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212話 暗躍

 


 地味って言ったら、また周辺が黙っちゃった。吹いてないはずの風がヒュ~~~って流れていった。どこから入ってきたんだろ?


「あの、葉月お嬢様……差し出がましいとは思いますが、ちょっと可哀そうかと」


 腕を取ってる監視の人がボソッと呟いてきた。おかしいな。感想言っただけなんだけども。


 その彼女は随分ご立腹のご様子ですね。周りの止めてる手を振り払って、フーフーと息を荒くしてるよ。顔も真っ赤。花音の赤くなった顔の方が可愛いね。皆がすごく同情めいた目で見てるよ。


 でも、いっちゃんは厳しめだ。なんでだろ?


「本当、あなたは気に入らないわね!」

「いっちゃん、なんか褒められた」

「褒めてないわよ!?」

「いっちゃん、何であんな怒ってるの?」

「当たり前でしょうよ!?」

「いっちゃん、当たり前なの?」

「葉月……お前、本当に黙れ。あとでバッダ食わせてやるから」

「わたしを無視するな!? そして、なんてもの食べてるのよ!?」


 バッダは相変わらず不評です。おいしいのにね。「葉月っち、少しお口チャックしようね」って、舞に頭撫でられた。


「本当に毎回毎回邪魔してくれちゃって。今頃は翼様とイチャイチャしてる頃だったっていうのに」


 何か変なこと言い始めちゃった。イチャイチャ?


「おい、宝月(ほうづき)……お前、何した?」


 いっちゃんもなんか言い始めた。何のこと? ねえ、舞、お口塞がないで?


「はっ……何が?」

「何でお前が会長の婚約者になってんだ?」

「苦労したわよ、あれ。翼様のお母さまにもうあれこれ気に入られるように、礼儀や贈り物、あの人の趣味、好きなモノ、嫌いなモノ、全部調べて振る舞ってあげたもの。おかげで婚約まで取り付けたのに……あの狸爺が下手打ってくれちゃって!」


 あ、はい。鴻城(こうじょう)に変な要求しなきゃ良かったのにね。というか、レイラはどうしてそんな驚いた表情になってるの?


「み、美園(みその)? あなた……喋り方が違くありません?」

「あ~あ。何を今更言ってるのよ。本当レイラ様ってバカだよね」

「あのさ! 何、その言い方! レイラがあんたにどれだけの事してくれたと思ってるのさ!? 今通ってる学校だって、住んでる場所だって、レイラが協力してくれたからじゃん!」

「ギャルは引っ込んでてくれない? そんなの勝手にやったんでしょ。わたしが頼んだわけじゃないわよ。っていうかさ、どうしてここがわかったのよ? しかも無断で入ってきてるし。ここ、叔父様の所有してる水族館なんだけど?」


 あ、そうなんだ。だから好き勝手してるんだね。わかった! じゃあ、取り上げてあげようじゃないか! なんか勘違いしてるっぽいし! 舞の手も離れたしね! 


 そしてなんか、レイラと舞に対しての態度にイラっとした!


「ねえねえ。だから好き勝手してるの~?」

「当たり前でしょ。叔父様の物を自由にするのを、どうしてわたしが遠慮しないといけないわけ? というか、あなたは黙っててほしいんだけど?」

「んふふ~。なんかイラっとしたから、取り上げてあげるね~?」

「は?」

「いっちゃん、ここの所有権を鴻城にお願いね」

「……はぁ、話の腰を折るなよ。まあ、レイラと舞に対する言い方はあたしもイラついたしな。すぐ終わる」


 いっちゃんが電話しだしたけど、彼女はなんだか訳が分からなそうに、きょとんとしていた。周りもそうだけども。でも、いっちゃんが電話を終えて、肩を竦めたよ。


「終わったぞ」

「だって~」

「いや、何言ってるのよ?」

「もうあなたの叔父様の所有じゃないよ?」

「はあ?」

「買収の手続きはもう終わったからな。ここの所有者は鴻城だ」

「いや、そんな話誰が信じるって……そもそも鴻城って、何言ってるのよ?」


 あれ、知らないの? あ、でも電話掛かってきてるみたいだね? あ、出て、目が見開いてるね。信じられないって顔してるね。ちょっと満足。


「あ、あなた……何者よ?」

「お前、知らなかったのか? こいつの祖父が鴻城なんだよ」

「はああ!?」

「やばいわ……鴻城怖いんだけど、あたし。なんでものの5分で買収が終わるの……」


 舞、今更? そして、本当に知らなかったんだね? 確かに一部しか知らないけどね。


「じゃ、じゃあ……あの狸爺の不正って」

「リークしたのはこいつの祖父だぞ?」

「ふざけんじゃないわよ!? 大体、なんで鴻城が婚約に口出してんのよ!? だからあの爺が変な欲出したんじゃない!!」

「え~あなたのパパが変な欲出したから、おじいちゃん怒っちゃったらしいけど? ちなみになんて言ったの~?」

「あ、あの、葉月お嬢様……それがですね、この子を養女にして後継者にしてほしいと要求されたそうで……」


 え、バカなの? そのパパ、なんて不相応な要求してるの? この子を傀儡にして鴻城の権力ほしかったの?


 っていうか本当に被害者だね、この子。何て言うか……。


「……不憫だね~」

「あなたが同情しないでくれる!?」


 ごもっとも。

 あ、ハアハア言ってる。ここまでツッコんだことなかったんだね! いっちゃんを見習うといいよ! いっちゃんは長い溜め息ついてるけども。いつも思うけど、肺活量すごいよね。


「大体……大体、あなたが邪魔するから婚約って方法取るしかなかったのよ! ホンット最悪だわ!」


 何かまた分からない事話しだしたぞ?


「ずっと邪魔って言ってるけどさ~? 私、今日初対面だよね~?」

「1回会ってるけどね!?」


 え、そうなの? いつ? 記憶にございません、この地味顔。あ、地味だから記憶になかったのかな? 学園だとあんなメイクできないもんね。


 というか、こんなメイクで歩いてるの見たら、私はきっと水をかけてあげただろう。もちろん、親切心です!


「あー葉月。花音のジャージが汚れた時の事、覚えてるか?」

「そういや、そんなことあったね~」

「あの時レイラの後ろに、この女もちゃんといたんだがな?」

「え、無理。レイラしか記憶してないよ?」

「あなた、どれだけ記憶力ないのよ!?」


 必要ない記憶は入れないようにしてるもんで。ま、いいや。覚えてないものは覚えてないし。


「それで~? それが邪魔だったの~?」

「ハアハア! つ、疲れる! さらっと流されると疲れが一気にくるわねっ!」


 いや、知らないよ。そして何で舞はうんうん頷いてるの? あ、息を整えて睨んできた。


「あなたがそこの女を(ことごと)く助けたおかげでこっちの計画はね、狂ったのよ! だから婚約って方法取ったんじゃない!」

「え、私?」


 花音を指差してますね。きょとんとしてますね。本人分かっていませんね。私も何の事だかさっぱり分かりませんね。


「そうよ! そもそもあんたがいなければ、全部上手くいったのよ! 何、いつもこいつに助けられてるのよ! ふざけんな!」

「ええええ……」


 めっちゃ逆ギレしている。花音があたふたしてるね。


「校外学習の時だって、わざわざこいつは別で閉じ込めたって言うのに! わたしの苦労返しなさいよ!」

「「え?」」


 花音とハモっちゃった。校外学習って美術館のこと?


「えっと~? あの時、私と花音閉じ込めたの、あなた~?」

「そうよ! 邪魔だったんだもの! そもそも、あそこは職員も近づかない場所だったのに、何で脱出してるのよ!?」

「え、あれで閉じ込めたつもりだったの~? びっくり~」

「だから、どうしてそういう反応がくるのよ!?」


 いやだって、あれは簡単でしたからね。もう少し難易度が欲しかったです。


「普通の場所に葉月お嬢様を閉じ込めることは不可能ですが……何故脱出されないと思ったのでしょうか?」


 ね~、監視の人の方がやっぱり分かってるよ。花音はちょっと真剣な顔になってるね。


「あの時私を呼び出したの、あなただったんだ……」

「ええ、そうよ。でもこいつに邪魔されたけどね」

「何で葉月まで?」

「こいつがそれまでにも邪魔してきたから。だったら、こいつがいなければいいと思っただけよ」

「それまでにも?」


 だからさ~。その邪魔って何の事かな~? さっぱり覚えがありませんけどね。


 彼女は相当イライラしてるみたい。親指の爪かじってる。おいしいの?


「そうよ! 大体、夏休みだって本当はわたしが翼様と遊園地行って、海行って、夏祭り行く予定だったのに! そこの縦ロールのバカな女に、無理やり旅行に連れていかれて! 本当に最悪!」

「美園……? あなた……そ、そんな風に思っていましたの? あんなに、あんなに楽しそうだったじゃありませんの?」

「楽しいわけないでしょ? この際だから言っておくけどさ、レイラ様ってバカすぎるのよ。何がピクちゃんよ。それに、何でこの女のジャージ汚すだけで満足してたわけ? 学園から追い出してやるって息まいてたからさ、手を出さなかったのに。期待して、あれだけガッカリさせられるとは思わなかったわよ! しかも今じゃ仲良しこよしじゃない! 懐柔されてどうするんだって話よ!」

「――あんた、本ッ当に最っ低だね! レイラの好意をあんなに受けといて、よくそんなに貶せるよ!」

「だから、ギャルは引っ込んでなって言ってるじゃん! そもそもあんた部外者でしょ、何でここにいるのかも分からないんだけど?」


 レイラはショックで泣いてたし、舞は大層ご立腹。いっちゃんもちょっとキレそう。


 私もさすがにむーってなるよ? レイラをいじめていいのは私の特権だし、花音やレイラを心配してる舞の事をそういう風に言うのは、さすがに気分が悪くなるよ。


「ねえ、あなた。私の事嫌いみたいだけど、どうして? あんまり話したことないよね?」


 そして、花音もご立腹。声冷たいもん。


「決まってるじゃない」

「決まってる?」

「あんたの存在が気に入らないのよ!」


 え~? 単なる逆恨み? 花音の可愛さに嫉妬してとか?


「そもそも体育祭の時だってそう! わざわざあれ積み重ねるのも苦労したのに、そこの女に守られちゃって無傷だし! 図書館の時はわざわざ閉館してあげたのに、それでも翼様とちゃっかりこなしてるし!」



 ん?



「レクリエーションの時に死んでれば良かったのに! あそこから落としてあげたのにさ! 結局、この女に助けられてニコニコしやがって! どんだけ図太いわけ!?」



 今、何て言った? 落とした? 花音の不注意じゃなかったの?


「あれも……あの時、背中押したのもあなただったんだね」


 花音?


「そうだ……思い出したよ! この子同じグループにいたよ! 地味すぎて思い出せなかった!」


 舞?


「誰が地味よ!? まあ、仕方ないわ……あの時は記憶も不安定だったし。本当は、GW(ゴールデンウィーク)も生徒会勧誘も入学式も邪魔してやりたかったけどね!」


 待って……だってあそこから人落とすって……。


 ゾワっと鳥肌が立つ。


 頭が冷えていく。


 監視の人がギュッと腕を掴んできて、ハッとした。

 視線を向けると、私の空気が変わったのがわかったのか緊張した様子だ。


 視線を戻すと、いっちゃんが手をこっちに向けていた。


 あ、いっちゃんだ。


 目を閉じる。

 抑える。

 自覚する。

 目を開けた。


 いっちゃんが私を確認してから、ゆっくり手を降ろして彼女に視線を向けた。


 花音を恨みがましい目で見ている彼女が見えた。


「私、前に会ったことあったの? そんなに前から恨まれること、あなたにした覚えがないけど?」

「別にあんたはわたしに何もしてないわよ?」

「じゃあ、どうして?」


 いっちゃんが険しい目つきで、彼女を見ていた。





「あんたが『サクヒカ』の主人公だから」





 今、なんて言った?


お読み下さり、ありがとうございます。

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