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243話 乙女ゲームどうなった?

 

 花音は今日、舞たちと一緒に帰っていった。「また明日ね」って言ってたけども、いくら春休み入ってるからといっても毎日来なくていいんじゃない? 実家帰らなくていいのかな? 詩音と礼音が待ってると思うんだけども。


「ねえ、いっちゃん」

「なんだ?」

「そういえば乙女ゲームどうなったのって思って」

「ああ、そうだったな……」


 今はいっちゃんと2人きり。なんでも今日は先生の奥さんにご飯に呼ばれてるらしい。先生を待ってるんだって。


 今は私がすっかり引っ張られることが無くなったから、病院で寝泊まりしていない。卒業式までは24時間体制でここで寝てたらしいけども。学園も休んでたんだって。


 卒業式以来、私は“こっち側”にいるほうが少ない。ちゃんと常におかしいって分かってる。あの子の呼ぶ声もパタッとこなくなった。たまに、いっちゃんが確認するぐらい。


 そしてびっくり。全く欲がたまらない。モヤモヤが溜まらないから、何かで発散する行為も減っていった。


 この前、たまたま開けた窓からテントウムシ入ってきたから捕まえようとして、いっちゃんに止められたけど。それぐらい。


 夜もちょっと寝れるようになった。薬も飲んでるけど、それでも前より寝ていられる。寝ている間に自害行動をしてもいないらしい。夢もあまり見ない。熟睡してるって先生が言ってた。


 あとは花音がいる時に寝てる。花音のハグ効果は戻っているらしい。部屋を替える前は寝れなくなってたんだけどな。おっかしいな~。



 それでさ、いっちゃん。


 その花音は、何で私に告白してきたのかね?



「花音は会長と結ばれるんじゃなかったの?」

「まあ、ゲームではな」

「卒業式の日、最後のイベントだったんじゃないの?」

「いや、あったぞ。それが終わってから――いや、途中でお前が消えたって連絡入ってな……」


 あらま。私、イベントの邪魔しちゃったの?

 そもそも、イベントって前に、告白って言ってなかった?


「会長に告白したんじゃなかったの?」

「あーいや、それがな……」


 歯切れ悪いね。おかしい。こういう話の時は、いっちゃんはキラキラした目をしているのに。


 ハアと息をついて、いっちゃんが手に持っていた本を置いてこっちを見た。


「確かにゲームでは会長に告白した、それは間違いない」

「ほうほう」

「だけど、あの日は会長の方が花音に告白した――と、思う」


 何でそこで途切れ途切れなの?


「……花音が全然、会長の告白に気づいてなかったんだよ」

「はい?」

「哀れだったな、会長……ポカンとしてたもんな」


 どんな告白? でもさ、花音。自分だって鈍感なんじゃないかね?


「まあ、会長の告白も微妙だったしな、うん」

「どんな告白だったの?」

「…………『お前をモデルにした絵を描いていきたい』」


 ……それ、告白?


「花音があっさり承諾してな。いいですよって」


 そりゃあね。花音、会長の絵を嬉しがってたもんね。


「しかも、その後すぐお前がいなくなったって連絡きてな……それどころじゃなくなった花音がいて……」

「……それで?」

「あの花音のお前への告白を聞いて……」

「……」

「しかもキスシーンまで見せられて……」

「…………」

「お前が寝て倒れてからも、花音は自分に目もくれず、お前に付きっきり……しかも、お前は傷開いたりしてたから余計に……」

「……いっちゃん」

「さらに車に乗る前に、会長にモデルの件は暇ができたら連絡しますねと言われて……」

「……ねえ、いっちゃん」

「門に手をついて、猿の反省みたいに茫然としてる姿といったらもう……」


 ……会長……会長ぉ! 哀れすぎるよ! なんかごめんなさい! でも告白の内容も微妙すぎるよ! それじゃ誰も気づかないよ!


「見てられなかったな……思わず目を逸らしたよ」


 そうだね! 見ていられないね! 虚しさ全開だよ!


 私が心で初めて会長に心底謝ってると、コホンといっちゃんが咳払いをした。どしたの、さっきまで哀れんだ目してたのに?


「まあ、仕方ない。それにこれはあたしも予想外だしな」

「えー、うん、そだね~……」

「お前が攻略されたのはいいとして、ただ恋心は会長に向かうかなって思ってたんだがな。こっちばかりは予想外過ぎたな」


 うん? 攻略?


「いっちゃん?」

「なんだ?」

「誰が攻略?」

「お前が」

「誰に?」

「花音に」

「攻略?」

「攻略されたな、見事に」


 なんですと? 私が花音に攻略された? ってなんでそんな呆れた目になってるの!?


 いや、だって! 乙女ゲームでしょ!? 攻略対象者に恋するって言ってたの、いっちゃんじゃん!


「お前……本当に気づいてなかったんだな」

「何に?」

「花音のあの猛烈アピールに気づかないとは……仕方ないとはいえ、花音が哀れだ」

「だって、いっちゃん! 乙女ゲームの主人公は攻略対象者に恋するって言ったのはいっちゃんだよ!? 私、攻略対象者じゃないよ!?」

「確かに言ったが、あたしはあくまでゲームではそうだった、と言った筈だがな」

「それにいっちゃん! 私、女です!」

「知ってる」

「花音は可愛い女の子です!」

「知ってる」

「攻略対象者、全員男です!」

「知ってる」

「私を好きになるとは思えませんでした!」

「だから鈍感だって言ってるんだよ」


 ガーンって顔したら、いっちゃんがやれやれって首を振っている。「それにな葉月」って疲れ切った声も出してたよ。


「あたしは前に何を攻略するって言った?」

「うん? 何?」

「主人公が攻略対象者の心の傷を癒すって言ったんだ」

「そうだったね」

「つまり、心の傷を癒すのが攻略」

「ほうほう」

「恋して、その人を好きになるかは別だ。ゲームでは必ずしも告白の選択があったわけじゃない。友情エンドもあったんだよ。前にこれも言ったはずだ」

「うん?」

「お前に花音が恋したのは別で、でも、しっかりと花音はお前の傷を癒してるし、会長の母親からの束縛からも解放してるんだよ」

「え、花音が手術したの?」

「違うわ!? なんでそうなる!?」


 自分のお腹といっちゃんを見比べてたら、ちょっと軽めの拳骨が飛んできた。痛みが戻ったって言ったから手加減してくれたみたい。いっちゃん、優しいね! ってそうじゃないけども!


「お前のその死ななきゃっていう欲求を解放しただろうが! それが攻略されたって言ってるんだよ!」


 え、いっちゃん? 何言ってるの?


「いっちゃん、何やら誤解があるようだね?」

「ほう? 何が誤解だ?」

「私は確かに“こっち側”に引っ張られにくくなってます。認めます」

「それで?」

「でも、ちゃんとまだその欲はあるのです。染まらないだけで」

「ふむ。じゃあ、お前今そう考えてるか?」

「まあ、多少は」

「花音といる時は?」


 え、花音といる時?

 そうだな~。とりあえず守れって言われたから、どうやって守ろうかなって考えてるかもね。


「安心しないか?」


 安心? まあ、するね。ハグされると寝るぐらいは。


「両親の事、思い出すの出来るようになったんだろ?」


 あ、はい。どことなくポカポカしますね、前は死にたくなったのに。


 まあ、ちょっとは死にたくなるんですけど。でもそれは、花音がきっと幸せだったって言ってくれたから、信じてみようかなっと。


「花音といる時に、どうやって死ぬのか考えてるのか?」


 いやだから、それよりもどうやって守ろうかな――あれ?


 そうなると、考えてないのかな?

 どうなのかな?


 私が首を捻ってう~んって考えると、ジト目でジーっと見てきた。


「……いっちゃん。わかんない」

「わかんない時点で気づけ」

「何を?」

「前はそれしか考えてなかったお前が、他のこと考えてるんだぞ? それだけで、死の欲求から解放されてるじゃないか」


 はっ! 確かに! 


 え、じゃあ何? 私って――。



「攻略されてたの?」



 いっちゃんが、また慣れ親しんだ深い深い溜め息をついていた。


「まあ、あわよくばって思ってたがな。だから花音をお前のルームメイトにしたわけだし」


 うん? いっちゃん? 今なんて?


「いっちゃん?」

「なんだ?」

「花音をルームメイトにしたの、わざと?」

「そうだが?」

「でも、いっちゃん。驚いてたよね?」

「お前にバレたら意味ないだろ?」

「でもなんで?」

「主人公なら、お前のその死にたがりを、会長たちのついでに何とか出来ないかと思ってな」


 つまり、何? これはいっちゃんの思惑通り?


 してやったりの顔の満足そうに頷くいっちゃんに少しイラっとしたから、ムギュって頬挟んだら殴られた。


 ドカッと椅子に座り直して、「いきなり何をする」って怒ってるけども。


「そもそも、あたし以外のルームメイトに本来なるはずないだろ。それにお前が気づかなかっただけだ。お前がバカで助かった」

「いや、だって……いっちゃんが主人公と接点できると喜ぶかなと思って」

「それは感謝する。主人公の動向がもうハッキリと分かった。お前があたしとって駄々こねたら、どうしようかと思ったが」


 するんだね。そこはちゃんとするんだね。そうだよ、ちゃんと感謝してね。おかげでいっちゃんも、花音のご飯にありつけられたんだから。


「だが、葉月。お前は花音に攻略されて最終的に告白されたわけだが、お前自身、花音のことどう思ってるんだ?」

「うん?」

「お前自身、自覚ないから言うのもどうかと思うがな。好きなのか?」


 好き……。

 好きね~……。


 どうなんだろ……そういう対象で考えたことなかったからね。


 クッションに身を沈めて、宙を見る。


「よくわかんない」

「花音が哀れだ……」

「だっていっちゃん。花音は可愛い女の子だよ?」

「お前、さっきもそれ言ってたな。何だ、そういうの気にするタイプだったか?」

「いや、別に」

「じゃあ問題ないだろ。確かにまだ世間の反応は微妙だが、前の世界の方がもっと差別は酷かったぞ。この世界はまだ緩い。それに最近、有名なタレントが同性同士で結婚して、世間の理解も進んでる」

「世間は別にどうでもいいよ。そうじゃなくてさ」

「なんだ?」

「なんで、私なんだろうね」

「……花音が哀れだ」


 だっていっちゃん。わかんないんだよ。なんで花音は私を好きになったんだろ。


 そもそもいつから好きだったの? 会長のこと好きだったよね? それに私、カエルとかトカゲとかバッダとか、女の子が気持ち悪がること、普通にやってたんだけども。


「あのな、葉月。お前が別に同性同士の恋愛に忌避感がないっていうなら、少し考えてみろ。いや(はた)から見てると分かるんだが。それはもう長年の付き合いで丸わかりなんだが」

「どういう意味、いっちゃん?」

「ちゃんとお前が花音をどう思っているか、考えろってことだ」


 私が花音をどう思っているか?


 それから先生がいっちゃんを迎えにきて、連れて行ってしまった。かなり呆れた目をしてたけども。なんで?


 花音のことどう思っているかかー……。

 別に私は同性だから嫌だとかはないけどね~。


 前の世界でも、そういうのはあまり経験もないし。死ぬか生きるかの世界だったし。唯一はっきり伝えてきた男もいたけど、それぐらい? 次の日には、その人も私を庇って死んじゃったしなぁ。だからよく分からないって言うのが本音である。



 好き……。

 まあ、花音の笑った顔は好き。可愛い。


 花音がギュって抱きしめてくれるのも好き。あったかいから。

 花音のご飯好き。おいしいから。

 花音の香り好き。落ち着くから。

 花音が頭撫でてくれるの好き。心地いいから。


 花音が嬉しそうにすると、ポカポカする。


 でも花音の泣き顔はいやだ。

 辛そうにしてるのいやだ。

 心配そうなのもいや。

 不安そうだと、どうにかできないかと考えちゃう。


 だから笑うとホッとする。


 でも、それが恋愛なのかさっぱり分からない。


 花音は守ってって言った。

 そうすれば花音いなくならない。

 私を愛してても、守っていなくなったりしない。


 それだけ考えちゃ、だめなのかな。


 舞もいっちゃんも、すごく花音が不憫だとか哀れだって言ってくる。


 ちゃんと答えないと花音は哀れ?

 ちゃんと返事しないと花音は不憫?


 う~ん。花音が不憫とか哀れとか、それもいやだ。




 う~んう~んと考えながら、その夜はあんまり寝られなかった。


 でも次の日、花音が来た時にハグしてもらったら即熟睡した。

お読み下さり、ありがとうございます。

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[良い点] 作品中一のステータスを持つ隠しキャラ小鳥遊葉月 攻略難易度も作品中一 クリア条件:彼女が死ぬ前に幸せを気付かせる
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