38話 悪戯? —花音Side
「……また」
「え、また!?」
「今度はどこでしょうね?」
「ほんっと、タチ悪いよね」
机の中から教科書が消えている。ハアと思わず溜め息をついてしまった。舞もユカリちゃんもナツキちゃんも呆れかえっている。
生徒会に入ってから、こういう風にジャージとか教科書とか消えるのがたまにある。でもすぐ見つかる。ほら、クラスの他の女の子が「あったよ」と声を掛けてくれた。何故か廊下にあるロッカーの上に置いてあったらしい。今日のお昼のおかず交換をする予定の子にお礼を言って、その自分の教科書を机の上に置いた。
綺麗な教科書のままだ。折角東雲さんのことを一花ちゃんと名前で呼べるようになって、気分良かったんだけどなぁ、舞のおかげで。
「いい加減、犯人捕まえた方がいいんじゃないですか?」
心配してユカリちゃんがそう言ってくれたけど、でもなぁ……綺麗だし、破られたりしてないし、それにすぐ見つかるし。
「きっと花音が生徒会に入ったから嫌がらせだよ」
「生徒会メンバーは人気が高いですからね。嫉妬でしょう」
「いやいやいや、ナツキとユカリの言う事分かるんだけど……これ、嫌がらせの部類に入るかな? すぐ見つかるんだけど」
舞の言う通りなんだよね。思わず苦く笑ってしまった。
「ナツキちゃんもユカリちゃんも心配してくれてありがとう。でも舞の言う通りだよ。それにすぐ飽きるんじゃないかな、この隠している人も。だから犯人なんて捜す必要ないよ」
「でもさ」
「本当に大丈夫。逆に心配させてごめんね」
渋るナツキちゃんに「大丈夫だよ」って笑ってあげると、「花音って心広すぎない」と少し呆れられた。心広くないけどなぁ。ちゃんと理不尽だとか、許せない時とかある時は怒るよ?
そんなこと考えてたら、舞が指を一つ立てて「ちっちっち! 甘いよ、ナツキ!」と自信たっぷりに告げている。いきなりどうしたの?
「何が甘いんですか、舞ちゃん?」
「ユカリもナツキも甘い! 甘すぎる!」
「だから何が?」
「花音が誰のルームメイトだと思っているのさ!!」
……えっと葉月だけど、それのどこが甘いに繋がるのだろうか? 疑問を頭に浮かべてたら、2人の方は「「あっ!!」」と何かに気づいた様子。
その時、廊下の奥の方で悲鳴が上がった。
思わず皆で廊下の方を見ると、
「くぉら!! 止まれ、葉月!!」
「やだなぁ、いっちゃん! 止まったら捕まるじゃないか!」
「やかましいわ! 教室中水浸しにさせといて何を言う!?」
「いっちゃん、実験に犠牲はつきものなんだよ!」
「何が実験だ!? ただスプリンクラー壊しただけだろうが!」
「不幸な事故だよ、いっちゃん!」
「何も不幸じゃないんだよ!? とにかく今すぐ教室戻って皆に謝罪しろ!! 逃げるな!」
「やだなぁ、いっちゃん! 追いかけられると人は逃げたくなるものなんだよ!!」
「せめて後始末しようと思わんのか!?」
「残念だけど、今はいっちゃんから逃げることで忙しいんだよ! 本当、残念だよ!」
「お前のその考えが残念だわ!? 反省して謝罪しろ!!」
「そうだね、いっちゃん! 次はもっと上手くやることにしようじゃないか!! 是非ともスプリンクラーの出る水の量を増やしてみたいからね!」
「そっちの反省じゃないんだよ!? いい加減止まれ!!」
その掛け合いとともに、葉月と一花ちゃんがドタバタと私たちの教室の前を通り過ぎていった。全員でそれを見送った。葉月、ちゃんと謝らないとだめだよ、それ。
今日は久しぶりにオニオンサラダを食べてもらおうと考えてたら、舞がナツキちゃんとユカリちゃんに「これでわかったっしょ?」っと言っている。そんな舞に何が? という問いかけもしない内に、2人が何度もコクコクと頷いていた。
「葉月っちで慣れている花音にとっては、こんなの悪戯の内にも入らないってわけさ!!」
「比べる対象が大きすぎますものね」
「そうだよね。花音にとってはこんなの悪戯の“い”という字にも届かないか」
「しかも花音はその葉月っちの行動に関しても、ほとんど怒らないからね! そっちに関してちゃんと心が広いと言わないと!!」
「「確かに」」
あの、ナツキちゃんにユカリちゃん? どうしてそんなに何度も頷いているの? そして舞? 今日、葉月にお仕置きの玉ねぎ食べさせようと思ってたんだけどな? そんなこと言われたら、今夜は普通のサラダにするしかないんだけど。
でも3人が全員うんうんと頷いてくるから、その日の夜のお仕置きは諦めた。
葉月のあの泣きながら食べる姿可愛いのに見れないのか。少し残念。
でも葉月、次そんなことしたらちゃんと謝るんだよ? そうじゃないと遠慮なく玉ねぎ食べさせるからね。
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