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その気持ちは恋だった 前編 ─鳳凰翼Side

 

「翼く~ん! 今度の休――」

「行かん」

「え~もしかして予定空いてる? じゃあ、あたしと~」

「行かん」


 近寄ってくる女たちを押しのけて、星ノ天(ほしのそら)大学部の講義室を出ていく。後ろからはさっき声を掛けてきた女たちの「つれな~い」「でもやっぱりかっこいいよね~」っていう懲りてない会話が聞こえてきた。


 ……鬱陶しいことこの上ない。


 大学部に進学して、地方の高校からの入学生も入ってきた。高等部よりやはり人数が多い。

 俺が鳳凰財閥の跡取りだってバレてからは、高等部より女たちが群がってくる。それにやれ合コンだ飲み会だ、と男も女も関係なく声を掛けてくるんだ。邪魔だ、本当に。


「あ、翼!」


 今日の昼飯はどうするかって考えていたら、親しんだ声が聞こえてきた。この声だけは安心できる。


 振り返ると案の定、幼馴染の月見里(やまなし)怜斗と、中等部からの顔なじみの東海林(しょうじ)椿が二人揃って近寄って来た。


「翼もお昼だろ? このあとカフェテラスで一緒にどう?」

「あ? いいのかよ? 東海林と二人じゃなくて」

「何よ、今更? 気を遣ってくるとか、熱でもあるの?」


 なんでそんな呆れた目で見てくるんだよ。怜斗もふふって笑ってるんじゃねぇ。


 この二人、実は高等部の時から付き合ってたりする。周りには隠してたがな。

 怜斗の家と一悶着あったと言っていたが、卒業する頃に問題は解消されたと聞いた。大学への入学を機に、晴れて関係を周りにオープンしたんだ。


「鳳凰君にそんな気を遣われると逆に心配になるわよ。普通にしなさい、普通に」

「大学部に上がってから、嬉しそうにしているのはお前だろうが」

「だ・れ・が・嬉しそうにしているですって?」

「あはは、椿。どうどう」


 大学部に入ってからはちゃんと恋人同士として振る舞ってるから、こっちも折角気を遣ってやってんだろうが。しかも東海林もいつも怜斗と嬉しそうに手を繋いだりしてるじゃねえか。本当はそういう恋人っぽいことしてみたかったんだろ。


「僕は嬉しいよ、椿とちゃんと恋人らしいことをできて」

「なっ!? ちょちょ、怜斗! こ、こんなところで何言い出してるのよ……」


 怜斗の言葉で東海林の顔がみるみる赤くなっていく。高等部の後輩たちに見せてやりたくなる。あの偉そうに説教していた副会長が、男の言葉でこんなしおらしくなるんだからな。


 ……というか、俺の前でいきなりイチャつき始めんな。


 ハアと息を吐いて、踵を返した。


「イチャつくなら後でやれ。付き合ってたら、午後の講義に遅れるだろうが」

「だ、誰がイチャついてるですって!?」

「あはは、ほら椿。確かに翼の言うとおりだよ。お昼ご飯はちゃんと食べないとね」


 後ろから怜斗が東海林を宥める声が聞こえてきたが、それに構わず俺はカフェテラスに足を動かした。



 ◇ ◇ ◇


「そういえば翼、あの絵、出来たの?」

「あ?」


 昼飯のナポリタンを口に入れてたら、向かいに座った怜斗がそんなことを聞いてきた。


 あの絵? どの絵のことだ? 

 なんて考えていたら、怜斗の隣に座っていた東海林が呆れたようにジト目で見てくる。やめろ、そんな目で見てくるな。


「ああ、聞いたわよ。鳳凰君、またあの子の絵を描いてたんだって?」

「ぶほっ!? ゲホっ!」


 思わず飲み込もうとしていた麺が戻ってきそうになった。な、ななな、なんで知ってんだ!? 怜斗の『あの絵』って、もしかしてあの絵のことか!? 怜斗も、何で知ってんだよ!? 誰にも話してないのに! 笑ってんじゃねぇ!?


「ごめんごめん。なんかさ、同じ講義を受けてた子が聞いてきたんだよね。『鳳凰君が描いてる女の子って誰?』ってさ」

「あっきれた。卒業して大分経つわよ。まだ吹っ切れてなかったのね」


 ハアとこれみよがしに深い溜め息をついてくる東海林につい口が塞がった。


「鳳凰君、悪いことは言わないから忘れなさい。あなたに桜沢さんは無理よ」

「は、はあ!? なんでここで桜沢の名前が出て――」

「この前会ったけど、あれはもう小鳥遊さん以外は眼中にないわね。小鳥遊さんもあの蕩けるような顔、初めて見たわよ。お互いしか見えてないって感じだったわ」


 グッサーと追い打ちをかけるように東海林が止めを刺しに来る。


「上手くいって何よりだけど、鳳凰君には無理ね。もし鳳凰君が相手だったら、桜沢さん、あんな幸せそうな顔しないと思うし」

「おい……」

「鳳凰君が相手だったら、きっと彼女苦労したでしょうね。うんうん。そうね。大体あなたいつも偉そうだし、人の話聞かないし、我儘だし、世間知らずだし。振り回される未来しかないわね」

「おい……」

「ああ、小鳥遊さんで良かったのかも。小鳥遊さん、大人しくなったらしいわよ。絶対桜沢さんの影響よね。あなたと違ってあの子、あれで実は素直に聞くところがあるし。無茶はするけど、ちゃんと周りのことも一応……一応考えてたわね、あれは」

「あはは、椿、それぐらいで」


 グッサグッサと言葉の槍を突き刺さしてくる東海林を怜斗が止めていたが、俺はズーンと気分を落としていた。


 う、上手くいってるのか。いってるよな。そりゃそうだ。

 あの最後に会った屋上でみんなで弁当食った時も、それはもう甘い空気を放っていたもんな。


「まさか鳳凰君……相手があの小鳥遊さんだから、どうせ二人は別れるとか思ってたりしていないわよね?」


 ……少し思ってた。


「あっきれた。呆れてモノも言えないとはこのことね」

「つ、椿。さすがに翼が可哀そうか……」

「怜斗。ちゃんと言わないと駄目よ。そもそもあの告白の仕方もダメダメだったじゃない。案の定、桜沢さんに告白だって気づかれてないし」


 気づいてなかったな。ああ、そうだな。

 でもあれが、俺の精一杯の告白だった。


「そういえば、あの後も確か自分は女々しくないとか言ってなかった? 未練たらたらじゃない。どの口が言ったのよ、そんなこと」

「っっっだあああ!! やめろ! 言うな!」


 耐えられなくて、ドンっとテーブルを叩きながら訴えると、怜斗までもが困ったように笑っていた。だから笑ってるんじゃねぇ!?


「東海林、お前、勘違いしてねぇか?」

「何をかしらね?」

「俺はもうとっくに吹っ切れている。俺に擦り寄る女なんて腐るほどいるんだよ」

「へー」

「あはは……翼、それ以上はやめといた方がいいんじゃないかなぁ?」

「怜斗は黙ってろ」

「黙るのは鳳凰君でしょ。それ以上言っても屁理屈にしか聞こえないわ。そもそも、いまだに彼女の絵を惨めに描き続けている時点で、未練があるのは丸分かりじゃない」


 惨めとか言ってんじゃねえよ!? 余計グサグサ響くわ!!

 そんな俺に対して東海林は頬杖をつきながら、また溜め息をついている。この野郎。自分は怜斗と順調だからって、そんな余裕かました態度かよ!?


 だけど……東海林の言ってることは、悔しいが事実であって……だぁっ! くそっ! これ以上ここにいても、東海林にグサグサ言われるだけだ! それに桜沢に関することをクドクド言われても苛つくしかない。こういう時は、逃げるが勝ちだろ。


 ガタッと勢いよく席を立つと、東海林は呆れ顔で、怜斗はきょとんとした表情で俺を見上げてきた。


「翼、まだ食べ終わってないだろ?」

「説教されながら食えるわけないだろ」

「誰だって説教したくなるでしょうに。友人が後輩の絵を未練がましく描いているって知ってしまったんだから」

「ちっ、余計なお世話だっつうの」


 うるせえ。本当にうるせえ。東海林のは本当に余計なお節介だ。


 イライラしながら、俺は二人を置いてその場を立ち去った。後ろからは二人の溜め息が聞こえてきたけど、知るか。


 俺だって……分かってる。


 もう可能性がないってことも、

 あいつが今、あの問題児の隣で幸せそうに笑っていることも……


 …………全部分かってる。




 カフェテラスから移動して、ある場所に足を運んだ。

 自分が入っているサークルの部室だ。部屋に入ると、至る所に部員の絵が散在していた。


 あーくそ。先輩たち、昨日片づけてねぇな、これは。

 ちっと軽く舌打ちして、その絵画たちに触らないように足を動かした。


 辿り着いたのは、俺のキャンパスの前。


 自分が描いた、桜沢の絵だ。


 女々しいって言われても仕方ないとも思うさ。

 だけど、描きたいって思うものが、あいつの笑った顔だった。


 自分の描いた絵を見て、また自然と舌打ちした。


 あーくそ。なんでまだこんなに思い出すんだよ。東海林に説教されても仕方ないって思えてくるだろうが。


 ……どうすりゃいいのか分かんねぇんだよ。


 あいつは、桜沢は調子が狂う女だった。

 年下のくせに生意気なことを言ってきて、他の女どもが喜んでくれたことをすると呆れた顔をする。


 俺の常識を、あいつは簡単に壊していった。

 スルスルと心の中に入ってきて、言葉が、行動が、体に沁み込んでいく感覚だった。


 極めつけに、母親に雁字搦めにされていた俺を、引っ張り上げた。


 それで、どれだけ救われたのか分からない。


 母親の言いつけ通りに振る舞わないとって思っていた。

 そうじゃないと、誰も俺を必要としないって思っていた。


 だけどあいつは……全部否定していった。


 あの柔らかい笑みを向けて、

 やりたいことに、興味があることに手を出すことに、背中を押してくれた。


 だから俺は今、絵を描いている。

 鳳凰財閥の将来のことも、母に言われたからじゃなく、自分で考えられるようになった。


 感謝している。


 最初はそれだけだったはずだ。


 でも、気付くといつの間にかあいつの顔がチラつくようになった。


 今、何をしているのか。

 何を考えてるのか。


 どうしたら、喜ぶのか。


 そんなことを考えていた時に、あいつが向けてきた笑みに釘付けになったんだ。

 気づいた時には遅かった。


 もうしっかりと、あいつは俺の心の中を占めていた。


 だけど……



「なんで……あいつなんだか……」



 ボソッと呟いた声は、自分でも思った以上に弱く聞こえてくる。そんな自分に嫌気がさした。


 よりにもよって、桜沢が選んだのは俺じゃなく、問題児の小鳥遊葉月。しかも女。さらには俺の気持ちに薄々気づいているだろって高をくくっていたら、全く気付いていなかったっていうオチ。


 桜沢があのバカに告白するまで、俺もあいつが誰を想っているかなんて気付かなかった。


 今でも思う。

 なんであいつなんだと。


 分かりやすいぐらいに、小鳥遊に嫉妬している自分がいる。


「簡単に言ってんじゃねぇ……」


 吹っ切れと東海林は言う。

 そんな簡単に吹っ切れたら、俺だって楽だ。ぜひそうしたい。


 だけどな。


 自分の中で、初めて欲しいと思ったんだ。

 初めて、泣かせたくないと思ったんだ。


 初めて、



 ずっと隣で笑っていてほしいと思ったんだんだよ。



 その相手が見ているのは違う人間だっていう、この苦しさが東海林には絶対分かりっこない。


 あいつらが俺を心配して吹っ切れとか言ってくれているのも分かってるさ。

 俺だって、桜沢の幸せを踏みにじりたいわけじゃない。その相手があの小鳥遊だっていうのは気に入らないがな。


 でも、どう吹っ切ればいいのかも分かんねえんだよ。


 思い出すのは、あいつの微笑み。

 絵を渡した時の、あの嬉しそうな顔。

 また渡したら、あいつはまた笑ってくれるだろうか。


 いつか、

 小鳥遊じゃなく、


 俺を見てくれるだろうか。


 そうつい考えてしまうと、キャンパスの絵は自然とあいつの顔になる。

 あいつ以外の女が、全部鬱陶しく感じる。……俺に執着する女っていうと、あの忘れたい女を思い出してしまうしな。


 本当は、俺だって他に目を向けたい。

 女々しいと、東海林に言われるまでもない。


 でも……初めて知った。


 本気で誰かを好きになると、忘れたくても忘れられなくなるんだな…………。



 ヴーッヴーッ



 ビクッと体が跳ね上がった。あ、なんだよ。携帯がブルっただけか。

 ハアと軽い溜息を吐いてから、ポケットに入れていた携帯を取り出した。


 は? 魁人さん?



 ◇◇ ◇◇ ◇◇


「悪いな、急に呼び出して」

「いえ」


 いきなりの魁人さんからの呼び出し。内容は『今日時間が取れそうだから、会社までこれるか?』というものだった。


 この前、鳳凰の系列会社の経営改革案を出したんだ。如月からは援助してもらっているから、ちゃんと魁人さんに意見を聞きたかったと思っていた。だけど忙しい人だから、あまり会えない。こうやって会ってくれるのは、俺とは昔馴染みだからだろう。


 ふうと自分のネクタイを緩くしながら、魁人さんは真向かいのソファに座り込んだ。俺が言うのもなんだが、この人育ちがいいせいか、こういうちょっとした仕草も様になってるんだよな。内心憧れてる。


「さっきやっと帰ってこれたんだ。連絡が遅くなってすまない」

「いえ。こうやってわざわざ時間取ってくださっただけで、感謝しています」

「やめろやめろ。翼にまでそうやって畏まられると、帰ってきた気がしないじゃないか」

「……前より忙しくしてますね?」

「ああ。本格的に祖父の指導が始まってね」


 祖父。鴻城(こうじょう)源一郎のことだ。あの小鳥遊の祖父でもある。


「来年、皐月との結婚を機に鴻城家の養子に入ることが正式に決まったんだよ」

「小鳥遊は?」

「葉月はやっぱり継がないってさ。いつまたどうなるか分からないからって」


 そう魁人さんは苦笑して答えてくれた。

 きっとあの卒業式のことだろう。俺も詳しいことまでは知らないが……というより、あの時の桜沢の告白の方が衝撃で、それどころじゃなかったというか……あいつの理由なんて知ったことかってどんなに思ったか。


「まあいいんだ。僕たちにとっては、葉月が昔みたいに笑っていてくれることが第一だから」


 そう言って満足そうに笑っている魁人さんを見て、心底どうでもいいと思った。前から思ってたけど、あのバカをどうやったらこんな可愛がることができるんだ? あんたが溺愛してる従妹、俺の家に何度も虫やらトカゲやらネズミやら送り付けてきて大変迷惑なんだが?


 苦情を入れたところで魁人さんも申し訳なさそうにしつつも、結局は小鳥遊を甘やかす。あいつのどこがそんなに可愛いのかさっぱり分からん。こっちとしては、もっとしっかり躾けておけよと思うだけだ。


 だから小鳥遊のことには触れずに、皐月さんとの結婚のことだけお祝いを口にした。


「結婚、おめでとうございます」

「ああ、ありがとう。それでだ、翼。本題にいこうか」


 スッと表情を改めて、魁人さんがジッと俺を見てきた。俺も背筋を伸ばして真向から見る。真剣な話になりそうだ。


「僕は鴻城の後継者だ。これからはもっと忙しくなる」

「はい」

「もう、個人的にお前の力になるのは難しい」


 ……それはもしや、もう如月の援助は受けられないということか?

 ハッキリと口に出した魁人さんに不安が過る。如月の援助があってこそ、今現在成り立っている状態だ。だからこその経営改革案だ。父も重役たちもそれを知っているからこそ、数年前から色々と試行錯誤しているんだ。ここで打ち切られるわけにはいかな――



「もう翼に僕の力は必要ないよ」



 ――――んんん?


 パチパチと目を瞬かせると、魁人さんが途端に悪戯っぽく笑っている。


「何を言われると思ったんだ? 援助を切られるとでも思ったのか?」

「いや、だって……」

「お前がこの前出してくれた改革案、素晴らしいモノだった。近い将来、如月の援助なしでも鳳凰財閥は持ち直すだろう。そうご当主、お前の父親にも伝えてやれ」


 じわっと歓喜が胸に広がる。

 鴻城の後継者であり、如月グループの会社を大きくさせたこの人に言われて、嬉しくないわけがない。


 認められたんだ。

 あの、魁人さんに。


 ずっとこの人に憧れてきた。

 何でも卒なくこなして、人を動かして、成功しているこの人に憧れてきた。


 人に慕われて、頼られて、その信頼されている姿がかっこいいと思っていた。

 こんな男になりたいって思っていた。


 そして今じゃ鴻城家の後継者に選ばれるぐらい凄い人だ。


 そんな人に認められたことが、嬉しくてたまらない。


「おい、泣くなよ?」

「泣いてません」


 嘘だ。実は少しウルっときてる。

 恥ずかしくて必死に涙をこらえて俯いていたら、向かいにいる魁人さんがクスクスと笑う声が聞こえてきた。


「少し寂しくも思うな。あの翼がこんな立派になって」


 ……魁人さん、それ親戚の子供が大きくなってから言うセリフじゃないか?


「葉月に遊ばれてあたふたしている翼も可愛かったけどなぁ」

「……昔の話を出さないでください。いつの話をしているんですか」

「幼等部の頃から知ってるんだから、感慨深くもなるってものだよ」


 ふふって思い出しているのかいまだに笑っている魁人さんに、恥ずかしくて何も言えなくなった。


 くそ。あれはあいつが虫やら土やら投げつけてくるから、仕方なく逃げてたんだよ。そもそもそんなあいつに注意の一つもしなかったじゃないか。あの時はこの人のことを恨んだな。


 まだその頃の話をしだす魁人さんに「もうやめてください」と言ったが、そんな俺に構わず魁人さんは「あんなことがあったよな」とか言って話が終わりそうにない。……やめろ。俺にとっては思い出したくない過去なんだよ!


 散々俺のことをからかって満足したのか、帰り際に魁人さんは俺の憧れている姿で「今みたいに時間は取れないけど、本気で困ったらいつでも頼って来い」って言ってくれた。あーくそ。敵わない。


「逆に魁人さんが困ったら、俺が今度は助けます」

「へー? そうだな。その時は存分に頼らせてもらおうかな」


 面白がるように笑う魁人さんに、やっぱりまだまだ敵わないって思った。


 だけど、いつか魁人さんに頼られる男になってやる。

 それが次の目標だ。


 これからのことで、胸が弾んだ。

 まだまだやることが一杯ある。


 そうだ。

 女のことで悩んでる暇なんか俺にはない。


 他に一杯やることがあるんだから、今はそっちに集中だ。


 魁人さんの部屋を出て、父や重役たちにこれからのことをどう伝えるかと考えながら歩いていた。


 エレベーターから降りて、会社のロビーを通った時だ。



「あれ? 鳳凰先輩?」



 その声だけで、胸の奥が一気に熱くなった。


お読み下さり、ありがとうございます。

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