208話 捜索
花音とレイラに連絡つかなくなった。
まだ2人とも帰ってない。
時刻は20時過ぎ。もう夜だ。寮と学園はまだ近い。歩いて20分程度。なのに帰ってこないのはおかしすぎる。
あと、もう1つ。
「か、会長まで?! いやだって今日は会長、1番先に帰ったんだよ!?」
「寮長もそう言ってたな」
会長も連絡つかなくなっている。
会長は基本、車での送迎だ。なのに帰ってこないじゃなく、連絡がつかないのはおかしい。
……な~に、この状況は。
なんで花音とレイラだけじゃなく、会長までいなくなるのさ。
頭が冷える。
どんどん冷える。
違う。
落ち着かなきゃ。
大丈夫。
大丈夫大丈夫。
私はちゃんと自覚できる。
おかしいことを自覚できる。
ベッドに寝転がりながら腕を顔に乗せた。
深呼吸する。
落ち着かせるために呼吸する。
舞は狼狽え、いっちゃんは腕組んで考える。
「け、警察! 警察に連絡しよ! 寮長にも言ってさ!」
「落ち着け、舞」
「お、落ち着けないよ!? なんで一花、そんな冷静なのさ!?」
舞がさらに狼狽えてる。
私は深呼吸する。
大丈夫。
あの子の声は聞こえない。
考えれる。
大丈夫。
「じゃ、じゃあ、あたしが連絡してくるよ! 何かあったのかもしれないじゃん!」
「だから、落ち着け」
いっちゃんが舞を止めている。
「警察は必要ないよ~、舞」
私の声を聴いて、いっちゃんは怪訝な顔で、舞は不安そうな顔でこっちを見てくる。
ゆっくり起き上がって、ふうと息をついた。
「葉月っち?」
「大丈夫だよ~舞」
ベッドに腰掛けて目を閉じる。
大丈夫。
大丈夫大丈夫。
ちゃんと自覚する。
落ち着いて、冷静に。
ゆっくり目を開けた。いっちゃんを見る。確認する目だ。
「いっちゃん」
「……」
「大丈夫だよ、いっちゃん」
「本当か?」
「うん」
舞が私といっちゃんを交互に見てきた。
でも今は放っておく。
「いっちゃん。さあ、探そうか」
「何をする」
「全監視カメラを」
「繋ぐのか?」
「そう。舞、花音とレイラは何時に学園出たの?」
「えっと……18時半前だったと思う」
「会長は?」
「会長は17時には帰ったんだよ」
「いっちゃん、まず繋げて」
いっちゃんはパソコンを操作して、私は天井にある巨大画面を引っ張り出した。舞がポカンとしてるのは当然だ。部屋が変わってから、私が作ったんだもの。
「はは葉月っち!? 何これ!? っていうか、2人とも何してるのさ!?」
「舞は水持ってきて~?」
「今それ!?」
「喉乾いた~」
「あ~もう!! わかったよ! 訳分かんないけど」
そう言いながら、舞は水を持ってきてくれた。
巨大画面とパソコンを繋げる。
画面に無数のカメラの映像が出てきた。
舞がポカンとしてるけどね。
さて……やりますか。ゴクゴクっと水を飲んだ。
「ちょちょちょちょっと!? なんなのさ?! 一花、これ何!?」
あ、舞がプチパニックですね。
「落ち着け、舞。ただの映像だ」
「いや、いやいや。なんで一花がこんな映像を!? しかもあそこに映ってるの、学園の門じゃん!?」
「大丈夫だよ~舞。これ全部、鴻城の監視カメラだから~」
「は!? 鴻城!?」
私を監視するためにつけたものだけどね。この街中、至る所につけてますよ。まあ、これ見ていいのは鴻城の人間と、あと警察の上層部の一部だけだけど。
「舞、お前はいいから、そこで座ってお茶でも飲んでろ」
「い、いや。いやいや。追いつけないんですけど……」
「追いつかなくていい。大丈夫だから安心しろ」
「じゃあ、いっちゃん。いこうか」
「全部か?」
「ん~……会長の帰宅ルートは?」
「あるな」
「それもかな。あとは学園からここまで。スーパー付近も」
いっちゃんが操作して画面が少なくなる。でも100はあるかな。1つ1つの画面は小さい。
「速度はどうする?」
「高速で」
「時間は?」
「17時から今の時間」
スウッとまた目を閉じる。
集中する。
思考を欲だけに任せないように。
集中する。
目を開けたと同時に、いっちゃんが映像を再生させた。
全部の画面を記憶する。
高速で流れていく。
いっちゃんは私を見てる。私の視線を見ている。
舞は茫然としている。
再生される画面を見る。
流れていく。
小さな情報を見つけるために集中する。
「ストップ」
私が言うと、いっちゃんが再生を止めた。
「拡大」
それだけで、いっちゃんは目当ての画面を拡大してくれる。
「まだ」
さらに大きくなる。舞がまだ茫然としている。
「まだ」
画像が荒くなる。
「前の試して?」
いっちゃんに言うとすぐ実行して、画像が鮮明になった。
現れたのは、車の中にいる会長。
「会長じゃん……え、これ見つけたの? この中から?」
会長の奥にも誰かいる。さすがにこれは見えないな。
どこのカメラか記憶する。
「いっちゃん、他」
他の映像も見つける。花音とレイラも見つけた。車に乗っている? 誰の?
舞がポカンとしてるみたいだけど構っていられない。今度は車を追跡する。所々、見つけられた。でも行先はまだ分からない。
「いっちゃん、地図」
今度は地図が画面に出てくる。
さっきの映像で出てきた画面と照らし合わせる。
目を閉じる。
今記憶した場所を照らし合わせる。
車の行先を照らし合わせる。
考える。
行先を推測する。
いっちゃんは何も言わない。
舞も口を噤んでる。
もう一度記憶と地図を照らし合わせる。
推測する。
ゆっくり目を開けた。
「み~つけた」
視線を地図に戻す。
車の先は。
「水族館だと……?」
私の視線を追っていたいっちゃんが、さすがに驚いた声をあげていた。
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