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ルームメイトは乙女ゲームのヒロインらしいよ?  作者: Nakk
番外編 前編(舞Side)
272/366

13話 どう思ってる?

1万字超えています。長くなり、申し訳ありません......

 


「まま舞先輩、こここれもですよね?」

「あ、そうだわ。悪いけど、向こうに届けてくれる? まだ運んでないと思うからさ。運んだ後は、そのまま九十九先輩たちのところに行って大丈夫だから」

「ははははい」


 無事に体育祭が終わって、今はお片付けの真っ最中。

 後輩に荷物を業者さんの所に届けてもらって、あたしも他の荷物を段ボールに詰め込んでいく。


 いっやー、体育祭盛り上がったわ! やっぱ2校だから? 応援合戦とかもやったんだけど、去年とは全然違った。競技が始まるたびに、ワーキャーとみんな騒いでた。順位が決まると落胆したり、ものすごく喜んだりと、どっちの生徒達も楽しそうにしていて良かった!


 葉月っちは不満そうだったけどね。

 月宮学園の生徒に何かしでかしたら大変だから、今回は終始ロープで縛っておいたんだよ。「つまんなーい」って不機嫌そうに頬を膨らませてた。花音がお昼休みにお弁当で無理やり黙らせていたから、午後も葉月っちが大人しくしてくれて良かったよ。一花もレイラもやれやれといった感じで疲れてたけど。


 午前は葉月っちが縛られている状態でレイラにちょっかい出してたらしい。レイラだから万事OKって言ったら「なんでですのよ!?」って噛みつかれたけどスルーした。だっていつものことじゃん?


 例の彼はというと、競技であたしと張り合ってきた。結局勝負にはならなかったんだけどね。だってあいつ、何故か女子の競技に堂々とあたしの隣に並び立つんだもん。向こうの生徒会に引っ張られていったよ。呆気に取られて見ていたら、向こうの生徒に「気にしない方がいいよ」って言われた。日常茶飯事みたい。あいつ、本当に月宮学園で葉月っちのポジションなんだなって思っちゃった。


 そして、結局毎日バタバタしてて一花に聞くことが出来ていない。

 あたしと友達なのは、家のことがあるから? って。パパにも聞けてないや。


 でも仕方ないじゃん! 忙しすぎたんだよ!!

 最近は帰りも遅かったし、帰ったら帰ったでその日の復習とか次の日の予習とかもしなきゃだし!! 一花と話すのも、その日の寮で寮生から言われた意見書のことだったし!!


 ......言い訳だけど。


 怖気づいてるんだよ、自分は。

 やっぱり怖いもん。


 いざ一花の口からそんなこと言われたらって。

 友達としても見てないって言われたらって。


 花音に言われて、そうじゃないって思えたのに......どうしても不安になっちゃうんだよ。


 自分でもびっくりだよ。こんなにあたしはヘタレだったのかってさ。いや、まあ、告白も出来てない時点でヘタレなんだけども。それで断られるのも怖いし、友達としても見られてないかもってなったら、さらに怖くなった。


 意気地なしって言葉が、本当に自分にはピッタリだ。


 それで余計凹む。

 花音を見ると、さらに凹む。


 花音は行動したのに、なんで自分は出来ないんだろうって勝手に落ち込んだりしてる。

 笑って誤魔化して、ゴロンタに癒される。最近、自分の中で浮き沈みが激しすぎる気がする。


 ちなみに、ゴロンタを花音と葉月っちは正式に引き取ることにしたらしい。ちゃんと世話することを条件付きで、一花が葉月っちに許可出してた。よほど葉月っちはゴロンタが気に入ったらしい。まあ、それは置いといて。


「舞、こっちは終わったよ。そっちは大丈夫?」

「あ、うん! これでラスト!」


 違う場所で片付けをしていた花音が、後輩君を引き連れて様子を見に来てくれた。

 ついさっきまで片付けながら考えてたことを思い出して、花音の顔を見てまた凹んできた。そんなあたしを不思議そうに見てくる。


「何? 何かついてる?」

「......羨ましいなって思ってさ」

「はい?」

「神楽坂先輩、桜沢先輩に嫉妬っすか? 分かります!! 俺もさっき桜沢先輩の手際の良さに嫉妬しましたからね!!」

「一緒にしないでくれる!?」


 後輩君!! あたしとあんたの悩みは全然違うから!! しかもそれ、絶対あたしと花音のこと比べてない!? 仕事の手際の良さで比べてるよね!!? でもほら見て! あたしももうこの荷物運べば終わりだから!!


「冗談ですよ、冗談! それ運べば終わりっすか? じゃあ、俺が運びますよ」

「はあ......いいって、これぐらいあたしでも運べるからさ。九十九先輩たちの方は? 終わったのかな? 彼女には先に合流しててって言ったんだけどさ」

「今から行ってみるよ。舞もそれ運んだら合流してね」

「オッケー、分かった」


 後輩君、根はいい奴なんだよなぁ。ただ、どうにもあたしをからかって楽しんでくる傾向がある。花音の言う事には絶対服従のくせに。ただでさえ、花音と自分を比べて勝手に凹んでるんだよ。もう一人の後輩の女の子のこともからかってるから、今はそっちに目を向けてほしい感じ。というか、あたしも花音と同じ先輩だっての! 少しは敬え!


 花音と後輩君と別れてから、心の中でグチグチと文句をつけながら、その文句を言ってることに対してまた凹む。ついトボトボと歩いてしまった。


 先輩としても、恋する人としても駄目じゃん、あたし。

 花音のことすごいと思ってるし、それにこの前もかなり嬉しい事言ってくれたのにさ。蓋を開ければ、さっき後輩君が言ったように嫉妬してる。


 全然勇気を出せていない自分が嫌になるなぁ。


「おい!」

「うわっ!!」


 ハアと溜め息をついた時にいきなり腕を引っ張られた。え、ええ!!? 危うくバランス取られて、荷物を落としそうになったけど、それよりも目の前の壁にびっくりした! 壁!?


「あのな......何を考え事しながら歩いてるんだか」

「え? え、え!? あ、一花!?」


 その声に慌てて振り向くと、心底呆れかえったように見てくる一花があたしの腕を掴んでいた。


「え、え、ええ? あ、あれ? なんでいんの? 帰ったはずじゃ?」

「葉月を探してるんだよ」


 え、葉月っち?


「今日1日中縛ってたせいか、ロープ解いた途端逃げだした。大方、競技場にいる会長たちにちょっかいかけに行ったんだろうさ。それをなんだ。途中でお前を見かけたと思ったら、一直線に壁に向かってるし」

「ぜ、全然気づかなかった」


 うっかり段ボールの中を見ながら歩いてた......あっぶな。壁にぶつかるとか、そんなカッコ悪い場面を一花に見られるところだったじゃん!


 ハアと溜め息をついて腕から手を離した一花は、確かに葉月っちを追いかけてきたんだろう。うっすら額に汗を掻いていて、前髪がへばりついていた。


「花音は一緒じゃないのか?」

「え? あ、ああ、うん。花音は後輩君と一緒に、それこそ九十九先輩たちを手伝いに行ったんだよ」

「そうか。じゃああいつも、それこそバカなことはしないか」


 花音がいるって分かって、明らかにホッと安心している感じ。花音が代わりに止めてくれるから安心したんだろうな。


 一花は、今でも葉月っちが優先だもんね......。それがやっぱり寂し──

 ──あれ? でも、葉月っちを止めにきたのに、あたしを見かけて先に助けてくれた?


「......舞、お前何かあったのか?」

「へ?!」


 唐突に目の前の一花が見上げてそう聞いてきた。いきなりどうしたのさ?!


「最近......いや、少し前からか? お前、少し変じゃないか?」

「変!?」


 変って思ってたの!? ちょっとショックなんだけど!?


「何度も溜め息ついてるだろ? なんだ、最近の忙しさで体調でも崩したか?」

「ちょちょちょっと待ったぁ!! なんであたしが溜め息つくと具合悪いってことになるのさ!?」

「無駄に元気で悩みが無さそうなのがお前の通常だと思っていたが?」

「どんな通常さ、それ!? あるし! あたしにだって悩みぐらいあるし!」


 めっちゃ悩んでるんだよ! そう、自分自身のヘタレっぷりにね! それと一花のことなんだけどね!? あとそれってあたしのこと能天気って思ってたって事!? そう思われてたことにもショックだよ!!


「悩みがあるのか? お前が?」


 あ......つい本音を言ってしまった。あの、その......一花? なんでそんな予想外! みたいに目を大きく開けて見てくるのかな!? 眼鏡のせいか、余計大きく見えるから!! そんっなに予想外だった!?


 そんな一花の様子についモヤっとしてしまう。


「あるよ......あたしにだって悩みぐらいさ......」


 思わずいじけるような自分の声が口から出てきた。一花に当たっても仕方ないことだけどさ......でも、悩みが全くない脳みそからっぽ人間じゃないよ。


 結局2年生になってから、一花との関係が何も変わってない事にも勝手にイライラしてるだけだけど。それも自分のヘタレなせいだって分かってるけど......。東雲家から実は援助されてることとか、一花が本当はどう思ってるとか、そういうのも重なって今は余計モヤついてる感じだし。


 いじけてるのに気づいてるのか気づいてないのか、ボソッと一花が呟いてきた。


「悩み......お前が?」

「あるよ。あたしだって普通の女の子だし」

「え、普通だと思ってたのか?」

「なんでそこを疑問に思ってるのさ!?」


 普通だし!! そこにはてなマークつけないで!? 語尾上げないで!?

 つい噛みついたら、一花はゴホンとわざとらしく咳払いをした。ちょっとぉ!? 普通のところ、ちゃんと訂正してほしいんですけど!?


「あの葉月に毎度からかわれて、それでも懲りずにツッコミを入れてくるのは、まあ、その、普通だとは言えないんだが......それはともかく」

「ともかくじゃないんですけど!?」

「それで? 珍しいな、お前が悩みなんて。生徒会と勉強と寮長の仕事の両立が辛くなったのか?」


 結局スルーした一花が、少し真剣な表情で見てきたから、それ以上何も言えなくなる。自分自身のヘタレっぷりに勝手に落ち込んでるだけなんだけどさ......。


「なんだ、言えない事なのか?」

「そうじゃ、ないんだけど......」

「歯切れ悪いな。お前がそんなんだと調子狂う」


 訳が分からなそうに、一花も段々と心配そうに見てきた。


 ......だめだ。

 こんな顔させたいわけじゃなかったのに。心配させたかったわけじゃないのに。


 じゃあ聞いてみる?

 でも怖い。

 だけど......いつまでもそんなこと言ってたら、これ以上一花との関係は変わらない。


 よ、よし!

 勇気......勇気だせ、自分!


 少し乾いた喉をゴクンと鳴らしてから、一花の正面に立ち直すと、また怪訝そうな顔で見上げてきた。


 勇気、勇気......と何度も心の中で呟いて、口を開いた。


「あ、あのさ......」

「なんだ?」

「あの......その......」


 う、うう~!! 口がよく回らない!! で、でも勇気だ、自分!!


「い、一花の実家が、パパを援助してるって聞いたんだけど......一花は知って──」

「ああ、そうだな。それが?」


 ......え、あっさり肯定された? 最初から知ってた?

 即答されたから、逆にこっちがポカンとしてしまうと、目の前の一花はまた訳が分からなそうに片眉を器用に上げていた。


「それがどうした? というか、知らなかったのか? 最初から知ってるものだと思っていたが」


 事実、だったんだ......一花は最初から知ってたんだ。


 ......じゃあ、一花は......。

 一花は......家に言われたから、あたしと友達になってくれたの?


「一花は......」

「ん?」

「一花は、それがあるから......あたしと友達になってくれたってこと?」

「は?」


 ドクンドクンと緊張からか心臓がうるさい。

 これで一花の返事がそうだってなったら、どうしよう。

 一花が肯定してきたら、どうしよう。


 怖くなって一花から視線を段ボールの中に逸らしたら、また溜め息が聞こえてきた。ついビクッて震えてしまう。今まで何度も一花の溜め息を聞いてきたのに、今回ばかりは恐怖が襲ってくる。


 視線上げられない。

 今、一花がどんな顔してるのか、確かめるのが怖──



「何をバカなことを言い出してるんだ、お前は?」



 そんな言葉と同時に、一花がおでこに指を当ててきて、グイっと無理やり顔を上げさせられた。あ、あれ? 怒ってる?


「いつからそんなこと考えてた?」

「え?」

「つまりはあれか? お前、あたしが母さんたちに言われて、お前とのルームメイトを続けてるとか思ってるのか?」

「めっちゃ頭の回転早くない!? なんでそこに行き着いたの!?」

「それは肯定だな。馬鹿らしい。そんなこと考えてたのか」


 ピンっとおでこを指で強めに弾かれた! 痛い!

 というか、本当、なんでその考えに行き着いたのさ!? 頭いいのは知ってるけど、さすがに早すぎない!? 「そうだ」とか「そんなわけない」とかどっちかの答えを予想してたのに!! そしておでこジンジンしてる!


 痛いから手を当てたかったけど、段ボールを持ってるから出来ないじゃん! とか思って、つい一花を見下ろすと、それはもう呆れてモノが言えないように腕を組んで見上げてきた。


「まさかお前がそんなバカげたことを思いつくとは、あたしも考えもしなかった」

「そ、そりゃ一花や花音に比べればバカだけどさ......そんな呆れなくてもいいじゃん......」

「呆れるにも程がある。悩む必要がないことに悩むことこそ、時間の無駄だ」


 え、それって......?

 肩を竦めた一花が、またツンツンツンと強めにおでこを指で突いてきた。だから、痛いってそれ!?


「お前の頭がここまで悪かったとは知らなかった」

「ちょちょ、ちょぉ~!! 痛いって!!」

「お前の中で、あたしは親の言いなりになるしか出来ない子供だってことだな」

「そそそんなこと言ってないって! で、でも不安になっちゃって! それだったら悲しいなって!」

「お前はバカか? いや、そうだったな。葉月並みのバカだったな。失礼した」

「ちょぉ~!! 聞き捨てならないから!! いや、その! だから突くのやめ──」

「そんな理由だったら、あたしはとっくの昔にお前とのルームメイトを解消している」


 え......ルームメイト解消......?

 全く考えていなかった事を言われて、背筋が震えて固まった。


 少し不安になりながら、突いてくるのを止めた一花を改めて見ると、さっきの呆れた顔じゃなく、どこか困ったように苦笑している。


「最初、ルームメイトは作らないつもりだったんだよ、あたしは」

「え?」

「葉月の事があったからな。いつでもあいつとルームメイトに戻れるように、一人でいるつもりだった」


 意外な事を話しだして、何も言葉が出てこない。

 ルームメイトを作らないつもりだった? た、確かに葉月っちのこと考えたら、そうかもしれないけど......じゃあなんであたしとルームメイトに?


「ルームメイトを下手に作っても、葉月の事に巻き込むことになる。だから、最初はすぐにお前とのルームメイトもすぐ解消するつもりだった。あたしにはもうルームメイトはいるって言って、あいつが我儘言わないように予防線のつもりだったんだ」


 ......うそ? え、でも、今までそんなこと言われたことないよね?


「でもお前、見事に葉月と打ち解けたしな。じゃあ、まあいいかと思って、様子見することにした」


 え、そっち!? やっぱり葉月っち優先だわ!!


「それって......葉月っちと打ち解けなかったら、あたしを部屋から追い出してたってこと?」

「そうだな。そうしていただろう」


 うっそ......知らない間にルームメイトから外されようとしてたってこと? それこそ友達にさえなれてなかったじゃん! 葉月っち!! ありがとう、仲良くなってくれて!! あれ? でも、今でも追い出されてないんだけど?


「い......今も追い出したいって思ってるって事?」

「だからバカだって言ってるんだよ」


 また呆れた顔になった! なんで!?


「なんでこの流れでそうなる? そういう理由があるから、ルームメイトを作らないつもりだったって言ったんだぞ?」

「だ、だからさ、今でもそうだってことなんじゃ......」

「違う。だから、友人を親に言われて作らないってことだ」


 え、え、ええ? ここでさっきの話に繋がるの!? でもどこが繋がってるのか、さっぱり分かんないんだけど!?


 目をパチパチとさせてたら、いつもの疲れたような溜め息を一花が吐いていた。



「嫌だったら、とっくの昔にお前とのルームメイトは解消しているって言ってるんだ」



 ......あ、確かに。あれ、じゃあ......。


「嫌じゃない......ってこと?」

「何度も言わせるな。嫌だったら追い出してる。というより、葉月が花音とルームメイトに戻った時に戻らなかった」

「親から言われたからじゃない?」

「東雲家のモットーは自分の決めたことは自分でやれ、だ。母さんたちが仕事上のことで娘のあたしに何かを強要したことは一度もない。する必要ないしな。自分たちで何とかするだろ」


 淡々と不機嫌そうに答えてくれる一花とは逆に、あたしの心はどんどん軽くなってくる。


 嫌じゃないんだ。

 あたしとのルームメイト生活は一花にとって嫌じゃないんだ。

 ちゃんとあたしを友達としては見てくれてるんだ。


 やっぱり花音の言うとおりだった。一花はちゃんと自分で判断する人間だ。


 嬉しい。

 すごく嬉しい。

 その通りだったっていうのが、今実感出来て嬉しすぎる!


「一花ぁ!! (ゴン!)って、いったぁっ!」

「......何をやってるんだ、お前は?」


 嬉しすぎて抱きつこうとした時に、思わず思いっきり両手を広げたら、持っていた段ボールが自分の足に直撃した。痛い!! でも嬉しい! でも痛い!! は、痛いからこれ夢じゃないじゃん!!


 痛がっているあたしを見ながらハアと息をついてる一花を見て、また感動する。「仕事増やしてどうする......」って言いながら、散らばった段ボールの中身を一緒に片付けてくれた。


「だって、嬉しかったんだもん!! 東雲家から援助されてるって聞いて、家の人に言われてるから友達になってくれたのかな、なんて思っちゃって」

「ああ、さっきも言ってたな。お前が知らなかったのも意外だが、お前の父親も敢えて言わなかったのかもな。援助とはいっても、母が提案した医療用ベッドの開発費だけだし」

「え、そうなの!?」

「そうだ。お前の父親の会社は寝具も取り扱ってるだろ? それを母が見つけて、こちらから提案したんだ」


 そうだったんだ。あれ? それって、一花のお母さんにちゃんと認められてるってことじゃん! これもやっぱり花音の言うとおりだった!!


「なんだ、いきなりニヤニヤしだして?」

「いやぁ、一花のお母さんにパパは認められてたんだなって思ったら嬉しくて」

「当たり前だ。言っておくが、あたしなんかより母の方がモノを見る目はシビアだからな。その母の首を常に縦に振らせているんだ。お前の父親はそこらの小物よりよほど凄いさ」


 小物という言葉を聞いて、何故か長髪の彼のことを思い出しちゃったよ。一花のこの言葉をあいつに聞かせてやりたい!! やっぱりパパは凄いんだから!


「パパに電話しよ! 一花がこう言ってたって! 絶対喜ぶ!」

「ああ、そうしろ」


 すっかり気分がよくなって、元気いっぱいにまた段ボールを持って立ち上がったら、何故か安心したような顔で一花も立ち上がっていた。


「随分とご機嫌になったもんだ」

「だってさ! パパのことも認めてもらえてるって分かったし、一花もあたしと嫌々友達になったんじゃないって分かったんだもん! 嬉しいさ、そりゃ!」

「そもそもそんなことで悩む方がバカらしい」


 悩むよ! 好きな人にそう思われてたらどうしようって悩むじゃん! でも今はちゃんと分かったから、めっちゃ気分いいけどね! ここ数日のモヤモヤがやっと晴れたよ! 我ながら単純だとも思う!


「じゃあ、あたしは行くからな。花音が止めてるとは思うが、そろそろ葉月も何かしらしでかしそうだ」


 葉月っちのことがやっぱり気になるのか、一花が背中を向けた。


 その小さな背中を見て、自分の中のモヤモヤがスッキリしたからか、さっきみたいな勇気が少し出てきた。


 今なら、今なら聞ける気がする。


「あ、あのさ!」

「ん?」


 呼び止めたら、ちゃんと一花は振り向いてくれた。

 勇気、勇気! よ、よし!!


「どうした? まだ何か馬鹿らしい悩みでもあるのか?」

「なんで馬鹿らしい悩みなのさ!?」

「馬鹿らしかったじゃないか」

「こっちは本気で悩んでたのに!?」


 確かにあっさり解決しちゃったけど! でもそれはそれで本気で悩んでたんだよ!? って違う! こんなこと話したいんじゃなくて!


 また不思議そうに首を傾げてる一花をちゃんと見た。

 ああ、やばい! 心臓バクバクいってる!! で、でもちゃんと聞こう! 聞かないと、分からない! 今しかない!



「あ、あたしのこと、一花は結局どう思ってる!?」



 思い切って聞いてみると、一花は「は?」と一瞬間抜けな顔になってた。


 友達としては見られてるっていうのは、さっきので分かった。

 ルームメイトとしても認められてるのも分かった。


 それが分かって嬉しくて、だからこそちゃんと勇気が持てる内に聞いてみたい。


 あたしのこと、恋の対象としては見てくれてるのかどうかを。


 緊張しつつジッと一花を見てると、また訳が分からなそうに首を傾げている。あ、あれ? あたしの言葉の意味届いてない?


「......ルームメイトだろ」

「......ですよね」


 届いてなーい!! 全く届いてない!! ちょっとは気付いてよ!! なんでこんな風に聞いてきたのか気づいてよ!! どうすりゃ気づくの!? 一花も葉月っち並みに鈍感じゃん!! こうなりゃ告白!? だけど告白の前にどう思ってるか知りたいっていうか、なんというか......またヘタレ根性が出てくるし!!


「それと」

「え?」


 告白か、いやでも! と内心パニック状態になってるあたしに、また一花が言葉を続けてきた。



「バカで、騒がしくて、見ていて飽きない」



 え、え? それって、つまりどういうこと?

 その言葉の意味が全くさっぱりわからないのに、ニッと一花が口の端を上げて笑っていた。


 何それ......カッコいい。こんなカッコよく笑う姿、人生で初めて見た。

 今、キュンってきた。


 その時、遠くからドォン! という大きな音が聞こえてきた。何事!? って思ったら「花音でも無理だったか」と、さっきまでのカッコいい一花が疲れたように息を吐いてから、踵を返して走っていってしまった。え、え? 置いてけぼりぃ!? 人の事これだけときめかせといて、そりゃないよ、一花!!


 ああ、でも本当。さっきの一花の顔、やばかった。まだ心臓バクバクいってる。

 それにしても、バカで見ていて飽きないって......それ貶してない!? 褒めたの!? どっち!?


 結局、一花の本音は聞けないで終わった。


 自分も持っている荷物を急いで片付けて、花音たちや先輩たちがいる場所に合流したら、さっきの大きな音の正体が分かったよ。さっきまでみんなで競技していた場所が至るところ穴だらけになってたんだから。


 何でも、例の彼が花音にまた何かしら言っていたらしい。それを葉月っちが見つけて、急ごしらえで作った砲台からボールで彼を狙い撃ちしたとか。


 いや、うん。まずなんで砲台作れるのか分かんない! そんなの急ごしらえで作れないから、普通! そこからしておかしいでしょ!? どうやって作ったの!? え、パチンコ玉みたいにした? 強度の長いゴムを鉄棒に引っ掛けた? 余計分かんないんだけど!?


 その葉月っちは、今や駆け付けた一花にいつもの如くロープでグルグル巻きにされていたよ。むーって頬を膨らませてる。その葉月っちの頭をニコニコとした表情で花音が撫でていた。


「だめだよ、葉月。彼、人間だからね。あんなの当てられたら死んじゃうからね」

「むー! でも花音に嫌なこと言ってた! 庶民とか馬鹿にしてた!」

「あのな、葉月。いい加減、やってもいいことと悪い事の区別をつけろって言ってるだろ?」

「いっちゃん! 私、悪くない! あいつが悪いもん!」


 あいつ、またそんなこと言ってたんだ。それは葉月っちが怒っても仕方ないかもね。


 その彼の方を見ると、何故か気絶しているみたいで、向こうの生徒会がやれやれと彼を取り囲んでいる。後輩君が教えてくれたけど、逃げた拍子に転んで勝手に気絶したとか。葉月っちを怒らせるほうが悪いんだけど。


「すまない、こちらの生徒が......」

「いいえ、いいのよ。こっちもごめんなさい」


 ハアとお互いに溜め息をついている九十九先輩と向こうの生徒会長。お疲れ様です。


 競技場は一花が修理する手配をしていた。自分達も出来るだけの片づけをやって、その日は解散。夕飯で葉月っちは玉ねぎ出されて泣いてたよ。少しは反省した方がいいって。花音はそんな葉月っちの泣き顔見れてご満悦みたいだったけどさ。


 あたしはというと、一花の顔を見るたびに、あのカッコよく笑った姿が頭の中に浮かんできて大変だった。......大変すぎる! あーもう! 結局一花があたしのことどう思ってるとか分かんないままなのに!!


 夜、ベッドの中でゴロゴロと一人悶えていた。



 お読み下さり、ありがとうございます。

 今年は本当にお世話になりました。読んでくれた皆様に感謝の言葉しかありません。

 早く投稿ペース上げられるように、頑張って執筆します!

 来年もどうぞよろしくお願いいたします!

 皆様、良いお年を!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 1万字超えてい お疲れ様でした⊙﹏⊙ 「バカで、騒がしくて、見ていて飽きない」 一花まだ恋愛感覚がありません、舞頑張。 [気になる点] 一花にとってルームメイトは友達より仲がいいんですか…
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