220話 夢、現実
人の死の描写、後半には自害を連想させる描写があります。
苦手な方は次話に飛んでいただきますようお願い申し上げます。
葉月の前世の一部と今世での一部の出来事なので、次話にこの話のあらすじはつけておりません。
ですが読まなくても支障はありません。
視界は炎で埋めつくされていた。
至る所で、人間が転がっている。
焼けた体の臭いが、辺りに充満していた。
腕がある。
足がある。
体がある。
それは地獄だった。
目の前には、今、自分を助けた兄の変わり果てた姿がある。
私を助けて、兄は死んだ。
周りには息をしていない家族の姿。
母が死んでいる。
父が死んでいる。
姉が姉の姿をしていない。
弟の息をする口がない。
いきなり空から降ってきた爆弾が、すべてを奪った。
「あ! ああ! ああああああ!!!!」
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「葉月! 落ち着け!」
ハァっ! ハァっ! ハァっ!
いっちゃん?
「分かるか?」
「いっちゃっ――! ハァっ! ハァッ! 落ちてっ!」
「違う、それは夢だ。違う世界の記憶だ」
夢…………?
「あたしがここにいる。だから、ここはお前の世界じゃないぞ」
あ――そう、だ――ここに……いっちゃん……いる……。
違う……転生……。
「少し……眠れ……」
ハァ……ハァ……ハァ……。
呼吸が落ち着いてきて、
意識が落ちた。
□ □ □ □
お腹が空いた。
草を食べた。
虫を食べた。
なんでも食べた。
おいしくなかった。
いっぱい吐いた。
でもお腹空いた。
だから食べた。
だんだん、おいしく感じるようになった。
知らない大人に見つかった。
どこかに連れていかれた。
家族と家を失った人たちが大勢いた。
新しい家族が出来た。
難民キャンプの支援がきた。
日本からもきた。
その人は明るかった。
漫画やアニメが好きだと言った。
見せてもらった。
一緒に読んで、見て笑ってた。
感染病が流行った。
薬がなかった。
新しい家族が、自分の分の食べ物を私に与えて、一人一人いなくなった。
近くの軍の人に助けを求めた。
承諾してくれた。
薬を持ってきてくれると思った。
地域ごと、その軍に焼き払われた。
目の前では、日本からきた仲良くなった人が半分焼けていた。
私を守って、焼けていた。
――
「葉月っ! しっかりしろっ!」
ハァッ! ハァッ! ハァッ!
「暴れるな! あたしをちゃんと見ろ!」
――いっちゃん?
「そうだ、見ろ。逃げなくていい。ここは違う世界だ」
……ああ……そうだね……いっちゃんが、いる……。
「ここが現実だ……葉月」
そうだ……そうだね……いっちゃんが、いるからね……。
意識がまた落ちていった。
□ □ □ □
銃撃の音が聞こえる。
殺しあっている。
息を潜ませる。
銃を構える。
敵を見る。
森に隠れて、気配を消す。
ドンッと横から手で押された。
押された方を見ると、
昨日、自分を抱きしめていた人が、頭から血を噴き出している姿があった。
また助けられて、生き残った。
――
「葉月、暴れるな。傷が開く」
ハァ! ハァ! ハァ!
「大丈夫だ、ここが現実だ。誰も、殺し合っていない世界だ」
いっちゃんだ……そうだね……いっちゃんがいるもんね……。
呼吸が落ち着いてくる。
また瞼が落ちてきた。
□ □ □ □
手には果物ナイフがある。
手首からは血が流れている。
デモ、
タ リ ナ イ キ ガ ス ル
もっと血が出てきた。
モット モット
誰かの悲鳴が聞こえた。
急いで病院に連れてかれた。
また、生き残った?
今度はカーテンを破った。
病院に連れてかれた。
また生き残った。
手にはガラスの破片がある。
見つかった。
また生き残った。
マタ シネナカッタ
衝撃が体を包んだ。
見つかった。
また生き残った。
マタ マタ シネナカッタ
違うことをした。
また生き残った。
マタ マタ シネナカッタ シネナカッタ
別の違うことをした。
また生き残った。
シネナイ マタ シネナイ
他の別のことをした。
また生き残った。
シネナイ シネナイ シネナイ
マタ イキノコッタ?
ドウシタラ シネルカナア???
周りはみんな、泣いていた。
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「葉月っ……! 頼むから暴れるなっ……!」
――いっちゃん?
「こっちが現実なんだよ、葉月……」
そうだね……いっちゃんがいるもんね……。
アレ? イッチャンッテ ダレダッケ?
アア イイヤ
シナナイト
アハ ドウシタラ シネルカナア?
「葉月っ……」
何かが腕に刺さった。
また意識が遠くなった。
□ □ □ □
誰かの手が、頭を撫でている。
あったかい。
頬を撫でてくる。
あったかい。
でも、その誰かの顔は分からない。
見上げてみる。
口元だけ見えた。
笑っていた。
こっちまで嬉しくなった。
温かくて、心地よかった。
その温かさを、
もっと、カンジタカッタって、
ソウオモッタ。
『迎えに来たよ』
あくまで葉月の前世を含めての過去の話になります。
葉月はこういう経験をしていたよ、ということを表現した話数です。現実ではありませんので、そこだけご注意ください。尚、くどいようですが、この作品は自殺を推奨・肯定する作品ではありません。何卒誤解しないようお願い申し上げます。




