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ルームメイトは乙女ゲームのヒロインらしいよ?  作者: Nakk
番外編 前編(舞Side)
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5話 ちょっとは見てほしい 

 

「ひろ~い!! あ、ボートある!!」

「葉月、飛び込んじゃだめだよ」

「んー。花音、ボート乗ろ~!」


 お昼ご飯を食べ終わり、あたしたちはバスに乗って、牧場から近くにある湖畔に来ていた。葉月っちが湖の広さに感動して花音の手を引っ張ってる。花音も楽しそう。


 ここは少し有名なデートスポット。

 今日は休日だからか、カップルもちらほら見かけた。


「おい、葉月。花音を落とさないようにしろよ」

「わかってるよ、いっちゃん! 任せておいて!」

「前みたいにボートを転覆させるなよ?」


 一花は心配そう。って待って、転覆させたことあるの?......さすが葉月っち。でも本人は不思議そうに一花を見てるんだけど。


「いっちゃん、そんなことしないよ? 今までそんなことしたことないでしょ?」

「何言ってる。前にあたしをボートに括り付けて転覆させたこと、覚えてないとは言わせないぞ」

「やだな、いっちゃん。あれは転覆じゃないでしょ? 一回転させて、そのあと普通に漕いだよね?」

「やかましいわ!? そもそも一回転させることがおかしいって気付け!」

「楽しければ問題無しですが?」

「ありまくりだよ!?」


 一花の言うとおり、ありまくりだわー。なんでそれで楽しいのか分からない。葉月っちの楽しいの基準がやっぱり違うと思う。そもそもどうやってボートを一回転させたのさ!?


 呆れていつもの2人のやり取りを見ていたら、葉月っちと手を繋いでいた花音がクスクスと笑っていた。


「大丈夫だよ、一花ちゃん。葉月がもしそんなことするようだったら、今日の夕飯は久々に生の玉ねぎを食べてもらうから」


 とても嬉しそうにそう告げた花音に、葉月っちがぎょっとしたように目を見開いていた。


「花音、玉ねぎさんを誰も望んでいないよ!」

「じゃあ、普通に楽しもう? 葉月はそれは嫌? 私はそれで充分楽しいけどなぁ。それとも葉月は、私と一緒のボートじゃ楽しめないかな?」

「......そんなことない。楽しいもん」


 おおー、さっすが花音。見事にボートの正しい漕ぎ方に誘導して、葉月っちの首を横にブンブン振らせてるよ。これなら、危ない漕ぎ方しなさそうだわ。


 花音もそれを分かってるのか、嬉しそうに葉月っちの手を両手で包み込んでいた。ちょっとお二人さん。何を見つめ合ってるのかな? もはやこれ、二人の世界だね......見ているこっちが甘ったるいよ!


「あのな......別にイチャつくのは構わないが、時と場所を選べよ? ここには他の家族やカップルもいるんだからな」

「......気を付けます」


 呆れた一花がすかさずツッコんで、花音が途端に我に返ったのか顔を真っ赤にしだした。あたしには分かる。これきっと今、葉月っちのことしか視界に入れてなかったんだわ。葉月っちの方は一花のツッコミに分からなそうにしていたけどね。


 というわけで、ボートには葉月っちと花音、あたしと一花の別々で乗ることに。

 花音が一瞬目配せしてきたから、頑張るって意味も込めて頷いて返したら、クスって笑っていた。


「一花、あたしが漕ぐよ!」

「ん? まあ、いいが......漕いだことあるのか?」

「多分大丈夫だって、これぐらい!」


 漕いだことはないけど、テレビでは見たことあるし! 大丈夫だってば! そんな疑わしい目で見なくても、あたしは葉月っちと違って、転覆させるなんてことしないから!! というか、出来ないから、普通!!


 ボートの中でお互い正面に向き合って座った。ゆっくり漕ぎだすと、ボートも自然と動き出した。おお、これ、結構力使うんだ。


「おい、無理そうなら代わるぞ?」

「大丈夫大丈夫! 意外とこれ、楽しいわ!」


 ま、葉月っちみたいにはいかないけどね。もう向こうまで行ってるし。なんであんな器用なのさ。自由自在に動いてるよ。


「......あいつも大丈夫そうだ」

「だから、花音がいるから大丈夫だってば! 心配しすぎなんだよ、一花は」

「前科があるんだから、仕方ないだろう? 花音にもしものことがあったらどうする?」

「一花の心配、そっち!?」


 葉月っちのことじゃないんかい!!?


「当たり前だろう? 花音に何かあったら、葉月はまた元通りだ」


 何てことないように肩を竦めて葉月っち達を見ている一花。つまりは回りまわって、葉月っちのことを心配してるんだ。


 あたしも漕ぐのをやめて、二人のことを見てみた。葉月っちも漕ぐのを止めて、周りの景色を見ているみたい。花音が少し手を水に触れさせながら、何かを喋って笑い合っている。


 いいな。

 本当に羨ましい。


 また一花の方に視線を戻すと、一花はさっきみたいに目元を緩めて二人を見ていた。


 あのさ、一花。

 今はさ、ここにいるのあたしだよ?

 葉月っちのことばかりじゃなくてさ......たまにはこっちも見なよ。

 二人は楽しんでるよ?


 だから、

 だからさ、


 今はあたしと一緒に楽しもうよ?


「? どうした?」

「......ううん、何でもない。よ、良かったじゃん! 葉月っちも無茶しなさそうだし、楽しそうだよ!」


 視線に気づいたのか、一花が不思議そうにこっちを見てきた。


 でも、自分の心の中で思ったことは言えなかったよ。


 あたし、今でも葉月っちに嫉妬してる。

 無条件に一花に心配してもらって、あんなに優しい目を向けられている葉月っちが羨ましくて仕方ない。


 今、そんなこと少しでも言葉にしたら......きっと止まらない。

 全部一花にぶつけてしまいそう。


 だけど、そんなことしたら、絶対一花に嫌われるってちゃんと分かってるよ。


「......よっし! じゃ、葉月っちたちに追いつきますか! 一花、ちゃんと掴まっててよ!!」

「は? おい、待て待て、何をするつも──」

「あっはっは! 大丈夫だって、転覆なんてしないからさっ!」


 嫉妬の気持ちを抑えたくて、勢いよくまたオールを掴んで漕ぎだした。


 ボートがグラングランと揺れ動く。

 一花が少し狼狽えて「ぶつかるからスピード抑えろ!?」と必死にボートにしがみついていた。そんな一花を見て、ほんの少しだけ、さっき沸き上がった感情が収まった気がする。


 今は楽しもうよ、一花?

 葉月っちのこともそうだけどさ、今日のデート楽しみにしてたんだよ。

 ずっと葉月っちに付きっきりの一花にも、息抜きしてほしかったんだよ。

 一花の喜んでる顔を見たかったんだよ。


「むむっ! 舞に追いつかれる!」

「葉月っち、競争だよっ!」

「競争じゃないわっ!? 他にもボート使ってる人いるんだから、ぶつかったら危ないだろうが!?」

「いっちゃん、見くびってもらっちゃ困るよ! ママの操舵技術を私は授かっています!」

「何も見くびってないんだよ!? というか、お前の母親の操舵技術をこんなところで披露するな!! そっちの方が危ないわ!!」

「あの、葉月? 葉月のお母さんの操舵技術って?」

「んふふ~。あのね~、ママはいつも言ってました。他のボートは沈めましょう!!」

「葉月っち、それ操舵関係ないんだけど!?」


 どんな教えなのさ、葉月っちのお母さん!? ただボート着き場までの軽い競争のつもりだったんだけども!?


 そのあと、どこから取り出したのか葉月っちが水鉄砲をあたしの方に構えだしたから、本当に焦ったよ。花音の「今日はいっぱい玉ねぎ食べてもらうからね」っていう一言で、あっさりとその水鉄砲を一花に投げてたけどね。はー良かった。


 まあ、陸に上がってからその水鉄砲奪い返して、一花にピューってかけちゃってたけど。花音がサッと用意していたタオルを一花に渡してたのが素早かったよ。さすが用意がいい。


「葉月、お前に1つ言っておいてやろう......」

「なんだい、いっちゃん?」

「許されると思うなよ!?」

「つかまらないよー、いっちゃん!」


 バタバタと追いかけっこが始まっちゃったよ。あーあ、結局こうなるのか。


「どうだった、舞?」

「え?」


 二人を眺めていたら、花音が少し顔を覗いてきた。


「一花ちゃんと話せた?」

「......あー、うん」

「あんまり話せなかったみたいだね」


 バレてる。

 だってさ......あのままだと、嫉妬でおかしくなりそうだったんだよ。


「あのさ、花音......」

「ん?」

「一花......今日、楽しかったかな?」


 いつもと同じように葉月っちに怒ってる一花を見ると、一花は楽しめたのか不安になる。困ったように笑って、花音もまた二人を眺めていた。


「楽しかったんじゃないかな。いつもより、どこか一花ちゃんの気が抜けている気がするから」


 気が抜けている? そうかな?


「だってそうじゃなかったら、一花ちゃんがあんな簡単に葉月から水鉄砲奪われないよ」

「確かに......」

「ねえ、舞」


 ん?

 どこか改まったように、花音が目元を緩ませてこっちを見てきた。どうしたんだろ?


「今日、ありがとう。計画してくれて」

「何さ、改まっちゃって?」

「私が感謝しているように、一花ちゃんもそうだと思ってるってこと」


 一花も......。

 確かにお昼食べる前にお礼言われたな。


「だから、もう少し自分のやることに自信持っても大丈夫だと思うよ」


 あたしを安心させたいのか、花音は優しい声音でそう伝えてきてくれた。


 自信。

 自信か。


 今日の計画は、無駄じゃなかった。

 今日のデートはみんな楽しめるものだった。


 あたしの一番の今日の目的は、一花を楽しませることだった。


 ......うん、そうだね。嫉妬ばかりで今日を終わらせるのはもったいない!

 一花も楽しんだのなら、それが一番! それがあたしだって嬉しいんだから!


「うん! ありがと、花音!」

「お礼を言ってるのはこっちなんだけどなぁ?」

「ううん! おかげでちょっとスッキリした!」


 また困ったように笑っている花音にあたしも笑いかけた。


 花音も葉月っちも一花も楽しんだなら、今日のデートは成功じゃん! あたし、やればできるじゃん!


 一花に少しでも意識してもらうのは全然上手くできなかったけど、今日はそれでいい!


「よっし! 今度は動物園とか行こうよ!」

「その前に、GW(ゴールデンウィーク)明けの新入生のレクリエーションの方をどうにかしないとね」

「あ、忘れてた......というか、花音! 一気に現実に戻さないでよ!」

「やることはちゃんとやらないと」


 くっ! 葉月っちとイチャイチャするために、2年生になってからの花音の仕事スピードが半端ないんだよね! 容赦なくあたしにもどんどん仕事回してくるし!


 あ、でもGWかぁ。実家には顔出さないとな。パパが寂しがってるし。でもでも、一花ともどこか出かけたい。この際だから葉月っちも一緒でいいし。


 なんて考えてたら、葉月っちに水鉄砲で水をかけられた。ちょぉぉ!? 今からバス乗るのに、なんで服にも掛けてくるのさっ!? 許すまじ!!




 その日の夕飯は花音に頼んで、葉月っちに生の玉ねぎサラダを出してもらったよ。ふっ、そんな恨みがましく見てもだめさ、葉月っち。それに花音は玉ねぎを食べて泣いている葉月っちが好きだからね。これは花音の為でもあるんだよ! だから観念して食べなよ! あたしのお皿に乗せてこないで!?


 お読み下さり、ありがとうございます。

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