24話 ちょっと我慢の限界ですよ?
暴力シーンありますので、苦手な方はご遠慮ください。
ニコニコニコと会長たちに笑顔を向ける。逆に青褪めていく会長たち。
いっちゃんはまだプルプルモードに入ってるから、止めに入っては来ない。
「おおお前……小鳥遊……か……?」
「そうだよ~。会長たち久しぶりだね~?」
「な、何で……だってお前、違う学校に行ったんじゃ?」
「ん~?」
何のことだろ? あ~もしかして、寮長? 私とこの人たちを会わせないようにしたのかな。中等部の時に散々この人たちとも色々あったからな~。
「まさかっ……東海林、あいつっ!!」
「会長たちって相変わらず~。巣に引き籠ってて分からなかったの~?」
巣とは生徒会室の事だ。この人たちは滅多にあそこから出てこない。
「まあ、いいじゃん。私ここにいるし~。それよりさ~。ね~。ちょっと怒ってるんだよね~、私さ~」
「はっ……? お前が怒る……?」
「いやいや会長、何不思議そうな顔してるの? 花音に何してくれてるのかな~。見てたよ。肩痛そうだったね~」
「……お前が何で桜沢を庇うんだ?」
会長は平静を装って私を睨んでくる。でもさ、会長さっきから一歩一歩後ろに下がってるの、分かってる? もしかして怖い? まぁ、怖いよね~、あの時は荒れてたからさ~、中等部1年の時はさ~。でも私、まだ若かったんだよ。仕方ないよね~。
「た、小鳥遊……ちょっと落ち着こうか、ね……?」
「そ、そうだ……ちょっと落ち着け……早まるな……」
「(コクコクコクコク)」
後ろの3人がちょっと震えながら、会長の後ろから声を掛けてきた。
「怒らせたの、皆だよ~。花音はさ~、今の私のルームメイトだよ~? 知らないの?」
「し、知らないな……」
「じゃあ、今からちゃんと覚えておいてね?」
「そそそうしよう……」
会長の声は段々弱弱しくなっていく。逃がさないよ。っていうか逃げられないよね? こんだけギャラリー集めちゃったんだもんね。
「ちょ……通して! って葉月っち!? いやいやこれどういう状況?」
いないと思っていた舞が出てきた。私は花音に振り向いて、ニコッと笑う。
「花音~。舞の近くにいて~?」
「は、葉月……何するの……?」
「舞の近くにいて?」
「……私は大丈夫だよ?」
「舞の近くにいて?」
花音がしばらく私の顔を見てから、諦めたように、舞の近くに駆け寄った。
「いやいや、葉月っち? ちょっとホントに訳分かんないんだけど」
「花音と邪魔にならないように離れてて?」
「はい?」
花音は何故か周りをキョロキョロしてる。
「さってと、会長たち~。準備はいいかな~?」
「いやいやいやいや! なんの準備だ?!」
「小鳥遊っ!? 落ち着いて! 話し合おう!」
「やめろ、小鳥遊!! こんなところで暴れるつもりか?!」
「(コクコクコクコク)」
「もちろん遊ぶ準備ですけど、何か?」
「何かじゃないわ!? いいか……小鳥遊……俺たちはもう高校生だ。遊びで暴れまわるのは初等部、いや、中等部で卒業した。わかるか?」
「わかる」
私がそう言うと、会長がどこかホッとしたような表情をしてる。甘いな~。
「じゃあ、遊びじゃなくて本気でいこっか」
「さっきの俺の一瞬の安心を返せ!」
「いや~会長? 私さ~これでもさ~中等部で派手に暴れてからさ~反省したんだよ? ちょっとやりすぎたかな~って」
「俺たち全員3階から下のプールに突き落とすのが……ちょっと……?」
そうなんだよね~。この人たち全員突き落としたんだよね~。でもさ~、ちゃんと私が自分でやった後に安全保障付きでやったから問題ないよね。それにあの時の会長たち酷かったじゃん。我儘し放題でさ~。
「だからさ~、それからは我慢するようになってさ~。今でも我慢してるよ? 人様に迷惑かけないようにね~。いっちゃんにも怒られるし~」
「そそそうか……お前も成長したんだな……俺も会長として嬉しく思うぞ?」
「けど我慢って体に良くないよね?」
「おおいい!? ちょ、ちょっと待て……落ち着け?」
全員が更に顔を青くしている。あれ? そういえば、いっちゃんが言ってた攻略対象者たちの心の傷って私がやったことも入るのかな? ま、いっか。
私はニコッと笑って会長たちに近づいた。
「あはは~。何そんな怖がってるの? あ、もしかして落ちたい? 3階から落ちたい?」
「落ちたいわけねぇだろ!!」
「私さ~、ショックだよ。会長たちがあんまりにも変わらなくて」
「た、小鳥遊……ははは……君も人の話を聞かないところは変わらないね~……」
「挙句の果てに? 女の子を力で押さえつけて? 断ったらそういう行動取る?」
「たた小鳥遊……だから落ち着け? 翼さんのさっきのは暴力じゃない……ただ、そう、話を聞いてもらうためにだな……」
「(コクコクコクコク)」
「眼鏡せんぱ~い? さっきも言ったけどさ~花音は私のルームメイトだよ? 怯えさせただけでも、私が怒るの当然じゃないかな~?」
「そ、そうだな……謝ろう。ちょっとカッとなってしまった……」
「あっはっはっ! 誠意のない謝罪ってホント……本当に腹立つよね~……?」
いや~、今の謝罪はないわ~。カッとなったら手をあげていいんですか? へ~……男は女より圧倒的に力が強いからいいよね~……ちょっと気に入らないとそれで黙らせるんだよね~……前世でいたわ~……そういう男たちが……あ~、やば……久しぶりかも~……ちょっと我慢の限界ですよ?
一気に頭が冷えていく。
私の空気が変わったのがわかったのか、4人共、「ひっ」と男らしくない悲鳴をあげていた。4人だけじゃなく、周りにいる人たちも凍り付いている感覚だ。「葉月っち……」と怖がっているだろう舞の声も聞こえてくる。
「だから~……先輩たちも……味わうべきだよね……? その恐怖を……?」
そう言ってから、目の前にいる会長の股の間を思いっきり蹴り上げた。
「っ……!? っ……!!!」
ちょっとあり得ない顔で蹲る会長。知らんよ? 急所を狙うのが鉄則でしょ?
つい口角が上がった。
すぐさま逃げようとした後ろの3人の方に回り込んで、今度は童顔先輩の鳩尾に一発。苦しそうに倒れ込む。眼鏡先輩には顔の横を回し蹴り。簡単に吹き飛んだ。最後にツンデレ先輩が逃げようとしたから、背中から飛び掛かって頭をゴンっと押さえつけた。
あっは。何、逃げようとしてるんだろうね?
「いやいやいや……せんぱ~い……? 何逃げようとしてるのかな~?」
「ひっ……!?」
「あなただけ逃げちゃ~だめだよ~……?」
「や、やめっ……」
私がツンデレ先輩の頭を持ち上げ、地面に叩きつけようとした瞬間、
その腕が掴まれた。
視線を向けると、いっちゃんが険しい顔で私を見ている。
あ……これ本気の目だ……いつものツッコミの目じゃない……。
「葉月……やめろ……」
「…………」
「その掴んでいる手を放せ……」
「…………」
「放せ……」
いっちゃんの手の力が強くなる。ギュウっと、それ以上はだめだと伝えてくる。
本気のストップだ……。
ふう、と一気に息を吐く。私はゆっくりツンデレ先輩の頭から指を離した。
「わかったよ、いっちゃん……」
「馬鹿野郎が……」
いっちゃんが周りに蹲っている生徒会メンバーを見渡していた。その奥で花音がちょっと泣きそうな顔をしているのが視界に入る。
「何をしているの!?」
寮長の声が響いた。人だかりから寮長を通すために道が出来る。寮長が私たちの現状を見て、険しい顔つきになってから、ハァと溜め息をついた。
「もうすぐ授業が始まるわよ。関係ない子たちはそれぞれ自分のクラスに戻りなさい」
「東海林、てめぇ……」
「鳳凰君たちも怪我は大したことないでしょ、さっさと立ち上がりなさいよ。生徒会室で話をしましょう」
寮長、容赦ないね。かなり強くやったんだけど。特に会長に。まだ赤くなりながら股を押さえてるよ。ざまあみろだけど。
「小鳥遊さんと東雲さんもよ。2人とも一緒に生徒会室に来なさい。事情を説明してもらうわ」
「わかったよ~……寮長~……」
「ハァ……仕方ない……」
「ま、待ってください!」
花音が向こうから寮長に駆け寄ってきた。
「桜沢さん?」
「私も行きます。そもそも私が……」
「花音~」
「葉月……」
私は花音の近くに行って、ヘラヘラしながら頭を撫でる。
「花音は悪くないよ~?」
「でもっ!」
「寮長~、花音は悪くないよ~?」
私たちを見比べながら寮長はまた深く溜め息をついている。ありゃりゃ~……苦労かけますね~。
「桜沢さんは教室に戻りなさい」
「東海林先輩っ! 私はっ……!」
「いいからあなたは戻りなさい。事情ならこの2人から聞くから大丈夫よ」
ポンポンと花音の頭を撫でて、私も行くように促す。舞に目を合わせるとコクンと頷いてくれた。
「花音、あたしと一緒に教室戻ろっか?」
「でも、葉月たちが……」
「大丈夫だって! 一花もいるし! でしょ、葉月っち?」
「もち~」
「大丈夫だ、桜沢さん。いつもの……ああ……いつものことだからなぁ……」
ハァといっちゃんも大きな溜め息をつく。でもさぁ、いっちゃん。今回は私もやりすぎたけどさ。私だけが悪いんじゃないと思うんだよね。
舞が無理やり花音を教室に引っ張り込んだ。そんな心配しなくても大丈夫なのに。大丈夫だけど……。
「いっちゃん」
「何だ?」
「溜め息つくと幸せ逃げるらしいよ?」
「いや、お前が原因だよ!?」
「そだね」
「お前、そろそろ反省という言葉を覚えろ、な?」
「いっちゃん」
「無視をするな。それで何だ?」
「………………助かった……」
「…………そうか」
助かったよ。いっちゃん。ちょっと久々に抑えがきかなかった。
これも後ろからついてくるバ会長たちのせいだけどね。
ねぇ、いっちゃん。ホントにこの人たちが攻略対象者なの? 花音がホントに好きになったら仕方がないけどさ~。
お読み下さりありがとうございます。




