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31話 謝罪?  —花音Side※

 


 目の前にあるのは扉。プレートには≪生徒会室≫と書かれている。


 お昼休み。今朝寮を出てくるときに東海林先輩に来てほしいと言われてしまった。間違いなく昨日の勧誘の件だと思う。


 正直……もうあの人たちに会いたくないのが本音だけど、東海林先輩に言われたら来るしかない。あの人、優しいんだもの。寮ですごく気を遣ってくれてる。ことあるごとに葉月が何かしてないか、大丈夫かと声をかけてくれるからさすがに断れない。まあ、いつも心配してくるのは葉月のことだけど。


 そして何故か葉月と東雲さんと、そして舞までもが心配してついてくることになった。皆優しすぎる。ありがとう。


 隣で東雲さんが色々と葉月に注意していたのを舞がツッコんでいた。お茶っぱに雑草。あの人たちなら確かにそれで充分かもなぁ。


 ガチャっといきなり扉が開いて東海林先輩が出てきてくれた。まだノックしてないのにと思ったら「廊下で変な話しないで頂戴」って疲れた感じで言ってくる。さっきの葉月たちの会話が聞こえていたみたい。舞がいることにも不思議そうにしてたけど、構わないらしい。先輩は葉月の方に注意がいってるから、舞どころじゃないんだろう。しっかり入る前に注意していた。


 部屋に入るとあの人たちは全員いた。奥のソファに座って、私の肩を押さえた横暴な人がふんぞり返っている。


「きたか。座れ」


 うん、その一言で帰りたくなってしまった。あ、でも東海林先輩が彼の頭を殴っている。少しスッキリ。


「ごめんなさいね。ふてぶてしい態度取っちゃって。座って頂戴? 今お茶いれるから」


 東海林先輩、苦労してそう。あ、葉月が手伝いを申し出て……うん、先輩。余程手伝ってほしくないんだね。即断ってた。……葉月、会長にプレゼントって何?


 徐にポケットから何か取り出して会長? に突き出している。彼はすごいビクッて体震わせていた。少しスッキリ。


「ちなみに小鳥遊……それ中に何が入ってるのかな?」


 先輩に見えない幼い顔つきの先輩が、口元を引き攣らせながら葉月に聞いている。でもなんだろう。ハンカチで覆っていて分からないなと思っていたら、バッと彼の前でそのハンカチを取っていた。


「昨日言ってたトカゲ」

「いらんわ!? というか近付けるな!!」

「え~、自宅に送られるの嫌だって言ってたから、わざわざ用意したのに~」

「そういや葉月っち、今日登校するときに草むらに入ってたね……」

「油断も隙も無いな……」


 ……そうだったね。草むらに入ってた。元気だなぁと思ってたらトカゲさん捕まえてたのか。あ、なんか思いついたようにこっち向いた。これは少し予想できるかな。


「花音~この子飼っていい?」

「う~ん……自然に還してあげようね、葉月」

「え~だめ~?」

「葉月が玉ねぎ食べられるようになったらいいよ」

「還す」


 うんうん。こういう分かりやすいところあるよね、葉月。それにトカゲの飼い方はさすがに私知らないからなぁ。すぐ葉月は外にトカゲさん放ってくれたけど……あ、あれ? 3階だけど……死なないよね、きっと……きっと。


 トカゲさん無事着地してますようにと思ってたら、周りの皆がすごく驚いた顔でこっちを見ている。え、あの? どうしたんだろう? しかも彼たちもこっちを目を見開いて見てたんだけど……何でだろう? 

 口々に言ってくる全員を戸惑いながらキョロキョロ見てたら、会長(あまり認めたくない)が安心したように息をついているのが見えた。


「とにかく、お前ら座れ。おい、東海林。さっさと茶持ってこい」


 ……そんなにお茶を飲みたいならご自分で淹れたらどうですか? と言いたくなってしまう。だから何でそんな命令口調なの? 

 先輩はハアと溜め息をついて仕方なく淹れようとしているから、申し訳なく思って少し手伝ってあげた。「ありがとう」ってそんなお礼はいいんですよ。だって私たちに淹れようとしてくれたんですから。


 お茶を配り終わって、皆でそれを飲んでホッと一息淹れる。あ、これ美味しい。先輩が淹れてくれたの運んだだけだったから、何の茶葉か見ていなかった。後で教えてもらおう。


 けどそれからシンと静まり返る。……何しにきたんだっけ?


「あのさ~。何か用があるから花音の事呼んだんじゃないの?」


 舞の一言で自分も思い出した。お茶飲んでホッとしている場合じゃなかったね。「そだよ~? 花音に言う事あるんでしょ~? 会長~?」と葉月も舞に続いている。でも東雲さんに黙れと言われて、これ以上何も言えないように口を押さえられていた。


「ごめんなさいね、桜沢さん。無理にきてもらったのに」

「え、いえ……」

「鳳凰君。昨日のことちゃんと謝るんでしょう?」

「っ……ちっ……」


 折角、東海林先輩が取り持ってくれたのに、舌打ちで返すんですか? それに謝ってもらわなくていいですよ。どうせ悪いと思ってないんですよね。だから舌打ちするんですよね。本当、イライラさせてくれる、この人は。


「会長~、悪いと思ってないなら謝らないで~?」

「っ……お前が謝れって言ったんだろうが……」

「言った。でも思ってない人の謝罪は迷惑だからさ~。無理に謝らなくていいよ」


 本当、葉月の言う通りだと思う……んだけど、葉月? 屋上バンジーって、この前やったゴムを足につけて屋上から降りることかな? そんな危ないことするなら、遠慮なくまたオニオンサラダ食べさせるからね?


 ああ、それよりもこの人だね。私も葉月と同じ思いだから。コホンとわざと咳払いして2人のやり取りを終わらせる。ちゃんと伝えよう。


「謝罪はいりません。結構です。葉月が言ったように悪いと思ってない人の謝罪は迷惑なだけですから」


 ニコッと笑顔を作ってはっきりと口にすると、皆が少し目を丸くしている。でも迷惑なのは迷惑だから。すると幼い顔の先輩が「あはは。手厳しいね」と困ったように笑っていた。


「だけど桜沢さん。翼もね、悪いとは思ってるんだよ。ちょっと強引だったってちゃんと反省してるんだ。僕たちもね、ちょっと驕ってた部分はあるから。その部分は謝るよ。本当にごめんね。ほら、綜一も宏太も」

「……ふん。すまなかった」

「……ごめん」


 眼鏡をかけている人は不服そうだったけど(多分……顔腫れてて表情がよく分からない)、他の2人は自分たちが悪そうに謝ってきたのがわかった。だったらあんな態度取らなきゃ良かったのに……という思いは封じよう。さすがにちゃんと謝ってきた人たちに、喧嘩売るような真似はしたくないし、私も、その、態度は悪かったと思うから。


 ……でもあの人は黙ったまま。他の3人は許しても、この人はちゃんと反省してほしいなという思いはある。ここで私が折れたら、だめだと思うから。


 だから少し無言で通してみた。「翼も。昨日はちゃんと謝るって言ってたじゃないか。意地張るの良くないだろ?」と促されて、すごく気まずそうに眼を逸らしている。


 ……無理かな?


「…………悪かった……」


 ボソッと呟くように、ちゃんと謝った。東海林先輩を含めた生徒会メンバーがホッと息をついたのがわかった。こんな人でも、この人たちからは大切にされているみたい。


 意地張らなきゃいいのに。思わず苦笑してしまう。仕方ない、私も子供みたいに意地張るのは止めなきゃね。でも伝えることはちゃんと伝えさせてもらう。


「私も……すみませんでした。失礼な物言いをしてしまって。ですけど、こちらの意思を無視するような真似は今後控えていただけると助かります」


 命令口調だったのと、意思を無視して強引に入らせようとしたのが嫌だったから、それさえ気を付けてくれれば私だってこんなに怒ったりしなかったのに。

 でも東海林先輩は私の返事に満足そうにしてくれた。


「もちろんよ、桜沢さん。謝罪を受け入れてくれてありがとう」

「いえ、東海林先輩は何もしてないじゃないですか。こちらこそ子供じみた態度取ってしまって、本当にすみませんでした」


 東海林先輩は優しい。それにちゃんと分かってくれた。こっちが嫌な態度をこの人たちに取ってしまったのも事実なのに。間に入ってもらって、本当にすみません。


 あの、皆、隣で変な事言わないでね? 葉月、さすがに私の爪を本当に煎じて飲む必要ないからね?


 安心した東海林先輩がゆっくり一口お茶を飲んでそのカップを置いた。

 ……ああ、ここからが本題なのかな。


「これでお互い、わだかまりはなしね。じゃあ、本題に入りましょうか」


 きっと、勧誘の件……なんですよね?


お読み下さりありがとうございます。

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