199話 総合コンテスト、イベント
総合コンテストの1位は案の定、会長だったよ。
あと、最後の部門『フェイス』部門では、参加者が衣装に着替えて、モデルみたいに1人1人ショーをやってた。黄色い声の嵐でしたね。特に生徒会メンバーが出てきたときには凄かったよ。
そして何でレイラがちゃっかり出てたの? その衣装は何の衣装だったの? なんで羽が生えてるの? なんで輪っかがついてたの? どこの住人? なんか石投げたくなったけど、いっちゃんに止められた。
そういえば、花音は出てなかったんだね。会場脇で拍手してたよ。だからさっき、あの場所に来られたんですね。
「それで、いっちゃん。今からイベントなの?」
「ああ、美術室でな」
表彰も終わって、学園生が解散した後、いっちゃんに引っ張られて美術室に向かってます。
でもさ~、いっちゃん。何故に美術室? 何があるの? そして、ウッキウキだね。声が弾んでますもの。
あ、この前のお正月イベント、私のせいで見れなかったもんね。あれは申し訳なかったよ。今回はその分楽しめばいいよ。だから、そんな引っ張らないで!?
「どうしたんですか、会長? 見せたいものがあるって」
美術室に近づくと、花音の声が聞こえてきた。
時間はピッタリ。さすがはいっちゃん。
というか、花音の声を聞くと、さっきの事思い出すな。
なんで花音はああいうことやったんだろ。まだ感触残ってるよ。思い出すと心臓うるさいし……。
あれですね、余程バカな案を舞に話したから怒ってたんですね! もう絶対、舞には意見出さないようにしよ~……そうしよ~……。
美術室のドアは完全に開いてますね。さすがはご都合主義なんでしょうか。あ、いっちゃんが鑑賞モードに入りましたね。目がキラッキラですね。花音と会長が窓付近にいますね。
「……前にお前が言ってたからな」
「はい?」
花音が首を傾げて会長を見てる。花音が言ってたこと? はて?
会長が小さなキャンパスを持ってきて、花音に渡してるけども。花音がそれを見て、片方の手を口に手をあて、目を大きく見開いていた。
「会長、これ……」
「……前に言ってただろ、見せろって」
何々? 何か描かれてるの? よく見えないな~。ふふ、これはあの出番ですね! 胸ポケットから取り出しました、ペン型の望遠鏡! この前作ってみた。
さてさて~……拡大~っとな。
う、わ。
花音の絵だ。
すご……綺麗。
「……これ……私ですか?」
「お前以外に誰に見える?」
「でも、何で私?」
「……言い出したのはお前だからな。だからモデルにしてやっただけだ」
そう言いながら、会長は顔を赤くして、そっぽを向いている。花音は絵と会長を交互に見てた。
うん、驚き。会長、才能あったんだね。
本当綺麗な絵だよ。
見惚れてしまうぐらいに、綺麗な絵だよ。
会長からは……こんな風に花音が見えるんだね。
会長は花音がちゃんと好きなんだね。
よかった。
よかったよ。
暫く驚いていた花音が、そっと絵を撫でて、
「こんな風に描いてもらうなんて……初めてですね」
柔らかく微笑んだ。
「嬉しいものですね」
その微笑んだ姿が綺麗で、
とても綺麗で、
あれ?
胸が苦しい。
どうして……?
ギュッと心臓が鷲掴みされたみたいに苦しい。
「……気に入ったか?」
「ええ、とても。こんな風に描いてくれて、ありがとうございます」
嬉しそうにキャンパスを胸に抱きしめて、花音は笑う。
会長が花音に見惚れてるのがわかった。
なんか……やだ。
見たくない。
モヤモヤする。
望遠鏡をしまって、壁に背をあてた。
なんで、こんなモヤモヤするんだろ。
なんでこんな苦しいんだろ。
これは嬉しいことのはずなのに。
会長と花音が上手くいくのは、嬉しいことのはずなのに。
花音は笑ってる。
会長の隣で笑ってる。
それを私は望んだのに。
何で……。
『きて~?』
ゾワっと鳥肌が立つ。
この声……。
『こっちきて~?』
声のする方へ視線を向けると、廊下の奥で血塗れのあの子が立ってる。ニコニコしながら手招きしてる。
呼んでる……。
『こっちにおいで~?』
呼んでる。あの子が呼んでる。
思考が止まった。
フラッと足がそっちに向かった。
『ふふ、こっちだよ~?』
私はその子の後を追う。
あの子は時々こっちを見ながら、鼻歌交じりでスキップしながら進んでいく。
血を流しながら進んでいく。
後を追っていく。
ニコニコしながら進んでいく。
その後を追う。
そして中庭まできて、血に濡れた足を止めた。
『ついたよ』
空を見上げて指を差す。
それにつられて視線を向けると、
そこには、いつも見ている空の景色がある。
あの子がペタペタと近づいてきた。
手を握ってくる。血で濡れた手で握ってくる。
ヌルっとした感触がした。
私が見下ろすと、ニコニコしながら見上げてくる。
『花音は幸せになれるよ』
なんで……花音を知ってるんだろう?
『花音は会長と幸せになれるよ』
ニコニコしながら見上げてくる。
『花音は会長に任せればいいんだよ?』
そう、だね……。
確かに、そうだね。
『だから忘れないで?』
何を?
『あの時決めたこと、忘れないで?』
ああ、うん。
忘れない。
忘れないよ。
『もうすぐだね』
そうだね。もうすぐ。
『その日に迎えに来てあげる』
ああ、そうか。あなた、あの時の私だね。
そうだね。迎えに来てもらおうかな。
『うん。忘れないで?』
絶対に忘れないよ。
満足したように笑ってる。
あの時、私はこんな風に笑ってたのかな。
「葉月? あなた、こんなところで何やってますの?」
「本当だ。葉月っち、一花と一緒じゃなかったの?」
誰かの声が聞こえてくる。
だけど、私はあの子を見下ろしていた。
どんどん消えていく。
『迎えに来るよ』
消える前に言葉を残して。
「待ってるよ……」
あの子が消えると同時に、
目の前が暗くなった。
「葉月!? どうしましたの!?」
「ちょ、ちょっと、葉月っち!? レイラ、あたし誰か呼んでくるわ!」
「え、ええ! あと一花も連れてきてくださいな!」
誰かの声が近くで聞こえる。
ああ、
でも、そうか。
花音は会長に任せればいい。
だから考えなくていい。
それに、
もし狂っても、
おかしくなっても、
あの決めた日に、あの子が来てくれる。
安堵感に包まれて、意識を手放した。
お読み下さり、ありがとうございます。




