41話 レクリエーション中編
静寂が訪れる。
舞?
今、何て言ったの?
誰がいなくなったって?
「いい一緒にいたはずなのに……花音、気づいたらいなくて……どこにもいなくて……皆で探したんだけど……見当たらなくて……」
いっちゃんが言葉を失っている。
舞が震えながら、たどたどしく状況を説明している。
頭が、どんどん冷えていく。
「見つからないから、一回戻ってきたの……寮長にさっき報告したんだけどさ……あたし、ちょっと花音と離れたんだよ。グループの先頭の方に行ってて……でも戻ったらもういなくなってて……」
「……舞、少し落ち着け」
「い、一花どうしよう……さっき他の班の子が言ってたんだよ。最近ここら辺に熊が出てるって……」
「いいから、ちょっと落ち着け。水飲んで、一回深呼吸しろ」
いっちゃんが舞を近くに座らせて、水を渡していた。
「…………いっちゃん」
自分でも驚くぐらい冷たい声が出た。
2人も驚いてこっちを振り返る。だけど、構っていられない。私は静かにいっちゃんを見つめた。
「……何だ?」
「……いっちゃん……これはイベント?」
「葉月っち……? イベントって……?」
「…………これはイベント?」
いっちゃんを見続ける。いっちゃんも私をしっかり見据えてくる。
「……違う。こんなことは起こらなかった」
いっちゃんの言葉を聞いて目を閉じる。冷静にならなきゃだめだ。
ふぅぅとゆっくり息を吐く。大丈夫。大丈夫。大丈夫。自分に言い聞かせる。
私はまだ大丈夫。
目を開けて、いっちゃんを見る。いっちゃんが鋭い目で私を見てる。
「……いっちゃん。行ってくる」
「大丈夫なのか?」
「……うん。ちゃんと分かってる」
「……仕方ないか」
「え? 葉月っち?」
舞が戸惑いの声をあげている。舞といっちゃんを横目に自分のリュックに手をかけた。
「舞。花音はどこで消えたの?」
「え……? だ、第3ポイントだけど……って葉月っち!?」
第3だとあの辺り? さっきいっちゃんと行った獣道と、ハイキングコースの道を思い浮かべる。そして、辺りを見渡した。夕方だ。もうすぐ日も落ちる。
「葉月っち!? まさか……探しにいくつもり!?」
「いいんだ、舞。葉月に任せろ」
「い、いや!? 一花!? だって熊も出るって……! それに今、寮長や先生たちが……」
「多分こいつの方が早い。熊も心配いらん」
「なな何言ってるのさ、一花?! 一花までおかしくなっちゃったの!?」
「葉月」
いっちゃんが何かを私に投げてよこした。受け取ってみたら、サバイバルナイフだった。いっちゃんには私が行くところが分かってるんだろう。
「今回だけだ、それを使わせるのは」
「…………」
「……分かってるな?」
もちろん、分かってるよ、いっちゃん。
私は受け取ったナイフの具合を確かめ、ポケットに仕舞った。
「後は任せるよ、いっちゃん」
「一応手配は全部しておくし、あの場所で待機しておく。お前は最短で行け」
「ん」
「ちょ、ちょっと2人とも!?」
舞の慌てる声を無視して、走り出した。舞のこともいっちゃんが何とかしてくれる。
まずは舞が言っていた第3ポイントだ。
※※※
向かってる途中で寮長たちの姿が見えた。
「小鳥遊さん!? あなた、何でこんな所に!?」
悪いけど構っていられないんだよ、寮長。だからどいて? 会長たちも邪魔だよ。
ぐっと足に力を込めて飛び上がった。「ひっ!」と声をあげたツンデレ先輩の肩に手を置いて、クルっと一回転して会長たちの向こう側の道に着地する。全員が呆けている気がするが、気にしていられない。
「待ちなさい! 小鳥遊さん!?」
後ろから会長たちが追いかけてくるが無視して、第3ポイントに向かった。
到着して辺りを見回してみる。もう、辺りは薄暗くなっていた。目を凝らして慎重に地面を見ていく。
「はあっ……はあっ……あなたね……」
「はあっ……お前なっ……」
寮長と会長が追い付いてきたみたいだ。息が荒々しい。だけど構わず、地面を見続けた。
第3ポイント周辺は山の中腹あたりだ。整備されていない道を外れると、崖みたいな急斜面になっている。
「あのね……どういうつもりか分からないけど……はあっ……もうすぐ日が落ちるわ……」
「はあっはあっ……お前は戻れ……はあっ……桜沢は俺たちが……」
何かを言っているが気にしない。
ふと視線の先に崩れているところがあった。これだ。
そこに進んで下を見てみると、所々の土や木が潰れていた。
ここだ、間違いない。
「小鳥遊さん? 聞いているの?」
「おい、いい加減に……」
さっきからうるさいよ、2人とも。
視線を2人に向けると、ビクッと体を震わせて固まった。
「……寮長、会長」
「っ……何……かしら……?」
「2人とも戻って? いっちゃんに任せてあるから」
「……お前は何する気だ?」
私?
そんなの決まってる。
花音を迎えに行くに決まってる。
視線を戻して、少し飛んだ。ザザザッと一気に下に滑り落ちていく。上から2人の声が聞こえた。
結構長い急斜面だ。途中で視界の端にリュックが見えた。多分花音のだ。
降りきると、そこは茂みに覆われていた。いっちゃんと一緒にさっき回った場所のはずだ。完全に獣道。さっきいた場所より暗かった。
リュックから磁石と地図とライトを取り出して、自分が回った場所と照らし合わせる。大丈夫だ。戻れる。
磁石をしまって、今度はナイフを取り出す。邪魔な茂みを切りながら周りを見渡した。
多分花音は近くにいるはずだ。
落ちた場所にいてくれればすんなりいったんだけど、移動しちゃったみたいだ。ライトを地面に向けると、足跡も残っている。
地面にライトを向けながら足跡を追っていく。昨日までの雨のおかげで地面はぬかるんでいたから、花音の足跡がはっきりついていた。もう日はすっかり落ちて辺りは暗闇だ。時計を見ると18時を回っていた。
怪我してるんだろうな。
地面には足を引き摺った跡もあった。たぶん左足。そんな状態で、何で移動しちゃったかな。見つけたらちゃんと注意しておかなきゃ。
他に怪我してなきゃいいんだけども。でも不幸中の幸いといえばいいのか、花音が落ちたと思われる場所は土が柔らかかった。クッションになってくれてたらいいんだけどね。
足跡を見失わないように進み続ける。いっちゃんに借りたナイフで枝や草をどけながら進み続けると、少し先に木がない場所が目に入った。
ライトをそこに向けてみると土壁が見えて、
その壁近くで、膝を抱えて蹲っている女の子がいる。
思わずホッと胸を撫で下ろした。
「みーつけた」
お読み下さり、ありがとうございました。