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32話 再勧誘?  —花音Side※

 


 確認のために、こっちから切り出した。


「……東海林先輩、私に生徒会に入ってほしいということですか?」

「ええ。もちろんあなたの意思を尊重するけど、入ってほしいと思ってる」


 やっぱりそうなんだ。その申し出は本当は素直にありがたいとは思っている。ユカリちゃんやナツキちゃんから、生徒会は優秀な生徒をスカウトするのが慣例だって聞いてるから。優秀だって認められていると感じられて、嬉しくは思う。


 けど……やっぱり……。


「……すいません、先輩。昨日も会長たちには話したんですが……お断りしたいと思っています」

「……理由を聞いていいかしら?」

「学業に専念したいんです。思ったよりも授業についていくので精一杯で……」


 本当に、精一杯。最近やっと勉強の速度に慣れてきた感じだけど、でも手を抜くと絶対ついていけなくなるのが分かる。それに私は成績を重視したい。


「いや、桜沢さんなら大丈夫じゃないか?」


 意外にも東雲さんがそう言ってきてくれた。大丈夫だって思ってくれてるんだね。ありがとう、東雲さん。だけど……。


「んー……そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、成績落とすわけにはいかないんだよね」

「あ~そっか。花音は特待生の枠から外れるわけにいかないからか」

「そういうこと」


 舞が代わりに代弁してくれた。特待生の審査は一年に一回。ずっと首位を取り続けなきゃいけないわけじゃないっていうのは知っているけど、でも落とすわけにはいかない。特待生枠を外れたら、学費は残念だけど払えない。お父さんたちが制服代とかを払ってくれただけでも感謝なのに、これで特待生枠外れて退学になりました、なんて申し訳なさすぎる。


「でも、桜沢さん。あなた、中学の時は生徒会に入ってたのよね?」

「それは……そうですね。けど、あれは学業と両立出来てたからですし……手伝う程度だったので」


 そういえば寮で先輩と話したことがあったかもしれない。でも本当にお手伝い程度。詩音と礼音のお世話を優先していたから。


「桜沢さんは生徒会に興味がないのか?」


 東雲さんがまた口を開いた。どうしたんだろう、なんか一生懸命な気が……まあいいか。

 興味……ない訳じゃないけど……手伝いは面白かったし……ついそう口に出してしまったら、今度は東海林先輩が提案してきた。


「桜沢さん的には学業との両立が問題なのね。それだったら問題ないわよ? 私たちでも分からない事は教えられるし」

「え……? うーん……」


 東海林先輩が? それは魅力的かも……一回だけ寮で教わったことある。とても分かりやすかった。生徒会に入ったら、この場所でも教われる。


 でも……。


 チラッと葉月の方を見たら、きょとんとした顔を向けてきた。


「……葉月はどう思う?」


 目をパチパチとさせていた。でも聞いてみたいかも。


「寮長の教えは上手いからいいとは思うけど、花音は本当はやりたいの?」

「んー……そう言われると迷うっていうか」

「興味あるならやってもいいと思うけど?」


 そっか……葉月は応援してくれるんだ。

 ……実は葉月と夕飯を一緒に食べるの、気に入ってたんだけどな。美味しそうに食べてくれるから、見てて気持ちいいっていうか。けど、もし生徒会に入ると……


「うん……ただ帰りがいつもより遅くなるかなって思って……」

「ん~? それが何か駄目なの?」

「葉月のご飯作れなくなっちゃうかなぁと……」

「え? それはやだ。花音のご飯食べたい」


 あ、それは思ってくれるんだ。少し嬉しい。でも葉月を待たせるのもな……葉月は食堂でも本当は食べれるから。お金持ちだからね。


 東雲さんも「食堂で食べさせるから気にするな」と言ってくれている。葉月が食いついているけど、全く無視しているね。葉月、そんなに食べたいと思ってくれているんだね。思わず笑っちゃった。


「あはは……違うの、東雲さん。私も葉月にご飯食べてもらうの嬉しいから。ただ、帰りが遅くなると、葉月のご飯の時間と合わなくなるなって思って」


 作り置きとかすれば葉月もお腹空かせる必要ないとは思うけど、一緒に食べるのは厳しくなるかなぁ。お腹空かせちゃうとすぐカエルとか食べちゃいそ――


「じゃあ、花音の帰ってくるの待ってる。それから作って?」


 ――いいの?

 待っててくれるんだ?


 思わぬ言葉で、少しポカンとしてしまった。

 でも東雲さんと舞が葉月を責め始めちゃった。大丈夫だよ、東雲さん。図々しいとか思わないよ。舞も、葉月のご飯作るの負担とかは全然無いからね。


 2人の非難を受けて、むーっと頬を膨らませている葉月。それを見ておかしくて笑ってしまう。


「葉月、私が帰るまで夕飯我慢出来る?」

「っ! 出来る!」


 パアっと表情を明るくして即答してくれた。そっか。じゃあ、これからも葉月と一緒にご飯食べれるね。


 生徒会に入る懸念事項が消えてしまった。じゃあ、興味あるんだから、やってみるしかないよね。と思って東海林先輩に向き直った。


「東海林先輩。勉強、合間に見てもらってもいいですか?」

「っ!! ええっ! もちろん! それじゃあ……」

「私なんかで役に立てれば」


 東海林先輩が嬉しそうに「歓迎するわ」と言ってくれて、他の生徒会メンバーに確認を取ってくれる。他の人たちも頷いてくれて、こうして私は生徒会に入ることになった。これから忙しくなるなぁ。



 □ □ □


「あ、舞。ちょっと待って」

「どうしたのさ? もうすぐ昼休み終わるよ?」

「葉月に朝ハンカチ渡すの忘れてて、お昼休みでいいかと思ってたんだけど、それも渡すの忘れてたから行ってくる」

「ハンカチぐらい大丈夫じゃないの?」

「今朝みたいにまた草むら入るかもしれないし」


 そうしたら綺麗な制服も汚れてしまう。今朝は私が土を取ったんだよね。東雲さんに頼んでおこうと思い、踵を返して、さっき別れた2人を追いかけた。


「さっすが、いっちゃん!」


 あ、葉月の声。

 曲がり角の向こうで葉月の声が聞こえた。良かった、まだ近くだっ――


「あのな、葉月……それはあくまで毎日飲むものじゃない……分かってるよな?」


 ピタッと足が止まってしまう。

 毎日……飲む……?


 ――もしかして夜の?


 思い出されるのは毎晩何かを飲んでいる葉月の姿。

 でも……毎日飲むものじゃないの? 


 疑問に思ったら、「……勿論だよ、いっちゃん」という分かっているような声が聞こえてくる。


 葉月も……分かってる? じゃあどうして毎日……


「……桜沢さんに部屋を替わってもらうか?」


 ドクンと心臓が大きく脈を打つ。

 東雲さんの言葉がズシリと重く胸に響いてきた。自分じゃ葉月のルームメイトは無理だと言われている気がしたから。


「……ん~? 大丈夫だよ……?」

「…………そうか……」

「うん……ありがとね、いっちゃん」


 葉月がそう言ってくれたことに、安心している自分がいた。


「……昨日みたいに用量だけは間違えるな。あと前みたいな使い方はするなよ?」

「分かってるよ~いっちゃん」


 また気になる言葉が出てきた。用量……? あの薬には用量が、あるの? 前みたいな……使い方?

 だけど、それから2人の足音が遠ざかっていく。


 結局、ハンカチは届けられなかった。

 さっきの2人の会話が頭から離れなくて、その場所に立ち尽くす。


 何の……話だったんだろう……。

 部屋を替わることを、東雲さんが葉月に聞いていた。

 “私”じゃなく、葉月に聞いていた。

 東海林先輩は“私”に言ってきたのに? 葉月自身も“私”に言ってきたのに? どうして?


 それに毎日飲んでいる……あの薬。

 何の薬なの? でも東雲さんは分かっている感じだった。


 ……そういえば、朝……東雲さん、サイドテーブルの引き出しから何かを取り出していた……プラスチックのケース……あれが……もしかして薬?


 グルグルと疑問が頭を駆け巡ったけど、答えは一向に分からない。


 疑問を胸に、教室に戻るしかなかった。



 だけど結局、葉月にも東雲さんにも聞けなくて、

 聞いたら今の生活が壊れてしまうんじゃないかと、怖くて聞けなくて、



 そして、その日の夜も葉月はあの薬を飲んで、眠りについていたみたいだった。



 眠っている葉月を見下ろす。

 あどけない寝顔で眠っている。


 大丈夫……なんだよね?

 ねえ、葉月。

 大丈夫なんだよね?


 サイドテーブルにチラッと視線を向ける。

 用量。東雲さんはそう言ってた。

 あの薬も、用量さえ守れば大丈夫。


 私、今の生活楽しいよ。

 葉月との生活楽しいよ。

 少し変わっているところあるけど、楽しいよ。

 だから葉月がルームメイトで良かったと思っているの。


 そっと細くて柔らかな髪を撫でた。


 ……知らないフリをしよう。

 私は、知らない。

 葉月は何も飲んでいない。

 きっと大丈夫。

 東雲さんが知っていることだから大丈夫。


 私は、知らなくていい。


 今の葉月だけ知っていればいい。



 自分のベッドに戻って、布団を掛けて目を閉じた。



 だけど、その日は中々寝付けなかった。


お読み下さりありがとうございます。

これにて2章終わります。次話から3章になります。

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