211話 犯人さん
「なんでこう毎回邪魔してくるのよ……」
横の扉から出てきた知らない女は、どこか疲れた感じでこっちを見てくる。
なんていうか……。
顔がすごい綺麗というわけじゃなく、体型も少しぽっちゃり!
着てる服も、うん、なんというかセンスがない!
フリフリが付きまくってるワンピース! 似合ってない!
背もいっちゃんみたいにすごい小さいわけでもなく、かといって寮長みたいに高身長じゃない! 普通!
そして、メイクが残念! アイライン引きまくり! チーク濃すぎ! 口紅赤すぎ!
「何と言うか、残念だね、あなた!!」
思わずツッコんだら、全員が「「「は?」」」って顔をして見てきちゃった。そしてシーンと静まり返ったよ。
その女の人も周りにいる男の人も、レイラもいっちゃんも舞も監視の人も、果ては花音までポッカーンと口を開けてた。
だって! こんな残念な人初めて見たよ!!
「ねえ、いっちゃん! これはレイラ以上に残念だよ! びっくりだよ!」
「お前の方がびっくりだわ!? いきなり何言ってるんだよ!?」
「ちょっと! わたくしが残念ってどういう意味ですの!?」
「レイラ、今そこツッコんでる場合じゃないかな!?」
「あの、舞? 舞もそこツッコミ入れてる場合じゃないと思うんだけどな?」
花音までツッコんじゃった。
だってさ~、あれないわ~。無さすぎるわ~。あれかな? 私の周りは結構美少女軍団だから、目が肥えちゃったのかな?
でも、その女の人はふうと息をついてこっちを見てくる。というかこの人年齢いくつ? メイク酷すぎて分かんないんだけども?
「あなた、なんなの。本当に」
いや、あなたの方がなんなんだろうね。その恰好とメイクは。
でも、その人が喋りだしたら、また周りが緊張したみたい。
「はて? 何なのと言われてもね?」
「どうしてここもわかったのよ?」
「え、カメラ見て」
「そんなわけないんだけど?」
「そんなわけあるけども?」
「もうなんなのよ、本当に……イライラするわね」
イライラされてもね。でもそれよりさ、私言いたいことがあるんだけども。
「まず、そのひどいメイク落としたら~?」
私の言葉でまた周りが凍ってしまった。
「あの、葉月、それはちょっと」っていう花音の声が聞こえてきたけどさ、皆も思うでしょ? 酷すぎるでしょ?
あ、女の人がプルプルしてきた。でも、周りにいる男の人も顔背けて笑い堪えてるよ? いっちゃんはツッコもうかどうか戸惑ってるし、舞はもうプッて噴き出してるしね。
「ちょっと、葉月! 言いすぎですわよ! どうしてそんな無神経なこと言えますの?!」
なんでレイラが庇ってるのさ? というか、この人がレイラと花音攫ったんでしょ?
あ、そうだった。会長は?
「そういえば、会長は~?」
「え、いや、そのー……」
あれ、なんで花音はそんな言いにくそうなの? ん、どこ見てるの?
視線を追ってみると、ホールの水槽の端っこの方にいた。気づかなかった。椅子に縛られてるじゃん。
なんで上半身裸なの? そして何で体中にキスマークついてるの? びっくりなんだけども。しかも衝立があったよ。なるほど、だから入ってきた時に分かんなかったんだね。
「ねえ、いっちゃん。あれ、どういうこと?」
「……聞くな」
「会長、あれ無事?」
「あ、さっき皆さんが凍ってた時に確認してきました。無事です。気絶してると思われます」
監視の人がちゃっちゃと確認したらしい。そして、全員がそれを聞いて目を逸らしているよ。なんで? 「ふふっ」ってさっきの女の人がなんか笑いだした。
「えっと、あれあなたがやったの~?」
「ええ。そうよ、なんか文句でも?」
「え、ないけど」
「「「「ないんだ!!??」」」」
全員にツッコまれたよ。え、文句なんてないけど。怪我さえしてなきゃいいし。ちょっと、どうして気絶してるか分からないけどね。あ、でも文句あったや。
「やっぱり文句あったや」
「……何?」
「そのメイクと服に文句があります!」
「お前はいい加減そこから離れろ!?」
でも、いっちゃん! あれは酷すぎるじゃないか!
あ、またプルプルしだした。この人はあれかな? プルプルモード搭載してるのかな?
というより、忘れてた。
「そういや、いっちゃん。このお化け――じゃなかった。この人だ~れ?」
「「「「今更!!??」」」」
また全員からツッコミが入っちゃった。でも知らないもんね。この人は私のこと知ってるみたいなんだけども。ありゃ、爆発しそう。
「あなた、本当になんなのよ!!??」
「え、小鳥遊葉月だよ~?」
「知ってるわよ!! 大体お化けって何よ!?」
「そのメイクだけど?」
「あ~もう!! ほんっとイライラするわね!」
「その服にイライラしてます!」
「葉月……ちょっとお前もう黙れ。あとでレイラ好きにしていいから」
「ちょっと一花、何勝手な事言ってますのよ!?」
「お前も黙れ! 全っ然話が進まんわ!!」
いっちゃんが正常に戻ってきましたね。ハアっていつもの溜め息ついて、あの女の人もハアハア息荒くしてる。
う~ん……でもあのメイクをどうにかしたい。
あ、そうだ。
「オホン、あのな葉月、この女はな――」
「ちょっと待って、いっちゃん。その前にやることがあったや!」
「は!?」
ビシャァァァァァ!!!
「「「「「は!?」」」」」
また全員が固まった。
何故かって? 私が背中に入れておいた大きな水鉄砲が彼女の顔を直撃したからです!!! 一応持ってきてたんだよね~!
ピチャンピチャンと彼女の顔から水が滴り落ちていきますね、はい。
「お、おま――いつの間にそんなもの持ってきてたんだよ!?」
「いっちゃん、備えは大事だよね! でもいいことしたよ! スッキリ!」
「スッキリじゃないから、葉月っち!? 何してくれてるのかな!?」
「でも舞、あれをどうにかしたいと思うのは、誰もが思う事でしょ?」
「それはそう――いや、状況見て!? これ、彼女が犯人だからね!?」
「そだね。でも最重要任務が与えられたから、そっちを優先しただけだよ?」
「なんでそっちが最重要任務なのか分からないんだけど!? 助ける方が最重要任務でしょ!!」
それもそだね。違う欲が働いちゃった。お、「お嬢様、落ち着いてください!」「どうか!」ってあの人を周りの人が止めてるよ。怒ってるね、かなり怒ってるね。それで?
「結局あなたはだ~れ?」
「今、あたしが話そうとしてたんだよ!? お前、少し黙っとけ!?」
いっちゃんに殴られた。そして監視の人に腕取られた。何故に?
「葉月! さすがにやりすぎですわよ!?」
「なんでレイラが怒ってるの~? この人が犯人でしょ~?」
「確かにそうですが――ですが! 彼女はわたくしの友人なのです!!!」
はい?
「そうなんだよ! 葉月っち! 彼女、レイラの友達なんだよ! だからあたしも一花も固まってたんだってば!」
あれ?
「あのな、葉月。彼女が前に言っていた、会長の元婚約者なんだよ」
なんと?
「あ、そっか。葉月は会ったことなかったかもしれないね」
花音まで?
いっちゃんが厳しめの表情をしている。
「彼女があの不正で逮捕された大臣の娘の、宝月美園だ」
そこで彼女がメイクが落ちた顔をあげて、こっちを恨みがましく見てきた。
えっと~……なんというか……。
「素顔、地味だね」
一気にまた周辺が凍っていった。
いや、だって、地味としか言いようが無くて。
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