら平気だけど、自室のバスルームはさすがにね。
そんな毎日を過ごし、無事包帯もとれて、今は普通に歩けるようになった。もうこういう怪我はしないように気を付けようと思う今日この頃。
「あ、葉月っちじゃん」
食堂から教室に戻る時、窓の外の中庭のベンチで葉月がボーっとしているのを見かけた舞が声を出した。ナツキちゃんがデザートを奢ってくれることになったから(レクリエーションの時に、後ろを見ないでどんどん先に進んだことを後悔しているらしい)、今日は食堂で皆で食べたのだ。私とユカリちゃんはお弁当だけど。
……また、見てる。
ボーっとしている葉月は空を見上げている。寮でもそう。気づくと窓の外の空を見てる。
好きなのかな。
「そういえば、小鳥遊さんはどうやって花音ちゃんを見つけたんでしょうね?」
思い出したようにユカリちゃんがポツリと呟いた。「あー確かに」とナツキちゃんも頷いている。
「それがさ、葉月っち。ハイキングコース行かなかったらしいんだよ」
「そうなんですか?」
「一花が嘆いてたもん。ほらあの舗装されていない道あったじゃん? そっちを引き摺り回されたんだってさ」
そうなんだよね。葉月はあそこを熊か鹿に会えないかと、縦横無尽に駆けずり回ったらしい。きっと食べたかったんだろうな。
でも私を探しに来るときに、同じ場所から落ちたんだとか。危なすぎる。私は助かったけど、葉月が大怪我するかもしれないじゃない。だからお仕置きとして玉ねぎ食べてもらったら、やっぱりその泣き顔は可愛かった。
外の葉月はまだボーっと空を見上げている。
本当に好きなんだなぁ。隣に戻ってきた一花ちゃんにも気づいてない感じ。一花ちゃんは慣れているのか、隣で携帯電話をいじりだしたけど。
ふと、葉月の見上げている視線を辿ってみた。
ああ、時計塔も良く見える。いつ見ても大きいよね。
空と時計塔。
意外と綺麗に見える。
今日の天気は快晴。空の青も透き通っているように見えた。
もうすぐ梅雨入り。今度は一転して雨の風景が当たり前になってくる。そうしたら葉月は当分、空の景色を楽しめなくなっちゃうかな。
でも、この前の休日は雨でも外眺めてたなぁ。もしかして雨も好きだったりして。
空を眺める葉月に視線を戻した。
まだずっと眺めている。
この時の葉月は不思議。
いつものニコニコとした無邪気な笑顔でもなく、
かといって大人っぽい雰囲気でもない。
どちらともいえない。
だけど、ここじゃないどこかを見ている気がする。
つい、視線がいってしまう綺麗さを持っている。
「葉月っちは元がいいのに、本当、普段の行動で損してるよね」
舞も綺麗だと思っているみたい。
普段の行動かぁ。でも普段の動きとかも可愛いと思うけど。髪乾かしてあげるって言うと、トテトテと近くに来る葉月なんか、つい甘やかしたくなる。
「そうですね。私も最初見た時は、こんなに綺麗な人がいるんだと思いましたから」
「まあ、小鳥遊さんは中等部の時に幻想美人って言われてたから」
「あっはっは! 何それ!?」
「見た目は綺麗だけど、やっていることがほら……あれだから」
幻想美人……そんな風に言われてたんだ。舞がそれを聞いて大爆笑しだしちゃった。
でも皆も綺麗だとは思っているってことだよね。
嬉しくもあり、でもどこか胸の奥がキュッと締め付けられた。
その日寮に帰ると、何故か舞が部屋の中で葉月から逃げ回っていた。どうやら昼間のことを聞いたらしい。それを面白がって、葉月が何故か追い掛け回している。顔に変な落書きしてた。一花ちゃんは我関せずで本読んでたけど。
ハア、せっかく綺麗な顔なのに。
追い掛け回している葉月を捕まえて、顔を無理やり洗ってあげた。「んー! んー!」とタオルでゴシゴシやってたら苦しそうだったけど、我慢してね。油性ペンで描く方が悪いんだからね。
お読み下さり、ありがとうございました。