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76話 え、壊れた?

 

「せっかくあのパーティーの時、この俺が構ってやったってのによ! なんで忘れてんだよ!? ありえねえんだけど!」


 自分で何言ってるのか分かってるのか分からないのか、こっちはそれどころじゃない。


 こいつが? あの時のバカな男子? 


「いやいや! どんだけ様変わりしてんの!? 分かるはずないって!」

「俺の格好のことをとやかく言われたかねえんだけど!? お前だって変わってるだろうが!」

「いや、あたしは今も昔も可愛いし!」

「どこがだ!? その派手な見た目で、俺だって一瞬誰だか分からなかったわ!」


 派手な見た目はお互い様でしょうが!?

 なんてツッコむところが違うのにも関わらず、心の中で目一杯叫んだ。そんなどうでもいいことしか浮かばないぐらいに動揺している。頭の中を駆け巡ってるのは、あのパーティーの時の記憶。


 こいつとその連れに、パパのことを悪く言われたのをハッキリとまだ覚えているんだから。あ、思い出してだんだん腹が立ってきた。あの時のこと、あたしめちゃ怒ってるんだからね!


「あのさ、さっきからあたしのせいだとか言ってるけど、全っ部あんたの自業自得じゃん! 怒ってるのはこっちだし! そりゃお父さんからも怒られるでしょうよ! しかも何? 構ってやった? 誰も頼んでないっつうの!」

「はあ!? お前が会場中をキョロキョロと見てたから声掛けてやったんだろうが!」

「いやいや、ただのいじめだから、あれ! パパのこと悪く言ってきたのはそっちじゃん!」


 お互いに譲らない。譲れない!

 あのパーティーはさ! パパが楽しみにしてたパーティーだったんだよ! それをあんたが台無しにしたんじゃんか!


 あ、でも。


「一花に会えたや……」

「は?」


 ついついボソッと呟いたら、分からなそうに鍵宮とかいう、あたしに昔ちょっかい出してきた男が眉を顰めた。


 だけど、そうだよ。

 あの時、一花に会えた。

 こいつがあたしに絡んできたから、一花が助けてくれた。


 ……あれ? もしかして、こいつ恋のキューピッド?


「え、ありがとう」

「何がだよ!?」


 さらに何故か大きな怒鳴り声が飛んできた。いや、自然とお礼を言っちゃった。ごめんごめん。いきなり言われたら、そりゃ何のことか分からないか。


「いや、あんたがバカやったおかげで一花が助けてくれたんだなって思ってさ。これは感謝しかないし」

「お……お前……」


 あれ? ちゃんとお礼の理由を言ったのに、なんでそんな怒ってくるのさ? ああ、でもそれとこれとは別だわ!


「一花に庇ってもらえたのは感謝だけど、パパのことは別だから! ちゃんと謝ってほしいんだけど!」

「なんでこの流れで俺がお前に謝らないといけないんだよ!? お前が謝れ! お前のせいだってさっきから言ってるだろうが!」


 はあ? あたしが謝る必要がどこにあんのよ!?


「だから、それもあんたの自業自得って言ったでしょ。あんたがあたしをバカにしたから一花が怒ってくれたんじゃん。なんでそんなことも分からないわけ?」


 あの時着てたあたしのワンピースだって、あれ、パパがせっかくそのパーティー用にって買ってくれたものだったのに! お気に入りだったんだからね!


「分かってないのはどっちだよ!? お前みたいな成金家族が来るパーティーじゃないってあの時散々教えてやったろうが! つまり俺の親切だっつうの! それをなんだ!? 東雲家にどう取り入ったのか知らねえが、親父の会社の取引先をバシバシと潰しやがってよ!」


 それが全く分からないのか、彼が次々と逆恨み全開の恨みつらみを吐き出してきた。聞いていて呆れてしまう。あたしも花音や生徒会メンバーと比べるとそこまで頭良くない方だけどさ、そのあたしよりこいつバカだわ。


「どこをどうやったらあれが親切になるのさ? あと、会社の取引先をいくら東雲家でもバシバシ潰せるわけないじゃん。潰されるってことはさ、そこに何かの原因があったってことでしょ?」

「うるせえよ! あんな急に取引が中止になるわけないだろうが! 兄貴が今どれだけ大変な目に遭ってるか、何も知らねえくせによ!」


 兄貴? ああ、そういえば月宮学園の生徒会長さんもそんなこと言ってたよね。確か、そのお兄さんに言われてこいつを生徒会に入れたとかなんとか。


 ……それってよく考えてみると、お兄さん、こいつの存在のこと持て余してる? つまり振り回されてるんじゃ?


 自分の中でふとそんな考えが過って、ジーっとよく彼の風貌を見てみる。長髪で金髪、ピアス、着崩した服――うん、どっからどう見ても不良みたいな恰好じゃん。似合ってないし。


「兄貴が親父の会社を引き継いで、四方八方頭下げてんだよ! 俺ら鍵宮家がだぞ!? 名家なんだぞ!?」


 いや、知らないよ、鍵宮家。鴻城(こうじょう)家や東雲家、鳳凰先輩の鳳凰家とか如月家、九十九先輩の九十九家とかなら昔から色々な分野で名前を聞くし、政治家も何人か輩出してるからさすがに分かるんだけど、鍵宮家は知らないよ。


「全っ部、あの時のことが原因だって、それぐらい俺だって分かるっつうの!」


 分かってないわぁ。全く分かってないわぁ。


「つまりさぁ……あんたのお兄さんが今はあんたの尻拭いしてんじゃないの?」


 だってあたしのことだけじゃなくて、月宮学園でも問題児扱いなんでしょ? 女の子に手を出すは、夜の街を出歩くは。大方、その夜に出歩くっていうのも、ナンパとかしてんじゃないの?


「兄貴が? んなわけねえだろ!」

「お兄さん、あんたのことで会長さんに謝ったりしてんじゃない?」

「それはっ……」


 いきなり悔しそうに口を噤んだ。ああ、うん。そんな顔するってことは、その光景を見たことあるんでしょ?


「あんた、月宮学園でも評判悪いじゃん。夜もさ、よく出かけてるんだって? 女の子にもよく手を出すって聞いてるし」

「あいつらが俺のことを誘ってんだよ! 最初は乗り気だったのに、いきなり断るあの女どもが悪いんじゃねえか!」


 なんか悲しくなること言ってるんだけど。それってお金か家の名前かで擦り寄ってきたんだけど、その価値ないって見切られてるってことじゃないの? 花音にもそんなこと言ってたし。そりゃ断るよ。今までのあんたの言動で分かる。あたしに逆恨みしてる時点で、魅力ないしね。


「どいつもこいつもよ……俺はありえなくねえし」


 いや、ありえないよ。お兄さんに頭下げさせて、数年前のことを逆恨みして、挙句の果てにはその相手に現状の責任を全て押し付けようとしてるじゃん。自分の言動のせいなのに。


 苛ついてるのか盛大にまた大きく「ちっ!」と舌打ちしているその姿を見て、本当、バカらしくなってきた。このまま相手するのもバカらしいんだけど。


「あのさ……」

「ああ!?」

「あんたが現状に苛ついてるのは分かった。それをあたしのせいにしてるってのも。あのパーティーがきっかけで、東雲家にも目をつけられた。そんでもって、そのせいであんたのお父さんの会社が上手くいかなくなった。その会社を今はお兄さんが継いでるけど、周りにヘコヘコ頭下げてるのが気に入らないし、女の子たちも鍵宮家っていう名家についてこなくて離れてく。これで合ってる?」

「……ふん、なんだよ。やっとわかっ――」

「それ、あたしのせいじゃないから。あんたがその意味わかんないお家主義と、そのプライドの高さが原因だから」

「……は?」


 容赦なく正論を真っ向から叩きつけたら、ポカンとした間抜けな顔をしている。いやいや、そんな分からない話じゃないから。


 ハアと今度はこっちが盛大に見せつけるように溜め息をついた。


「その名家だからとやらに、やけに拘ってんじゃん。そのせいで色んなことがねじ曲がって見えてんじゃないの? そんなんだからお兄さんからも怒られるし、女の子たちも離れるから」

「な、な、なぁ!?」

「随分プライド高そうだけどさ、それでなんで人が寄ってくると思ってんの? しかも自慢が名家だからだけ? あんたは何してんのさ? お兄さんの会社で何か功績とかあげた? 女の子たちにどんな思いやりを言葉や行動で示したのさ?」

「なんで俺が! 兄貴の会社だって、周りの連中が頭下げるべきだろ! 鍵宮家が経営してる会社なんだぞ! 向こうから取引してくださいって言うのが当たり前だろうが!」

「いや、当たり前じゃないから。メリットがないなら会社同士の取引は成立しないでしょ」

「おおおお思いやりなんて、あいつらが俺にするべきだろうが! 俺と付き合えるだけで、鍵宮家と縁ができるんだぞ!?」

「縁だけを求めてるわけないでしょ。恋愛は」


 バカなの? あたしは違うよ。


 一花ともっと話したいし、楽しい時間を過ごしたい。

 一花が辛いなら、ちゃんと支えたいし分かち合いたい。

 一花が笑ってくれるだけで、幸せになれる。


 もっともっと、その人と一緒に楽しんで笑って、手を取り合う。


 そんなことも知らないなんて、こいつがどんどん可哀そうに見えてきた。


「っ……っ……」


 何もあたしに反論できないのか、彼はギューっと唇を噛んでいる。


「もっと現実を知りなよ」


 そんな彼にそう伝えるしか出来ない。


 家だけを誇りにして、それをグシャッと踏みつぶした感はあるけど、でも知るべきだと思う。


 お兄さんが頭を下げるのをカッコ悪いと思う所。

 周りが自分に頭を下げるのを当たり前だと思っている所。

 女の子たちが離れる理由。


「あたしは、あんたのお兄さん、カッコいいと思うよ」


 家族の為に、周りに頭を下げている。

 会社の為に、頭を下げている。


 それは守るためなんじゃないの?


「あたしは、自分のことを考えてくれる人を、大事にしたいと思うよ」


 一花は恋愛じゃなくても、あたしのことを考えてくれてはいた。

 葉月っちのことを一番大事にしていても、常に心配してくれた。


 あたしが元気なさそうな時は、あたしのお気に入りのアイスを買ってくれた。

 葉月っちが去年文化祭前に刺された時も、「大丈夫だ」って安心させてくれた。


 女の子たちだってそうなんだよ。


「家のこと関係なく、あんたがどう周りと関わってきたか、考えなよ」


 パパのこと悪く言ったのは許せないけど、ずっとあたしに逆恨みして生きていくのはしんどいでしょ。


「……」


 彼は顔を下に俯けて、何も言わない。


 もういいか。これ以上、あたしもこいつに構ってやる時間は勿体ない――



「……うるせえ」



 ――と、もうさっさと寮に帰ろうと思ったら、そんな声が聞こえてきた。


「うるせえ……うるせえ、うるせえ、うるせえうるせえ!!」


 え、壊れた!?


「うるっせえんだよ! お前が俺に説教とかしてんじゃねえよ!!」


 全くあたしの言葉が届いてないっぽい! いや、あたし、真面目トーンで伝えたよね!?


 ビシッと彼があたしに対して指を差してきた。人に指を差すな!


「お前が悪いんだろうが!」

「はあ!?」

「お前がもう全部全部全部悪いんだよ!」


 どんだけあたしを恨んでるのよ!? 逆恨みだけど!


「いやいやいや、だからさぁ! それあんたの逆恨みだっつってんじゃ――」

「お前のせいなんだよ! お前の!!」


 うわぁ……全く言葉が通じないんだけど、どうしたらいいわけ、これ!?

 フーフーと顔を赤くさせて、もう見るからに切れてますって顔をしている彼に言葉が出てこない。


 え、これ……なんかやばい? 


 こいつ、もう実力行使であたしに何かして――



「お前がいつまでもいつまでも、俺の頭に出てくんのが全部悪いんだよ!!」



 ……あ、頭?


「俺が、声を掛けてやったのに! 歯向かいやがって、口答えして!」


 歯向かう? 口答え? いや、それは確かにしてるけど――


「お前はな! ただ黙って、俺の言うことを聞いておけばよかったんだよ!」

「はあ!? 誰があんたの言うことを聞――」

「最初会った時みたいに!!」


 あたしの言葉を遮って、それでも彼は怒ったような声で叫んだ。



「俺のことカッコいいとか言ってればよかったんだよ!!!!」



 ………………は?


「お前が笑って、俺の事カッコいいとか言ってきたから! だからお前の相手をしてやったんだろうが!!」


 い……

 いい…………



「それを話すと、あの女ども! ありえないとかなんとか言ってきてよ! だからお前のせいなんだよ!」



 言ってないんですけどぉぉぉぉぉ!?

 カッコいいなんて言った覚えない! 

 マジでない!


 いや、待て待て待て待て!

 なんか、この流れおかしくない!?

 なんでその妄想話をして、女の子たちがこいつをありえないっていうのさ!?


 そんなあたしの動揺に気づいてないのか、彼は決定的な言葉を投げつけてきた。



「お前があんなこと言ったから! そのせいでいっつもお前のこと思い出して! ふざけんな! なんでそれを正直に言って、ありえないとか言われなきゃならねえんだよ!」



 はあああああ!!??


 そそそそそれ……それってつまりぃぃ!?



「何が『好きな子に悪戯して嫌われて、自分が悪いことに気づかないことをずっと引き摺っててありえない』だよ!? 俺がこんな女を、好きになる訳ねえだろうがぁ!!」



 ここで告白ぅぅぅぅ!?



お読み下さり、ありがとうございます。

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