19話 突撃
「いきなり来ても、無理じゃありませんの......?」
「でもさ、絶対ここにはいるじゃん!」
あたしとレイラがいるのは、東雲病院の正面玄関。
レイラには全部話したさ! あたしが一花のことをずっと好きだったことも、つい昨日、告白して振られちゃったことも! か~なりびっくりしてたけどね。驚きすぎて、椅子から落ちてた。
それで一花のことを知りにレイラに付き合ってもらって、ここにいる。
一花のことを聞くには、家族が一番だって思って。
「そもそも、どうしてわたくしまで......」
「いいじゃん。暇でしょ? それに、さすがにあたし一人でお兄さんたちに会うとか、かなり勇気が必要なんだよ」
「ちょっと、暇ってなんですの!? 暇じゃありませんわよ!?」
「どうせ帰りに寮に寄って、花音のお菓子食べるつもりだったくせに」
「......な、なんで知ってますの?」
顔に全部出てたし、お昼に「あ、じゃあ花音は寮にいるってことですわね」って何かを閃いたような呟きを漏らしてたじゃん。ユカリやナツキも気づいてたし。
そんなレイラを引っ張って、入口から中に入っていった。うー緊張してきた! レイラがいてよかったかも! 後ろから「ちょちょちょっと! だから引っ張らないでくださいな!」って呑気そうな声が聞こえてくるだけで、少しホッとするよ!
「ハア......舞は極端すぎますわ......朝はあんなに周りを腐らせるかのような空気を出していたくせに......」
「ちょっ、どんな空気さ!?」
またサラッと酷い事言ってきた! ねえ、レイラ!? 言い方! 言い方少し考えてくれない!? さすがにそんなことを言われるとショックだから! あとレイラに言われたくないから! お昼に花音のお弁当食べれなかったって落ち込んでたの、どこの誰!? ちゃんと渡したのに、すぐそれを地面に落としてぶちまけちゃったのどこの誰さ!? ユカリとナツキがなんとも言えない表情でそれを見てたの分かってる!?
「そもそも、こんな急に来て、優一さんたちが会ってくれるとは思えないんですが......あの方たち、実は多忙ですのよ?」
「うっ......」
いきなりの真っ当なレイラの指摘に、つい口を噤んでしまった。
そうなんだよ。確かにここにあの人たちはいるにはいるよ? でも仕事をしているわけで......。そもそもあたし自身、一花のお父さんとお母さんに会ったことはないわけで......。会ったことあるのはお兄さんとお姉さんだけど、でもあの人たちも忙しいわけで......。
実際、会ったことがあるっていうのも、前に葉月っちが入院していた時にチラッとだ。あの時も、よくは話していない。挨拶したぐらい。
本当は一花のお兄さんとお姉さんだから、もっと仲良くなりたいし話したい! って思ってはいたけど、葉月っちの治療が終わると、すぐにいなくなっていた。次の患者さんの予定があるって、一花がその時言っていた気がする。
というか、何よりも会ってくれる理由がない。あれ、どうしよう? そこまで考えてなかった! とりあえずレイラが行動しろとか言ってきたから、ここに来ることしか考えてなかった!
よくよく考えてみたら、いきなり一花のこと教えてくださいっていうのも、教えてくれるはずなくない!? 葉月っち並みのヘビーな過去だったら、なお教えてくれるわけなくない!? 今更気づいちゃったんだけど! え、どうしよう!?
「あらー?」
つい考え込んでしまったら、どこかで聞いたことがある声がした。レイラと二人、その声の方を振り向くと、葉月っちが入院してた時によくお世話をしていた看護師さんがいる。確か......近藤さんだっけ? 花音がよくお礼を言っていた気がする。
「レイラちゃんではないですかー。どうしたんですか、こんなところでー?」
「見てわかりませんの? 立っていますわ!」
「うんうん。立っているのは分かってるんですよー。見たところ元気そうですよねー?」
「ええ、最近は風邪も引いておりませんわ! なんですの? わたくしがここにいちゃいけませんの?」
「うんうん。ここ病院なんですよー。元気な人が来るところではないんですよー?」
近藤さん......レイラのあしらい方が慣れてない? こんな人だったの? あ、目が合っちゃった。
「確か舞ちゃんでしたねー。何か用事でもおありですかー? あー、もしかして一花ちゃんですかー? 一花ちゃんならとっくに帰りましたよー」
「え、あ......そ、そうですか」
そういえば、朝の置手紙で書いてあったね。あれ? 一花の用事って何だったんだろ? ......って違う!! 気になるけど、今日は一花のことを聞きにきたんだよ! で、でも、何て言おう?
「じゃあ優一さんや蘭花さんはいますの? いるのでしたら、お会いしたいのですけど」
レレレレ、レイラぁぁぁぁ!? 直球すぎるんだけどぉぉ!? いや、そうなんだけどね!?確かに会いに来たんだけど! あ、もしかして、機転を利かしてくれた......とか?......あのレイラがぁ!?
そんな器用なことを出来るようになったなんて......人って、成長するんだね......なんて内心感動を覚えていたら、近藤さんがきょとんとした顔で、あっさりと東雲家情報を教えてくれた。
「あの二人ですかー。残念ながら、もうお二人は帰られたんですよねー。蘭花先生は会合の予定があるって言っていたし、優一先生も明日から院長と一緒に出張ですしねー。ああ、涼花先生ならいますよー。さっき手術終わって部屋でグータラしてると思いますがー。だけど、レイラちゃんが何の用事なんですー?」
「あら、そうですの。ですってよ、舞」
レイラがなんてことない顔でこっちに話を振ってきた。......台無しだよぉぉ!? ほら、近藤さんが不思議そうじゃん!! なんであたしが? って顔してるじゃん!! そりゃ不思議に思うよね! あたし自身はあまり接点ないからね! やっぱりレイラにそんな機転を利かせるなんてこと出来るわけなかった! これ、ただ何も考えなしに聞いただけだわ!
「あらー? 舞ちゃんがお二人に用事があったんですかー?」
「へ? あ、いや、そのぉ......あ、あはは! そそそうなんですよぉ! 一花のことでちょぉぉっと聞きたいことあってぇ!」
「一花ちゃんのことでですかー? 何かありましたー?」
「いい、いえいえいえいえ!! 本当、些細なことでして! あ、そうだー。お姉さんでも分かるかなー? ちょっとお姉さんに聞いてきますね! ではっ!」
「ひゃっ!? ま、舞! だから、引っ張らないでくださいなぁっ!?」
レイラの腕を無理やり引っ張って、ポカンとしている近藤さんを置き去りにした。すいません、近藤さん! でも、一花の過去を探りにきたんです、なんて言えるはずない!「ちゃんと歩きますからっ!」とか叫んでいるレイラは無視した。
だけど、少しだけ感謝かな。おかげでお姉さんがいることだけは分かった。お姉さんでも、一花のことは十分良く知っているはず!
でもやっぱり、どう話を聞こう? あのお姉さん、一花のこと溺愛してるんだよね。それだけは知っている。何度も無理やり一花のほっぺにチューしてた。そんなお姉さんに「一花に何があったか教えてください」って言っても、教えてくれるとも思えない。
......だけど、ここで引き下がるわけにはいかない。
少しだけ弱気な自分が出てきたけど、気持ちを切り替える。
あたしがここにきたのは、一花に何があったかを知るため。
それで何かが変わるかもしれないっていう、希望を持つため。
......そうだよ! 絶対あたしは諦めない!
よっし! 玉砕覚悟! 怒られるかもしれないけど、聞いてみよう!
何度も何度も心の中でそう唱えて、必死に自分を奮い立たせた。あ、レイラ転んじゃった。ごめん、引っ張りすぎた!
お読み下さり、ありがとうございます。




