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200話 スキー旅行

 


「スキー旅行~?」

「そうだよ! 一花も葉月っちも一緒に行こうよ!!」


 舞がまた寮の部屋に突撃してきて、今度は旅行に誘ってきた。


 コンテストの後に私はぶっ倒れて、レイラと舞が保健室まで連れてってくれたらしい。いっちゃんはイベントを見終わった後、いなくなった私を探し回ってたんだとか。


 保健室のベッドで目を覚ました時に、いっちゃんが申し訳なさそうな顔をしてたから、ムギュって挟んであげたら遠慮なしに殴られた。


 まあ、自分がイベントに夢中になってたから、隣にいた私がいなくなったことに気づくの遅れちゃったもんね。そんな顔するのも当然だけどさ。全然気にしてないよ。


 でも、次の日に強制的に病院行かされて、検査受けさせられましたよ! 結果は異状なしだけど、ついでに先生のところに連れていかれて、お話の時間取らされてクッタクタになって帰ってきました。


 その日は疲れて寝れましたけどね。でも、いっちゃん。それ以来、常にロープを手首につけるのやめてほしいんだけども。トイレもいけないんだけども。


 そして数日経って、舞のこの誘いである。


「ね、2人も行こうよ! 寮長たちにも2人がくるのは許可取ってるんだ!」

「お前、あたしらの都合も考えなかったか?」

「だってさ、こうでもしないと来ないと思ったんだよね。特に葉月っちが」


 そだね~。というか行く気ないね~。

 だって、生徒会メンバーのお疲れ様会らしいし、この前の総合コンテストの。


 あれ、結構大がかりだったんだって。参加賞の握手会と賞品の写真撮影が、思っていたより大変だったらしい。


 それで週末1泊2日で会長の別荘に行って、スキーで楽しもうという話になったんだってさ。だから来るのは生徒会メンバーと、あとはレイラも舞が誘ったんだって。


 つまり花音も来るわけで。私はできるだけ離れたいわけでね。


「いかな~い」

「やっぱり! そう言うと思ったから、先に許可取ったんだよ!」

「諦めて~?」


 ハアと息をついて、でも舞は真剣な顔で見てきた。な~に? 何言われても行かないよ?


「あのさ、葉月っち。もう2か月ぐらい経つよ? 花音とさ、1回ちゃんと話し合いなよ」


 いや、その……部屋替わってから、何回か会ってるんだけどね? 舞は聞いてないのかな?


「行かないものは行かないよ~?」

「……あたしさ、戻りたいんだよ。皆で騒いでた時にさ」


 ……それは無理かな~。だから舞、そんなしょんぼりしないでよ。諦めて?


「葉月っちと花音がどんな約束したかは分からないけど、ちゃんと話そうよ? こんなのずっと続くの嫌だよ……」

「それは無理なんだよ~、舞」

「……どうしても?」

「どうしてもだね~」

「――うん、だから、今回は無理やり葉月っちを連れてくよ!」


 はい?


「ねえ、一花! 協力してよ! 花音と葉月っちをね、前みたいな仲良しに戻したいんだよ!」


 え~? いっちゃんに頼むの~? でもいっちゃんはこっちの味方――。


「そっちは葉月次第だが、今回のスキー旅行は行ってもいいぞ?」


 え、いっちゃん? 何言ってるの? 舞がほら、顔が輝いてるんですけど?


「本当!?」

「ああ。花音とのことは、あたしは干渉しないがな。そのスキー旅行にこいつを連れて行くことはやってやる」

「それで充分だよ、一花! 一緒に行けば、話す機会なんていくらでも出来るじゃん!」

「むー。いっちゃん? 何のつもり?」


 何で裏切るの? 私が花音と離れたい理由知ってるくせに! そんな肩竦めてないで説明を求めるよ!


「あのな、葉月」

「いかないよ、私!」

「まあ聞け。別にあたしは、花音とのことはお前が決めればいいと思ってる」

「じゃあ、何で?」

「いやな、スキー場だったら、少し暴れても問題ないと思ってな」


 うん? 暴れても? 舞もきょとんとしてるよ?


「……少しでも『発散』できればと思ったんだよ。だから、その日は好きにしていいぞ? まあ、あんまりな時は止めるがな」


 ……ずるいなぁ。なんでそんな優しい声で言うのさ。そりゃ……溜まってるけど……。


「ほら、一花もこう言ってることだしさ! 葉月っちも行こうよ! というか連れてくから、覚悟決めてよ!」

「むー。でも――」

「葉月、お前は忘れてるかもしれないがな。行くのはスキー場だぞ? つまりここにはない雪がある。滑るも良し、転げまわるのも良し、投げるも良し、レイラを引き摺り回しても良し、雪山作ってレイラを埋めるのも良し。色々出来ると思うがな?」


 ――――何それ、面白そう!


「行く!」

「よし。舞、寮長に連絡しておいてくれ」

「れ、レイラがなんか哀れだけど、仕方ない! ここは犠牲になってもらうか!」

「ああ、そうだ。会長の別荘だったよな? 責任者と話したいから、連絡先を寮長に聞いておいてくれ」

「いっちゃん、いっちゃん! レイラを雪だるまにして、山から落としていい!?」

「いいぞ」

「ちょっとレイラが哀れすぎるから、手加減してくれると助かるかな!?」


 舞が何か言ってるけど気にしな~い! ふっふ~ん。何しよっかな~! 好きにしていいって~!


 花音のことはどうにかなるでしょ~! 極力会わなければいいもんね~!


 決~めた! 思いっきり暴れるぞ~!


 というわけで、会長の別荘に暴れにいくことになりました!



 ※※※



 別荘に行く日は朝早くから出発だったよ。


 いっちゃんが地図見ながら範囲を決めて、範囲内なら好きにしていいことになった。


 鴻城(こうじょう)の監視を山でもゲレンデでも至る所に配置して、あとGPS付きのブレスレットは着けられたけど。自害行動以外で暴れて、少しは発散してこいってことらしい。いっちゃんも近くにはいて、そういう時はいつも通り止めてくれることになった。


 でも、結構範囲は広いから好きにできそう! いっちゃんも最近は疲れてるしね! 少しは休めばいいよ! その代わりレイラを使って発散しまくろ~! そうしよ~!


 別荘に着いた時、生徒会メンバーとレイラはもう到着してた。レイラはっけ~ん! とっし~ん! ど~ん!


「レイラ~! 捕獲!」

「ひいっ!! ななななんですの!? 嫌な予感しかしませんわ!」

「レイラ、ごめん……その犠牲は忘れないから!」

「ちょちょちょっと、舞!? どういうことですの!?」

「はあ……おい葉月、まだだ。先に荷物置いてからな。その後こいつは好きにしていいから」

「一花まで!? どういうことですのよ!?」


 いっちゃんに首根っこ掴まれて離されちゃった。レイラがすっごい怯えてる。ふっふ~ん。好きに出来る~!


 あ……。


 花音が生徒会メンバーのところで、クスクス苦笑してるのが見えた。周りの生徒会メンバーは呆れた顔で見てきたけども。


「ハア……あのね、小鳥遊さん。あまり円城さんをいじめたら駄目よ?」

「何言ってるの、寮長? いじめてないよ、まだ」

「まだということは、いじめるわけね……」

「すまないな、寮長。だが、それで他の問題が全て片付くぞ?」

「それじゃあ仕方ないわね! じゃあ、円城さん。頑張って玩具になってちょうだい」

「東海林先輩まで何を言っておりますの!?」


 寮長にまで見捨てられてるね、レイラ! この後いっぱい遊んであげるね! 会長と花音以外の生徒会メンバーがレイラに向かって合掌してるよ! 拝まれてるよ、レイラ! 良かったね!


 あ、そうだった。会長を見て、にっこり笑ってあげたら、ビクッて体震えさせてたよ。おもしろ~。


「会長も後で遊んであげるね~?」

「全力で断る!」

「会長が滑ってる時に背中押してあげるよ?」

「いらんわ!? 東雲(しののめ)、お前なんでこいつ連れてきた!?」

「悪いな、会長。少しぐらいは大目に見てくれると助かる」

「お前が止めないで、誰が止める!?」

「止められるとしたら、あとは神様ぐらいだろうな」

「しみじみ答えるな!?」


 会長がツッコミに変わってるよ。花音といる時は、あんなに静かに喋るのにね。これはこれで面白いですな。


 その後は各自部屋に荷物を置いて、ゲレンデに集合したよ。会長の別荘って、夏にも思ったけど、落ち着く広さだよね。鴻城や如月(きさらぎ)の別荘みたいに無駄に広くないって言うか。いや、広いことは広いんだけどさ。


 大浴場もあるし、広間には暖炉もあったよ。薪で火花がパチパチしてるのが見えた。後であそこであ~そぼっと。



「じゃあ、葉月。あたしはここらを舞と一緒に滑ってるからな。暴れてこい」

「いっちゃん! 任せて! 思いっきり行ってくるよ!!」

「ちょちょちょちょっとお待ちくださいな!? なんですの、これは!?」


 レイラがかなり青褪めてるけど、大丈夫だよ?


 今は借りたスノーバイクに乗って、後ろにロープでグルグル巻きにしたレイラが雪の上に転がってる。レイラを巻いてるロープはスノーバイクに取り付けました!


「レイラ! 行っくよ~!」

「その前に説明しなさい!? いや、それよりもこれ外しなさいな!?」

「何言ってるの、レイラ? これは実験だよ? 遠心力で人はどこまで飛ぶのだろうかっていう」

「ちょちょちょちょっとお待ちなさいな!? まさかこの状態で、あなたそのバイクを動かす気ですの!?」

「大丈夫だよ、下は雪だもん」

「ひいいいっ! ちょっと、一花!? なんで静観してますのよ!? 止めなさいな!?」

「大丈夫だ。お前が死ぬ前に止めてやるから」

「遅すぎますわ!?」

「しゅっぱ~つ!」

「ままままちなさっ――――ぎぃやああああああぁぁぁぁ!!!!!???」


 レイラの悲鳴がそこら一帯に木霊しました。


 縦横無尽にバイクを最高速度で乗り回していったよ! 「死ぬ! 死ぬぅぅぅ!!」って後ろから叫び声が上がってる。レイラが左右に飛んでた。


 面白い! なるほど、人はこういう風に遠心力で飛ぶんだね! 勉強になりました! おっ!? あそこは少し反りあがってるね! 大ジャ~ンプ!!


 ブワって空に上がって一回転! あ、花音と会長が下から茫然と見上げてる。ここ滑ってたんだね。そしてレイラも勢いで一回転してるよ! あはは! おもしろ~い!


 ドンっと着地したら、レイラもドンって落ちてきた。あれ? 反応ないな?


 バイクを止めて、後ろを見てみるとピクピクしながら失神してたや。やりすぎた? あ、花音と会長が来ちゃった。


「葉月、さすがにやりすぎだよ?」

「円城、おい円城。だめだな、起きないぞ……」

「そのうち起きるよ?」

「だめだよ。危ないことはだめだって前に言ったでしょ?」


 おっと? 怖い笑顔に変わりましたね。会長は呆れてモノが言えないご様子で。これは逃げるが勝ちですね。


 ブォンって発進しようとしたら、いきなりバイクが動かなくなった。あれ、壊れた?


「もうバイクはおしまいにしようね?」


 ひっ! 何故!? さっきまで、レイラのところにいたのに!? いつのまに近くにきてたの!? しかもその手に持ってるのはこのバイクのキーじゃありませんか!? いつ抜き取ったの!? でも、これじゃ遊べないじゃないか!


「返して~!」

「だ~め。これ以上はレイラちゃんが可哀そうだよ。他ので遊ぼうね。葉月ならこれじゃなくても遊べるよね? それとも遊べない?」

「むー! 遊べるよ! 他にも考えてるもん!」

「どんなことで遊べるの?」


 うん? どんなだって? 仕方ないなぁ、じゃあ雪だるま作戦でいこうじゃないか!


 バイクから降りて、レイラのところにいって転がし始めたら、花音が「それなら大丈夫かな」って苦笑していたよ。


 これで麓まで転がしてったら、レイラどうなるんだろ~? 楽しみ~。「はっ!? 今亡くなったおばあちゃんが!?」ってレイラも起きたみたいだね! どんどんいこう!


 「ひっ! 目が! 目が回る~!」って言うレイラをどんどん下に転がしてったら、後ろで会長と花音が会話してた。


「あれ……大丈夫なのか?」

「さっきよりは……大丈夫だと思いますけど」


 結局、麓に行きつくまでコロコロしてたら、おっきな楕円の雪だるまが完成したよ! 横でレイラの顔だけ出てた。また失神してたけど。


 その後も、レイラで色々遊びまくったら、すぐに夕方になっちゃった。今は横で、何度目かの失神してピクピクしてるレイラが横たわってるけどね!


 ふぃ~! でも久々に楽しかった~!! 大満足~! あ、いっちゃんと舞がきた! あれ? なんでそんな呆れた目で見てるの?


「どうだ? 少しは発散できたか?」

「うん! いっちゃん! 大満足だよ!」

「だろうな。さすがに途中で止めればよかったか……」

「お~い、レイラ~? 大丈夫~? 大丈夫じゃないや」

「いっちゃん! 今日は疲れたから寝る!」

「葉月っちのこんな清々しい姿初めて見たよ……哀れすぎる……レイラ」


 舞がレイラに向かって合掌してたけど、レイラはちゃんと生きてるよ?



 レイラが目を覚ましたのは、夕飯時でした。記憶がないみたいで「どうして、わたくしここにいるのでしょう? さっきゲレンデにいたはずでは?」っていう問いかけに、私以外の全員が目を逸らしてたよ。

お読み下さり、ありがとうございます。

一応お伝えさせていただきますが、葉月の行動は一花と鴻城の護衛の人間に監視された上での行動です。レイラは怪我を一つもしておりませんし、葉月もそこは計算して動いております。



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