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届けばいいな―葉月Side

デート回です!

 

「あ」

「ん? どうしたの?」


 ゴロンタと一緒にスマホで動画を見ていたら、動物園の広告が流れてきた。そういえば、動物園行ってないな。いっちゃんに止められるからだけど。


「花音~、動物好き~?」

「うん? うん、好きかなぁ。可愛いよね。見てて癒されるっていうか」


 私はその花音の笑顔に癒されます。

 ポカポカ~と胸があったかくなるのを感じて、えへへ~と笑うと、花音が嬉しそうにまた微笑んでくれた。


 私の隣に移動してきて、額を肩に押し付けてくるから、自分もぎゅーっとそのまま花音を抱きしめる。


「それで? どうしていきなりそんなこと聞いてきたの?」

「うん? これ~」


 動物園の広告動画を見せると、花音が納得したように「へえ」と声を漏らしていた。


「これ、近くの動物園だね」

「そう~。それにね、珍しい動物さんもいるんだって」

「本当だ。すごいね、こんなにたくさん」

「ね~。あ、パンダさんもいる~」


 動画の中でパンダが欠伸をしていた。パンダも可愛いよね~。


 ……ああ、そういえば昔、ママが保護してきたことあったなぁ。そうそう、その子パンダと泥まみれになりながら遊んだことあった。ママも一緒に遊んだんだよね~。二人で泥だらけになったら、パパが笑ってたや。


 昔のことも思い出して、胸がさらにポカポカしてたら、花音がそっと頬に手を添えてきた。うん? なんか嬉しそう?


「葉月、この動物園行こうか?」

「うん?」

「葉月と一緒に、私も動物たち見て楽しみたいなって。だめ?」


 だめ? そんなおねだり、可愛すぎるからだめじゃありませんが?

 可愛く思えたからギューって花音を抱きしめると、くすぐったそうに腕の中の花音が笑っている。


「いいよ~。花音が楽しめることしよ~」

「葉月も一緒にだからね?」

「うん!」


 私は花音がいれば、どこでも楽しめますがね! あ、ふれあい体験できるみたいなことも書いてる~。花音とうさぎさんたちがもふもふ……何それ、絶対可愛い! 見た~い!


 ちょこっと想像したら楽しくなってきて、花音にスリスリ頬ずりしてしまうと、嬉しそうに顔を上げた花音がほっぺにチューしてくれた。



 ◇◇ ◇



「晴れた!」

「よかったぁ。天気予報変わったね」


 寮の入り口で、花音が空を見上げて安堵の息をついている。昨日から心配そうだったもんね。


「いいか、葉月。絶対絶対檻の中とかに入るなよ? 花音に迷惑がかかるんだからな?」

「むー。何度も言わなくても分かってるよ、いっちゃん」

「猿山にも入ろうとするなよ? あと、動物たちの食べ物も横取りするな」

「いやいやいや、一花。注意するところがおかしいおかしい」


 見送りに出てきたいっちゃんがものすごく不安そうな顔で注意事項を述べていると、舞が呆れたようにいっちゃんにツッコんでいる。さすがにしないよー、いっちゃん。だって花音が喜んで玉ねぎ切っちゃうじゃないか。


「じゃあ、舞。ゴロちゃんのことよろしくね」

「まっかせてよ! 気にしないで二人は楽しんできなって!」


 舞の腕の中で呑気にあくびしてから、きょとんと目をパチパチさせているゴロンタ。さすがに動物園に連れていけないから、舞たちと一緒にお留守番なんだよ。


 花音が「いい子にしててね」とゴロンタの頭を撫でていた。スリスリとその手に頭を擦り付けているゴロンタに、気持ち分かるーとか思っちゃった。気持ちいいんだよね、花音の手。


「花音、頭撫でて」

「いやいやいや、葉月っち。なんでゴロンタに対抗してんの。というか、もうさっさと行きなよ。こんなことしてたら、日が暮れちゃうじゃん」


 自分も撫でてほしいって思っちゃったんだもん。むーって少し頬を膨らませたら、花音が「はいはい」と頭を撫でてくれた。えへへ~気持ちいい。満足。


 ひとしきり花音の手を味わってから、いっちゃんと舞に「いってくるね~」と言うと、ものすごく呆れた目を向けてきた。


「……あの空気を動物園中に振りまくと思うと、不安で仕方がないんだが?」

「だ、大丈夫だって! 周りの人が気を遣って、目を逸らしてくれるって!」

「それ、大丈夫なのか?」


 舞、そのフォローはちょっと違うと思う。それにいっちゃんや、大丈夫だよ。私の今日の目的は、もふもふに癒される花音の笑顔を見ることですからね!


 ワクワクしながら花音と手を繋ぐと、嬉しそうに花音も微笑んでくれた。楽しみ~!



 ◇◇ ◇



「竹ムシャムシャしてる~!」

「本当だ。可愛いね」


 パンダさんがガラスの向こうで寝そべりながら竹を口に入れて、顎をゆっくりゆっくり動かしている。おいしそうに食べてるな~。竹っておいしいのかな? タケノコはおいしいけどさ。


「葉月、こっち見て?」

「ん?」


 花音に呼ばれたから顔を向けると、花音がスマホのカメラを向けていた。カシャリとシャッター音が聞こえてくる。


「いっちゃんに送るの~?」

「ううん。これは私用」


 花音用? 花音用とは?


「いつでも思い出したいからね」

「じゃあ、一緒の撮ろ~? 私にも後で送って~」

「ふふ、いいよ」


 そう言って、今度は二人で背景にパンダさんも入れて一枚カシャリ。これ、いっちゃんに送ろ~。中に入ってないよって分かると思う。安心するかは分からないけど。


 花音は満足そうに今撮った写真を眺めていた。嬉しそう。


 そういえば、付き合うようになってから、花音は写真を撮るようになったんだよ。


 私の机にはママとパパの写真の他にも、花音との写真とか、舞を追いかけている写真、いっちゃんに怒られている写真やレイラを泣かせている写真も飾られるようになった。花音が写真好きとは知らなかったけど、嬉しそうにいつもしているからいっかと思って。


 でも花音~。他にも色々と動物たちはいるんだよ~。もっといろいろ見よ~。


「花音~、まだまだいっぱい見よ~」

「うん、そうだね」


 楽しそうにしている花音を見て、私も胸がポカポカですよ。可愛いんだもん。


 また手を繋いで、お猿さんやゴリラさんたちを見に、二人で足を進めた。見てみて、花音! ナマケモノだよ! 本物だよ! 全っ然動かないよ! え? 私とは正反対だって? 確かに、私は動き回る方が好きですね! 主に悪戯目的ですけども!


 お昼は花音のお弁当。ここ、持ち込みOKだって書いてたから、花音が作ってくれた。


 むふ~。んまし~。やっぱり花音の卵焼きは最高ですね! 今日のはいつもより甘めだ~! 花音にもはいあーんって差し出したら、これまた嬉しそうに口に入れてくれた。口をもぐもぐさせてる花音も可愛いよね! 私? いつもどおり全部花音が食べさせてくれましたけど?


 午後は今日の一番の目的のふれあい体験広場ですね!


「花音~。ちょこちょこもふもふだよ~」

「うん、みんな可愛いね」


 あ、ひよこさんもいる~。でもうさぎさんの方が絶対もふもふしてるはず! と視線を送り続けていたら、飼育員さんが手の上に乗せてくれた。えへへ~やっぱりうさぎさんもふもふしてる~。つい顔をうさぎさんの背中に埋めると、ふわふわしててあったかい。


「か……可愛い……」


 花音が手で顔隠しちゃったよ。ここでプルプルモード? でも花音や。花音も体験しなよ。もふもふあったかだよ~?


 花音の膝にうさぎさんを置くと、ちょっとまだ頬が赤いまま、そのうさぎさんの背中に手で触れていた。途端に花音の頬も緩んでいく。はい、可愛い。


「あったかいね~、花音~」

「そうだね、葉月」


 えへへってお互いに笑い合うと、うさぎさんが耳を動かしながら私たちの方を見上げてきた。


「おお、このしぐさ可愛い~」

「ふふ、でもあまり可愛い可愛いって言うと、ゴロちゃんが拗ねちゃうかもね」


 拗ねる? 拗ねるかな~?

 ふむ~と思ってゴロンタを思い出していると、クスクスと楽しそうに花音が笑っている。その笑顔が一番嬉しいですよ。


「葉月、ここでも撮ろう?」


 花音がまたスマホをバッグから取って、おねだりみたいに聞いてきた。もちろん、いいですよ。うさぎさんと一緒に二人でまた写真を撮る。なぜか微笑まし気に飼育員さんが見てきた気がする。


 まだまだ時間はあるから、他の動物さんたちも見ようってなって、今度はライオンさんがいる場所まで行くことにした。いっちゃんがいたら、絶対「入るな。檻に絶対入るな」って言いそう。


「ゴリラさんの檻はいいのかも?」

「だめだよ、危ないからね」

「でも昔、入ったことあるよ?」

「昔?」

「うん、ママと一緒に」


 目をパチパチと瞬かせる花音に、つい笑って返した。


 ママとね、なんか怒ってたゴリラさんを何とかするために入ったんだよ。ママ、すごいすごーい強いからね。入ったら、逆にゴリラさん怯えちゃって。パパが困ったように笑ってたなぁ。いっちゃんは青ざめてたような気がする。


「あの時のママ、ちょっと落ち込んでたんだよね。怖がられたのがショックだったみたい」


 そのあと、パパと一緒にギューしたら、すぐ笑ってくれたけど。


 花音がギュッと手を握ってきたから、つい顔を向けると、やっぱり嬉しそうに微笑んでた。


「……来てよかった」

「うん?」

「葉月のね、嬉しそうな顔見れたから。きっとご両親との思い出いっぱいなんだろうなって思って。だから一緒に来たかったの。葉月が幸せな気持ち、いっぱい思い出してくれるといいなって思ったから」


 ……私の為?


「だからいっぱい写真撮っちゃった。今日の葉月の写真も、一緒に飾ろうね。見てくれていると思うから」


 本当に嬉しそうに笑う花音に、キューっと胸が締め付けられていく。


 そんなのズルい。

 そんな風に考えてたのズルい。

 自分の為だって、笑う花音はズルい。


 つい立ち止まって、ギューッと花音の手を握ると、振り向いて花音も不思議そうに見てきた。


「どうしたの、葉月?」


 写真も、ママとパパのこと考えてくれてたのかな。

 私だけじゃなく、ママとパパことも。


 そう考えると、もう抱きしめたくて仕方がないじゃないか。


「……いつも写真撮ってるのって、私の為?」

「うん? そうだなぁ。葉月の為っていうのもあるけど、私の為でもあるかな」


 クスリと笑って、花音が近づいてくる。そっと両手で私の頬を包んでくれる。


「もちろん、ご両親に届けばいいなとは思ってるけどね」


 暖かい温もりで包んでくれる。


「いつでもね、思い出したいなって。葉月の笑った顔、楽しそうな顔、喜んでいる顔。数年後、数十年後、あの時も幸せだった。でも今も幸せだなって思いたいなって」



 過去も未来も、その温もりで包み込んでくれる。



「だから、泣くことじゃないよ、葉月」

「……泣いてないもん」


 泣きそうになっちゃったけど、泣いてないもん。


 でも、嬉しくなっちゃったんだもん。


 写真撮るの、好きになっただけだって思ってて。

 でも、そんな気持ちでいたなんて知らなくて。


 花音の心が、気持ちが、あったかすぎて、胸がぎゅーっとなっちゃったんだもん。


 堪らなくなって、いっちゃんの言ってたことなんて忘れて、ギューッとそのまま花音を抱きしめると、腕の中でやっぱり花音は笑っていた。


「一花ちゃんに怒られちゃうよ?」

「いいの。今、ギューしたいの」

「帰ってから、いっぱいできるよ?」

「今がいいの」


 宥めるように言ってくるけど、でも花音は離れていかないで、そのまま私の頭を撫でてくれた。


 その手がやっぱりポカポカにしてくれる。

 花音はいっぱいいっぱい、私の全てをポカポカにしてくれる。


 ポカポカしてあったかくて、嬉しくなる。


 大好きだよって、その気持ちが溢れてくる。


「花音」

「ん?」

「好きだよ」

「……不意打ちすぎるよ」


 耳元で伝えると、腕の中の花音がプルプルしてた。だって、伝えたくなったんだもん。


 満足したから体を離すと、花音の顔は真っ赤になってた。えへへ。動物たちも可愛いけど、やっぱり一番は花音です!


 案の定、道端で抱き合ったから周囲の視線が注がれたけど、真っ赤な花音の手を取って他の動物たちを見に行った。その後も花音が嬉しそうに写真をいっぱい撮ってくれて、一緒のもいっぱい撮った。


 帰ったら、ママたちに今日のこと話そう。


 届けばいいな。

 届くといいな。


 あのね、花音と動物園行ったよ。いっぱい嬉しいことあったよ。花音もね、楽しそうだったんだよ。あーんした時にちょっと恥ずかしがってて、それも可愛かった。


 いっぱいいっぱい話したいことがあって、帰っている途中なのにワクワクしてた。花音が「それは外ではだめだよ」って言ってきたけど、はて? それとは?


 帰ったら、ゴロンタが匂いを確認してきて、ちょっとムスッとしてたけどね。本当に拗ねちゃったらしい。構わずうりゃうりゃうりゃと撫で回したら機嫌治ったみたいだけど。


 その日の夜は、花音とゴロンタと一緒に、ママたちの写真に向かっていっぱいお喋りした。


そういえばちゃんと付き合った二人のデート回書いてないなぁと、読者さんに教えられて急遽書いたものです! 楽しんでくれたら、もう嬉しすぎますね!

お読みくださり、ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
待ってたー 2人のデート回良すぎる もっとたくさん幸せな写真が増えるといいね……
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