1話 一目惚れしたんだけど!?
プロローグです。
もう完全に一目惚れだった。
「あんたは馬鹿か? 家格がどうのといって、あんたの息子は彼女の父親をバカにしたんだ。このパーティーに呼ばれるぐらいの努力している人間を、鼻で笑った。その意味も分からない愚かな子供を連れてきておいて、子供の喧嘩? それで済ませようとする前に、親のお前がやるべきことがあると何故分からない」
小学校6年生の時、パパに連れられてきた取引会社の創立記念パーティーでの出来事。
どこかの家のバカな息子に、パパのことを侮辱された時、
その親と息子を一刀両断した一花に、目も心も奪われた。
一花が現れる前、この男子たちはあたしを取り囲んでニヤニヤしていた。
「そういや神楽坂っていうお前の父親も新参者だよな? 名家でも何でもない」
「そうそう。そういや僕のパパにも頭下げてるところ見たことあるぜ?」
その男子たちは「ぎゃはは」と笑って、パパのことをバカにした。イライラした。あたしのことはともかく、パパのことも悪く言うなんて。
パパは今の会社を一代で大企業に成長させた。最初は貧乏だったらしい。手がける商品もあまり売れなかったとか。
けど、試行錯誤を続けて、新商品が大ヒット。それを基盤に色々な分野と提携して、今ではいくつかの会社を経営している。
会社が軌道に乗りかけた時に、付き合いで行ったお店でママを好きになったと言っていた。でもパパはもう結婚していた。会社が軌道に乗り始めてから金遣いが荒くなった義母と離婚したかったけど、頑なに受け入れてはくれなかったと、あたしを育児放棄していたママから引き取った後、申し訳なさそうに何度も謝られた。ママも金遣い荒いけどね。
パパはお人好しだよ。女を見る目がないと子供ながら思っていた。でもそんなパパを放っておけなくて、パパの部下の人たちはついてきてくれてるんだと思う。
結局ママはあっさりとあたしを捨てた。ボロボロのあたしをパパが見つけたからだ。栄養失調のあたしを、パパが急いで病院に連れて行ってくれて事なきを得た。その後は多額の金額をママに払って親権をもぎ取ったらしい。もう今じゃどこにいるのかも分からない。
パパはあたしを目一杯可愛がってくれた。
あたしもパパが大好き。
正妻と義兄弟たちがあたしを受け入れるわけなかったから、いじめられないように別邸を与えられた。というより、パパもそこで一緒に暮らしている。正妻と義兄弟はお金しかせびってこないから心底嫌だって言っていた。あたしといる方が家族という感じがして嬉しいんだとか。
そうやって幸せそうに笑うパパといられることに、あたしも幸せを感じていた。
時には我儘言ったりお説教してきたり、喧嘩したり仲直りしたり、一緒に買い物行ったり遊んだり、パパがいてくれて良かったって本当に思っている。
パパの会社にも何度も行った。「働いているパパはかっこいい!」って言ったら泣いて喜んでいて、パパの秘書さんに「仕事してください」って怒られて面白かった。でもみんなに好かれているパパはかっこいいって思ってる。あたしのパパは皆に信頼されているすごい人で自慢のパパだ。
パパだけがあたしの家族で、大好きで、カッコよくて、
そのパパをバカにされたことが悔しかった。
その時だ。
「......やかましい」
そんな不機嫌そうな声を出した一花が、あたしと男子の間に入ってくれた。
その子の親も出てきたけど、それをさっきの言葉で一蹴した。
かっこよかった。
それ以外思い浮かばなかった。
このパーティーは政財界の認められた人しか招待されないって、パパが嬉しそうに話していた。今回、初めて招待してくれたって笑ってた。だからあたしと一緒に楽しみたいって、連れてきてくれたパーティーだった。
それを一花が認めてくれた気がした。
ジンと胸に響いて、バクバクと心臓は騒がしい。
あっという間にその親子は連れ出されていった。
騒ぎを起こしたからか周りには人だかりができていて、パパがあたしに気付いて急いで駆け寄ってきてくれた。
でも、あたしの頭の中は一花のことでいっぱいになっていた。
お礼を言わないとってパパからまた一花に視線を向けてみると、もう一花はいなかった。
帰りの車でパパに聞いて、そこで初めて自分を助けてくれた彼女が『東雲一花』っていう名前だって教えてくれた。
パーティー会場での一花の姿を思い出す。
自分より体は小さいのに、堂々と大人を黙らせていた姿を思い出す。
顔が熱い。
心臓うるさい。
「舞、大丈夫かい? 顔が赤いよ。熱があるのかな?」
「だだ大丈夫っ!」
パパが心配そうにしながら、おでこに大きい手を当ててきた。
でも違う。
これは違う。
はっきり分かる。
あんなカッコよく現れて、
庇ってくれて、
恋しないわけがないじゃん!
何あれ!
何これ!?
何なの!!?
見た目あんなに可愛らしいのに、何であんなカッコいいの!?
もっと知りたい。
彼女をもっと知りたい。
話してみたい。
どんな顔で笑うのか、
どんなものが好きなのか、
どういう人が好みなのか。
次から次へと興味が心の内から溢れ出てくる。
小学校6年生の冬休み終わり、
東雲一花っていう女の子に、あたし、神楽坂舞は恋に落ちた。
お読み下さり、ありがとうございます。
そして、お久しぶりです!
番外編、やっと始まりました!
前編は全て舞Sideで書き上げています。各話に〇〇Sideとはつけておりません。
この先、あれ? 舞ってこんな性格だった? と思う人もいるかもしれません。それは作者自身も驚いていることなので、実はこんな子だったんだって思っていただければ幸いです。
またお付き合いいただければ嬉しく思います!
今後ともどうぞよろしくお願いいたします!




