39話 レクリエーション前編
レクリエーション編です。
さてさて花音といっちゃんがめでたくゴールイン――じゃなかった、お互いに名前呼びになって一件落着してから、私たちは中間試験を終え、ついにレクリエーション当日を迎えた。
試験? 鉛筆コロコロしただけだから結果はどうなるかわかりません!
集合場所に着いて、各クラスで点呼を取っている。そういや生徒会のメンバーも一緒に来るんだって。これもゲームのイベントだっていっちゃんが言ってたからね。生徒会メンバーが来ないとイベント起きないもんね。どんなイベントなのか聞いてないけど。
これからバスに乗ってキャンプ場へ。そしてグループに分かれてちょっとしたハイキングをする。地図を見ながら、要所要所にあるスタンプをついて回ってくるんだって。スタンプラリーだね。
その前に各班に分かれてテントを設置。お昼ご飯とか夕ご飯は用意してあるらしい。皆、料理出来ないからね。花音のご飯は明日まで我慢だ。ご飯を食べたらキャンプファイヤーもするらしいよ。盛り沢山ですな。
私はもちろんいっちゃんと同じ班。というより、私といっちゃんの2人だけの班だ。クラスメイトは怖がってるし、他のクラスの子たちもそう。逆にいっちゃんがそうするようにしたらしい。迷惑かけられないっていうのもあるけど、逆に2人だけの方が楽なのだ。
舞と花音がスタンプラリーを一緒のグループで回ろうと言ってくれたけど、それも断った。折角なんだから2人も他のクラスの子と交流した方がいいと、いっちゃんが説得していた。まあ、寮では一緒だからね。2人ともちょっと残念そうな顔だったけど。
「ねえ、いっちゃん?」
「ん?」
「熊と鹿だったらどっちがいい?」
「なんでその2択なんだ?」
「どっちがいい?」
「どっちかを選んだとして、お前は何をする気だ?」
「じゃあ、どっちもね」
「選んでないが!? そして質問に答えろ?!」
「いっちゃん、楽しみにしててね?」
「何が楽しみだ!? 何を企んでる!? 吐け!」
バスで不穏な会話をしている私たちを、周りにいるクラスメイトが不審な目で見てきた。やだなー、そんな目で見ないでよ? 期待に応えたくなっちゃうじゃないか。
いっちゃんに質問攻めにされている間に、あっというまにキャンプ場に着きましたとさ。さーて、どうしよっかなー。
キャンプ場の土はちょっとぬかるんでいた。昨日までこの地域は雨だったらしい。そういえば天気が良くて良かったって、今朝寮を出るときに花音と舞が話していた。
各班に分かれてまずはテントの設置だ。生徒の半分ぐらいがブツブツ文句言いながらやっていた。基本お坊ちゃまお嬢様だからね。何で自分たちがこんなことをっていうことだろう。ちょっと離れて花音と舞の班が見えた。あそこは楽しそうにやっている。君たちも見習いなさい?
生徒会メンバーは先生たちと一緒にキャンプ場近くの宿舎に泊まるらしい。抜け出してメンバーを見にいこうとしている生徒がチラホラと見かけられた。
私といっちゃんがテントを立てていると、寮長がやってきた。
「東雲さん、どう?」
あれ、寮長? なんで私には聞かないの?
「万事順調だ。こいつが手馴れているからな」
そうなんだよね。私、こういうの慣れてるんだよ。前世の経験だけど。
寮長? 何でそんな呆れた顔してるの?
「はぁ……何で、あなたはこういう知識ばかりを持ってるのかしらね」
「教える、寮長?」
「いらないわ。ただ……もっと常識的な知識を持ってほしいのにって思っただけよ」
「寮長、それをこのバカに期待すると、後でショックが大きいぞ?」
「そうね、そうよね……分かってるんだけどね……」
「ちなみに寮長、バッダも美味しいんだよ?」
「食べれる事は知ってるけど、食べないわよ!?」
「おいしいのに~。ね~いっちゃん?」
「確かに味は悪くはなかったが、好きで食べようとは思わないからな」
いっちゃんがバッサリ切った。寮長が若干顔を青くさせている。あの時、いっちゃんもちょっと泣きながら食べてたもんね。私が無理やり口にポイって入れたんだよ。懐かしいね。
「……東雲さん……同情するわ」
「同情よりも日々の安心がほしいんだが、寮長」
「無理ね。ごめんなさい」
「即答はやめてくれないか!?」
「無理ね。それじゃあ2人共、この後お昼食べてからは予定通りだからね。小鳥遊さん、無理だと思うけど、あまり東雲さんを困らせないように」
寮長がいっちゃんを見放して、次の班に声掛けにいってしまった。いっちゃん、そんなガックリ肩を落とさないで。そのうち脱臼しちゃうよ?
お昼は学園が用意したお弁当。いつもの花音のお弁当のほうがおいしいな~。味気なく感じる。もうすっかり花音の味付けに舌が慣れちゃったみたい。明日帰ったら花音にオムライス作ってもらお~。
そしてやってきました、ハイキング! 地図を見て、思わずニマっとしてしまう。そんな私を見ていっちゃんがすかさず突っ込んできた。
「おい、葉月。分かってると思うが、ただスタンプ押して戻ってくるだけだからな? それだけだからな?」
「もちろんだよ、いっちゃん」
「まぁ……そうだよな。さすがにお前も理解出来る事だよな」
うんうんと頷いているいっちゃん。そんないっちゃんを自分のリュックから取り出したロープでグルグルに巻き付けて、簀巻き状態にしていく。いっちゃんが気づいた時にはもう私の背中におんぶされていた。
「……一応聞こうか……葉月、何の真似だ?」
「やだなあ、いっちゃん。私達は一緒の班だよ? いっちゃんを置いていくわけには行かないでしょ?」
「そうだな、一緒の班だ。だからこそ聞こう……何の真似だ?」
「いっちゃん、見て、この地図!」
「聞け!? いや違う! 降ろせ! 嫌な予感しかしないわ!?」
「ここら辺にね、いるかもしれないよ?」
「何がだ!? 待て……待て待て!! お前どこを指している!? そこはハイキングコースじゃないぞ!?」
「いっちゃん、見つかるといいね!」
「だから何がだ!? というかまず降ろせ!!」
「いっちゃんが言った熊と鹿。食べてみたいんでしょ?」
「あたしはそんなこと一言も言ってないんだが!?」
「私は食べてみたいんだよね~」
「あたしは食べなくても大丈夫だ!! 葉月! 降ろせ!!」
周りにいる生徒たちが巻き込まれないように遠ざかっている。背中で暴れるいっちゃんを哀れんだ目で見ていたけど。
「葉月……な? 落ち着け? わかった……まず話し合おうじゃないか、冷静にな……だからまず、あたしを降ろせ?」
「じゃあ、出発だね! いっちゃん!」
「人の話を聞くことをいい加減覚えろ、この馬鹿野郎が!!」
会えるかな~。こっちに行ったら会えるかな~。それともこっちかな~。
私はいっちゃんを背中に背負って、他の生徒たちが行くコースとは別の獣道に入っていった。急斜面だったり、昨日の雨でぬかるんでいる土の道を行く。途中草に隠れたちょっとした崖に落ちたりしながら、なかなかスリリングなハイキングだった。
いっちゃんの「ぎゃああああああ!!!!」という悲鳴が周辺に響き渡ったのは言うまでもない。
□ □ □
「ちぇ~。結局見つからなかったね、いっちゃん」
「お……おま……お前……覚えてろよ……」
キャンプ場に戻ってきた私といっちゃん。結局、熊と鹿は見つからなかったよ。いっちゃんが横で膝を地面について肩で息をしていた。
あれ? 背負ってたから、いっちゃんは体力使ってないと思うんだけど、何でそんな疲れてるの?
……そっか、いっちゃん。そうだったんだね。
「いっちゃん、そんなに熊と鹿食べたかったんだね」
「この姿を見てそう思えるお前を今すぐ吹っ飛ばしてやりたいんだが!?」
「いっちゃん、疲れてるのに?」
「疲れさせてるのはお前なんだよ!!」
「なんで?」
「疑問に思えるお前の頭どうなってるんだ!?」
「私の頭は熊と鹿でいっぱいです」
「どんだけ食べたいんだよ!?」
食べたことないものって食べたくなるじゃん? 未知のものってワクワクするよね~。いや~見つからなくてホント残念だよ~。
ん? あれ、舞だ。なんか焦ってるような感じ?
いっちゃんのツッコミを受けてると、遠くで舞が他の生徒となんか話してるのが見えた。
「あっ! は、葉月っち! 一花!!」
私たちに気づいた舞が大分顔を青くしながら近寄ってくる。いっちゃんも首を傾げていた。
どしたの? 結構酷い顔だよ?
「どど……どうしよう……あたし……あたしが……」
若干声が震えている。ホントにどした?
見かねたいっちゃんが舞を落ち着かせようとしている。
「おい、舞……どうした? 落ち着け、大丈夫だから」
「いい一花……どうしよう……」
「落ち着け。深呼吸しろ」
いっちゃんが舞の背中をポンポンしながら宥めるが、舞はそれでも体を少し震わせていた。
舞? なんか怖い事あったの?
「か……花音が……」
花音? 花音がどうしたの?
「花音が……いなくなっちゃった……」
……………………………………今何て言った?
お読み下さり、ありがとうございました。