26話 生徒会室にて
「これだから……あなたたちを会わせたくなかったのよね……」
所変わって、私たちは生徒会室に来ていた。無駄に広い。置いている家具とかも、まるで何かの物語に出てくるような豪華絢爛という言葉が似合うモノばかりだ。
寮長が1人だけ立っている状態で、腰に手を当て大きく溜め息をつきながら、やれやれと顔を振っていた。
会長は回復したのか不機嫌そうに1人用のソファに座って、足と腕を組んでふんぞり返っている。童顔先輩はまだ蹴られたお腹を擦っていて、眼鏡先輩は腫れた顔の横に氷を当て、ツンデレ先輩は私から一番遠いところで、まだちょっと震えていた。私といっちゃんは向かいのソファに座っている。横にいるいっちゃんは寮長と同じように疲れている顔をしていた。
「寮長~。今回は私悪くな~い」
「黙りなさい」
「このバ会長たちが悪いも~ん」
「葉月……ちょっと黙っておけ、な?」
え~、本当に悪くないのに~。むーっと頬を膨らませる。そんな私を見てまたまた大きな溜め息をつく2人。いっちゃんたちの幸せはいっぱい逃げていってるね。
会長もまた、大きく溜め息をついて立っている寮長を見上げた。
「おい、東海林。お前、この頭おかしいやつが違う高校に飛ばされたって言ってたよな? これはどういうことだ?」
「会長に褒められても嬉しくないな~」
「どこも褒めてねえよ!」
「……あのね、普通信じる方がどうかしてるとは思うけど。この子を学園が手放すわけないでしょ。この子自身はともかく、この子の家はあなたもよくご存じでしょうに」
「ハァ……椿にしてやられたわけだ。僕たちは」
「あら? 別にしてないわよ。ただあなたたちが、中等部で小鳥遊さんにプールに落とされて以来、生徒会室から出なくなっただけでしょう? 全然周りに関心持たなくなっただけじゃない」
「ぷふっ。いっちゃん聞いた? これが引き籠りっていうやつだね!」
「やかましい! お前は黙ってろ!」
私がケラケラ笑うといっちゃんの拳が飛んできた。全員がジト目でこっちを見ている。
え~、事実じゃ~ん。
「おい、小鳥遊……」
「何かな、会長?」
「お前……自分が何やったか分かってるのか……?」
「中等部のプール? それとも、中等部の生徒会室ふっとばした事? あ、それとも会長が生徒会室に女の子連れ込んでたのを、学園で私の実況付きで生中継したこと? 他に何かあった、いっちゃん?」
いっちゃんが遠い目をしている。いつも思うけど、どこ見てるのかな?
会長がプルプルしている。トイレ行きたいの? 行って来たらいいのに。
「お前……俺たちにどんだけトラウマ植え付けさせたと思ってやがる……見ろ! 宏太を! もうお前の姿を見ただけで震え上がってるじゃねえか! こいつ、あれ以来高所恐怖症になったんだよ! プール見るだけでもダメになったんだよ!」
「それは大変だね。克服するの協力してあげよっか?」
「ひっ!!!」
ゴンっと今度は寮長の拳が頭に降ってきた。え~善意なのに~。
「はぁ……小鳥遊さんはちょっと黙っていなさい……中等部の事はもう終わったことよ、そうでしょう? ちゃんと本題に入りましょう。そもそも鳳凰君たちが何で1年生の教室に行ってたのよ? まぁ、大体理由はついているんだけど……」
「椿が言ってただろ、特待生の子の事を。それで、僕たちも興味が出てね。実際見てみようかって話になったんだよ」
「怜斗……桜沢さんの事は私がちゃんと話をすることになっていたでしょう? それで? 鳳凰君が桜沢さんに横暴な真似をしたってとこ? どうせ、あなたのことだから無理やり入れって言ったんでしょうけど」
「あん? それの何が悪い。そもそも今回の桜沢の件はあいつが一般庶民だからだ。生徒会で保護しようと言ったのはお前じゃねえか」
「本人の意思を無視してまですることじゃないわよ。それに予想以上に周囲の人たちから受け入れられているから、ちょっと迷ってたのよね。この暴走娘の名前が思わぬところで役に立つとは思ってなかったから」
ポンポンと私の頭を叩く寮長。へ~、寮長たちは花音を保護しようとしてたのか。周囲とのというより、お金持ちのいらないプライドとか偏見とかで花音が孤立しないようにって事? 寮長はさすがだな~。中には本当に庶民ってだけで蔑む馬鹿がいるからね。
「まぁ……桜沢さんは気もきくし仕事も出来そうだから、そういう意味でも生徒会には欲しい人材なんだけどね」
「だったらいいだろ。それを、あの女。よく考えもしないで断りやがったんだぞ。だから無理にでも入らせようとしただけだ。何が悪い」
「それで、小鳥遊さんの怒りを買って、返り討ちにされてるんだから世話ないわね」
「桜沢のルームメイトがこいつだって知ってたら、俺だってあんな手段取らなかったわ!」
「ははは……僕もさすがにそれを知ってたら翼を止めていたよ、椿」
「東海林先輩。僕もそう思う。こいつは生きる災厄だぞ」
「(コクコクコクコク)」
「はあ……わかった。それに関しては謝るわよ。この子の存在を知られると、またあなたたちが生徒会室に引き籠るって思ったのよ、仕方ないでしょう」
「じゃあ、またここ爆破してあげよっか?」
「「「「やめろ」」」」
全員の声が見事にハモった。なんだかんだ、ホント仲いいよね。いっちゃんはなんだかげっそりしている。
「はぁ……桜沢さんの件は私から改めて話を通すから、あなたたちは手を出さないでちょうだい、いい? わかった?」
「そうだね……僕は椿に賛成するよ。他の人はどう?」
「はい。僕も賛成です。もうこんな目はこれっきりにしたいですからね」
「(コクコクコクコク)」
「翼は?」
「はぁ……俺だってまた蹴られたくないからな」
「あ、会長はまだやってもらうことあるよ~?」
「あ?」と怪訝な目で見てくる会長。他の人たちも同様だ。
「花音にちゃんと謝って?」
「はあ? なんで俺が……大体お前の蹴りでチャラだろうが」
私はにーっこりと笑って会長を見た。ビクッと体が震えている。分かってないな~。花音はさ~怖かったんだよ? 震えてたんだよ?
「花音、震えてた。だから謝って?」
「いや……だから……」
「大体さー、力で押さえつけられて、近くで凄まれたら普通は怖いよ。何で分からないの~? しかも知らない男にさ~」
「……それは……」
「謝って?」
「はぁ……鳳凰君。これは珍しく小鳥遊さんの言う事が正論よ。後で場を設けるからちゃんとそこで謝りなさい」
「っ……ちっ」
こいつホントに分かってんのかな~。そっぽむいちゃってるけど。まぁ、謝らないならちゃんとそれ相応の礼もするけどね~。あ、今度大量のアリを会長の実家に送ってやろ~。会長は寮暮らしじゃないからね~。
「それと小鳥遊さん」
そんなことを考えていたら、寮長から何故だか冷たい声がかかってきた。何々? やっぱりアリじゃダメージ低いかな?
「ちゃんと言っておくわ。暴力はだめよ。あなたは桜沢さんがそういうことをされるのが嫌だったんでしょう? 同じ暴力で返すのは論外だわ」
思いの外、真剣な顔で言われた。え~? 確かに抑えきかなかったけどさ~。
「葉月。寮長の言うとおりだ。これからは控えろ、いいな?」
「いっちゃん……」
「会長もやりすぎだとは思うが、お前の場合もっとやりすぎだ。加減っていうものをお前は覚えろ」
「東雲さんの言うとおりよ。モノには限度ってものがあるの。ちゃんと反省して、これからはちゃんと行動しなさい」
むー、限度ねー。あ、そっか。
「わかったよ。いっちゃん、寮長」
2人が目を輝かせた。他のメンバーもちょっと驚いている。何かな? その目は?
「私の限度を超えなければいいんだね!」
「「はっ?」」
寮長といっちゃんの目がきょとんとしている。
「じゃあ、もうちょっとこれからは弾けられるね!」
「「全然分かってない!?」」
「いっちゃん、任せて! これでも加減はしてたんだよ 寮長の言うとおり、反省して、これからの行動に活かすよ!」
「いやいやいやいや……葉月?! 加減はしていいんだよ? むしろ加減をしてほしいんだ!」
「いやいや小鳥遊さん!? 私の言う反省と、あなたの言う反省が何か違う気がするのよ!?」
「手始めに会長、アリと蜘蛛とトカゲとどれがいい?」
「何の話だ!?」
「あ、やっぱりトカゲがいい? じゃあ、後で楽しみにしててね」
「俺は何も言ってないんだが!? 楽しみってどういうことだ!?」
「あ、ダメ……聞いてない……東雲さん……後は任せたわ……」
「そんな寮長!? 諦めないでくれ!? あたし1人じゃ実はちょっともう限界なんだ!! 寮長!? 寮長~!!?」
何かの劇を始めた2人を無視して、私は考える。トカゲか~。頑張って捕まえなきゃな~。そういや、トカゲのしっぽって切れるんだよね~。再生するところ見たことないな~。観察して見よっかな~。
そのあと何故か会長といっちゃんと寮長に正座させられて、一つ一つチクチクと小言を言われながら結局放課後まで説教された。他の生徒会メンバーは我関せずといった感じでお茶を飲んでいたよ。えー私も喉乾いたのにずるい~。
「「「聞いてるか……?」」」
聞いてますよ~。そんな目で見ないでよ~。あ~何だか疲れた~。花音のご飯食べたい~。
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