249話 アルバム?
「ぎゃああ! 葉月っち! なんてもの持ってるのさ!? こっちこないで!? お願いします!」
舞の叫び声が、屋敷に響き渡っています。
パパとママのお墓から戻ってきて、今は屋敷の探索中。舞がすぐ帰るなんてつまらないって、言いだしたからなんだけども。
さっきまでおじいちゃんたちと少しお茶していたら、舞がそんなこと言ったので、じゃあ、この広い屋敷を案内しましょうってことになった。見るとこ何もないけどね。
泣き腫らした目で建物出たら、おじいちゃんは苦笑して、叔母さんとお兄ちゃんはぎょっとしていた。舞とレイラも心配そうに見てたけど、いっちゃんだけは逆に安心した顔をしていた。なんでだろ。
おじいちゃんたちとお話している時も、花音は隣に座ってニコニコしてた。というか叔母さんとお兄ちゃんも、なんで花音に経済の話振ってるんだろ。花音もさらっと答えてたけども。
花音の答えを聞いて、お兄ちゃんが獲物を見つけたかのような顔をしていたよ。皐月お姉ちゃんの時と同じですね。今度会社に見学こないかって誘ってた。
いや、お兄ちゃん。如月もいいけど、鴻城の方もね、よろしくお願いしますよ。私、継がないからね。
舞とレイラは、次々答える花音を羨望の目で見ていたよ。花音が優秀すぎますね。そしておじいちゃんも、花音に遊びにおいでとかさらっと誘わないで? 絶対花音を何かに巻き込む気でしょ。やめてください。その花音はどこか楽しそうだったよ。なんで?
今は私の部屋にきている。実はいっちゃんの部屋も隣にあるんだけどね。狂ってる間、ほとんど寝泊まりしてたから。
そしてなんと、ほぼ1年ぶりの再会を私はタランチュラ君と果たしたよ。メイド長がお世話してくれてたみたい。
彼を手に乗せたら、舞がびびって逃げ回るから、追い掛け回したらいっちゃんに怒られた。そして強制的に虫かごに入れさせられたよ。
私の部屋は、閉じ込められていた時と違って色々あった。カーテンもあるし、ベッドのシーツとかもあるし、机もある。花瓶には花が飾ってあったし、鏡もあった。狂ってた時は全部取り上げられたんだけども。窓にも格子はついてなかった。ただ、近づいて見てみると、跡があったけど。
「はあああ……えらい目にあったよ。それにしても、ここが葉月っちの部屋か~! お姫様の部屋って感じだね! 天蓋ベッドなんて初めて見たよ!」
そのベッドに腰掛けながら、舞はキョロキョロしている。花音も物珍しそうに本棚を見ていた。レイラといっちゃんはソファに座って、メイド長が持ってきてくれたケーキ食べてたけど。
「これで寝てるなんてすごいね、葉月っち!」
「寝てないよ?」
「いや、ここ葉月っちの部屋でしょ?」
「最後に出たとき、こんなベッドじゃなかったもん」
「え、そうなの?」
「あー舞。そこはツッコむな。説明が面倒くさい」
「あ、察したよ。うん。もういいや」
相変わらず軽いね、舞。そして何を察したんだろう?
ゴロゴロしてる舞を見てると、本棚を見ていた花音が、いっちゃんに話しかけている声が聞こえてきた。
「一花ちゃん。もしかしてこれ、アルバム?」
「ん? ああ、そうだな。多分メイド長が入れたんだろ」
「見ていいかな?」
「別に構わない」
なんでいっちゃんが許可出してるんだろう? ここ一応私の部屋じゃなかった? まあ、別にいいんだけど。
舞も自分も見たいって言って、花音のところに移動していた。2人とも空いてるソファに腰掛けて、アルバムを開いている。
ん? 花音が目を大きく見開いてるけど、なんで? でも、すぐ目元を緩ませて微笑んでた。見間違いかな?
私もタランチュラ君と遊べないので、ケーキを食べ始めたよ。あれ? あんまり甘くないな。
「うっわ、3人とも可愛いじゃん!」
「ふふ、本当だね」
「葉月っち、こんなに髪長かったんだね!」
「そだね~」
「葉月、長い髪も似合ってるね」
「そう?」
「うん。すごく可愛い」
そう言って笑う花音の方が可愛いと思うけども。そして、このケーキをもっと甘くしたい。と思って、紅茶に入れる砂糖をドバドバとケーキにかけてたら、さすがにいっちゃんに止められた。だって甘くないんだもん。
「あっはっは! レイラ、この頃からこの髪型だったんだ!」
「な、なんで笑いますのよ! 可愛いじゃありませんの!」
「だから言っただろ。それは悪役がする髪型だって」
「一花のそれは意味がわからないんですのよ!」
縦ロールね~。意地悪なイメージがあるよね~。そういえば、この前のドラマの宣伝で、そういう役の子が出てた気がする。
甘くならないから今度はメープルシロップかけたら、またいっちゃんに止められた。だって甘くないんだもん。
「あ……」
「ん? 花音、どうしたのさ?」
「……あの、一花ちゃん」
「なんだ?」
「この写真もらっていいかな?」
「ん?……ああ、いいぞ」
だから、なんでいっちゃんが許可出してるんだろう? いいんだけど。
花音は嬉しそうにその写真を取り出して、ハンドバッグに入れていたけど、何の写真? ま、いっか。
あ~んとケーキを口に運ぶと、やっと甘さを感じた。でも、もっとって思って、またシロップかけようとしたら、いっちゃんに殴られた。
「さすがにかけすぎだ!」
「だって~」
「また舌おかしくなったらどうするんだよ!?」
「その時はその時です」
「割り切るな!?」
「どれどれ~? あっまっ!! 何これ!? 砂糖がジャリジャリするし!」
「もう少し甘いのがいい」
「まだ足りないの!?」
うん、足りない。
舞が変わってしまった私のケーキを食べて、愕然としていたよ。やっぱりシロップかけようとしたら、今度はいつのまにか近くに来ていた花音に止められた。
「こっちで我慢しようね、葉月」
うん? 花音が出してきたのは紅茶だった。飲めって事? まあ、飲みますけど。でも全然甘くない。ストレートですね。
砂糖入れようとしたらまた止められて、今度は花音の分のケーキを出してきた。
「はい、あーんして」
首を傾げながら、あ~んして口に入れる。
あれ? 甘いな。同じケーキなのに。はて?
あ~んして、また口に入れてもらう。あ、うん。大丈夫。甘いですね。花音がニコニコして、たまに紅茶を促されて飲んで、ケーキを食べた。
「一花……私、さっきの葉月っちのケーキより胸やけ酷いんだけど。前は感じなかったのに」
「慣れろ」
「あ~! 恋人ほしい!」
「無理だ」
「酷くない!?」
「その内に現れますわよ、多分……」
「レイラまで!?」
何やら舞が言ってたけど、何をそんなガックリしてるんだろう?
舞もやっと満足したみたいだったので、メイド長に頼んで車を呼んでもらった。
おじいちゃんが「いつでも待ってるよ」って言ってくれて、前はもう来ないって思ってたけど、今日はすんなり「わかった」って言えた自分にびっくりした。
あと叔母さんが今度買い物付き合えってうるさかったから、暇ができたらねって言っておいたよ。お兄ちゃんはお兄ちゃんで皐月お姉ちゃんと一緒に遊びにいこうってしつこかったから、お姉ちゃんに言って止めてもらうことにしよう、そうしよう。
帰りの車は花音に膝枕してもらって、少し寝た。
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