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34話 帰省  —花音Side

 


「で、どうなのぉ~、星ノ天(ほしのそら)学園の生活は?」


 変わらないのんびりした口調の蛍が、ジュースのコップに入っている氷をストローでグルグル回しながら聞いてくる。地元から離れてまだ一カ月なのに懐かしく思って、クスっと笑ってしまった。


 GWに入って実家に帰ってきている。礼音と詩音は熱烈大歓迎という感じで、昨日はずっと離れなかったな。可愛いから許しちゃうけど。


 今日は友人の蛍と茜と3人で、駅前のショッピングモールでお買い物。今は喫茶店で一休憩といった感じだ。


「いじめられてたりしてないよね?」


 蛍の隣に座った茜が、心配そうに尋ねてくる。心配かけてるなぁ。


「大丈夫だよ。ルームメイトも優しいし、友達も出来たしね」


 安心してもらうために笑顔で答えた。

 本当に大丈夫。忙しいけど楽しくやっている。生徒会に入って生活は変わったけど。


 思ったよりも生徒会は大変だけど、充実した毎日を送れている。朝は朝食を作って、葉月を起こしてから1人で登校。帰りは生徒会の仕事を東海林先輩たちに教わりながら、合間に勉強の方も見てもらって遅くなった。東海林先輩以外の先輩たちも、案外良くしてもらっている。


 前に待っているという言葉の通りに、葉月は私が帰ってくるのを待って、それから夕飯作って一緒に食べている。それに食材を買ってくれたり、食器を洗ってくれたりと色々と助けてくれて、もう本当に感謝しかない。


 GWに帰省中は葉月のご飯はストックして作ってきた。東雲さんと2人で実家に帰らずに寮に残るらしい。私が帰省中、東雲さんが私のベッドを使って寝泊まりしている。本当2人は仲良しさんだよね。ベッドを使うことを、申し訳なさそうに許可を取りにきた東雲さん。心よくOKしたら、逆に何度も謝られた。気にすることないのに。彼女は余程、葉月の事が心配らしい。大切にしているんだなぁと心底思った。


 生活は変わっても楽しいのは変わらない。葉月はやっぱり喜んでご飯食べてくれるしね。

 だから蛍も茜もそんな心配することないよ。


「それなら良かった。いや、やっぱ心配だったんだよね。花音がしっかりしているのは知ってたけどさ」

「そうそう~。よくドラマとか漫画とかであるじゃんぅ~? 庶民がぁ~ってやつぅ~」

「中にはそういう人もいるみたいだけど、全然気にならないよ。周りにいる人たちが助けてくれてるしね」


 舞やユカリちゃん、ナツキちゃん。生徒会の先輩たち。それに葉月と東雲さん。皆が助けてくれているから全然平気。それにクラスでもユカリちゃんやナツキちゃん以外に話してくれるしね。全然見下されている感じはない。最近なんか、お弁当に興味持っている女の子たちが話しかけてきてくれているし。


 クラスのことを思い出してたら、電話が鳴った。お母さんかな? 帰りに夕飯の食材頼まれているから、と思って見てみたら、葉月の名前が表示されていた。あれ、どうしたんだろう? 茜と蛍に「ごめん、ちょっと電話」と一言断ってから通話状態にする。


『もっしも~し、かの~ん』


 昨日以来の安心する声が聞こえてくる。思わず笑ってしまった。


「どうしたの、葉月?」

『お土産な~に~?』

「まだ買ってないけど、何か買ってきてほしいモノでも出来た?」

『珍しいのがいい~』


 葉月が珍しがるモノかぁ。……どうしよう、カエルしか思いつかない。でもそんなの売ってるはずないよなぁ。と考えていたら、東雲さんの声が葉月に変わって聞こえてくる。


『桜沢さん、無視していいからな!』

『むー、いっちゃん! 珍しいのがあるかもしれないじゃないか!』

『やかましいわ!? お前の珍しいは碌なモノじゃないんだっていい加減分かれ!』

『かの~ん、珍しいの~。それか珍しいの~』

「あはは、何とか探してみるね」

『いっちゃん! 花音が分かってくれました!』

『桜沢さん、普通のでいい! 普通のでいいから!』


 いつもと変わらず仲良さそうな2人の会話が聞こえて、これは東雲さんと葉月とでお土産分けた方が良さそうだなと思った。それから葉月が電話を切る前に『帰り気をつけてね~』と言ってくれて、本当気遣い屋さんだなぁと思ってしまう。


「花音ぅ~。“はづき”ってぇ~?」

「ルームメイト。気を付けて帰ってきてって」

「へぇ。その人はやっぱりお嬢様なの?」

「そう、みたい」


 少し、言い淀んでしまった。私の返答に2人は首を傾げている。


 結局入学式以来、葉月の家族には触れていない。それもまた、葉月が知られたくない事だろうから。あの薬と同じように。


 ……もし茜や蛍が葉月と同室だったら、聞くかな?

 知られたくない感じだけど、それでも2人は聞くのかな?


「あのね。もし……もしなんだけど」

「うんぅ~?」

「もし……本人が知られたくない事を、知り合って間もない友達が聞いてきたら……2人だったらどう思う?」


 一瞬きょとんとした表情で「う~ん」と2人がそれぞれに考え込んでしまった。


「それってぇ……花音がそのルームメイトの秘密を知っちゃって、聞こうかどうか迷ってるってこと~?」

「あの、蛍? 私じゃなくてね?」

「バレバレだけどぉ?」

「花音は嘘つけないから仕方ないよ」


 バレバレだったらしい。茜なんか呆れたように見てくる。そ、そんなに分かりやすいかな?


「私だったらぁ~。そうだなぁ~、聞かれたら何でって思うかなぁ」

「付き合いが長い相手なら別に話してもいいと思うけどね。まぁ、どうして知っているのって、蛍と同じようにそっちの方を思っちゃうかも」

「……やっぱり、そっか」


 偶然見ちゃった……なんて言い訳だよね。それを理由に気になるから聞くなんて、そんなの本人のこと考えてなくて、自分の興味を優先させるってことだもんね。


「でも花音が気になるなら聞けばぁ? さっきの電話の様子だと仲良さそうだったけどなぁ」

「うんうん。なんか話してて嬉しそうだったよ?」

「え、嬉しそう?」

「気づいてなかったのぉ?」


 いや、いつもの葉月と東雲さんの会話聞いて楽しそうだなぁとかは思ってたけど……嬉しそうだったんだ。

 自覚なくて、つい自分の頬を撫でてしまったら、2人が笑っている声が聞こえた。それに目を丸くしてしまう。なんで?


「ああ、いやごめん。良かったって思っただけ。蛍と2人で心配してたから」

「そうそう、いい人がルームメイトで良かったねぇ、花音ぅ」

「それはまぁ、そう思うかな」


 考えてみると、葉月のおかげで変なやっかみとかないし(ルームメイトってだけで同情されているから)、葉月のおかげでナツキちゃんやユカリちゃんとも仲良くなったし(これもルームメイトって同情されたからだけど)。


「ちなみにそのルームメイト……はづきさん、だっけ? の秘密ってどんなのなの?」

「あのね、茜。そんなのホイホイ言うわけないじゃない」

「でも気になるぅ。お嬢様の秘密ぅ」

「蛍まで。いくら2人でもそれは話さないよ、だめ」


 何かの薬飲んでます……なんて言えるわけないじゃない。特に蛍に言ったら興味津々になりそう。私の返事に、「確かに」と2人は納得してくれた。


「それでぇ、どうするのぉ? 聞くのぉ?」

「……やめとく。やっぱり本人が言ってくれるの待つよ」

「まあ、それがいいかもね。根掘り葉掘り聞くのも失礼かもだし」


 私もそう思う。

 カランと自分の頼んだアイスコーヒーの氷をストローで転がした。


「自分から聞くのは、もう少し仲良くなってからかな」


 もう少し、葉月と仲良くなってから。

 今の目に見える葉月のことを、もう少し知ってからでも遅くないと思うから。


 けど、2人に話して少しスッキリしたかも。おかげで本当の意味で決心出来た感じ。聞くのはしないとは思ってたけど、やっぱり心の中にずっと残ってたから。


「ありがとう、2人とも」


 2人に感謝の気持ちを伝えたら、同時に「なんのお礼?」とコテンと首を傾げてた。その様子がおかしくてフフって笑ってしまう。そんな2人に葉月たちへのお土産が何がいいのか相談して、一緒に選んでもらった。



 後日、寮に帰ってきて葉月にそのお土産を渡したら「おお~」と少し意外そうに見ていた。カエル姿のお饅頭。探せばあるもんだなぁと感心してしまう。中学まであそこの駅前に結構行ってたんだけども。東雲さんにはエビ煎餅買ってあげたら、やっぱり喜んでくれた。彼女はエビが大好きだもんね。良かった、買ってきて。


 そしてその日の夕飯は葉月に生玉ねぎを食べてもらった。生徒会室に監視カメラつけていたって、東海林先輩と東雲さんが言ってたんだもの。だめだよ、葉月。興味半分、面白半分で覗きはね。


 泣きながら玉ねぎを食べる可愛い姿が、少しクセになりつつあるのは内緒だけど。

お読み下さり、ありがとうございます。

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