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43話 レクリエーション後編

 


「みーつけた」



 花音が私の声に気づいてゆっくり顔をあげた。あ、すごく眩しそう。ごめんごめん。

 ライトを少し横に逸らす。


 花音の目が大きく見開かれた。


「は……づき……?」


 そうですよ~。葉月ですよ~、花音。

 近づいて膝をついて花音の顔を覗き込む。


「……………………葉月……」


 花音の目から涙が零れる。


 そうだよね、怖かったよね。

 微笑んで、指でそっと涙を拭ってあげる。それからそのまま頭を撫でてあげた。


「もう大丈夫だよ、花音」

「っ……! ふっ……うっ……」


 どんどん溢れてくる涙。止まらないみたい。少し震えている。

 大丈夫だよ、花音。もう大丈夫。

 花音の肩に腕を回し、軽く抱き寄せてから背中をポンポンしてあげると、震える手でしがみついてきた。


「大丈夫」

「っ……」

「もう大丈夫だからね、花音」

「っっ……」


 ギュウっとしがみついてくる手が強くなる。


 怖い中頑張ったね。

 痛かったね。

 不安だったね。


 でももう大丈夫だからね。


 頭を優しく撫でてあげる。安心するように。

 花音の涙が止まるまで、しばらくそうしてあげた。


 ――――――


「ごめんね……」


 落ち着いたのか、ゆっくり花音がしがみついていた手の力を緩めてくれた。


「ん~?」

「迷惑かけちゃったね……」


 迷惑? いきなり何を言ってるのかな、花音は?

 花音から少し体を離し、私を見上げる花音と目を合わせる。


「ボロボロだよ、葉月……」


 それは花音だと思うけど。泥だらけで、顔にも腕にも、いくつか擦り傷が出来てるよ。確かに私も自分から落ちてきて泥まみれだし、服も裂けちゃってるけどさ。

 あ、そうだった。


「花音、怪我してるでしょ?」

「っ……平気」


 いやいや、平気じゃないでしょ? 嘘は駄目だよ~。


「待ってて?」


 花音から離れてとりあえず、リュックからタオルと水、消毒液、絆創膏を取り出す。いや~準備はしておくもんだね。今日の自分で考えたコースは獣道の方だったから、いっちゃんに万が一のことがあったらと思って用意しておいたんだよね~。


 花音があまりの準備の良さにきょとんとしてる。あっチョコもあるんだった。チョコは必需品だよね~。

 水で手を洗ってからチョコを取り出して、花音に向けた。


「花音、あ~ん」

「あーん?」


 花音の口にチョコを放り込む。びっくりしてたけど。


「へへ~腹ごしらえ~」


 口をモゴモゴさせる花音は可愛かったよ、うん。さて応急手当しますかね。


「花音、足以外にどこ痛い?」

「葉月……私は大丈夫だよ……?」

「嘘はだめだよ~花音。戻ったら病院いこうね。いっちゃんが準備してくれてるはずだから」

「ええ!?」

「ちょっとあちこち触るから、痛いところはちゃんと言ってね?」

「え、え? 葉月……?!」


 構っていられませんよ?

 戸惑う花音をよそに、花音の怪我の状態を確認する。体のあちこちを打撲してるみたい。でもそこまで酷そうのはなかった、素人の目だけど。


 左足はやっぱり怪我してた。大きく腫れてたもん。これが見た感じ一番大きな怪我かな。


 でもあそこから落ちて、これだけの怪我だったら奇跡的だ。やっぱり主人公だからかな? 主人公は死なないもんね。まあ、ここはゲームじゃなくて現実だけどさ。


「花音、とりあえず消毒して包帯巻こうね」

「……わかった」


 先にタオルに水をつけて泥を拭っていく。そして消毒。沁みるのか花音が顔を歪めてた。我慢してね?

 絆創膏を貼れるところに貼って、あとは包帯を巻いていく。最後は左足。また違うタオルに水をつけてそれで固定した。ガーゼも用意しておけばよかった。失敗した。


「とりあえずはこんなもんかな?」

「ありがとう……でも葉月、なんか手馴れてない?」

「いっちゃんの方が上手だよ?」

「そうなんだ……」


 花音が自分の巻かれた包帯とかを見て感心してた。誰でも出来ると思うけどね。

 ふと花音が私の顔を見て、タオルを差し出してきた。ん?


「動かないでね?」

「どしたの?」

「いいから」


 花音が私の頬についてる泥を拭って、ついでに消毒して絆創膏を貼り付けた。あれ? 切ってたんだ。


「葉月、人の事もいいけど自分のこともちゃんと見てね」


 そう言って花音が微笑んだ。あ、やっと笑った。うん、やっぱり花音の笑顔が一番いいや。


 時計を見るともう19時を回っていた。さすがに急がなきゃ。いっちゃんと合流できない。

 ナイフや水とかを閉まい、リュックを前にして肩にかけてから、花音に背中を向ける。


「花音、ライト持って乗って?」

「え?」

「行かなきゃ。いっちゃんが待ってる」

「で、でも……」

「早く」

「……わかった」


 花音が遠慮しながら背中に乗ってきた。あ、意外と軽い。


「お……重くない……?」


 いつもより近い花音の声。恥ずかしがってる? かーわいー。


「大丈夫だよ~。それより花音はライトを前に向けてね」

「う、うん……」


 花音にライトを任せて、温もりを背中に感じながら歩き出す。それにしても花音さん、意外と胸大きいんじゃないですか? 柔らかさがダイレクトに感じますよ。おっさんみたいな考えになっちゃうね。ちょっと役得。


 そんなことより、さっきしまう前に確認した地図を思い返して、昼間に自分でつけた印を確認しながら進んでいく。


「葉月……道わかるの?」

「うん、大丈夫」


 いっちゃんを引き摺り回したとは言えない。言うと怒られそう。そういえば熊も目撃されてるって言ってたな。さすがに、今の状態で対峙は出来ないからな~。出ませんように~。今じゃなかったら歓迎するんですけどね。

 携帯が使えればこんな時間かからなかったんだけど、ここ使えないんだもんな~。不便。


 なるべく花音に負担を与えないように進む。揺れとかでも多分、足痛いと思うから。


 花音は私とは違うから。



 花音は私みたいに『痛みを感じない人間』じゃないから。



 時々振り返って、花音の表情を確認する。あ、絶対我慢してる。

 いっちゃんたちもこっちに向かってるはずだ。

 だからもう少し我慢してね、花音?



 しばらく進んでいくと遠くから声が聞こえた。


「葉月……今、誰かの声が……」

「うん。たぶん、いっちゃんたちだ」


 さすがだよ、いっちゃん。予定通りだね。

 振り返って、背中にいる花音ににっこり笑った。


「もう大丈夫だよ、花音」

「葉月……」


 花音がキュッと、ちょっとだけ私の首に回していた腕に力を込めたのがわかった。


「ありがとう……葉月……」


 いいんだよ、花音。


 だから、

 だからね。


 いきなり『いなくなる』のだけはやめてね。



 そんなことされると、




 私はもう抑えられなくなるから。




 その後、いっちゃんたちと無事に合流して、花音は病院に連れていかれた。


お読み下さり、ありがとうございました。

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