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215話 一花ちゃんの爆発 —花音Side※

 

「あんたが『サクヒカ』の主人公だから」


 サクヒカ?

 何それ? 主人公って?


 全く分からないことを言われて、さっきまでの怒りが霧散してしまう。


 いやだって、混乱するよ。意味の分からないことで一方的に恨まれてるってことだよね? それだったら、さっきの存在が嫌だからの方がしっくりくるんだけど――いやこないか。


 舞もレイラちゃんも首を傾げていた。あの2人も分かってないみたい。


 ……? 一花ちゃん?

 何故か一花ちゃんはさっきと変わらない厳しい表情で宝月(ほうづき)さんを見ている。



「お前――――転生者か?」



 一花ちゃんはよく分からない言葉を彼女に向けていた。

 てんせいしゃ……? なんだろう、それ?


 宝月さんはその一花ちゃんの言葉を聞いて、目を大きく見開いている。彼女は一花ちゃんの言葉が分かってる?


「あの一花? 転生者って?」

「舞~。ちょっと静かにしとこ~?」

「葉月っちにだけは言われたくないんだけど!?」


 疑問に思ったことを舞が一花ちゃんに聞いたら、何故か葉月がそんなことを言いだした。葉月も分かってる?


「あんた……まさか同じ?」

「だとしたらどうする?」

「は、はは! 納得だわ! だからあんたの相棒が邪魔してきたってわけ! あんたが指示出してたってわけね! ってふざけんじゃないわよ!?」

「ふざけるな、はこちらのセリフなんだがな。シナリオ引っ掻き回しやがって」

「あったりまえでしょうが! せっかく、せっかく『サクヒカ』の世界に転生できたのよ! あの翼様がここにいるのに、なんで主人公だからって獲られなきゃいけないのよ!」


 宝月さんと一花ちゃんは訳が分からないことを会話し始めている。でも2人は分かりあっている様子。


 シナリオとかサクヒカとか主人公とか、挙句の果てには会長のことまで話していた。でもさっぱり分からないよ。


 ただ一花ちゃんの声がすごく怒っている気がする……ううん、確実に怒っている。幻覚で一花ちゃんの周りに黒いオーラが出ている気もしてきたよ。


 あんなに怒っている一花ちゃん、見るの初めてかも。葉月も一花ちゃんが暴走って言ってるし。


 そんな困惑している私たちをよそに、一花ちゃんの声はどんどん低く重くなっていった。


「宝月、お前はつまりこう言いたいのか? せっかく『サクヒカ』の世界に転生したから、会長を自分の手にしたかったと?」

「そうよ? それの何がいけないわけ?」

「だから花音が邪魔だったと?」

「そう、邪魔。この女がいなければ、わたしが翼様と色々できたのに」

「お前が? 冗談はよしてもらおうか?」

「はあ? 出来るわよ? イベントもその会話の選択肢も、全部思い出してるもの!」

「お前が花音に変わってイベントをこなしても、会長の好感度はゼロだ」

「そんなわけないわよ。このわたしが間違えるはずないじゃない。何百回とやったこのわたしが!」


 ますます分からなくなっていくよ。わ、私の代わりにイベント? どういうこと? 私がいなければ宝月さんが会長と色々できた? 何で一花ちゃんは分かっているの?


「――花音だから成り立ってるんだよ! お前が主人公になれるはずがないだろうが!」

「あ、あの一花ちゃん? 何の話?」

「花音~。今は無理だよ~。声聞こえてないよ~」

「ええええ……?」


 さすがに分からな過ぎて、怒っている一花ちゃんについ聞いてしまったら、葉月が「無理無理」というように首を振っていた。私だから成り立っているって、本当意味が分からないんだけど!?


 あ、でも一花ちゃんが私のことを認めてくれているっていうのはわかったかな。少し嬉しい――ってそんな場合じゃない! 何を認めてくれているのか分かってない!


「宝月。あたしはな。今猛烈に腹が立ってるんだよ」

「あんたが腹立っても、痛くも痒くもないんだけどね?」

「腹立ってる理由はな、いくつかある」

「いやだから、誰も聞いてないんだけど?」

「葉月のいうようにあのメイク。気色が悪すぎる」

「……なんですって?」

「そして素顔、残念過ぎる。華がない」

「…………な・ん・で・す・って?」

「一番は性格。醜すぎる」

「っ~~~~!!!??」

「それと服。センスが壊滅的」

「――どこがよ!?」

「どこがだと……?」


 容赦がない一花ちゃんの宝月さんの感想。言ってるうちに一花ちゃんの声がさっきより低くなってる。


 性格が酷いって言うのは同意しちゃうな……なんて考えてる場合じゃないのは分かる。


 一花ちゃんがドンッ! と足を一歩前に置いた。


「逆に聞きたいわ!? お前のどこに主人公要素があるんだよ!? 花音と真逆でなんで攻略できるって思うのか不思議でならないんだが!? しかもなんだ、あの会長の体中にあるキスマーク!! ド下手くそにもほどがある! 品がなさすぎるんだよ! あれじゃバカ姉の方がまだマシなんだが!? どっからどう見ても、顔でも、性格でも、服の着回しでも花音に劣ってるお前が、なんで花音に勝てると思ったのか分からん! 分からな過ぎて腹が立つ! なんで自信満々なんだよ!? まず自分を磨け! 服のセンス! メイクの仕方! 性格の悪さ! 全部直せるものだろうが!! 地味顔は仕方がないとしても、会長に好かれたかったら、それを補うための努力をもっとしろよ! キスマークも花音のつけた方が上手かったぞ!? ふざけんな!! 冒涜しすぎなんだよ!! 世界観ぶち壊しやがって! それとなんだ!? あのイベントの妨害は!? レクリエーション以外危険のきの字もないわ!! なんでレイラとそこが似てるんだよ!? 小さすぎる、やってることが!! おかげで気づくのに時間かかったわ! やるんだったらもっと徹底的にやるんだな! あたしはな、鴻城の全権限貰ってるんだよ! 返り討ちにしてやったものを! まどろっこしいことしやがって! ああ、腹が立つ!」

「いいいい一花ちゃん!?」


 一花ちゃああああんん!!!!?


 何でキスマークのこと今言ったの!? 葉月、聞いてるから!! 世界観とかイベントとか分からないけど、キスマークのこと、葉月聞いてるから!! しかも鴻城の全権限って何!?


 ああ、でもそんなことより、キスマークの件が葉月にバレちゃったよ!!


 カアアアアア!!! と、ものすごい勢いで頬が熱くなっていくのが分かる。しかも今両腕縛られてるから隠すことも出来やしない!! 葉月がこっちを不思議そうに見ている。自分だって気づいてなさそう。


「あとな――」


 ハアハアという息遣いのあとに、一花ちゃんが突然さっきまでの爆発ぶりとは逆の冷静な声を出した。



「何よりも、あたしはこの『サクヒカ』の主人公に賭けてたんだよ……それを邪魔したお前が、何よりも許せん」



 ――――どうしてだろう。


 何故かその一花ちゃんの言葉が、私に向けられている気がした。


 サクヒカとか主人公とか――私にはさっぱりなんのことだか分からないのに、


 一花ちゃんの声がどこか悲しそうで、


 とても胸が締め付けられた。


「ふ……あはは、あははは! 何を訳の分からないことを言ってるのか知らないけどね! でも、たかがあんたとそこの女とギャルと、あと知らない大人1人で何が出来るっていうのよ?! まあ? 鑑賞会は多い方がいいかもね? そこで見学していく?」


 宝月さんの笑い声でハッとした。

 鑑賞会……?


 なんだろう、何か嫌な予感がする。


「訳分からんのはお前だ。どうしてこの人数であたしと葉月を抑えられると思ってるんだ? それになんだ? 鑑賞会だと?」

「はあ? ここにいる人はね、全員が海外で傭兵やってた連中よ。わたしが雇ってるからわたしの人形同然なの。たかが女子高生が勝てるわけないでしょ?」


 周りの男の人たちが動き出した。この人たち、そんな経歴の人たちだったの? そんなの宝月さんが言うように、女子高生がなんとか出来る人たちじゃないよ。一花ちゃん、どうしてそんな自信満々なの!?


 不安に思っていたら、宝月さんが決定的な言葉を私に向けて言い放った。




「だから大人しく見ていけば? 今からこの水槽にいる鮫にこの女が食べられるところをね」




 サアアアっと自分の血の気が引いていくのがわかった。


お読み下さり、ありがとうございます。

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