46話 お説教?
「はい、あ~ん」
「は、葉月……自分で食べれるから」
照れてる花音も可愛いと思う今日この頃。
レクリエーションがあんなことになってしまって、実はあの後ちょっとした騒ぎになってしまった。そりゃそうだ。生徒が崖から落ちて行方不明になっちゃったんだから。
提供したキャンプ場側もやっぱり責任を問われたらしい。あとは学園側も。準備不足、確認不足。会長たちが大変そうだった。ちなみに熊の目撃情報はただのデマだったんだって。残念なような、良かったような。
花音はあの後すぐに病院に連れていかれた。ちなみにいっちゃんの家の病院だ。いっちゃんが付き添っていって、すぐに精密検査とか受けさせたらしい。
そして、いっちゃんのお姉ちゃんが自ら診察したんだとか。ついていかなくて良かった~。いっちゃんのお姉ちゃんに捕まると面倒臭いんだよね~。あの人、いっちゃん大好きな人だから。いっちゃんを可愛がっちゃうから、その時間が暇なんだよ。
検査の結果は異常なし。足の怪我も捻挫で終わった。骨にも異常はないから1週間もしないで治るって。良かったね、花音! でも無理は出来ないからね? 治るまでは安静にしなきゃだめだよ?
というわけで、花音には寮にいる時、あんまり無理させないようにベッドの上で過ごしてもらってます。
「いや~でもさ~。ほんと花音が大したことなくて良かったよ~」
舞がしみじみと、自分で切ったリンゴを食べながら言っていた。花音が怪我してからは、毎日のように舞が花音の料理を手伝いにきてくれてる。
私が料理手伝ったら、違うモノが出来上がっちゃうからね! どうしてか紫色の毒々しい見た目になるから、いっちゃんに手伝うなって禁止されました。
「ごめんね、舞。心配かけちゃって」
「ホントだよ~。マジで生きた心地がしなかったよ、あたしは」
「あはは。そうだよね、ホントごめんね」
そうやって笑ってる花音。いや、花音? 一歩間違えれば死んでるからね?
「でもあの時の一花は凄かったわ~」
「ん? 何がだ?」
「いや凄かったじゃん。葉月っちが飛び出してから」
「そうか?」
「そうだよ! だってすぐに病院の手配して、先生たちに指示出してさ」
「一花ちゃん、先生たちに指示したの?」
「仕方なかった。それにそれが最善だった」
「いや、花音! ホント凄かったんだって! テキパキ指示だしてさ~。花音が落ちた場所とか、もしここに落ちてたら葉月っちが見つけるから、そうしたら葉月っちはこの道を通ってくるとか。花音は絶対怪我してるはずだから、すぐに病院に連れていくようにしたりとか。指示が正確だったんだよね」
「ただの推測だがな」
「その推測が当たってたから凄いんじゃん!」
「うんうん。さすがはいっちゃんだよね~!」
いっちゃんは予定通りの場所にちゃんと待機してくれていた。
「でも何で2人があの場所に来るってわかったの?」
「それはな……」
それは、私がいっちゃんを背負って引き摺り回したおかげですね。獣道コースを選んで正解だったね、いっちゃん! ん? 何でそんなジト目で見てくるの?
「……聞かないでくれ」
「お、オーケー……」
舞が何かを察したのか口を噤んだ。な~に? 今回は私、お手柄だったでしょ?
リンゴをシャリシャリ食べながら花音を見てみる。ホントに良かった~。大したことなくて。遭難ってホント大変なんだよ? もし、もっと大きな怪我してたら間に合わなかったかもだし。あ、そうだ。花音に言っておくの忘れてた。
「ね~花音?」
「ん?」
「あのね、あんなところを歩くのも危険だけどね」
「……うん」
花音は下がどうなってるか気になって、端っこの方を歩いてたんだって。そしたら足が滑って落ちちゃったとか。それも危ないけど。
「でも、落ちた後に動いちゃだめだよ。しかも怪我もしてたんだしさ」
「……ごめん。ちょっとパニックになっちゃって」
「今度もし、こんなことがあったら動いちゃだめだよ? 待っててね」
「お前が言うのか、それを……」
いっちゃんが溜め息をついている。はて? 何かあったっけ?
「お前、中等部の旅行に行った時の事忘れたのか?」
「何だっけ?」
「お前1人消えて、どこ探してもいなくて、大騒ぎだったじゃないか」
「はて?」
「やっとお前を見つけたと思ったら」
「たら?」
「山奥で呑気に猿と一緒に風呂入ってただろうが」
「いや……いやいやいや。一花、何かおかしいおかしい」
確かにそんなこともあったな~。確か有名な温泉地だったんだよね~。秘湯巡りみたいな。他の人が知らない温泉見つけようと思って、そうだそうだ。山奥にどんどん進んでいったんだった。でもいっちゃん、あそこは初めて発見された場所だったんだよ? 私のお手柄だよ?
「あの時のあたしの落胆ぶりが分かるか?」
「やだな~いっちゃん。今回の花音と、その時の私は違うでしょ?」
「動くなという意味では同じだぞ?」
「いっちゃん、分かってないね」
だめだな~いっちゃんは。もう何年、私と一緒にいるの?
「いっちゃん。私はね、今回の花音とは違うんだよ」
「周りに心配かけてしまったという意味では同じなんだぞ、葉月」
いっちゃん!! 心配してくれてたんだね! ありがとう!
「でも、いっちゃん。花音とは違うんだよ!」
「ああ……そうだな、違うかもな。あたしも自分で言っといてあれだが、違和感を持ってしまったよ」
「そうだよ、いっちゃん! 私は自分から進んでいくタイプだからね!」
「そうだな、葉月! 全く違うな!」
「さすがだね、いっちゃん! 分かってくれたんだね!」
「花音は心配をかけてしまったけど、お前は迷惑をかけてるな!」
「そうなんだよ、いっちゃん!」
「そうなんだよじゃないわ!? 迷惑をかけるな!」
正論だった。でも、私迷惑かけてるつもりないんだけどな。
「ねぇ、花音。今日は何作る予定なの? 足りないもの買ってくるけど」
すっかりいっちゃんと私のやり取りに慣れてしまった舞が、会話をズバッと切り替えた。舞も手馴れたものだね!
「うーん、そうだなぁ……じゃあ、一つ買ってきてもらえると助かるかな」
「いいよ、何?」
「玉ねぎ買ってきてもらえる? 葉月に食べてもらうから」
へっ……花音……今なんと……?
「かかか花音……今なんて……?」
「今日は葉月に玉ねぎのサラダ作ってあげるね」
にっこり笑う花音。怖い。でも何で?! 私何もしてないよ!?
「葉月はもう少し一花ちゃんのこと考えてあげようね?」
「かか花音……? 私はもちろん、いっちゃんの事考えてるよ?」
「お前は考えてああいう行動を取るのか? あたしをグルグル巻きにして引っ張り回したことを忘れてないよな?」
いっちゃん!? 花音にチクったの!?
「あと、東海林先輩からも聞いたよ。助けにきてくれたのは嬉しいけど、私が落ちた所から飛び込んだんだよね? だめだよ、そんな危ない事しちゃ。私が怪我したように葉月も怪我してたかもしれないでしょ?」
寮長からもチクられてた!! でもそれが一番早かったんだよ!?
「ああああの花音……? あの時はそれが一番最善でね……?」
「それはそうだったかもしれないけど、危ないのは変わりないよね?」
「いや、あの……」
「もうしない?」
「それは、その……」
「約束できる?」
出来ません! 私、本能に忠実なので! でも、この花音怖い!! そして玉ねぎ嫌だ!! 舞といっちゃんがニヤニヤ見てる。絶対楽しんでる!!
何て答えようか考えてると、花音が苦笑して頭を撫でてきた。
「葉月、私は葉月が怪我するほうが嫌かな。極力控えてね?」
「…………善処します」
いっちゃんが感心するように、私と花音を見て呟いた。
「いやぁ、あの葉月から『善処します』と言わせる花音はすごいな……」
「これでちょっと葉月っちが落ち着いてくれればいいけどね~」
「いや、舞。葉月にちょっとでも考えさせられることがすごいんだよ。安心しろ。明日にはこいつはいつも通りだ」
「それ言ってて悲しくならないの、一花?」
「すこぶる悲しいぞ……」
そうだよ、いっちゃん。私は変わらないさ!
あ、ごめんなさい。あの……花音……その怖い笑顔はやめてください……ちょこっとは……ちょこっとは控えますから……。
結局、その日の夕飯に玉ねぎサラダを食べさせられました。
お読み下さり、ありがとうございました。




