23話 生徒会? —花音Side※
「どうですか、花音ちゃん?」
「うん、美味しいよ」
お昼休みの教室。ユカリちゃんが自分で作ってきたお弁当を広げている。今日はお弁当を交換しようということになった。
舞とナツキちゃんは食堂に行っているから、ユカリちゃんと2人きり。たまに、葉月と東雲さんとも一緒に食べているけどね。
あれからすっかりユカリちゃんは料理が好きになったらしい。私のお弁当がきっかけだからとても嬉しいよ。ユカリちゃんは私のお弁当食べて「ハア……やっぱり花音ちゃんのお弁当おいしいなぁ」と嬉しいことを言ってくれた。
「さっき向かいの校舎で翼様たちが歩いているの見ちゃった」
「え、嘘?」
ユカリちゃんとお弁当食べて感想を言い合っていたら、クラスに入ってきた子が友達に言っているのが聞こえてきた。ユカリちゃんも聞こえたのか、その子に視線を向けている。
またその名前聞いたな。“翼様”という名前をよく周りの生徒は口にしていた。
「運がいいですね、あの子。あの方たちを見れるなんて」
「例の“翼様”?」
「はい、生徒会メンバーですね。花音ちゃんはまだ見たことありませんよね?」
「生徒会室から、あまり出てこないんでしょう?」
「そうですけど、登下校時はさすがに見れますよ?」
クスクスとユカリちゃんは笑っていた。生徒会メンバーは、いわばこの学園のアイドルらしい。東海林先輩も生徒会メンバーだ。ファンがいっぱいいる。でも、同じ生徒に様付けってどうなんだろう。普段は東海林先輩以外のメンバーは生徒会室に籠っていると聞いた。授業に出ないんだろうか。
「でもお昼休みに歩いているなんて、本当に珍しいです」
「そうなの?」
「もしかして、花音ちゃんの所にスカウトに来るために出てきたんじゃないですか?」
「もう、ユカリちゃん。そんなのあるわけないよ」
「あるかもしれませんよ? 生徒会は優秀な生徒へのスカウトが基本ですから。花音ちゃんは特待生に選ばれるぐらい優秀なんですから、スカウトがかかっても何もおかしくありません」
クスクスとおかしそうにユカリちゃんは笑っていた。これはからかってる感じ。
でも生徒会かぁ。中学の時は手伝ってたけどな。生徒の意見まとめたり、部活の予算決めたり、他にも季節ごとの行事とかを色々決めたり。楽しかったのは覚えてる。
中学の時のことを思い出していたら「きゃあああ!」と突然、廊下の奥の方から色んな声が聞こえてきた。「何でしょう?」とユカリちゃんも首を傾げている。もしかして……。
「葉月とか?」
「この前の屋上からのダイブは、悲鳴上がりましたものね……」
あの時は階関係なく、悲鳴が上がっていた。いきなり窓の上から人が現れたから、多くの人が驚いたんだろう。ユカリちゃんも舞の後ろで腰抜かしていたし。最近は葉月のその行動に、私も慣れつつある。
けど、その悲鳴に近い……いや、これは歓声? はどんどん近付いていた。葉月、何をやったかな? と勝手に葉月だと思い込んでいたら、教室のドアが開いた。
クラスの男子が近づいてきて、私とユカリちゃんの前に来る。入学式の時に私をからかってきた男子だ。あれ以来、関わってくることなかったのに。
「桜沢さん、呼んでる」
「私? それに誰が?」
「いいから、早くしろって」
急かすように「庶民が待たせるなよ」と苛立たし気に言ってきた。それを聞いたユカリちゃんが、その男子に何か言おうとしたのがわかった。
「待って、ユカリちゃん」
「ですが……」
「大丈夫だよ。行けばいいんだよね」
「ああ」
舌打ちされたけど、気にしないことにした。今はユカリちゃんやナツキちゃんに舞もいる。東雲さんと葉月もいるから、こういうのは気にならなくなった。皆には感謝しかない。
席を立って、ドアに向かう。それにしても、誰? とドアを抜けたところで、自分を呼び出した人を見て驚いた。
入学式の日の、失礼極まりない男がそこにいたんだから。
あれ以来、会わなくなってホッとしていたのに。少し、あの時のことを思い出してイラっとしてしまった。ああ、でもダメダメ。こういう時こそ笑わなきゃね。
失礼な男は私を見て目を丸くしている。なんでそういう反応なのか分からないけど。
「何だ。お前が桜沢花音だったのか」
「……何の用でしょうか?」
「何々? 翼、知り合いだったの?」
「あー。入学式の時に迷子になってたから、助けてやっただけだ」
「……はい? 助けてやった……?」
誰も助けてもらっていないんですけど? 誰も頼んでいないんですけど? 彼の後ろにも3人の男子生徒がいた。
周りからは「翼様に助けてもらった?」「噓でしょ?」「というか、あの子ほら特待生の……」「小鳥遊と同室の哀れな……」という声も聞こえてきた。最後のどういう意味だろう? それにしても、すごいギャラリーができている。
……ああ、だめだ。さっきの「助けてやった」を否定したい。否定しよう。
「……助けてもらった覚えはありませんけど。それで何か用事でも? ないなら失礼します」
戻ってユカリちゃんが作ってくれたお弁当の続きを食べたいからね。ポカンとしている目の前の人は何も言ってこないから、じゃあ戻ろうとしたら、眼鏡を掛けた人が口を開いた。
「おい、お前。随分な態度を取るじゃないか。翼さんがわざわざお前のために時間を取ってくれたというのに」
「つか嫌われてね? 翼さん」
「ふふ、翼が? それは珍しいこともあったものだね」
口々に彼の周りの3人が言葉を続けてきた。それにしてもわざわざ? 時間を取った? そして随分な態度? 全っ部反論したい。けど目の前の失礼極まりない人が「はー、お前ら少し黙れ」と3人を黙らせて、こっちを見てきた。
「……随分とご機嫌斜めだな? 俺が言った通り、あの時のお前の友達とやらは喜んでいただろ?」
あのね、私は中庭に友達が迎えにくるって言ったの。どうしてあの時エントランスホールにいた舞が、その友達になるの? 確かに舞は友達だけど、友達違いだから。
「……いいえ? あの時私を迎えにきてくれる予定だった友達は、欠片も喜んでいませんでしたけど?」
「そんな生徒がこの学園にいるはずねえよ」
ああ、もう。その自信はどこから来るの? あと用事って何? 何でそれをさっさと言わないかな。
「随分な自信ですね。ところで、ご用事は? ないならホントに失礼します」
おかしそうに、今度はにこやかな笑顔を浮かべていた男性が失礼極まりない人と話し始めた。何だ、用事なさそう。だから「教室戻ります」と踵を返そうとしたら「勝手に戻るな」と眼鏡をかけた人が腕を引っ張ってきた。
……本当、この人たち何なの? 何でそんな偉そうなの?
バッとその腕を払って、彼らを見据える。
「……何なんですか? 本当に何なんですか!? 大体あなたたち何なの?! そんな偉そうな態度で……!」
少し強めに言ったら、全員が目を丸くしている。けどこれが私の本音だから、ひっくり返すつもりは毛頭ない。ハアと彼は何故か呆れたように見てきて、それでまたイラっとした。
「あー、お前。俺たちの事分かんねえのか?」
「知りませんよ!」
「ククク……僕たちの事知らない? 入学して3週間経ってるのに」
「はあ? 本当に自意識過剰な人達ばかりですね!」
「おいお前。いい加減にしろよ。僕や宏太はともかく、翼さんたちを知らないとか。どれだけ失礼な女なんだ」
「失礼なのはあなたたちでしょ!? いきなり来て用事も言わない……自分達が誰かも言わない!」
「この女、マジ俺たちのこと知らねえの? 鈍感?」
「ど、鈍感……!?」
「あー……落ち着け。桜沢花音」
「あなたに名前呼ばれたくないんですけど……」
「あのな、宏太の言う通り、鈍感と言うしかねぇよ。俺たちは生徒会だ」
「……生徒会?」
最後の言葉で我に返ってしまった。
え、生徒会? この人たちが? この人たちが!? 「周りから聞いてなかったのか? 俺らのこと」と言われてしまう。いや、聞いてたけど。名前だけは聞いてたけど……まさか、まさかこの人たちが!? 東海林先輩がしっかりしているから、てっきり生徒会の人たちもそういうタイプの人たちだと……本当にこの人たちが生徒会……?
信じられない。というか信じたくない。こんな人たちが生徒会だなん……。
「それで、今日はお前を勧誘にきただけだ」
「……は?」
少し茫然としていた時に、思いもよらぬ言葉をかけられて、呆けた声を出してしまう。か、勧誘?
「今回の外部受験首席合格。特待生にも選ばれた優秀な生徒を生徒会が勧誘しない訳ねえだろ。だから、今日からお前は生徒会に入れ」
「……はあ?」
何を言ってるの? 本当に何を言ってるの? なんでそんな命令口調なの!? こっちの意思は無視!?
「この俺がこうやって誘ってやってるのは珍しいんだぞ。生徒会に入れ。わかったな?」
……いや……いやいや。ない。これはない。珍しい? 知りませんけど。それで入らなきゃならないの? 無理やり? こっちの都合はお構いなし?……どうしてそんな命令聞かなきゃならないの……?
思わず……小さく笑みが零れてしまった。ふふ……こんなの絶対認めない。
顔を上げて、にっこりと彼らに微笑んだ。
「お断りします」
シンと場が静まり返った。予想外の答えだったんだろう。
でもお断りです。こんな横暴な人たちがいる生徒会なんて誰が入りますか。
周りの3人が何か言っているけど、そんなの関係ない。お断りったらお断りです。葉月にご飯作らなきゃいけないし、勉強も今は手一杯。何より、
こんな人たちと一緒に行動したくありません。
断るとは思ってなかったのか、目の前の失礼極まりない人は目を見開いていた。少しいい気味。これで全部があなたの思い通りにならないことを、少しは思い知ればいい。
「失礼します」と言って教室に戻ろうとした。まだお弁当全部食べてないしね。
でも、クルっと背中を向けようとしたときに、
ドンッ!
と、いきなり壁に肩を押し付けられた。少しジンジンする。「な、何……?」と疑問を声に出したら、失礼極まりない人が間近で険しい表情で睨んできた。
「何じゃねえよ? お前に拒否権ねえんだけど……?」
低い声で凄まれて、肩を強い力で抑えられて、思わず背筋が震える。
怖い……でも……
それ以上に、この人何言ってるの? という思いが強い。
拒否権? あるでしょう。私だって学園の生徒の1人なんだからあるでしょう。生徒会だか何だか知らないけど、どうしてそれに従わなきゃいけないの? 私が庶民だから? 寄付金も払えないから?
そんな理不尽、許せるわけないでしょう。
目の前の人が怖い。
だけどそれ以上に、その横暴さへの怒りが強い。
「はいは~い。ストップ~。そこま~で~」
場に似合わない呑気そうな声がしたと思ったら、肩を押さえつけていた腕に手が伸びてきて、グイっと引き剥がされる。
肩の圧迫感が無くなって、その声の主を見た。「「「「なっ!?」」」」と4人の驚愕の声が上がったけど、私はその顔を見て、安心してしまう。
「葉月……」
見ると葉月が安心する笑顔を浮かべてくれて、私をその人から隠すように間に入ってくれた。
「だ~めだよ~、かいちょ~。女の子は優しく扱わないと~」
少し冷たい声に聞こえた気がした。
お読み下さりありがとうございます。




