218話 狂気に落ちて
15歳未満は読まないでください。
流血描写、葉月の発狂描写があります。特に葉月の思考が死を求める描写になっており、人に寄ってはかなり気分が悪くなるかと思いますので、苦手な方は無理に読まずに最終章221話まで飛ばしていただきますようお願いいたします。221話前半があらすじになっています。
「なななんなのよ!? あなたは!?」
彼女がバッと腕で振り払って、離れていく。
「だめだよぉ?! 逃がさない!」
彼女の元に一歩一歩進んでいく。彼女は同じように後退る。
逃がさないよ!! あなたは“こっち側”でしょぉ!?
もっと! もっともっと!!
もっと刺しなよぉ!?
まだこんなんじゃ死ねないよぉ!?
「なんなのよ……なんで動けるのよ!?」
「あははは! なんで怯えてるのぉ!? こんなんじゃ足りないよお!!」
「ちょ、ちょっとあなたたち! なんとかしなさいよ!」
男たちが怯みながら近づいてきた。
「…………邪魔」
邪魔な男たちに、持ってきたスタンガンの銃で一斉に縄を飛ばして、一気に電流を流し込んだ。男たちは痙攣して一気に倒れる。
1回しか使えないから、すぐ銃を放り投げて、また彼女に視線を戻すと、「は?」って声を出して茫然としていた。周辺に転がる男たちを無視して、後退ってる彼女に視線を向ける。
手にはまだ、血塗れのナイフをしっかり持っていた。
口角が上がる。
刺されたところからは血が出ている。
『もっとだよおお!』
あの子の声が頭を支配する。
止まらない。
塗りつぶされて、他は考えられない。
彼女がナイフをまた構えた。
ふふ! 彼女は十分同類だよ!!
「頭おっかしいんじゃないの?」
「あなたも十分おかしいよお!?」
「さっさと死になさいよ!」
「あっははは! じゃあ刺してぇ!? これだけじゃ死ねないからさあ!!」
彼女がこっちに向かって、ナイフの手をこっちに伸ばそうとした時に、影が横から飛んできた。
「きゃあ!!」
「させるわけないだろうが!?」
横から蹴られて、彼女とナイフが転がっていく。
一瞬のことでパチパチと目を瞬かせながら、転がっていく彼女に視線が追っていった。
だめだよ? だめだよだめだよ?
もっと刺しなよお?
まだ生きてるよぉ?
まだ死んでないよぉ?
死んでほしいんでしょぉ?
こんな浅い傷じゃまだまだ死ねないよぉ?
視線を彼女に固定して、彼女に近づこうと足を一歩動かしたら、その影がこっちに飛んできた。
ドンッ!っという音と一緒に、仰向けに倒される。
胸倉を掴まれて首元を絞められた。
「葉月っ! だめだ! そっちに行くな!」
間近に顔がある。
辛そうに目元を歪めてる。
――いっちゃん?
目をまたパチパチさせる。
目の前の彼女を見る。
「意識しろ! ちゃんと、あたしの目を見ろ! お前がいるのは今ここだ!!」
いっちゃん。
いっちゃんだ。
「いっ――」
『もっとだよぉぉぉぉ!!!!』
声が全てを支配する。
戻る。
欲に戻る。
「ふふ! あはははは! もうすぐだよお!」
「葉月っ! 声を聴け!」
「聞こえるよぉ!? 死ねるって言ってるよおお!!?」
「違う、そっちの声じゃない!! あたしの声だ!」
「でも足りないよお!? まだ足りないよ!? もっとちゃんと刺さないとだめだよお!」
「葉月っ!! あたしをちゃんと見ろ!」
ドンッ!と、また床に叩きつけられた。
「かはっ!」っと息が詰まる。
「な、なんなのよ……一体……?」
彼女が身体を起こして、こっちを見てるのが視界に入った。
あっは。あはは。彼女が死なせてくれるってぇ!
彼女が刺してくれるってぇ!!
その手を離そうと掴むが、締め付けてくる手は緩まない。
抑え込まれる。
邪魔っ! これ邪魔!!
「どいてぇ!? あの人が刺してくれるって言ってるよお!?」
「誰もそんなことは言ってない! こっちを見ろ!」
「そんなことないよお!? だってあの人は一緒だもん! 私と一緒だもん!」
「くそっ!! おい! あの女を連れていけ! あとどれぐらいで来る!?」
「今、入口に着いたそうです!」
抑え込んでる人が違う方に視線を送ってる。
違う人が彼女を拘束して、別の場所に連れていく。「ちょ、ちょっと! 離しなさいよ!」って声が聞こえてきた。
掴んでくる腕を引き離そうとしたけど、動かない。
連れてかないで!?
私に死んでって言ってるんだよ!?
刺してくれるって言ってるんだよ!?
これじゃ、死ねないよぉ!
せっかく殺してくれるって言ってるのにい!
足をバタバタさせて、掴んでくる腕を剥がそうとするけど、動かない。
「あっ!! あああ! どけぇぇぇぇ!!!」
「誰がどくか! さっさとこっちに戻って来い! 暴れるな!」
声が頭でガンガン響く。
『もっとお!』
『もっともっとだよぉぉぉ!!』
『そうじゃないとだめだよぉぉぉぉ!!!』
声と脳がシンクロする。
「『あはははは!!! もっとだよおおおおお!!! 足りないんだよおおお!!』」
「やめろっ!! 葉月、ちゃんとこっち見るんだ!!!」
またドンッ! と叩きつけられた。
苦しそうな目で、こっちを見てくる。
パチパチと目を瞬かせる。
いっちゃんに一瞬気付く。
でも声が支配する。
また繰り返す。
叩きつけられる。
「ね……ねえ、一花。葉月っちどうし――」
「舞と花音は近づくな!! レイラ! 2人をそれ以上近づけさせるな!!」
「わ、わかりましたわ! 舞、花音。2人ともあっちにいきましょう! 会長の縄も外してあげないとっ! あ、花音!?」
ハアハアっと呼吸も荒くなる。
「葉月! こっちを見ろ! 頼むから! じゃないと止血できないんだよ!!」
ハア……ハア……。
辛そうだ。
目の前の人が辛そうだ。
パチパチと目を閉じたり、開けたりする。
知らない。
――――ん?
違う。
知ってる――?
――――あ、いっちゃんだ。
「いっちゃ――」
「葉月っ! そうだ! あたしだ! そのまま、そのまま意識しろ!」
声が聞こえる。
『まだ足りないよぉぉぉ!!!』
飲み込まれ――――。
「葉月っ!」
誰かが、覗き込んできた。
ピタっと止まる。
だ――れ――?
そっと頭に手が触れてくる。
その感触は――――ここち、いい。
「っ!! 葉月っ! そのままだ、そのままこっちに戻って来い! あたしの声を、ちゃんと聴け……」
声…………。
いっちゃんの、声……。
「い――っちゃ――」
「そうだ、意識しろ……お前は今、ここにいるか?」
覗き込んでくる、泣いている誰かの顔を見る。
いっちゃんの声を聴く。
ここ……?
誰……?
ポタリポタリと顔に涙が落ちてくる。
「ここ……?」
「そうだ…………お前の意識は、今どこだ?」
意識?
いし……き……?
涙が落ちてくる。
自然と腕が上がっていく。
視界に映ったのは自分の血塗れの手。
私……は……。
『だめだよ~? まだ足りないよ~?』
声が響く。
ハアハアと息が荒くなる。
すぐ、また飲み込まれる。
だから、
その前に、
「花音……見ちゃ……だめだよ~……」
泣いている花音に言葉を残して、
見ちゃ――――。
だ――め――。
『まだまだこれじゃあ足りないよおおおお!!!!』
「ああああああああああああああ!!!!!!」
意識が声に塗りつぶされた。
「葉月っ!!! だめだ!! こっちをちゃんと意識しろ!!!」
いっちゃんの声がした気がする。
だけど、それから私は自分の欲に抗えなくなって、
自分がおかしいことを自覚できなくなって、
そこから先の記憶がない。
今の葉月はあくまで葉月の中の“死なないと”という欲に飲み込まれ、理性が働いていない形です。
しつこいようですが、この作品は自殺を推奨・肯定する物語ではありません。
何卒誤解しないでくださいますよう、お願い申し上げます。物語として割り切っていただければ幸いです。




