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225話 先輩たちの反応 —花音Side

 


「東海林先輩たちに話す?」

「うん。というより、まあ九十九先輩たちにさ、一応事情伝えた方がいいんじゃないかなって思って。ほら、4月からは生徒会長だし」


 肩を竦めて、舞がお弁当のおかずをぽいっと口に入れ、モグモグと食べている。


 今は昼休み。教室でユカリちゃんとナツキちゃんと一緒にお弁当を食べていた。


「それにしてもびっくりだね。小鳥遊さんにあんな事情があったとは」

「でも妙に納得しました。あの無茶な行動は、全部その行為に結び付いてたんですね」


 実は2人とも、葉月の事情を知っている。というより、舞がポロっと話してしまった。あとでレイラちゃんと一花ちゃんにものすごく怒られていたけどね。


 葉月は鴻城(こうじょう)家の孫だから、そんな噂が出てしまうと大変なことになるらしい。私にはよく分からないけど、鴻城の信頼に関係するのだとか。


 葉月は私と舞が行くとき、いつも眠らされている。

 あれから数日経った今でもそれは変わらない。


 起きている時はやっぱり暴れてると言っていた。一花ちゃんが日に日に目の下の隈を濃くさせていくのがどうにも心配になる。


 でも暴れているのは嫌でもわかった。眠っている葉月の体が傷だらけだから。宝月(ほうづき)さんに刺されたところ以外にも包帯が体中に巻かれていて、それが増えている。


 でも葉月は、たまに少し目を開けて微笑んでくれた。すぐ目を閉じて眠ってしまうし一瞬だけど。


 それは、決まって葉月の頬に手を当てた時。一花ちゃんも先生もそのことにいつも驚いていた。


 その一瞬の微笑みを見ると、私も嬉しくなる。

 ちゃんと葉月はいるんだなって思えるから。


 事情を知ってしまったユカリちゃんとナツキちゃんには、しっかりと口止めした。というより、それこそ一花ちゃんが2人に会いに1回だけ学園に来たよ。


 何故か3人で誰もいない空き教室で話していた。教室から出た2人は顔がかなり青褪めてて、誰にも話さないと約束してくれた。一花ちゃん、2人に何を話したんだろう。舞がまた一花ちゃんに怒られてたね。


 一花ちゃんが病院に帰ったあとは、ユカリちゃんとナツキちゃんにも怒られてた。「なんてことを話してくれたんだ」って。結局全員に怒られて、さすがの舞もかなり落ち込んでいたよ。


 舞が悪いから自業自得かもだけど、舞自身、何か葉月にしてあげれることないかって、2人に相談したんだよね。気持ちは分かるから、私はそこまで強く怒れなかった。


 そして今度は、勝手に九十九先輩たちに話そうとしているわけで、全く反省してないなとさすがに少し思ってしまうよ、舞。


「一花ちゃんに怒られたこと忘れたの?」

「忘れるわけないじゃん! ああ……本当、あの時の一花、過去最高に怖かった」


 ブルブルと両腕を抱えてる。でも話した方がいいって、今さっき言ってたよね?


東雲(しののめ)さんが怒るの、当然だと思いますよ?」

「あたしもそう思うな。だってあの内容って、鴻城家のトップシークレットじゃん。そんなの聞かされたあたしたちの身にもなってよ」


 ユカリちゃんとナツキちゃんは2人揃って恨みがましく舞を見ていた。舞も慌てて「ご、ごめんってば」と謝っているけど、やっぱり気になってくるなぁ。一花ちゃん、何を言ったんだろう?


「ああ、ゴホン。ま、まあ、そのことは置いといてさ。今度からあたしらも晴れて2年に進級するわけじゃん?」

「そうだね。でも、それと葉月の事情を先輩たちに話すのは違うんじゃない?」

「いやいや、花音。甘いね。このままいけば、葉月っちは誰にも知られることなく進級しちゃうってことでしょ?」

「そうですね。というより、怪我をしてるってことはもう皆知ってますけど」

「ユカリ、ちょっとよく考えて見なよ。葉月っちの成績を!」

「小鳥遊さんの成績――最下位だね」

「そうだよ、ナツキ! そんな葉月っちがだよ? 家の力で進級したなんて知られたら、どうなると思うのさ!」


 ――どうにもならないと思うけど?


「他の生徒たちが真似するじゃんか!!」

「「「そうかなぁ??」」」


 思わず3人で口を揃えてしまった。でも舞の中で、家の権力を使って進級する生徒が現れてもおかしくない、というのは決定事項らしい。


「絶対いるって、そういうことする人間が!」

「舞の考えすぎじゃない?」

「甘いって花音! ここは星ノ天(ほしのそら)学園だよ!? 全国の金持ちが集まってるんだよ!」

「寄付金では成り立っていますけどね」

「そうだよ、ユカリ! でもそんなことは学園長が許さないわけ! 家の権力使うことは、この学園では暗黙のタブー!」

「分かってんじゃん。だから真似して、そういうことする生徒は出てこないと思うけど?」

「だからだよ、ナツキ! その葉月っちがいざ復活してみなよ! 贔屓だなんだって、葉月っちが叩かれるかもしれないじゃんか!」


 葉月なら……返り討ちにしそうだけどなぁ。それに、学園の皆は葉月に何かされるのを恐れているわけだし。


「あたしは考えた……葉月っちが戻ってきた時に、どう守るかを……」


 腕を組んで真剣に舞は話している。あ、このユカリちゃんのちょっとピリ辛の卵焼き美味しいかも。


「会長に助けを求めればいいじゃんって!」

「なるほどねー。ねえねえ、ユカリ、何この丸い揚げ物に入ってるの、美味しいんだけど」

「それ、普通のコロッケなんですけど、中に山芋も摺って入れてみたんですよ」

「ちょっと、2人とも! 聞いて!」


 全く相手にされていない舞が叫んでいる。つまり、何かあった時に会長に全部押し付けようとしているわけだね。何とかしてくださいと。九十九先輩、そういうの面倒臭がりそうだけどなぁ。


 あんまり意味ないと思うって言っても、舞は聞かなかったよ。結局舞は、先輩たちに話すことを1人決定していた。


 あまり葉月のその過去を誰かに言うのは嫌なんだけどな。もちろん、葉月が前世の記憶を持っていることは言わないらしい。そんなの言ったところで、誰も信じないからだとか。


 一花ちゃんにこれ、言っといた方がいいのかなぁ。



 □ □ □



「というわけです!!」

「「「「「…………は?」」」」」


 放課後、早速舞は先輩たちに葉月の事情を話してしまった。私が止める間もなく、舞が捲し立てるように話しちゃったんだよ。皆が口をポカンとして固まっている。


「いやだから、葉月っち、死にそうなんですよ」

「待ちなさい、神楽坂さん……その……話が突拍子過ぎてついていけないわ」

「葉月っちは、死にたくなる病にかかってるってことです!」

「いやいやいや神楽坂? 小鳥遊が何度も死のうとしてる? しかも今も?」


 東海林先輩も月見里(やまなし)先輩も怪訝そうな顔で舞を見つめだした。そうですよね。にわかには信じられませんよね。先輩たちにとって、葉月は何かしら問題を起こす問題児だから。


 カチャッと、九十九先輩は掛けている眼鏡に手を当てていた。


「あのな……まあ百歩譲って、その話が本当だとして、それで僕たちにどうしろと?」

「葉月っちが正気に戻ったら、次期会長の九十九先輩たちにも協力してほしいんですよ!」

「……何をだ?」

「もっちろん、葉月っちが快適な学園生活を送れるように、です!」

「あいつが快適に過ごしたら、大変なことになりそうなんだが……」


 コクコクコクと阿比留先輩が一生懸命に頷いている。確かに……その歯止めが利かなくなりそう。


「ま、まあそこは、一花ちゃんがきっちりと止めてくれると思います。舞が言いたいのは、葉月が戻ってきたら、他の生徒たちから何かされるんじゃないかっていうことですから。成績もその……決して上位ではないですし、それで進級させたら、他の生徒から不満が出るんじゃないかって不安なんですよ。そうだよね、舞?」

「そう! そういうこと! さっすが花音!」

「……あいつが今更学年最下位でも進級することに、生徒たちが不満を持つとは思えないが……留年するにしろ進級するにしろ、何かしら変な事をして巻き込まれるからな」


 ですよね。私もそう思います。だから別に先輩たちに言う必要はなかったと思うけども。まあ、舞は葉月を純粋に心配してるからね。


 ふんっと会長がつまらなそうに、書類をトントンとまとめている。


「……おい、神楽坂。お前、むやみやたらにそんなこと周りに言ってるんじゃないだろうな?」

「まさか。こんなこと言えませんよ」

「ならいい。絶対他の連中には言うな」

「か、会長! 葉月っちのこと、心配してくれてるんですね!」

「逆だ。そんなのが噂で出回って見ろ。星ノ天の評判が下がるだろうが。そんなやつを在学させて、しかも金で進級させたなんて知られたら、一気に星ノ天の価値が下がる」

「感動したあたしの気持ちを返してくださいよ!」

「知るか」


 また次の書類を読み始める会長に、舞はさすがに不機嫌になった。


 大丈夫だよ、舞。言い方はあれだけど、今のって――と考えていたら、ハアと月見里先輩は息をついて、困ったように舞に笑いかけている。


「神楽坂、大丈夫だよ。小鳥遊のことを考えて、周りに言うなって翼は言ってるんだ」

「はあ!? どう聞いても星ノ天の評価だったじゃないですか!?」

「そんなこと周りに知られたら、小鳥遊だって通い辛くなるだろう? 常にそういう風に見られる方が、小鳥遊だって嫌だと思うよ?」

「そ、それは……まあそうですけど……」

「小鳥遊が復帰したら、ちゃんと綜一がフォローしてくれるさ。だろ、綜一?」

「ま、まあ……あんなのでも、この学園の生徒ですからね」


 さすが月見里先輩。上手く会長をフォローして、しかも九十九先輩にもフォローしてる。九十九先輩は月見里先輩のことを尊敬してるから、結構イエスで答えるんだよね。


 それにしても、意外と葉月の過去にやったことに関して、先輩たちはすんなりと受け止めてしまったようだ。この先輩たちが、他の誰かやご家族にそれを話してしまうとは考えにくい。口は堅い人たちだから。


 その事実が少し嬉しい。


 葉月のことを煙たがらないで、先輩たちは受け止めてくれてるよ。



 だから早く現実に戻ってきて……葉月。



 □ □ □



 一花ちゃんに連絡を取って、今日も葉月のお見舞いに行ってきた。相変わらず一花ちゃんは私たちが会いに行く時、徹底して葉月のことを眠らせている。


 そっと葉月の頬に触れた。今日は目を覚まさなかった。少し残念。でも、前に来た時より葉月の傷は減っていて、包帯が巻かれていない部分があった。それだけは嬉しかった。


 寮に帰ると、舞はユカリちゃんの部屋に寄ってから戻ると言って行ってしまう。すぐご飯だから、ユカリちゃんのところであんまり食べ過ぎなければいいけど。お菓子が目当てだって分かってるから。


 あと絶対、さっき一花ちゃんに怒られたことを慰めてもらいに。先輩たちに話したこと、ガッツリと怒られたものね。しかも舞自身が一花ちゃんにそれ話してたし。一花ちゃん、疲れているから今日のお説教も怖かったなぁ。


「あれ、東海林先輩?」

「お帰りなさい」


 東海林先輩が部屋の前で何故か待っていた。何か用事なのかな?


 部屋に上がってもらって、紅茶を出す。そういえば、ハーブティーなくなりそう。先生に言ってお裾分けしてもらおう。


「……相変わらず、あなたの淹れるのは美味しいわね」

「ありがとうございます」


 東海林先輩にそう言ってもらえるのは嬉しい。先輩の淹れる紅茶も、風味が出ててすごく美味しいと思うけどな。


 コクっと自分でも淹れた紅茶を飲んでいると、東海林先輩がカップを置いて、じっと見てきた。ん? そういえば、東海林先輩の話って何なんだろう?


「先輩?」

「今日の話聞いて思ったのだけれど……あなたが知ってしまったのは、小鳥遊さんの秘密なの?」


 思わずビクッと体が跳ねた。


 確かに、葉月の過去を知った時にかなり体調を崩してしまったし、しかも内容は言ってなくても、それが不安で怖いと吐露した。あの時の事だって、先輩は気づいたんだ。


 私のそんな反応を見たからか、東海林先輩は溜め息をついて、呆れた感じで見てくる。


「……まさか小鳥遊さんだったなんて」

「え?」

「何でもないわ。これは……少し荒れそうだと思っただけよ」


 荒れる? 何が?

 すぐに東海林先輩は苦笑して肩を竦めていた。


「あの子に会ったら、叱らなきゃね」

「叱る……ですか?」

「可愛い後輩のあなたを泣かせたからね」


 あの時のことを東海林先輩はしっかりと覚えてたらしい。そう言ってくれたのを、私もちゃんと覚えてる。思わず私もクスっと笑ってしまった。


「葉月は悪くないですよ?」

「それでも、そんなことを抱えてたなら、ちゃんと教えてくれれば良かったのよ。そうすれば、東雲さんだってあんなに苦労しなかったかもしれないし……やっぱり無理ね。東雲さんは苦労しそうだわ」


 ふふってお互い笑いあう。確かに一花ちゃんはずっと葉月に振り回されそう。


「卒業式が終わったら、私も会いに行ってみようかしらね」

「喜ぶと思います。特に一花ちゃんが」

「今日はどうだったの?」


 先輩と葉月と一花ちゃんのことを話しあう。それだけで気分がほぐれた。先輩は微笑んで話を聞いてくれる。葉月のことを先輩も誤解していた部分もあったと言っていた。


 ただ、会うたびに胸を揉んでくるのは我慢できないらしい。葉月、いつのまにそんなことしてたの? それはさすがに私も看過できないなぁ。


 でも、先輩は葉月のことを心配している。


 問題を起こすけど、困らせられているけど、先輩にとっては葉月のことも可愛い後輩なんだ。それが話していて感じた感想。


 葉月が話せるようになったら、東海林先輩がそう言ってたよって教えてあげよう。東海林先輩のことは葉月も気に入ってたから、きっと喜ぶと思う。


 その日は東海林先輩も一緒にご飯を食べた。



 もうすぐ卒業式。



 東海林先輩たちは卒業して、大学部に進学する。


 先輩は大学部の寮に引っ越すから、少し寂しくなるな――と正直にそう言ったら、嬉しそうに笑っていた。


 またすぐに会えると言って、私の頭を撫でてくる先輩の手が、とても優しかった。

お読み下さり、ありがとうございます。

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