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81話 過去の清算

 


「全く……どこをほっつき歩いていると思っていたら……」



 ハアと目の前の一花がいつもの慣れ親しんだ溜め息をしつつ、横にいたあたしを見下ろしてくる。


 ……いや。

 いやいやいや。

 なんで一花がいんの?


 頭の中は軽いパニック状態。さっきまでの彼の気持ち悪さと、颯爽とあたしの目の前に現れた一花のかっこよさとで絶賛困惑中。


「で? あいつはなんだ?」

「……」

「おい?」


 呆けて一花のことを見ていると、ふと、一花の顔がいつもと違うのに気付いた。


 あ、あれ? いつもの眼鏡してない? さっきエントランスホールで会った時はしてたよね?


「……眼鏡、どしたの?」

「お前……開口一番聞くことがそれなのか?」


 明らかに呆れている半目の一花。いやいや、だって!! 眼鏡なしの姿なんて、あたし、夜に一花の寝顔をこっそり盗み見た時ぐらいしかじっくり見たことないんだけど! 何、このレア!! はっ!!


「写真撮らなきゃ!!」

「バカなのか?」

「ってうぉおい!! ふざけんな!!」

「「は?」」


 写真を撮ろうとしたあたしと、呆れまくっている一花が、同時に起き上がった彼の方に顔を向ける。そういや、こいついたや。忘れかけてた。


 ゴホゴホと咳き込みながら、自分のお腹を擦っている彼を見て、一花がさっき何をしたのか分かった。……蹴ったわけね。


「お……お前、いきなり何しやがる!?」

「蹴っただけだが?」

「あっさり言うなよ!? 痛えだろうが!!」

「そりゃそうだろ。でも急所は外したぞ。安心しろ。痣も明日には消えるくらいには加減した」

「堂々と言うことじゃないだろ!?」


 思わずうんうんと彼の言い分の方に頷いてしまったじゃん。一花、いくら急所を外したって言っても、出会って一秒も経たない内に蹴りを入れるのは普通じゃないんだよ。葉月っちのことで正常な感覚ズレてない?


「というか、あんた誰だ?」

「お前が誰――って、東雲ええ!?」


 至極真っ当な一花の疑問に、彼が今やっと一花の顔を認識したらしい。まあ、街灯あるっていっても、もう暗いもんね。


 彼が自分を知っていることに、一花は腕を組みながら考え込んでいた。多分、一花は全く彼のこと覚えてないと思う。月宮学園との顔合わせの時と、体育祭の時にチラッと会ってるだけだし。そういや、一花はあの時も蹴り入れてたな。


「あたしを知ってるのか?」

「はあ!? お前、何言ってやがる!」


 あ、これ。一花も自分のことを覚えていて当然みたいな反応だわ。なんで自分のことを覚えているって思ってるんだろ、こいつ?


「あのさ、一花。実は彼、昔あたしと一花に会っててさ……」

「昔? 舞にもこんな奴にも会った記憶がないんだが?」

「いや、うん。一花は覚えてないと思うんだけど、五年ぐらい前にね、パーティーあったでしょ? そのパーティーでさ」

「……パーティーなんてあったか?」

「「はあ!?」」


 思わず彼と声が重なったじゃん!?

 眉を顰めて、一花が訝しむような目であたしを見てくるけど、それどころじゃない!


 覚えてないのは知ってるけど、本当にこれっぽっちも覚えてなかったの!? パーティーのことさえも!? どうせ言っても覚えてないだろうなとは思ってたから、確かにあたしも何も言わなかった! 


 だけど、一花の記憶にこれっぽっちも残ってないのは予想外だよ!

 さすがに悲しすぎるんだけど!!


「ちょちょちょおお!! い、一花……あの、ちょっとでもさ、あたしの顔に見覚えあるとかないの!?」

「なんで舞が動揺してるんだ?」

「ほらほらほら!! この顔! あたしの顔ちゃんと見て!!」

「なんでお前が東雲にそんな必死になってんの!?」

「あんたは黙っててよ! これ、あたしと一花の問題だから!」


 あんな奴のことは忘れて良し! あたしも忘れてたからどうでもいい! でもあたしのことはちゃんと思い出してほしいんだけど! はっ……そうか、あの時一花が助けてくれたのがあたしだって言えば、さすがの一花も!


 とりあえず座ったままだったから、立ち上がってゴホンと軽く咳払いする。一花、その「なんだこいつは?」という目で見ない。今からちゃんと真実を言うから。


「あのさ、一花。あたしずっと言ってなかったことがあるんだけど」

「言ってなかったこと?」

「おい、俺を無視するな!」

「あんな奴は今のところ無視していいから。あのね、あたし、一花と初めて会ったのが学園に入った時じゃなかったりするんだよね」

「……は?」


 うんうん。そうだよね。驚くよね。ずっと言ってなかったし。ちょいちょいどうでもいい奴の声が聞こえてくるけど、そいつのことは思い出さなくていいから。


「そうだよね。あたしも最初に言っておけば良かったって今思うよ」

「だから俺を無視してんじゃねえよ!?」

「あーもう!! うっさい!! 今大事な話してんだから、ちょっとは黙っててよ!」


 あたしの剣幕に気圧されたのか、彼が「ひっ」とか言って動かなくなってる。よしよし、そのまま口閉じててよ。


「パーティーがあったんだよ。その時にさ、一花が助けてくれたことがあったんだよね」

「あたしが?」

「うん。そこにいる金髪長髪勘違い野郎にあたしが絡まれてるところをさ、一花が庇ってくれたんだよ」


 思い出してほしいって気持ちをありったけ込めて、ジッと一花を見つめる。「誰が勘違い野郎だと!?」とかほざいている男は放っておく。


 やっぱり覚えてないのかな……? マジでそれはかなりショックなんだけど。あの時とはあたしも見た目がかなり変わってるとは自覚してるけど、あの時に一花が助けてくれた女の子がいるってことは思い出してほしい。


 記憶を探るかのように、一花は目を瞑って、自分のこめかみをトントンと自分の指で突いていた――かと思えば、目を開けた。


「ああ。あったな、パーティー……母さんに行けって言われたやつか」


 お、思い出した!?


「確かに誰かがいじめられていたな、うん」


 そ、そうだよ! それがあたし! 

 パアっと心が晴れやかになるのを感じつつ、「それがあたしだよ!」って言おうとしたけど、一花が彼の方に視線を向けてしまった。


「そうだな。あの時は確か……寝不足が続いていて、そんな時にどっかのバカ野郎が胸糞悪いことをしてたな。なるほど……こいつがあの時のバカ息子ってことか?」

「はあ!? 誰がバカ息子だと!?」

「なるほどなるほど……あの時の、ねえ?」


 何故か一花の声が怖くなっていく。

 あ、あれ? ねえ、あたしへの反応は? あの時助けてくれたのがあたしなんだけど!!


「い、一花? あのさ、あの時一花が助けてくれたのが実はあたしで!」

「舞、ちょっと黙ってろ。あたしはこいつに用が出来た」


 なんで!? なんで興味がこいつにいっちゃったの!? 


 ここはさ、『え、あの時の子が舞なのか!?』とか、その返しにあたしがまた『あの時から実は好きだったんだよね!』とか言って、一花がまた顔を赤くするイベント的なやつなんじゃないの!?


 そんな妄想を頭の片隅で繰り広げていると、一花が真っ向から彼と向き合っている。彼は一花が自分のことを思い出したのがさっきの会話で分かったのか、「チッ!」と不機嫌そうに舌打ちしていた。


「なんだよ、なんか言いたいことでもあんのかよ? もしかして謝る気か? そうだよなぁ、元凶はそこの頭軽そうな女だけどよ。実際にはお前が俺の家にしたことだよな。謝罪なら受け取ってやってもいいけど?」


 え、こいつ? もしかして、一花に喧嘩売ってんの!?

 耳を疑ってしまう彼の言い分に、今日何度目かの衝撃を受けていると、一花が腕を組んで彼に呆れるような視線を送っている。その気持ちは分かる!


「……なるほど。お前の親は、あの時のあたしの言葉はどうでもいいと思っていたらしいな」

「あ?」

「もっと徹底的に潰してやればよかったか。まあ、まだあたしも幼かったし、あの時は他のことでも手一杯だったしな。だからと言って、こんな禄でもない人間に出来上がるとは、露ほども思っていなかった」

「なんだと?」

「お前とは会話にならないって言ってるんだ。あの場所であんなみっともない行為をし、パーティーの空気を台無しにさせ、自分の家の評価を駄々下がりさせておいて、自分は悪くないとでも思っているお前とはな」

「はあ!? なんで俺が悪いんだよ!?」

「まだ分かっていないっていうことは、お前という存在は幼稚園児以下だってことだ。星ノ天(ほしのそら)の幼等部の子の方がまだ賢い。あの時のことを謝罪するのが誰なのか、お前より分かるはずだぞ」


 バッサリと一花が言い捨てると、彼の顔がカアっと赤くなってくる。幼稚園児以下だってバカにされてるのがさすがの彼も分かったみたい。……うん、誰でも分かるか。


 でも一花、なんでわざわざ彼を挑発するようなことを? いや、言ってることは正しいんだけどさ、こんな煽るようなことは普段言わないけどな?


 一花のことを考えていると、案の定、彼が「ふざけるなよ……」とか言い出した。


「ふざける? どっちがだ?」

「俺がガキ以下だと? てめぇ、いくら東雲だからって、言っていい事と悪い事が分かってねえのか?」

「あたしは事実を言っただけだ」

「てめえみたいなチビにガキとか言われたかねえんだよ!!」


 あ……それは禁句。

 なんて違うことを思った瞬間、彼が一花の方に向けて腕を振り上げた。え、え!? まさか殴る気!?



「……正当防衛だ」



 ボソッと一花が言ったと思ったら、次の瞬間、彼が盛大に一回転して地面に倒れ伏した。


「……は?」

「もう終わりか?」


 どこ吹く風とでも言いそうな一花の涼し気な声とは裏腹に、彼が仰向けで目をぱちくりをさせている。


 ……自分でもよく分かってなさそう。そりゃそうだ。あたしでも目を疑ったもん。


 一花は彼が殴りかかろうとその握り拳を当てようとした瞬間に、体を横向きにさせた。それと同時に彼の腕と脇の間に自分の手を巻き込ませたんだ。遠心力を使ったのか分からないけど、彼の殴ろうとした力をそのまま流れさせたって言った方が正しいかもしれない。


 自分がもし一花にされてたら、絶対今の彼と同じように分からないと思う。傍から見てたから分かったって感じ。


「お、お、お前! 俺に何しやがった!?」

「ただ避けただけだ。お前が勝手に転んだんだろ?」


 いやいやいや、あたしは見た! 一花の手が動いてるの見た!


 彼が体を起こして、また一花を睨みつけている。『もうやめな?』って言いたくなってきたんだけど。


「まだやるか?」

「う、う、う、うるせえよ!!」


 転んだって言う一花の言葉を信じたのか、恥ずかしそうに耳まで真っ赤にさせた彼が、また一花に殴りかかろうとした――が、またも空振り。今度は一花がただ避けただけだ。


「くっそ、くそ!!」


 ブンブンっと彼が右へ左へと、弱そうなパンチを出しているが、一花はそれを顔だけ動かして避けている。


「なんだ、それは? 男の癖に暴力もまともに振れないのか?」

「うるせえ!」


 な、何あれ? なんであんな余裕で躱してるの? 確かに見るからに弱そうな感じだけど、それでも一花より一回りは彼でかいのに!


 そんな一花の姿にかっこいいと思いつつ、でもあの長ったらしい金髪を振り乱している彼がどこか可哀そうな気分になって、なんとも複雑な気分。


「避けんじゃ、ねえよおおお!!」

「バカか?」


 体力がないのか、彼が息切れをしつつも、叫びながら今までより一番振りかぶって、一花目掛けて拳を出した――けど、一花の方が早かった。


 その拳を一花が取り、彼を引っ張ると同時に一花が飛び上がった。その小さい体が宙を舞う。


 そのままガンっと彼が地面に俯けに倒されて、一花が腕を捻ったまま彼の背中に馬乗りになった。


 ……やばい、かっこよすぎる。


「いってえ! いてえ! 離せっ!」


 みっともなく叫んでいる彼の姿が哀れだけど。


「悪いな。これが痛いことだっていうのが、今のお前でやっと分かった」

「はあ!?」

「あたしはな」


 一花が彼の腕を更に捻ったのが分かった。痛そう。


「何年もいつ何するか分からない馬鹿野郎をずっと相手にしてきたから、普通の手加減ってものが分からないらしい」


 ……葉月っちのことですね! しかも葉月っちは痛覚がなかったって言ってたから、それで加減が分からなくなるのも無理はないかもね! 


 ……ってんなわけない!! あたしへのツッコミ蹴りはかなり手加減してくれてるじゃん! 一花、絶対あのチビだって言われたことにキレてるだけだよね!?


「は、なせ! いてえ! マジでいてえ!!」


 バンバンって、彼が空いている手を地面に叩きつけていた。本当に痛そう。


「い、一花? もういいんじゃない?」

「ふん……」


 恐る恐るといった感じで一花に話しかけたら、横目であたしを見てからつまらなそうに彼の腕を取っていた手を離して立ち上がってくれる。意外にもすんなりとあたしの言う事聞いてくれたんだけど!


 彼はというと、体を起こしてから腕を擦っている。立ち上がった一花を睨みつけながら。目と鼻から水を流して、なんとも情けない顔になってるけど。


「お、お前……異常だぞ! 俺にこんな怪我させて! 訴えてやるからな!」

「いや、いやいやいや、ちょっと無理がある!」


 更に情けない事を言い出したから、さすがに口を挟んじゃったよ! でもないでしょ! 訴えるって! あんたから吹っ掛けたんだよ!?


「正当防衛だと言っただろうが。まあ、いい。訴えるなら訴えてみろ。泣くのはお前だが?」

「脅しか!? 最悪だな、お前! 東雲だから好き放題するってことかよ!? 怪我させておいて!」

「ああ、もう! だからそう言うのやめなって! 一花もさ、チビって言われてキレてるのかもしんないけど、ちょっとは落ち着きなよ!」


 なんであたしがこんな仲裁みたいなことをしなきゃなんないのさ!? っていうか、こいつ本当にバカすぎるんだけど! 頭にまだ血が上ってるのか知らないけど、一花が本気出したらそんな怪我じゃすまないって絶対! 


 二人を見比べながら、オロオロとどうすればいいか考えてると、一花が肩を竦めて彼を見下ろした。彼は一花が一歩近づいただけで「ひっ!」と情けない声まで出している。


「お前……舞に謝ることがあるんじゃないのか?」

「……は?」


 彼も呆けていた声を出していたけど、あたしも心の中で「はい?」と思っちゃったよ。い、一花? いきなりどうしたの?


「お前があのパーティーでやったことはただ女の子をいじめただけだ」

「ち、ちげえ! 俺はただ俺らの世界の常識を教えてやっただけ――ひっ!」


 彼の言葉を遮るように、一花が彼の胸倉の服を掴んで引っ張っていた。ぎぃぃやああああ!! 一花の可愛かっこいい顔に、あのぶっさいくな顔が近づいてるぅ!! しかも眼鏡なしのレア! あたしが近くで見たいのに!


 と、あたしが違うことに頭の中で叫んでいると、


「自分の大事にしている父親をバカにされて、それを教えてもらってありがとうとお礼を言う子供がどこにいると言うんだ!」


 ちゃんと……覚えててくれたんだ。

 ジンっと、その一花の言葉が胸に響く。


 怒ってる。

 一花が、あたしの為に怒ってくれてるのが分かる。


 うわ、どうしよう。嬉しすぎるんだけど。


「お前だったら言うのか? あたしがお前に『お前の父親は、ただ血筋だけで能力も何もない木偶の坊だ』って言ったら、ありがとうございますと!」

「お、親父はそんなんじゃな――!」

「だったら、誰が悪いのかハッキリと分かるだろうが」

「そ、それは……」


 さすがの彼も、一花の言ったことを理解したみたいで言い淀んでいた。


 ――あたしはそれどころじゃないんだけどね! 何これ、めっちゃ今嬉しいんだけど! 


 あの時助けてくれたのが、あたしのことだよって言う言葉を聞いててくれたのも、ちゃんとそのことを思い出してくれたのも、


 何よりも、


 あたしがパパを大事にしてるってことも、



 全てちゃんと分かってくれていたことが、嬉しすぎる!



 ギューっとこれでもかと、自分の心臓が鷲掴みされる感覚に打ち震えていると、一花が突き放すように彼の服を離していた。


「謝ることがあるだろう?」

「っ……」


 言いたくないのか、彼は何も言わない。髪が長いせいで、顔を俯かれると表情が見えない。


 プライドが高いっていうのは、もう再会してからもあのパーティーの時からも分かってる。彼にとって謝罪はするものじゃなく、させるものだったんだと思う。


 でもさ、もういいんだ。

 一花がそう言ってくれただけで、あたしはもう十分なんだよ。


「あのさ」


 屈むように膝に手を置いて声を掛けても、彼は何も言わない。


「別に謝罪はもういいや、あたし」

「……は?」


 やっと彼が顔を上げた。複雑そうな表情だな。

 あたしへの気持ちも自覚なし、謝罪の意味は今の一花に言われたことでやっと理解、でも実際に謝るのはプライドが邪魔をする。


 そうやって考えると、こいつ、本当に何も考えてないし、考えようともしてないじゃん。


 だけどさ。


「さっき言ったじゃん、ありがとうって」


 へへっと笑うと、「はあ?」と訳分からなそうに眉を顰めている。いやいや、言ったじゃん。ちゃんとさ。


「あんたがあたしをいじめてくれたから、一花に会えたんだよ」


 きっとそうじゃなかったら、あたしは一花に会えなかった。

 相手にしてもらえなかった。


 一花に恋することが出来なかった。


「パパのことももういいや。あんたにどれだけパパのこと悪く言われてもさ、パパがすごい頑張ってることも、娘想いの良い父親だってことも、そんなパパを慕っている一杯の人たちがいることを、あたしが一番知ってるから」


 だからパパは今の会社をここまで大きく出来たって自信もって言える。そういうパパが一花の両親にも認められているってことが嬉しいしね。


 絶対パパのことは謝ってほしいって思っていた気持ちも、一花が全部認めてくれていた事実が嬉しくて全部吹き飛んじゃったよ!


「お前……そんなんでいいのか?」


 呆れたような一花の声が隣で聞こえたから、一花の方を振り向いてまた笑ってから力強く頷いた。


「いいんだよ。もうお互いこれっきりってことでさ」


 その方が絶対いい。あたしももうこれ以上こんな奴に構われたくないし、変な執着してほしくないしね。あ、そうそう。


「あとさ、さっきみたいに変な解釈しないでよ? あたしはあんたのことなんか、これっぽっちも好きじゃない!」


 もうハッキリと言い放つ。


「照れ隠しの必死アピールじゃないから! 構ってほしくてこんなこと言ってるわけじゃないってことだけはちゃんと理解してよね!」

「……」


 はあ? とでも言いそうな彼の表情。うん、これ絶対まだまだ信じてない! 隣では一花が何の話なのか分からなそうに首を捻っている。一花にも誤解されたくない!


 グイっと一花の腕を引っ張って無理やり自分の腕を絡ませると、一花の「は?」と呆けた声が聞こえてきた。今だけは一花に何も言わせないから!


「お、おい、舞? お前急に何を?」

「あのさ! あたしが好きなのは、この一花だから!」

「は……?」


 堂々と一花への気持ちを彼に明言すると、彼にとっては予想外だったのか、目を大きく見開いている。


「あたしが好きなのは一花! あんたじゃない! だから余計な勘違いしないように!」

「まま、舞!?」

「一花はちょっと黙ってて!」


 一花にとっては『なんでこんなところで急に告白!?』とか思ってるんだろうけど、今はこいつに現実を突きつけてやる!


 その当人の彼は、「何言ってんだ、こいつ?」みたいにまだ目を丸くさせているけど。


「だからさ! あたしがあんたの玩具になるのも、恋人になるのも断固お断りだから!」


 あんたの入り込む余地なし! 断言できる! 今だって、さっきの一花のかっこいい庇ってくれる姿で胸がいっぱいだから!


 ……まあ、一花がいなくてもこいつに惚れることはまずないんだけどさ。


 だって、



「純粋にあんたの顔も性格も、あたしの好みじゃないしね」



 つい本音をボソッと呟いたあたしの声が届いたのか、彼が明らかにショックを受けてそうな顔をした。


 ……あれ? もしや決定的なダメージを今与えちゃったのでは?


 隣の一花の顔が少し引き攣っていた。


お読み下さり、ありがとうございます。

あと4話で終わる予定です(あくまで予定ですが……)。

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