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小さい葉月②―花音Side

 

「にゃあにゃあ」

「みゃ?」

「しっぽふりふり~」

「みゃみゃ」

「あ、だめだよ。尻尾をそんな乱暴に掴んじゃ」

「むー!」

「……なんだ、これ?」


 小さい葉月を私が膝の上に抱っこして動かないようにしていると、部屋に来た一花ちゃんが固まって、一花ちゃんの後ろにいる舞は口をあんぐりと開けていた。うん、そうだよね。そうなるよね。ゴロちゃんは興味津々で私と葉月の周りをウロウロしている。


「え、え? これが葉月っち!?」

「そうみたい」

「そうみたいって、花音、冷静すぎない!?」


 冷静じゃないよ、舞。私だって戸惑ってるよ。


 だって、小さい葉月が天使すぎる!

 何この可愛い生き物! すべての動きが可愛すぎるんだけど! ゴロちゃんを追い掛け回す姿も、「なにこれ~?」って部屋にあるものを見て目をキラキラさせてる姿も! ちょこちょこ動くから、それを見ただけで悶えてしまうんだけど! 今だってほら、小さいほっぺを目一杯膨らませて私のことを見上げてきてるよ!


 そんな葛藤を露知らず、舞は小さい葉月と一花ちゃんを交互に見て、見るからに動揺している。


「……」

「ちょっと、一花! これはどういうこと!? なんか分かる!?」

「分かるか! 誰がこんな奇天烈な状況を予想できたっていうんだよ!? 某探偵アニメじゃあるまいし! しかもあのジュースで体ごと幼児退行するって誰が思う!? まだ変な薬を飲んだって言う方が説得力あるわ!」

「ごごごごごごめん!! 怒らないでよ!」

「あ……いや、その……お前に当たっても仕方がないことだった。すまん」

「え、一花が謝ったんだけど! 可愛いんだけど!」

「そういうことを大きな声で言うな、馬鹿野郎が!?」


 相変わらず舞は切り替えが早い。というか、一花ちゃん? 某探偵アニメってなんのこと?


 疑問に思っていると、その一花ちゃんがゴホンとわざとらしく咳払いをして、私の膝の上に座っている葉月に視線を合わせてきた。あ、顔赤い。可愛いって言われて照れたんだね。うんうん、舞の言うとおり可愛い。


「葉月、あたしが分かるか?」

「んー?」

「分からない、か。あたしは一花だ。そう言えば分かるか?」

「いっちゃん? いっちゃんはこ~んなちいさいもん。こんなおっきくないもん」

「上等だ、この馬鹿野郎が! あの頃はお前とあんまり身長差はないわ! そんなミジンコみたいな小さい人間がどこにいる!?」


 ブチっと何かの音がしたと思ったら、一花ちゃんが葉月の足を掴んでブンブンと振り回し始めちゃったよ。切れた。あまりに一瞬のことで茫然としちゃったけど、ままま待って、一花ちゃん! 落ち着いて!? 


「お、おお~! わーい♪ た~のし~!」

「楽しませるためにやってないんだよ!? とりあえず人をミジンコ扱いしたことを謝れ!」

「もっと~もっと~!」


 ……うん、葉月が楽しそうだからいいか。

 暫くすると、息を切らした一花ちゃんが疲れたのか葉月を下ろして呼吸していた。葉月は葉月で「もっと~」って一花ちゃんの服を掴んでせがんでいる。う、このお願いしている葉月可愛い。一花ちゃんはそんな葉月を無視してハアと深く息をついていた。


「間違いないな。こいつ、葉月だ。今の記憶はないみたいだが」

「え、一花? 今のって確認してたの?」

「何をされても楽しんでしまうこの姿。紛れもない葉月だ」

「いやいやいや、そんなんで断言するわけ!? 無理があるって!」


 舞の言ってる事もその通りだと思うけど、でも葉月の子供の頃の写真と瓜二つなんだよ、この子。そもそも葉月自身がいなくなってるし。もうこの子が葉月で間違いないと思うんだけど。


「仕方ないな。舞でも分かるぞ、こいつが葉月かどうか」

「え? どうやって?」

「おい、葉月。この猫に名前つけてみろ」

「ゴロンタ」

「あ、うん。ごめん、一花。この子が葉月っちだわ。そのネーミングセンス、葉月っちしかいないわ」


 あっさりひっくり返したね、舞。ゴロちゃんは名前を呼ばれたからか、「みゃあ」と鳴きながら葉月に近づいていたけど、葉月が尻尾を握ろうとしてすぐ逃げていた。葉月、そんなにその尻尾が気に入ったのかな?


「葉月、あのね。尻尾を握ろうとするのはゴロちゃん嫌がってるからやめようね?」

「んー? んー」


 私の方からゴロちゃんに目を向けて、今度はそっと手をゴロちゃんに差し出している。え、これすぐ理解したってこと? ゴロちゃんはそろそろと伺うように葉月にまた近づいてきて、その小さい手に頭をゆっくりと擦りつけていた。


「えへへ。ふわふわ~。みゃ~お」


 ――天使がここにいるんだけど!!

 耐えられなくて近くのベッドをバンバンと叩いちゃうよ! 舞、そんな呆れた顔で見てこないで!? 無理無理無理! こんな可愛すぎるの無理すぎる!


「一花、これ花音の心臓に悪いかもよ?」

「そうだな。これじゃもたないな。まあ、とりあえず兄さんに会わせよう。そうしたら何か分かるかもしれないし」


 そ、そうだね。それがいいかも。きっと昨日の葉月が作ったジュースが原因だろうし。それに小さい子用の服はさすがにここにないから、それも何とかしないと。


 やっと自分を落ち着かせて、色々と準備しようとした時、ゴロちゃんと戯れていた葉月がギュッと一花ちゃんの服の裾を握った。



「パパとママは~?」



 あ……。


 葉月の無邪気そうに聞いてきた言葉に、一花ちゃんも舞も私も止まってしまう。


 今の葉月って多分四、五歳ぐらい。今の記憶がないって一花ちゃんも言っていたから、体も記憶も子供の頃に戻ったっていうことかもしれない。


 つまりは……葉月の中ではご両親も生きているということ。


「……今は仕事に行ってる。よくあるだろ?」

「いつ帰ってくる~?」

「そうだな……あと数日だろうな」

「むー……」


 どうしようと思っていたら、一花ちゃんが咄嗟にそんなことを言って誤魔化していた。葉月がまだ二人が生きていると思っているって分かってるんだろうな。こういう臨機応変さにさすが一花ちゃんって思ってしまうよ。


 頬を膨らませてから、葉月はトテトテと机の場所まで近づいて、ご両親と一緒に写った写真を手にしていた。


「はやくあいたいな~」


 小さい声で呟く姿に、胸がキュッと締め付けられる。こうやって、子供の時はご両親を待っていたのかな?


 ナデナデと後ろから葉月の頭を撫でると、私の方に振り返ってくれた。少しでも安心してもらえるように私も微笑む。


「きっとね、葉月のご両親も葉月に会いたがってるよ」

「そうかな~?」

「うん。だから、それまで葉月もいい子でいようね」


 それまでに葉月を元に戻してあげないと。残酷な真実を知るのは、一回で十分なはずだから。


 もう十分、葉月はその真実に傷ついたから。

 自分を責めるまで、傷ついたから。


 だから、今だけはこの嘘をつこう。

 葉月が少しでも安心できるように。

 笑顔でいられるように。


 小さい葉月を抱き上げて、よしよしと背中を撫でながら抱きしめてあげると、私の首に短い腕を回してくる。


「えへへ……あったか~い」

「葉月もあったかいよ」

「これすき~」


 私も好きだよ。葉月の温もりに包まれるの、一番安心する。

 子供の葉月でもそれは変わらないんだなぁ。私のことが分からないのは少し悲しいけど、でもこの子供の頃の葉月にずっと会いたいなって思ってたんだ。


 ……って、あれ?


「葉月?」

「……寝たな。この状態でも花音のハグは効果あるんだな」

「子供でも葉月っちは葉月っちってわけだね」


 私と葉月のやり取りを聞いていた二人が感心するようにうんうんと頷いている。いや、あの、二人とも? それより早く先生に診てもらおう?


 ◇◇◇


「あはは、これはまた奇天烈な状況だね」

「笑い事じゃないんだよ、兄さん」

「そうだけど、こんなこと出来るのってやっぱり葉月ちゃんなんだなって思ってね」


 ふふって笑っている先生は本当に楽しそう。そんな先生をさっき起きた葉月がきょとんとした顔で見ていた。


「葉月ちゃん、僕が分かるかい?」

「こんなおじさんしらなーい」

「うんうん、それはちょっと傷つくかな」


 葉月、先生まだ二十代だからね。それはちょっと可哀そうかなぁ。

 笑顔だけど困ったように笑っている先生を放っておいて、周りをキョロキョロと見渡している葉月は、今度は一花ちゃんのお母様に視線を向けた。今回の件を聞いて、自分も同席するって言ったらしい。


「私のことは分かるわよね?」

「いっちゃんのママ~。んー? ふけた?」

「どこでそんな言葉を覚えたのかな~?」

「ふひぇふひぇ」


 みょーんと葉月のほっぺを伸ばしているお母様。葉月は一花ちゃんのお母様にも容赦ないんだなぁ。十分若いと思うんだけど。前にも思ったけどとても三人の子どもを産んだ人には見えない。


 そのお母様はハアと溜め息をついて、葉月の目や口の中とかを覗き込んでいた。すっかりお医者さんモードだ。


「見た目的には異常ないのよね。本当に全てが幼児に戻ったって感じ。優一、検査結果は?」

「全部正常なんだよね。なんでこんなことが起きてるのかさっぱり分からない。葉月ちゃんが飲んだかもしれない植物の成分も今色々と調べてもらってるよ」

「その結果を待った方が良さそうね。源一郎さんももうすぐ着くっていうし」


 え? 葉月のご家族も来るの!?

 葉月が先生の育てている植物たちに悪戯しそうだったから、抱っこして落ち着かせていると、お母様が予想外のことを言いだした。一花ちゃんも何故か頭が痛そうに眼鏡を取って目頭を押さえている。


「あの人にも連絡したのか? 下手に心配させたくなかったから、わざとしていなかったのに」

「だってこの葉月ちゃんよ? 源一郎さんたちだって会いたいでしょうに。それに葉月ちゃんもこの頃は源一郎さんのこと大好きだしね」

「おじいちゃん?」

「そうよ、葉月ちゃん。あなたのおじいちゃん」

「ママ、怒る」

「……大丈夫よ、怒らないから」

「あそんでいい?」

「ええ。むしろ遊んであげて。葉月ちゃんと遊びたがってたから」

「じゃあ、ここまずこわす!」

「「壊すのも作るのも禁止」」

「むー」


 お母様と一花ちゃんが同時にツッコんでいた。さすが親子。

 それにしても葉月はどんな遊びを思いついていたのかな? というか、おじい様と一緒に遊ぶってなって何故壊す発想になるの? 二人は分かってるのか、さらに作るなって言ってるし。


 あと、先生? 何故いきなり遠くの方を眺め出したんですか? なんで「懐かしいなぁ……」って哀愁漂わせてるの!?


 内心アタフタしていると、膝の上の葉月が「おじいちゃんあえる~」と嬉しそうに見上げてくるからたまったものじゃない。色んな疑問が吹っ飛んじゃう。葉月のお母さんの日記に書かれていたことが本当に今身に染みて分かる。これは可愛すぎる。


 コンコン、とそこで扉がノックされた。「あ、きたわね」と一花ちゃんのお母様が扉を開けに席を立つ。そういえば、おじいさまがこの葉月用の病室に来ているのを見るのは初めてかも。


「葉月」

「おじいちゃんだ~!」


 ピョンっと葉月も私の膝の上から降り立って、トテトテと扉の方に走っていくと、扉が開かれた瞬間に現れたおじい様に飛び掛かっていた。おじい様も嬉しそうに小さい葉月を抱っこして持ち上げている。


「あはは、葉月。本当に小さくなってるね」

「うん~?」

「これは沙羅も魁人も来れなくて良かったかもしれない。こんな小さい葉月を見たらきっと離さなかっただろうな」

「ふむ。葉月お嬢様、パジャマが大きすぎるのでは? 確か昔の子供の時の服もここに置いてあったはずですが」


 結局そのままの状態で葉月をここに連れてきたんだよね。「どうせ車だから」と一花ちゃんが葉月を抱っこした私を車に押し込んできて負けちゃったよ。


 それにしてもメイド長さん、相変わらず淡々としているなぁ。すぐさまこの部屋の洋服入れを漁り出したよ。舞が「なんであんの!?」と後ろで驚いているけど、うん、私もそう思う。


「久しぶりだね、花音さん」

「あ、はい。お久しぶりです」


 葉月を肩車した状態で、おじい様が挨拶してくれた。私も慌てて立ち上がってぺこりとお辞儀をする。


 本当に久しぶりだ。春休みに会った時以来。電話では葉月の現状とかをちょくちょく話しているんだけど、こうやって見ると、やっぱり葉月と雰囲気が似ているなぁ。優しいその笑顔はどこか葉月を思い起こさせるから。


「いつも葉月がお世話になっているね。今回みたいに」

「あまり驚いていないんですね?」

「うん。まあ、葉月だからね」


 葉月だから? それはその、どういう意味なんでしょうか?

 一花ちゃんがいつもの重い溜息をついてからジト目でおじい様を睨みつけていた。


「元々あんたが葉月に色々作らせるのを趣味にさせたんだろうが」

「やだなぁ、一花ちゃん。私は葉月の可能性を広げたかっただけだよ。興味あるものはどんどんやらせないと。まさか体が小さくなるジュースを作るとは夢にも思っていなかったさ」

「じゅーす~? はて~?」


 コテンと首を傾げる葉月が可愛すぎるんだけども。

 でもすぐに考えるのを止めたのか、「おりる~」とおじい様の髪を引っ張っていた。おじいさまはクスクスと笑いながら葉月を降ろしている。


 トテトテと近づいてきて、今度は「んしょんしょ」とか言いながら私の膝の上に乗ってきた。


「なでて~」

「うん?」

「頭なでて~」


 すっかりお気に入りになったのか私にせがんでくる葉月に瞬殺された。撫でるどころかもうぎゅーっと抱きしめたよ。「きゃあ♪」と腕の中の葉月も嬉しそうに笑っているから堪らない。


「花音さんにすごい懐いてるね。今の記憶はないって話じゃなかったかい?」

「そのはずですけどね。一花ちゃんは理由分かる?」

「居心地がいいんだろ。本能じゃないのか? 勝手にそう思ってた」

「まあ、確かに朝から花音にはすごいべったりだよね」


 おじい様や一花ちゃんのお母様、一花ちゃんと舞も普通に話しているのを聞いて、なんでこの葉月の可愛さに普通でいられるんだろうって疑問に思っちゃったよ。


 困ったように笑ってから、おじい様が葉月に目線を合わせるように腰を屈めていた。


「葉月、花音さんが好きかい?」

「あのね~あったかいんだよ~! ママとパパみたいなんだよ~!」

「そうか……」

「おじいちゃん、ママとパパ、いつかえってくる~?」

「……もう少し先だよ。葉月が楽しく過ごしていれば、あっという間に帰ってくるよ」


 ポンポンと葉月の頭を撫でているおじい様も、一花ちゃんと同じように咄嗟に誤魔化していた。腕の中の葉月は寂しいのかシュンとしちゃった。私の胸元に顔を押し付けてグリグリしてくる。悲しくなっちゃったのかな。


 そんな葉月を見て、またおじい様が困ったように笑っていた。


「これは連れて帰らない方がいいかもね。花音さんと離れるのは駄目そうだ」

「え?」

「本当はこんな状態になったから、葉月を連れて帰ろうと思ってたんだよ。さすがにこの時の葉月のお世話は花音さんに負担になるんだろうなって」


 まままま、全く問題ありませんけど!? 

 予想外の言葉を聞いて内心慌ててしまう。そんなこと全く考えてなかった! え、連れて帰るんですか!? 


「でも葉月は花音さんの傍の方がいいみたいだしね」

「んー?」

「葉月、家に帰るのと花音さんのところとどっちがいい?」


 おじい様、それってかなり意地悪な質問じゃ!? え、え、ちょっと待って! 帰られたらさすがにショック! でも葉月にとって、私はほとんど知らない人だから、帰るって言うかも……それ困る! 葉月がいない生活は私にとってはもう耐えられないんだよ!


「ここいる~」


 グリグリとまだ顔を押し付けてくる葉月にギュギューっと胸の奥が締め付けられた。


「だそうだよ。そんなに焦らなくても大丈夫」

「す、すみません……」


 焦ってたのバレてた。だけどよくよく考えると、おじい様はこの葉月と一緒にいたいのかもしれない。それはそうか。自分の娘さんの大事な忘れ形見だもんね。う、そう考えると自分のことしか考えてない自分が恥ずかしくなってきた。


「君ももう私たちにとっても大事な人だよ、花音さん」


 優しくそんな嬉しい事を言ってくれる。かなり気を遣わせてしまったみたい。ああ、もう。しっかりしなきゃ、自分。今絶対葉月を心配しているのは、間違いなく葉月の家族なんだから。


「すいません。葉月のお世話、ちゃんとやりますので」

「ふふ、そう気負わないでくれ。葉月はあったかい場所にいたいだけなんだから。いつも通りに葉月といてあげて」

「んふ~あったか~。これ好き~」


 グリグリグリとさっきまでの寂しそうな雰囲気はどこへやら、離したくないと言わんばかりにその小さな手で私の服をつかみながら、葉月は嬉しそうにギューとしてくる。この可愛さにおじい様たちも敵わないんだろうな。そんな葉月を見て笑ってから、今度は一花ちゃんのお母様に視線を向けている。


「というわけだ、蘭花さん。暫くは葉月のことを頼んだよ」

「あら? 遊んでいかないのですか?」

「遊びたいのは山々だけど、葉月は今、花音さんにご執心みたいだからね。それを邪魔するのは私としても忍びない。それに葉月の今の状態も、ずっと続く訳じゃないんじゃないかな?」

「なんでわかるんだ?」

「永遠に効果が残る成分を作るなんて、そこまでの芸当はいくら葉月でも出来ないんじゃないかなって思っただけだよ、一花ちゃん」


 どこか含みのある言い方をしながら一花ちゃんを説き伏せているおじい様に対して、少し疑問に思っちゃったよ。なんか知ってるのかな?

 そんなおじい様を見て、胡散臭そうなジト目を向けている一花ちゃん。この世界でこの人にそんな目を向けられるのは一花ちゃんだけだろうね、うん。


「ん~……」

「ん? 葉月、眠くなっちゃった?」

「ふあ」


 大きな欠伸をして、また私の胸に飛び込んでくる葉月。体が小さい分、体力がなくなってるのかも。疲れちゃったかな。その葉月を見て、一花ちゃんがハアと長い溜息をついた。


「兄さん、今のところ元気ってことでいいんだよな?」

「うん? そうだね。どこにも異常はないからね」


 先生のその一言で、とりあえず安心だね。もう腕の中で眠っちゃってる葉月を抱き上げて、よしよしと背中を撫でてあげると、スウスウと小さな寝息を立てている。


 おじい様も一花ちゃんのお母様も仕方が無さそうに笑って、今日はお開きとなった。


「現状維持か……勘弁してくれ」


 何かを思い出しているのか、一花ちゃんが遠い目をしていたけど、私はちょっと嬉しかったりする。


 まだ知らない葉月を知ることが出来るかもしれないから。



お読み下さり、ありがとうございます。

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葉月子供自体可愛い
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