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71話 さっぱり分からん ― 一花Side

本日二話更新します。

 

 無駄にシーンと静寂に包まれている部屋。

 あたしも茫然と開かないドアに視線を向けていた。


「…………はあ??」


 誰もいないけど、そんな呆けた声が出てくる。


 いやいやいや…………はあ!?

 意味が分かんないんだが!?


『一花から好きか嫌いかの答え以外出てこないなら、出てくるまで諦めないから!』


 そう言って、何故かあたしじゃなく舞が出て行った。


 ……いや、なんだ、この状況?

 今の状況がさっぱり分からない。何がどうしてこうなった? おかしいだろ。あたしがここから出ていくって言ったよな?


 全く状況を掴めず、全然思考が働かない。というか、さっきまで昔の話をしたせいか、フラッシュバック起きててどうしようもなかったんだが……途中からそんなこと忘れていた。


 フラフラフラと足取りおぼつかず、自分のベッドに倒れ込む。ゆっくりと自分の手を視界に入るように動かして見てみると、全然震えていない。フラッシュバックも起きていないし、体も震えていない。


「なんだ、これ……」


 初めてだ。こんなこと。

 いつもは体が震えて、ずっとあの記憶が流れてくるのに。


 途中からあいつが意味分からんことを言ってきて、それどころじゃなくなった。


「ハア……」


 ボフっとその手を布団に沈めて、天井をつい眺める。

 思い浮かんでくるのはやっぱりさっきまでの舞とのやり取り。姉さん、あいつに言ったんだな、なんてどうでもいいことも思い出した。なんでまた、姉さんが舞に喋ったんだか。


「最悪だ……」


 自分もまた、何も知らない舞にぶちまけた。


 八つ当たりに近いだろ、あんなの。いくらあいつが葉月の命を軽んじた発言をしたからと言って、あんなの冷静に聞けば、つい言ってしまったと分かるようなものなのに。


 全然冷静になれなかった。


 ハアと息をついて眼鏡を手に取り、クルクルと動かして、その様を眺める。


『何をどうやったら、全部を分かることが出来るっていうんだ!?』

『知らない人間を、どうやって好きになるっていうんだ?』

『お前の好きは、好きじゃない』


 自分で言い放った言葉を頭の中で反芻する。


 さすがにあれを言ってしまった時は、自分でも驚いた。いくら舞に諦めてもらいたかったからって、あんな風に自分の口から出てくるとは思わなかった。


 だけど、実はそう思っていたことも事実だ。


 否定をしたかったのかもしれない。

 あいつの気持ちを。


 上辺だけの優しいあたしを見ていないし、知らないあいつが、どうやって好きになるんだ? って。


 最低だと思う。

 自分に好意を持っているその気持ちを否定するとか。


『自分が楽になる為なら、殺すことに何も躊躇わない最低なクズなんだよ!』


 一番最低なのは自分だというのに。


 なのに、


『馬鹿だよ、一花は!』


 そんなあたしの言葉を逆に舞は全否定してきた。


『一花は、結局あたしのことどう思ってるのさ!?』


 しかも、結局あんなことをまた言い出したから、もう何も言葉が出てこなかった。分からせようと、あいつを押し倒して力尽くで思い知らせたっていうのに。


「なんなんだ、あいつは……」


 訳分からん。

 いや、もう本当に訳が分からん。


 なんで結局そこに行きつくんだよ? 怖いって思わなかったってのか? 危険だからあたしといない方がいいって言ってるのに。いや、あたし自身もそんなことをこの先選びたくないから、あいつとは距離を置きたいって思ってるんだよ。


 ……だから、もう訳分からん。

 なんであいつがあんなにキレるのかも。


「ハア……」


 ボフっと眼鏡ごと、自分の腕を布団に沈める。


 どうやったら、あの馬鹿野郎を諦めさせることが出来るっていうんだ? 

 言うべきことはもう全部言った。あたしが思っていることも危険性も、全部だ。きっとさっき舞に言ったことまで姉さんも伝えてないだろうし。


『ちゃんと考えてよ! もっと自分があたしのことをどう思ってるのか、ちゃんと考えてよ!』


 あたしがどう思っているか?

 受け入れられない、としか考えてなかったんだよ、本当に。


 舞のことをどう思っているか、ね。


 ……改めて言われてみると、



 …………分からん。



「馬鹿で単純で、葉月と妙に気が合って……」


 ぶつぶつと今まで思っていたことを呟いてみる。


 ……全っ然分からんな。

 好きか嫌いかで言ったら……嫌いじゃないって答えにしかならんのだが。


「そう言ったら、さすがに諦めるのか??」


 口に出してはみたものの、舞が諦めるかは微妙な気がする。

 何せ、あいつが求めている答えは、恋愛対象としての好きか嫌いかだろうから。


 恋愛対象……。

 あたしが?

 舞を?


「……さっぱり分からん」


 他人がそういう風に見ているのは、花音や葉月で分かるんだが、自分のことになるとさっぱり分からん。前世も今世もそんなこと考えている余裕なんかなかった。


「どうしたもんか……」


 ハアと溜め息が出てくる。葉月のこと以外でこんなに疲れるのは、この世界に生まれてから初めてかもしれない。


 あたしがどう思っていようが結論は変わらないんだから、さっさと諦めてくれればいいものを。バカで単純なんだから、さっさと受け入れて、次の好きな人を早く見つけた方が時間の無駄になんないと思うんだがな。


 そうなると……あいつの隣にいるのは、あたしじゃない違う誰かになるわけで……。


「……変な感じだ」


 そんなことを想像してみたら、まっっっったくと言っていいほど、想像がつかない。全然そんな誰かを想像できない。


 ……違う意味で心配になってきたんだが?


 あたしじゃない誰か。

 違ういい人。


 ……舞がバカやって呆れられて、見放されて捨てられ、その相手に泣いて縋る未来を想像してしまったんだが?


 あいつ……花音と葉月みたいに、いい人見つかるよな? そうだよな? 何万、何億の人間がいるから、その中の一人はあいつを幸せにしますとか言ってくれるよな?


 めちゃくちゃ心配になってきた。


「……何考えてんだ、自分は」


 ついつい自分にツッコんでしまう。


 こんな変な心配してしまうのも、あいつがあたしを全く諦めてくれないからだ。


 ハアとまた深い溜息をして、目をゆっくり閉じる。

 あいつが昔のことを言いだしたせいで、落ち着いたとはいえ、さっきはかなり苦しかった。しかも全然話はまとまらなかったから、余計疲れを感じる。


 どんどん思考が鈍くなるのを感じた。


 ああ、一応、母さんから貰った薬飲まないと……いや……でも大丈夫か……もう、落ち着いたみたいだ……し……。


 そのまま眠ってしまったみたいで、気づいたら朝になっていた。テーブルの上には昨日の夜、あたしが寝ている時に届けてくれたであろう花音のご飯が、冷めきった状態で置いてあった。


 あれ? 結局何にも答えは変わっていないんだが?


お読み下さり、ありがとうございます。

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