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37話 すき焼きと名前呼び

 


「たっだいま~!!」


 舞が元気よく部屋に入ってきた。お土産を両手にいっぱい持って。


「帰ってきたか……」

「ちょっとちょっと、一花! 何でそんなにガックリしてるのさ~!」

「はぁ……思えば、あたしに静かな時間ってないんだなと思ってな……」

「そうなの、いっちゃん?」

「舞がいなければお前。お前がいなければ舞……これで静かな時間が来る方がどうかしてる」

「ちょっと~!? 葉月っちとあたし同類じゃないんですけど!?」

「最初に会った時、仲間だって言ってなかったか?」

「訂正します!」

「訂正しなくていいと思うぞ? お前と葉月は同類であり同類じゃないからな」

「……花音、一花がいじめるぅ!」

「あはは……まあまあ」


 舞が花音に抱きついて、よしよしと頭を撫でられている。仲良くなったよね~ホント。花音、最初は舞に怯えてたのに。


「それより、舞~。買ってきた~?」

「もっちろん! 葉月っち! もう最高級品手に入れてきたから!」

「おお~!!」

「ねえ、待って……最高級品って……」


 お金の感覚が普通の花音が青褪めている。何言ってるの~花音? 今日はすき焼きなんだよ~?


「ほら! 最高ランクの和牛!」


 どこか輝いてるね~! すき焼きって言えば、いいお肉に限るよね~! あれ、花音? どうしたの、フラッとしてるけど?


「こ、これ……いくらしたの……?」

「花音~。花音は聞かない方がいいと思うよ~?」

「あっはっは! だ~いじょうぶだって、花音! これはあたしの奢りだから!」

「い、いや、舞……そんな訳には……」

「たまにはいいんじゃないか? 桜沢さんにおいしいモノを食べてほしくて舞もそれ買ってきたんだろ?」

「さすがだね! 一花! まさにその通りなんだよ!」

「う、でも……」

「花音~食べよ~」


 観念したような顔になってるよ、花音。私たちがいい食材をたまに買ってくると、恐れ多いらしいみたいだけど、気にすることないのにね~。


 すき焼きは最高でした! 花音の特製タレも美味しかった! というか花音? お肉を食べる時に何であんな震えてたの? あ、こんないいお肉食べたことがないからですか? 大丈夫だっていうのに。皆でいっぱい花音のお皿にお肉を乗せてあげたよ。


 食べ終わった後に花音が特製ミックスジュースを持ってきてくれた。これ好き~。

 持ってきてくれた花音にいっちゃんがお礼を言ってた。


「いつもすまない。桜沢さん」

「ううん、気にしないで。私は皆と一緒に食べるご飯、好きだから」

「私も花音のご飯好き~」

「ふふ。ありがとう、葉月」


 うん、花音の笑顔いただきました。こちらこそありがとうございます。ふと花音が舞に視線を向けて止まった。どしたの?


「あれ? 舞、ジュース美味しくなかった?」


 見ると舞がストローを口に含んで、ジッと花音といっちゃんを見ていた。どしたどした? 何かあった?


「あのさ、一花」

「ん、あたしか? 何だ?」

「いつまで花音のこと苗字で呼んでるの?」

「は?」

「いやだって、もう1か月経つのにさ。なんか他人行儀じゃない? 花音も一花のことまだ苗字で呼んでるし」


 そういや、そうだね。いっちゃんなんて最初、花音に対して敬語だったし。それがすごく気持ち悪かったし。


「もう、あたしら知らない仲じゃないし。むしろ仲のいい友達じゃん? こうやってご飯一緒に食べるくらいにさ。なのに苗字で呼び合うって、何か線引かれてるみたいじゃん」

「そう……か……?」

「そうかな……?」


 花音もいっちゃんも今一ピンと来てないみたいだ。


「あたしはそう思うな~。葉月っちはどう思う?」

「ん? ん~……いっちゃんの敬語は気持ち悪い」

「ほう……葉月……お前、今何て言った?」

「あっはっは! 確かに一花の敬語気持ち悪いかも! 初めて会った時敬語だったや、そういえば!」

「おい、お前ら。ちょっとそこに正座しろ」

「ま、まあまあ……東雲さん」


 ん~? なんとなく流してたけど。確かに苗字呼びは他人行儀かもね。舞の言うとおりかも。


「花音~」

「ん?」

「『いっちゃん』って呼んでみて~?」

「ええっ!? い、いきなり!?」

「あ、それいいじゃん。最初の一歩だよ、花音!」

「え、いや、あの……」

「はぁ……お前ら、桜沢さんを困らせるな」

「何言ってるのさ。ほら、一花も! 『花音』って呼んでみ?」

「いきなり変えられるか!!」

「いっちゃん、花音が嫌いなの~?」

「んなわけあるか!」

「花音はいっちゃん嫌いなの~?」

「ええっ!? そんなことないよ!!」

「じゃあ、2人とも呼べるっしょ?」


 舞がそう締めると、2人とも黙ってしまった。

 2人とも顔が真っ赤ですけど? 可愛いんですけど? 私と舞がニマニマしながら見ていると、耐えきれなくなったいっちゃんがコホンと咳払いした。


「あ……あー桜沢さん。このバカ2人に乗せられることはないぞ?」

「え、あ、うん……でも……」

「ん?」

「確かに他人行儀かなぁと思って……そろそろ名前で呼んでほしいかなぁ……なんて……」

「んえ!?」


 な~に? これ、な~に? 顔真っ赤にして2人とも超可愛い~! しかも付き合い始めのカップルみたい~! 面白~い! 舞も超楽しそうに2人を見てるし。ただ名前で呼ぶだけなのにね~!


「あ、あー……そうか……わわわかった……」

「う、うん……」

「いや、そうだな……その……」

「頑張れ、いっちゃん!」

「頑張れ、一花!!」

「やかましいわ! 黙ってろ!」


 もう私も舞もニヤニヤが止まりません。

 いっちゃんが何か決意したように深呼吸した。顔赤いままだけど。



「…………か……花音……」



 おおお~~~!! いっちゃん!! 頑張った!! そして12年の付き合いの中で一番可愛いよ!!

 対する花音はとても嬉しそうな顔をしていた。


「うん……嬉しいよ……一花ちゃん」


 か……かっわいい~……やりましたよ、舞! これは私たちやり遂げたよ! まさしくキューピッドだよ! 2人は、今、確かに通じ合ったのだ!


 舞に振り向くと、舞も私を見ていた。


「舞!」

「うん、葉月っち!」

「「カップル誕生の瞬間だね!!」」

「「違うから!!?」」


 私と舞はいっちゃんにしこたま蹴られましたとさ。


お読み下さり、ありがとうございます。

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