233話 告白
好き?
好きって、言った?
花音が微笑みを浮かべて、あの熱の籠った目で見てくる。
「葉月が好き。だから死なれると困る。死なないでほしいの」
え、え?
一瞬、頭が混乱する。
あ。違う。
好きってそういう意味じゃないよね。
会長いるし。会長のことが好きなはずだし。
それに私、女だし。
友達として好きって意味ね。
なるほど。
じゃあ、答えは一緒。
「そっか、ありがとう。でも大丈夫だよ、花音。ちゃんと忘れられるから。いなくなれば忘れられるよ。そうすれば困らない」
「無理だよ、絶対に忘れないから」
平行線。
相変わらず頑固なとこがある。
花音がまた一歩近づいてくる。
「だめだよ、花音。来ないで」
ピタッと花音の足が止まった。
でも、目はあのまま。
「葉月、違うよ?」
違う?
「勘違いしてるよね?」
勘違い?
「私は葉月が好きだよ」
それはさっき聞いた。
「友達としてじゃないよ?」
……?
何言って――。
「本当に鈍感だね」
花音が困ったように笑ってる。
思わず首を少し傾げた。
前にも舞に言われたな。
花音が柔らかく微笑んで、口を開いた。
「愛してるよ、葉月」
え?
「私はあなたを愛してる」
な――に――?
花音が微笑んでる。
嬉しそうに微笑んでる。
「葉月を愛してる」
頭が真っ白になった。
「だから、死なないでほしい」
花音が一歩近づく。
「そばにいてほしい」
一歩近づく。
「死なれると困る」
一歩一歩近づいてくる。
熱の籠った瞳を向けて、
口元は柔らかく微笑んで、
近づいてくる。
腕を伸ばせば、届く距離まで来た。
「愛してるよ、葉月」
どうして、
どうしてどうして、
『愛してるよ、世界中の誰よりも』
『あなたのことを愛してるわ』
記憶の蓋が外される。
なんで…………花音。
思い出さないようにしてた。
花音、どうして。
思い出すのが嫌だった。
花音は真っ直ぐこっちを見てくる。
だって、
なんで、
思い出すと苦しくなるから。
『葉月、愛してるわ』
優しい声が頭に響いてくる。
あたたかい声が脳を刺激する。
悲しくなって、
苦しくなって、
辛くなって、
涙が、出てくる。
「……葉月?」
なんで、
花音、なんで、
涙が頬を伝っていく。
「――――んで……?」
花音が見開いた目を向けてくる。
なんで、花音、
「何で――――パパとママと同じことを言うの?」
頭に、あの2人の声がどんどん響いてきた。
『甘えん坊だなぁ、葉月は』
『ふふ、でもそこが可愛いのよ』
優しい記憶が流れてくる。
涙がどんどん溢れてくる。
カッターを握ってる手の力が抜けていった。
カランと音を立てて床に落ちる。
『愛してるよ』
『愛してるわ』
2人の声が響いてくる。
パパ、ママ。
2人はよくそう私に伝えてきた。
「葉月?」
目の前にいる花音を茫然と見る。
「なんで…………同じこと……言うの?」
思い出したくなかった。
聞きたくなかった。
花音と2人が重なって見える。
「だめだよ……花音……」
死にたくなった。




