251話 寮長と新寮長
寮に着いたら、夕方だった。
なんだか久しぶりです。
それもそっか。この寮には2か月近く帰ってきていなかったから。
寮の入り口には、腕を組んでこっちを見てる寮長がいた。何で寮長ここにいるの? そして、何でこっちにきて、即溜め息ついてるの?
「はあ……お帰りなさい、小鳥遊さん」
「元気ないね、寮長?」
「いえね。どうしてか、あなたを見ると一気に疲労感が……」
「老けたんだね、寮長」
「今、何て言ったのかしら……?」
両頬を思いっきり引っ張られ、かなり近くで凄まれた。い、いっちゃん……呆れてないで助けてください。
寮長は、思いっきり引っ張った後、パッと手を離したよ。コホンと咳払いして腰に手を当て、どことなく優しい表情になって、こっちを見てきた。
「まあ、元気そうで何よりよ。まだいる内に帰ってきてよかったわ」
「まだいる内?」
「ああ、そうだな。寮長は大学部の寮に行くのか?」
「ええ。明後日にはもう出るわよ」
なんと?! 寮長が出て行っちゃう! あ、そっか。卒業したんだもんね。ふむ~。そっか~。もう寮長とお別れか~。
じゃあ、今の内にって思ったら、花音に腕掴まれた。あ、あれ? なんでそんな怖い笑顔なの?
「だめだよ、葉月?」
え、いや、その? まだ何もしていないんだけども?
「だめだよ?」
あの、花音。ちょっとヒンヤリしてきたから。わかったから。ちょっとそれやめ――。
「葉月?」
ひいっ! わかったよ! 寮長の胸は揉みません!
大人しくシュンってしたら、花音が途端に普通のニコニコ笑顔に戻ったよ。これ、考えてることわかったの? え、わかったの?
「ああ。桜沢さんに任せておけば、もう大丈夫そうね、多分」
「そうだな。あたしも大分楽になるはずだ、多分」
いっちゃんも寮長も、何をそんなに分かりあっているのかな? そうだといいな、っていう空気も感じるんだけども。
「それより、寮長。次の寮長は決まったのか? 中々誰も引き受けないって嘆いてなかったか?」
「あら? 聞いてなかったの?」
うん? 新しい寮長?
「呼んだかい!?」
舞がいきなり後ろから、大きな声で叫んできたよ。今着いたんだね。レイラはそのまま帰ったんだね。誰も呼んでないよ? 今、新しい寮長の話をだね。
「神楽坂さんが引き受けてくれたのよ」
へ? 寮長、今なんと? 舞がニンマリとしてるけども。
「あっはっは! びっくりしてるね、葉月っち! そう、この度、新寮長に任命されたのさ!」
「舞が? 本気か、寮長?」
「本人がいいって言ってるから、いいんじゃないかしら」
「舞、出来るの~?」
「仕方ないんだよ。皆に頼まれちゃってさ」
みんな?
「寮の皆が葉月っちを敬遠しちゃってね。あたしが葉月っちにツッコめる存在だからって、頼まれたんだよ」
ツッコミって寮長の仕事だった?
「それに、一花と花音に頼めば葉月っちは止められるからね! あたしはただの連絡係さ! 何も問題無し!」
寮長の仕事って連絡係だった? ほら、舞。いっちゃんがすごい呆れた目で見ているよ。
「おい、舞。それで寮長できるのか?」
「大丈夫だって、一花! その他の事もちゃんとやれるさ! 多分だけどね! あっはっは!」
「寮長。本当にこいつにやらせるのか?」
「小鳥遊さんの起こした問題を、代わりに謝ることが出来るだけでも十分よ」
「は!? ちょちょちょっと、寮長!? 何かな、それは!? 聞いてないんだけど!?」
「言ってないから、そうでしょうね。でももう変更効かないから。頑張ってちょうだい、2年間」
「いやいやいや!!? 言って!? ちゃんと言って!? だったら引き受けなかったんだけども!?」
「舞~ガンバ~」
「葉月っちが言わないでくれるかな!?」
いや~これからは舞が皆に謝ってくれるんだって~! ふっふ~! 何しよっかな~! え、それはもういいって? そんなわけないじゃないか! 私にはまだ、ちゃんとそういうことをやる欲があるんだよ!
何しようか考えていたら、寮長がやれやれって首を振ってたけど、顔をあげてこっちを見てきた。
「これで、私にやっと平和がくるわ。小鳥遊さん、あまり無茶はだめよ。私がいなくなったからって寮の皆、果ては学園の皆をあまり困らせないようにね」
「わかったよ、寮長! 任せといて!」
「ええ、聞いてないわね、全く。誰も任せるなんて一言も言ってないから。ちょっとは成長してほしいんだけども」
「うん? 1センチ身長伸びたよ」
「そっちの成長じゃないのよ? ふふ……やっと、やっと解放されるわね! この話が通じない状態から! じゃあ、東雲さん、あと頑張りなさい!」
「寮長!? 待て!? なんって清々しい顔してるんだ!? 寮長ぉぉ!?」
寮長はもうルンルン気分で行ってしまったよ。
あ~あ、寮長とは2年間お別れか~。あれ、でも待てよ? 大学部はまだ近いじゃないか。突撃すれば面白いことになるんじゃないか?
ねえ、いっちゃん……あれ、なんでそんな膝ついてガックリしてるの? なんで舞も同じ格好なの? はて?
「中入ろうか、葉月」
花音は変わらずのニコニコ顔だね。2人のことも花音が促して、2人はトボトボと歩き始めたよ。
ねえ、いっちゃん。なんでそんな疲れた顔してるの? 今日はまだ何もやってないんだけども? 「あたしはこっちのストッパーは卒業したいんだが」って呟いてたけど、いっちゃんがストッパーやるって言ったんだからね?
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