2話 変えていきたい!
今話は本編の簡単なダイジェストみたいな感じです。
「花音~、おかわり~」
「ふふ、はいはい」
満足そうに2杯目のご飯を口に頬張っている葉月っち。
それをもう幸せそうに見ている花音。
「んー? 舞、食べないの~?」
「あれ? おいしくなかった?」
あたしの視線に気づいたのか二人が見てくる。
今は4人で花音の作った夕飯食べている真っ最中。
「あはは、ごめんごめん! ちゃんとおいしいから安心しなって、花音!」
「そう? それならよかったけど」
ごめんごめん。
なんかさ、嬉しくなっちゃったんだよ。
またこんな風に、みんなでご飯食べれている事実にさ。
葉月っちと花音がルームメイトを解消してから、二人が無理してるのがはっきり見て分かっていた。花音は花音で毎晩魘されてるし、葉月っちは葉月っちで暗い顔してたし。
何にも力になれない自分が歯痒くて仕方なかったよ。
卒業式の日、花音は葉月っちにみんなの前で盛大に告白をした。
葉月っちが死のうとしているのを止めようと皆で時計塔に向かって、そこで葉月っちが死にたい理由がはっきり分かり、それを花音が止めた。
心の底から良かったって思ってる。
一花のこと関係なく、二人とはこの学園に来て仲良くなった友達だから。
葉月っちも花音も友達として大好きだった。花音のご飯をおいしそうに食べる葉月っちも、それを見て嬉しそうに笑っている花音を見るのも好きだった。
元々この星ノ天学園に来たのも、あたしは一花を追いかけてきただけなんだよ。
一花が星ノ天に通ってるって分かって、中等部の試験を受けたけど、その時は落ちてしまった。だから死に物狂いで中学3年間は猛勉強。友達たちはそんなあたしに諦めろと言ってたけど、受かったし! あっはっは! あの時はみんなに色々奢ってもらったね!
星ノ天は毎日別邸から通うのに大変だから、この寮に入ることになった。パパは寂しそうだったけど、家政婦のおばちゃんがバシッと背中を叩いてたよ。でも毎日やりとりはしているから、あたしは別にそこまで寂しくない。
それに、あたしのルームメイトが一花だったから、それどころじゃなかったし!
ドキドキした。
あれから会ってなかったから、どんな女の子になってるのかな、とか。あたし、今でも一花のこと好きなのかな、とか。不安とか期待とか、色々なことがグチャグチャだった。
だけど、そんなの一花に再会してから吹き飛んだね!
挨拶してくれた一花に、ギューっと心臓が鷲掴みされた。
一花はあたしのこと覚えていないみたいだったけど、それでも良かった。嬉しくて嬉しくて、思わず抱きついて即蹴り飛ばされたのは、今ではいい思い出だよ。
自分の変わらない想いも確認して、さあ、これから一花に振り向いてもらうために頑張るぞ! って思っていたら、
一花の傍にはいつも葉月っちがいた。
葉月っちは寮でも学園でも問題児扱いされていた。屋上バンジーやらスプリンクラー壊したり、寮の廊下や壁を泥だらけにしたりしていたからね。それを止めるためにいつも一花は追い掛け回していて、これが二人の通常なのかって感心した。
そんな葉月っちにいつも嫉妬してたよ。
一花はいつも葉月っちを心配そうに見てる。
あたしのことを見てはくれない。
淋しかったし、悔しかった。
花音が葉月っちに恋したことが分かって、これはチャンスだって思った。
二人がハッピーになって、あたしと一花もハッピーになれば最高じゃんって思ったんだよ。
だから、今のこの二人が楽しそうにしているのを見るのは、実はものすごく嬉しかったりする。
今度は本当にあたしの番。
一花だって、葉月っちの重荷もこれからは減るだろうしね!
どうにも葉月っちを優先に考えている一花は、自分のことを後回しにする傾向がある。
でもなぁ、一花も葉月っちほどじゃないにしても鈍いところあるんだよね。あたしのことも全く何にも思ってないっていうのは、この一年で嫌って程分かったし。
......ってあれ? あれっ!?
「あたしのコロッケが消えてる!?」
「んむぅ?」
「葉月っちぃ!? それ、何食べてるのかな!? もしかしてあたしのコロッケかな!?」
「ひゃべひゃいひょひゃひょ」
「何喋ってるか分かんないけど、喧嘩売ってるのは分かったよ! 返して!」
ゴクンと飲み込んだ葉月っちが、きょとんとした目を向けてきた。
「舞、飲み込んだものを吐けと?」
「そういう意味じゃないし!」
「食べ物の恨みは恐ろしいんだよ、舞」
「今あたしに恨まれてるの葉月っちだって自覚しようか!?」
「ほら二人とも、そこまでにしよう? 舞には私の分をあげるから」
苦笑しながら、花音が自分のコロッケをあたしのお皿に乗せてくれたよ。葉月っちは全く気にしていなくて、あーんと白いご飯を目一杯口に放り込んでいる。
おのれ、葉月っち! あたしのコロッケを平然と取っておいて反省しないとは! かくなる上は......!
「一花! なんで怒らないのさ?!」
「ん?」
「ん? じゃないから! あたしのコロッケを勝手に取ったんだよ!?」
「いつものことだろ?」
「慣れてしまってる!?」
ちょっと、葉月っちのストッパーでしょ!? 怒ってよ! たまには自分のルームメイトのために怒ってよ!
一花のそんな反応に内心悔しい思いしながら、花音がくれたコロッケを頬張って、そのおいしさに簡単に怒りが霧散してしまった。
返ってきた日常。
本当は安心するいつものみんなとの時間。
でも、あたしは変えていきたい!
ちゃんと、一花にあたしを見てもらいたい!
星ノ天学園での2年目の春。
今年こそ、一花と恋人になってやる!!
お読み下さり、ありがとうございます。




