表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルームメイトは乙女ゲームのヒロインらしいよ?  作者: Nakk
番外編 中編(一花Side)
323/368

64話 嫌いだ

番外編 前編の一花視点ですが、かなり飛び飛びで駆け足です。

今は物語を進ませることを優先したいと思っていますので……物足りないと感じられる方がいたら、先に謝ります……すいません。


 

 嫌いだ。

 あたしは自分の事が嫌いだ。


 だって、あたしは何も出来ていない。


 いつも、あたしは守られている。

 愛する家族に、守られている。

 美鈴さんたちにだって、守られていた。


 でも、自分では何も出来ていない。


 葉月に笑顔を取り戻させることも、

 美鈴さんたちの代わりにあいつを守ることも、

 全部、周りにいる人間がやってくれた。


 唯一、あたしがしたことは、葉月の願いを最悪の形で叶えようとしたこと。


 そんなの、美鈴さんたちが許すはずないのに。


 母さんにも、

 姉さんにも、

 兄さんにも父さんにも、


 ただ、心配させるだけの自分しかいない。


 どんなに大切だと思っている人間でも、楽な道を選んで、傷つけることを選ぶ。



 それが、あたしだ。




 ■ ■ ■


「いっちゃん、いっちゃん! 牛がいるよ!!」


 笑っている葉月がいる。

 子供の頃から望んでいた笑顔だ。


「葉月、やっぱりお弁当、私が持つよ。リュックに入れてたら、グチャグチャになりそうだし」

「ん? いい、自分で持つ」

「そう? 大丈夫?」

「うん。花音の卵焼き、大事」


 隣には、嬉しそうに笑っている花音がいる。

 手を繋いで、幸せそうに2人は笑っている。


 その光景は、まさしく自分が望んでいた光景で、心が温かくなる。

 美鈴さんたちと一緒に、幸せそうに笑っている葉月を見るのが好きだったから。


 良かった、と、本当に思っているんだ。


「ほら、いこ。急がないと葉月っちにおかず食べられちゃうよ!」

「……そうだな」


 あたしの隣にいる舞は相変わらずで、積極的にあたしにアプローチみたいなものをしてくる。


 葉月は美鈴さんたちに数年ぶりに会いにいき、源一郎さんたちとも和解して、花音とも両想いになった。驚くほど、あいつは子供の頃の自分に引っ張られることはない。声も聞こえてこないと言っていた。


 だから、もうあたしが心配する必要はないと分かっている。


 そして流される。


 今の恵まれている自分の状況に。


 この時も、少しぐらいならと思って、舞の手を取った。

 緊張しているのか、少し汗ばんでいて、でも温かい手だ。


 舞は耳まで顔を赤くさせながら、それでもあたしの手を離さないで歩いていた。


 こんなことで、やっぱりお前は、そんな顔をするのか。


 そんな舞の様子がおかしかった。

 でも胸の中はモヤついてくる。


 忘れちゃいけないのに、

 自分のこの手は、大切な人を傷つける手なのに、


 それでも、この温もりを嬉しく感じる自分がいる。



 ― ― ― ―



 期待だけを、舞にさせている気がする。


 一喜一憂している舞を見ていると、そう思う。


「だって、嬉しかったんだもん!! 東雲家から援助されてるって聞いて、家の人に言われてるから友達になってくれたのかな、なんて思っちゃって」


 体育祭の後に嬉しそうに舞はそう言って笑っている。

 そんなバカげたことを考えていて、だから最近、見るからに凹んだ表情をしていたのかと思った。


 だから、本心を普通に言っただけだ。


 そんなに嬉しそうになることを言っていない。


『ルームメイトは解消するつもりだった』

『でも葉月と打ち解けたから、だから大丈夫だと思った』

『そんなことで悩んでたのか、バカらしい』


 ただ、それだけを言っただけだ。


 でも目の前の舞は、悩みの種が解消したのか、晴れ晴れとした顔で笑っている。


 単純だ。

 そんな単純さに呆れつつも、その笑顔を見れただけで、十分だとも思う。


 悩んで曇っている表情より、ずっといい。

 見ていて飽きさせない、そっちの方がずっといい。


 悩んでいる顔も、悲しそうな顔も、舞には似合わないと思う。


「あ、あたしのこと、一花は結局どう思ってる!?」


 確信的なことを、緊張しているのか声を上擦りながら聞いてきた舞に、一瞬固まった。


 ――はぐらかしたい。

 このままルームメイトのままでいれば、舞は傷つかないと思っていたから。

 友達のままなら、大丈夫だと思ったから。


「……ルームメイトだろ」

「……ですよね」


 あたしが自分の気持ちに気づいていないと思っている舞は、やっぱりあたしのその嘘の言葉に騙される。


 でも、違うんだよな。

 お前の望む答えは、違うものだ。


 分かっている。

 お前が聞きたい言葉を。


 でも、それを受け入れられないあたしがいる。


 受け入れられない言葉を伝えたら、舞は傷つく。

 そんな誰でも予想できる未来を頭に描いてしまう。


 そんな未来を想像するだけでも、手は震えてくる。

 葉月に手を掛けた時の感触を、体は思い出させてくる。


 舞に気づかれないように、ギュッと自分の拳を握った。震えが止まるようにと願いながら、あの時の光景を思い出さないようにしながら。


 タイミングよく、葉月がバカな騒ぎを起こした。


 助かった。

 はぐらかせた。


 舞への返事をうやむやに出来たことにホッと胸を撫で下ろした。


 ― ― ― ―


 舞の気持ちを受け入れたらどうなるのか。

 あたしは変わらないだろう。


 まだ起こっていない未来に怯えることになると。


 受け入れなくても、受け入れても、



 あたしは『大切な人を傷つける』ことに、怯えていくことになるだろうと。



 もしかしたら、舞を自分の手にかけることを選ぶかもしれない。

 もしかしたら、自分の家族を手にかけることを選ぶかもしれない。


 そんな恐怖が、ずっとずっと心の奥底に根付いてしまったのを自覚している。


 だから、舞の告白は避けたかった。


 どちらにしても、舞を傷つけるから。


 その事実に、またあたしの体も記憶も、子供の時の光景を思い出させると思うから。


 自分が善人じゃないことを、



 思い知らされるから。



「あたし……一花が好き」



 そんなあたしの想いに、舞が気づくはずがない。


 思わず言ってしまったというような顔をしている舞とは反対に、ドッドッドッと心臓が嫌な感じに騒がしくなっていく。


 苦しくて、苦しくて、吐き気もしてきた。


 でも……そうだよな。

 お前は、いつも恋人がほしいと言っていた。

 ずっとずっと、あたしにいっぱいアプローチしてきた。


 あたしに、自分を好きになってもらいたかったんだよな。


 分かっている。

 それが舞を喜ばせることだって。


 だけど、


 だけど、



 どうしても、舞を傷つける未来を想像してしまう。



 だから、


 傷つけるにしても、



 今だけの傷でいられるようにするしかないんだ。



「………………すまない」



 自分でも驚くほど、か細い小さい声で呟いた。

 目の前の舞は、どんどん表情が崩れていく。今にも泣きそうな顔で、苦しそうで、悲しそうで。それと比例するかのように、あたしの心臓も脈打っている。


 思い出させるかのように、息も少し苦しくなって、


 身体も、震えてきて、


 やっぱり、



 あの時の感触が手に蘇って、



 抑えるために握ろうとしても、指は動かない。


 それでも、もう舞の顔は見ていられなくて、自分の手に気づかれないように踵を返す。無理やり足を動かして、少しでも早く舞の傍から離れたかった。


「いっちゃん……」


 葉月と花音もそこにはいたが、でも葉月に答えることはできない。


 苦しくて、吐きそうで、

 今さっき舞を傷つけた自分を許せなくて、どうにかなりそうだった。


 葉月に答えず、みんなから距離を取る。もっと離れるように、なんとか足を動かした。


「っ……はっ……」


 苦しい。

 息が、出来ない。


 誰からも見つからないように、公園を過ぎてから、自分の身を近くにあった建物の裏に隠す。

 苦しくて苦しくて、もう動けなくなって、その場に膝をついて蹲った。


 歯を食い縛ってギュッと目を瞑る。

 嫌でもあの時の、葉月を手にかけた時の光景が出てくる。


 最悪だ。

 やっぱりと思っていたけど、予想通りになるなんて。


 舞を振って傷つけたことが、自分で許せないから。

 自分が選んだことだとしても、許せないから。


 その選択肢かできない、自分が嫌いだから。


 フラッシュバックが止まらない。

 久しぶりの感覚に、吐き気と頭痛がしてくる。


 震える手で、自分のポケットから携帯を取り出した。けど目が霞む。呼吸がままならない。

 代わりに、あの時の光景が続けざまに脳内を駆け巡る。


『もしもし? 一花?』


 電話からは兄さんの声が聞こえる。

 なんとか、自分は電話を掛けられていたらしい。


『一花? 聞こえてるのかい?』


 声が出ない。

 苦しい。

 息が出来ない。


 もう視界が暗い。


『……一花、ゆっくりでいい。ゆっくり呼吸してみて。息を吸う、吐く。意識して。大丈夫だ。すぐ行くから』


 あたしが返事しないことで、兄さんは分かったらしい。


『大丈夫だか……今……』


 もう、兄さんの声も遠い。



 久しぶりの発作で、そのまま、目の前が真っ暗になった。


 けれど、


 頭の中で、あたしが喉に置いていた手の先は、



 葉月じゃなく、




 舞だった。



来週でやっと……多分……中編終われると思います!

お読み下さり、ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ