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44話 やっぱり優しいルームメイト —花音Side※

 


 しばらく葉月の温もりに甘えて、段々と落ち着いてきた。


 いきなり取り乱して悪かったなと思って、ソッとしがみついてた手の力を弱める。


「ごめんね……」

「ん~?」

「迷惑かけちゃったね……」


 よく見ると、葉月のジャージは泥だらけで、所々ほつれて穴が開いている。きっとここに来るために、無茶をしてきたんだ。


 体を少し離し、片膝を立てている葉月がきょとんとした顔で見下ろしてきた。分かってなさそう。


「ボロボロだよ、葉月……」


 顔も頬やおでこに泥がいっぱいついている。別に平気だけど? って言いたそうに不思議そうに見下ろしてくる葉月。本当に分かってなさそう。でも「あっ」といきなり声を出した。


「花音、怪我してるでしょ?」


 思わず言葉が詰まってしまう。ライトがあるとはいえ、どうしてわかったんだろう。反射的に「平気」と答えたら、むーっていきなり頬を膨らませた。……完全にバレてるみたい。どうしよう、余計心配させそう。


 気まずそうにしてたら、葉月が体を離して背負ってたリュックを下ろした。そのリュックから次から次へとモノを取り出していく。タオルと水、消毒液、絆創膏。え、あの、葉月? まさか昨日の夜にガサゴソやってたのって、もしかしてこれ用意してたの?


 さすがに準備が良すぎると驚いてたら、いきなり手を洗ってからもう一つリュックから取り出していた。


 ズイっと手を私の口に差し出してくる。暗がりだから分かり辛い。何か持ってる?


「花音、あ~ん」

「あーん?」


 ついつられて口を開けたら、ポイっと何かを入れられた。……甘い。チョコ?


「へへ~腹ごしらえ~」


 へにゃっと何でもないかのように笑ってる。こんなのまで用意してたの? 感謝よりも驚きの方が強くて、思わずそのチョコをモゴモゴさせてしまった。満足そうに笑って、葉月が腕の服を捲り上げている。


「花音、足以外にどこ痛い?」


 ピンポイントで言い当てられてしまった。どうしてわかったの!?


「私は大丈夫だよ……?」

「嘘はだめだよ~花音。戻ったら病院いこうね。いっちゃんが準備してくれてるはずだから」

「ええ!?」


 手際が良すぎるんじゃないかな!? それに慣れている感じがするのは気のせい?

 戸惑っている私をよそに「ちょっとあちこち触るから、痛いところはちゃんと言ってね?」と葉月が私の上着に手をかける。


「え、え? 葉月……?!」


 い、いや、あの? さすがに外で脱ぐのは恥ずかしいんだけど!?


 でもそんな私を無視して上着だけガバっと脱がされた。……あ、上着だけね。ホッとしたのも束の間、葉月は遠慮なしに服を捲ったり触ったりしてくる。痛い……けど……く、くすぐったい。


 足の靴下も脱がされた。左足がパンパンに腫れている。どうりで痛いわけだ。


 一通り見終わったのか、葉月が「むむ」っと唸っている。あのね、葉月。確認してくれるのは分かるんだけど……いくら女の子同士でも恥ずかしいんだからね。ハアと息をつくと、こっちの気も知らないで唸っている葉月が顔を上げる。


「花音、とりあえず消毒して包帯巻こうね」

「……わかった」


 もう何言っても聞かなそう。いや、その、心配してくれてるのは伝わってくるんだけどね。それとは別に恥ずかしい思いもありまして。けど心配してくれるのは素直に嬉しい。


 葉月の手際は本当に良かった。持ってきたタオルに水をつけて、絞ってから泥がついているところを拭ってくれる。傷に触らないように優しく扱ってくれた。


 消毒液をつけられたときは、さすがに沁みて自然と顔が歪んでしまったけど、「もうちょっとだから」とその度に優しく声を掛けてくれる。


 絆創膏貼ったり包帯で巻いてくれたり、一番酷そうな足も綺麗なタオルに水をつけて固定してくれた。気のせいかもしれないけど、少し痛みが和らいだ気がする。


 あっという間に応急処置が終わってしまった。慣れてる感じ。……すごいなぁ。


「とりあえずはこんなもんかな?」

「ありがとう……でも葉月? なんか手馴れてない?」

「いっちゃんの方が上手だよ?」

「そうなんだ……」


 一花ちゃん、上手そう。家が東雲病院っていうのの偏見かもしれない。葉月がしてくれたのも凄いと思うけど、と巻いてくれた包帯を見ながら思う。


 ……あれ? ふと葉月の顔を見たら、頬から血が流れているのが見えた。


 気づいていない。自分だって怪我してるのに。


 タオルを取って、葉月の顔に突き出す。


「動かないでね?」

「どしたの?」

「いいから」


 泥を拭って傷跡が見える。切ってるみたい。でも本人気づいてないから、そんな痛くないのかも。消毒して絆創膏を貼ってあげると、パチパチと目を瞬かせていた。


 本当に気づいてなかったんだ。周りを優先するんだね。初めて会った時のあの雨の日のように。


「葉月、人の事もいいけど自分のこともちゃんと見てね」


 優しい葉月。自分より他人を優先する。その優しさについ笑みが零れてしまう。


 でもね、葉月。ちゃんと自分のことも大切にしなきゃだめだよ?

 私もだけど、一花ちゃんや舞だって今のボロボロの葉月を見たら心配するんだからね。


 ふふって笑うと、葉月も「えへへ」っと笑っている。


 それから時計を見て、何故か慌てて荷物をしまいだしてリュックを前に肩にかけ、背中を私に向けてしゃがんできた。え? いきなり何?


「花音、ライト持って乗って?」

「え?」


 の、乗れって? おんぶするの? 戸惑ってたら、葉月は急かしてくる。


「行かなきゃ。いっちゃんが待ってる」

「で、でも……」

「早く」


 一花ちゃんが待ってる……そ、そっか。じゃ、じゃあ仕方ない。恐る恐る葉月の肩に手を乗せたら、一気に私を持ち上げて立ち上がった。お、重いんじゃないかな?


「お……重くない……?」

「大丈夫だよ~。それより花音はライトを前に向けてね」

「う、うん……」


 ……絶対お世辞だと思うけど。でも今は葉月の言う通りにする。この態勢だと、葉月の声がいつもより近く感じるから不思議。


 ライトを前に向け、葉月はどんどん歩いていく。時々立ち止まって何か確認しているようだった。でも迷いなくスラスラ歩いていく。同じような木ばっかりなのに、まるで道を知っているみたい。


「葉月……道わかるの?」

「うん、大丈夫」


 あっさり言われた。おかしいな、今日のハイキングコースじゃないんだけど、ここ。


 不思議に思っていると、痛めた足が振動でズキリと痛む。気づいたのか、葉月が心配そうに顔を向けてきた。だから安心してもらうために微笑んだ。


「大丈夫だよ」

「……もう少しだから」


 勇気づけるその言葉だけで十分だよ、葉月。


 それに、葉月の方が辛いよね?


 だって少し息が荒い。

 汗で髪がへばりついてる。

 私を背負って、こんな獣道を歩いているんだから、余計疲れるはず。


 そして葉月は私と同じ女の子。

 肩だって細い。

 キツイのは当然。


 なのに葉月は私を心配する。

 時々歩みを止めて、こっちを見てくる。


 優しい葉月。

 優しい私のルームメイト。


 ……そういえば、いつも葉月は私を助けてくれるね。初めて会った時もそう、会長に無理やり生徒会に入らされそうな時もそう。そして今回もそう。


 葉月が助けてくれている。

 自分だってキツイのに、私を助けてくれている。


 汗をポタリポタリと流しながら、葉月は私を背負って進んでいく。痛みは走るけど、でも葉月がこんなに頑張ってくれてるのに、私が我慢しない訳にはいかない。


 しばらく進むと、遠くで誰かの声が聞こえた。


「葉月……今、誰かの声が……」

「うん。たぶん、いっちゃんたちだ」


 ホッと安心したような声が葉月から漏れて、こっちをいつもの笑顔で振り返ってきた。


「もう大丈夫だよ、花音」

「葉月……」


 キュッと首に回していた腕に力を少し込めた。


 葉月、あのね。


「ありがとう……葉月……」


 落ちた時、どうしようかと思った。

 暗くなって、静かになって、体中痛くて、もうダメかと思った。


 だけど、葉月が助けに来てくれて、心の底から安心した。


 ありがとう、暖かい温もりで包んでくれて。

 ありがとう、自分もキツイのにずっと私を気遣ってくれて。

 ありがとう、いつも私を助けてくれて。


 ありがとう、優しい私のルームメイト。



 その後、先輩たちとも合流し、一花ちゃんが用意した車に彼女と一緒に病院に連れていかれた。


お読み下さり、ありがとうございました。

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